パーティーの仲間に冤罪を着せられた最強の剣士が魔王になって復讐をはたすまでの物語

一発逆転

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84話 過去の亡霊

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 レギルは衝撃で凍りついている。この隙をつけば、今なら一瞬で殺せる。そう思って剣の柄に手をかけた。だが少し考えて手を放す。

「レギル・シルセス」

「なんだ。残虐王」

 レギルは外見だけはなんとか取り繕って、俺の呼びかけに反応した。

「お前の望みは何だ?」

 この男は何を求め、何を欲し、どう考え生きているのか。本当にあの時の言葉が全てだったのか。レギルという男の根源を知りたかった。

「お前の最も大切なものは何だ」

「何が言いたい?」

「跪けば命を助けよう」

 ほんの一瞬だったがレギルの膝が震えたのが見えた。小心者の彼のことだ、今まで生きた心地がしなかったであろう。そこに垂らされた救いの糸に縋ろうとし、彼は跪きかけたのだ。

「俺はお前を高く評価している」

 たいした反応は示さない。俺の評価などは関係ないというわけだ。

「俺の忠実な部下として働けば相応の褒美を与える。莫大な富を」

 やはり欲望は瞳に映らない、金など腐るほど持っているのだ。結局は大事なのは命と地位だけなのか、つまらない男だ。

「さあどうする」

 跪く可能性は半々、そう見ていた。しかし。

「断る」

 あまりにもはっきりとレギルはそう断言した。全身に力を漲らせ、残虐王を前にして対等だと言わんばかりに睨み合う。

「愚かなり残虐王。私がそのような甘言に屈すると思ったか」

 レギルは強く胸に手を当てると高らかに宣言した。

「私の信念は人民とともにある。悪には染まらない」

 まさしく英雄、その高潔な佇まいを見た。いかにその臓腑が腐りきっていようとも腐臭は嗅ぎ取れはしない。

「なるほど。よく分かった」

 とうとう彼の根源を理解することができた。

「それがお前の望みなのか」

 ただ力や金、権力があればいいわけではない。街を歩けば羨望の視線が刺さり、名を聞けば讃えられ、言葉一つで人々を従わせる。そんな英雄としての日常、人の上に立つこと。その快楽こそが彼の欲したものだったのだ。

 ──彼の望みは英雄として生きること。

 この男を殺すことはいつでもできる。それこそ今この場でそうしてしまおうかとすら考えた。だが違う、それでは十分ではない。俺のすることはただ一つ。薄汚い英雄を地に落とすことだ。

 看守のゼクト、あいつの持つ映像媒体が必要だ。「賢人会議」なる組織がレギルの裏切り防止のために取らせた映像だろうが、あそこまでペラペラ喋るとは。

 あれさえ公表すればレギルの信用は失墜する。羨望が蔑みになり、賛辞が罵倒に変わるだろう。まずは真実を明らかにすること、それこそ俺の復讐に他ならない。

 吹き上がった闘気に気圧されてレギルは足を一歩退けた。

「楽しみだよ。これからが」

「ふ。私もだ」

 その英雄然とした仮面をはぎ取ってやる。お前の化けの皮をはいでやるぞ、レギル・シルセス。

 衝動に任せて殺すことはしないが、手の届く範囲のいる仇を見逃すのは心中に怒気が渦巻く。次に顔を合わせる時は殺す時だ、そう心に決める。俺は背後を振り向いてイリナ姫に手で合図する。彼女は頷いてリゼッタを連れて俺の横を遠すぎ、レギルの傍に向かった。

「姫。ご無事で何よりです」

「迷惑をかけしましたね。ごめんなさい」

「いいのですす。あなたが無事であればそれで」

 澄まし顔でレギルは言う。彼がイリナ姫との結婚を狙っていることは知っていた。妹のように大切な人にたかる悪い虫だ。聞いていて虫唾が走ったが黙って踵を返しかけた。その時だ。

「残虐王」

 鋭い呼びかけとともに放られる物体、俺が空中で受け取ったのは手袋だった。

「一対一の決闘を申し込む」

 そう言い放ったのは看守長である女性だった。何の陰謀かと訝しむがレギルのほうも単純に驚きの表情を浮かべていた。

「看守長何を勝手に」

「申し訳ございません。レギルさま。しかしこの男を前にして引くことはできません」

 この眼は戦士のものだ。女性とはいえ、その覚悟があるのならば、相応に応えるだけのことだ。ここで断るようなことは俺にはできなかった。

「さあ残虐王、世界最高の魔術師と謳われる貴方が女人の挑戦を断るか?」

「いいだろう」

「ふ。世界最強と言われたその力を見せてもらう!」

 看守長は抜刀しつつ踏み込んだ。片手を大きく前に出す独特の動きだった。次の瞬間には目前に刃が届いているのを俺は頭を傾けて躱す。頭があった場所を通過したのは細身の片手剣、レイピアでの刺突だった。面ではなく点の攻撃。受けるのは難しい。さらに言えば。

「これは」

 気功術だ。俺と同じ亜人の技術をベースとした特異な強化術だった。

「私には魔術の才がほとんどなかった。幼い頃は絶望したものだよ。自らの才のなさに。しかしこの力で英雄にまでなったものがいた」

 看守長は鬼気迫る表情で続ける。

「かの人が反逆など浅ましい真似をしたのは残念だ。あの時、私が看守長でなかったのも。その不埒な考えを私が教育して差し上げたかったのに」

 レイピアを巧みに操りひゅんひゅんと風切音を響かせ、ぴたりと正眼に構える。

「かつて残虐王を倒した技だ。もう一度お前は負けるんだ」

 看守長が動く。ダン! と爆音すら響かせる神速の踏込だった。一度躱しても続く刺突の連打、息もつかせぬ連撃が襲い続ける。強い執念を感じさせた。

「その若さでよくそこまで。……だがまだ青いな」

 剣術にも気功のマナの観察眼でも俺に一日の長がある。見切るのは容易だった。

「ちぃっ! 技を盗むなどつまらないはったりかと思えば」

 舌打ちしながら突きが襲い来る、だがもう俺は躱さなかった。目の前でレイピアを掴み取った。それはつまり完全に太刀筋を見きったという証しだ。

「馬鹿な」

「お前では俺には勝てん」

 彼我の力量の大きさを確固たる現実として告げる。だが看守長はそこで不気味な笑い声をあげた。まだ何かを隠しているのか。それはおそらくはったりではない。わき上がる悪寒はギフトが危機を告げているからか。

「まだ終わっていない。言ったはずだ。お前は同じ技で負けるのだと」

 念のためにわずかに距離を開ける。体格差のある俺の有利な間合いだ。さらに馬鹿正直に魔術の才がないと言っているから魔術を使ってもいい。だがその時に捉えた、彼女の服の袖から覗いた呪印を。まさかと、衝撃が走りぬける。彼女の腕には見覚えのある刻印が刻まれていた。

「貴様を殺して私は英雄になる!」

 命を削り使う呪術、その中でも最低最悪の呪いだ。己の魂を削り対象の魂を侵食する。瞳に宿る強烈な感情がある、かつての俺を見ているようだった。

 だがあの技を使うにしては、あまりに生気に溢れている。

「お前、名前は?」

 かつての俺と同じく死ぬ覚悟を持って戦いに臨む者の名を知りたかった。呪術に手を染めるというのは生半可な覚悟ではできない。己の人生と命をすべてぶつける、そんなものだ。その強い思いこそが呪いに力を与える。

「レイラ・シルヴァニアだ」

「パラディソスの王家傍系の」

 いいとろこのお嬢様だ。

「こんな地獄に来るものではないな」

「アレーテイアでの生活は地獄だった。私はずっとイリナ姫と比べられてきた。両親からの落胆の視線。侮蔑の言葉。そして何より許せなかったのは」

 みしりとレイピアの柄が軋みをあげた。

「イリナ姫は私にも優しかった。私など眼中にないのだと思い知らされるようだった。それがどれほど屈辱だったことか、選ばれた者には分かるまい。私は貴様を殺して自分の価値を証明する」

「そのために死ぬ覚悟はあるということか?」

 そうならば本気で応えるしかあるまい。今はまだ未完成でも、これだけの執念と狂気があれば、かつての俺を凌駕しかねない使い手に成長することもあり得るとも思えた。恐ろしい強敵になり得るのではないかと。

 危うい目を摘むべきだとも、成長が楽しみだとも思える。だがこいつがレギルの希望になっているのならば、この女を打倒することでまた彼の望みは一つ断たれることになるだろう。

「死ぬつもりはないな。残虐王、お前は一つ勘違いしているな。かの英雄はこの邪法を半分しか学んではいなかった」

「なんだと?」

 言葉通り俺が学んだのは正式なものではない。流れの修行者から偶然教わったものだった。

「極限まで拷問し苦しめ抜いた人間の魂を奪い、その怨嗟と憎悪によって呪いとなす。それがこの邪法の使い方だ」

「……そうか」

 自分の過去を見たかのような既視感と高揚感は消え去っていた。

 確かにノーリスクで使えるならば強力な呪いだ。だがそれだけだ、力ある者が狂気と執念により自らの命を削ることでこそ呪いは強く発揮される。わざわざ拷問して人間の魂を奪うということは、そうしなければならないほど呪いの威力が弱いことを示している。それで残虐王の力で本気で張る聖属性の防御魔術を突破できるというのだろうか。

 看守長の白銀の刀身に黒色のマナが絡みつき黒い炎が激しく燃え上った。炎の中から怨嗟と憎悪の呻きが聞こえた気がした。

「死ね!」

 看守長は一足で間合いをつめ、火の粉を散らして剣を振り抜いた。その一撃は大地を割り、爆炎を広範囲にまき散らす。さすがに呪いだ、触れればただではすまない。

 だが問題ない、俺はもうその場にはいなかった。

「ぐ! なんだと」

 茫然とした看守長の声が背後から聞こえた。利き腕を深く切り裂かれてレイピアを取り落とす。彼女が踏み込んだ瞬間に、俺も前に出た。交錯した刹那に一撃を入れたのだ。

「まさか、今まで手を抜いていたのか」

「女性が相手だからな」

「舐めるなよ!」

 看守長は怒りに唇を戦慄かせて傷ついた腕で剣を拾い上げた。だが俺を倒すにはまだ執念が足りない、本気で命を捨てる覚悟を持っていないのでは、彼女の腕では俺には届かなかった。この程度では脅威になりえない。

「そこまでにしろ!」

 レギルが怒鳴り看守長はしぶしぶと矛を収めた。彼女に戦う意思がなくなったことで俺も剣をしまう。

 これにて今回の交渉は幕引きだった。もはや用もない。最後にもう一度だけレギルの顔を脳裏に焼き付け、互いに背を向けてからはもう振り向くこともなく、その場から離れていった。

 ◇◇◇◇◇◇

 看守長は歩きながら不平をもらす。

「どうして止めたのですか。私ならばまだやれました」

「相手はあの残虐王だ。確実にいくべきだ。その力は役に立つ。お前は切り札なんだ。頼りにしている」

「……はい。承知しました」

 英雄相手にそこまで言われたことで看守長も光栄そうに顔を伏せた。

「残った部隊を立て直せ、帰還するぞ!」

 大部隊があったところには魔導兵の残骸が無残に散らばっている。あまりに強力な魔術だった。消せない憤怒を抱えたまま看守長は一人で離れた場所にまで歩いて行った。どうしてもこのむしゃくしゃとした気分を晴らしたかった。ちょうどよくそんな時に見つける、ほとんど知能もない魔物、大鬼を。

 自慢の腕力任せて突っ込んで来る大鬼の胸に一瞬でレイピアを突き刺した。大鬼は悶え始め、ブクブクと上半身が内部から変形し、ぴしゃりとはじけ飛んだ。飛んだ血が頬を汚す。

 返り血を浴びた看守長の瞳は冷たく凍りついていた。

「残虐王。次こそ殺す」

 命を削り使う呪いと、命を奪う呪いをあわせ持つ。看守長はかつてエル・デ・ラントが使用した呪術の完全なる継承者であった。

 

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