パーティーの仲間に冤罪を着せられた最強の剣士が魔王になって復讐をはたすまでの物語

一発逆転

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104.5話 顛末

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 あれから一夜明け、大取り物は無事終了した。明らかになっているすべての暗殺者を捕縛することができたのだ。俺もようやくこの缶詰生活からの開放がやってくるということだ。変装して好き放題出歩いていたというのは置いといて。

 もう既に男たちから事情聴取を開始している。他に仲間がいないか入念に尋問して聞き出さねばならない。どうせ彼らに仲間意識などないものが大半だ、自分の待遇との引き換えを条件に出せば簡単に口を割ることだろう。今までの情報ではどうやらもう敵はいないと思っても良さそうだった。

 そんな最後の事後処理の最中にラナは俺のもとへと訪ねてきた。部屋に通すと恐縮しきってずっと頭を下げる。元気なく猫耳までも垂れている。

「本当にすいませんでした。私の自分勝手な行動で、みなさんに迷惑をかけてしまいました」
 
「いや構わないさ」

「リリーちゃんのこともです」

 見逃したことを言っているのだ。気に病んでいるのは不思議ではないが、あの状況から何事もなく彼女が逃げ出せるわけがない、俺がそうするように命じていなかったら。

「俺の恩人だった人はとても優しい人だった。君は彼女に似ている面があるんだ」

 急にがらりと話を変える。

「私がですか? いったいどこが」

「許す心を持つことだ」

「許す心」
 
 漠然としているためか、ぼんやりとオウム返しした。
 
「彼女は敵を傷つけることすら嫌い、過ちを許した。きっと君なら逃がすだろうと思っていた。俺はそれでも構わないと思って君に任せたんだ」

「そうだったんですか」
 
 だから気にしなくていい──そう歌えるとラナは肩の荷が下りたように胸をなでおろした。

「ありがとうございました」

「例を言う必要はないさ。俺がやりたいことをやっただけさ」

「私もただお礼が言いたかったんです」

 変な意地の張り方だな少し笑い合う。だが自分の意見をはっきりと口できていた。多少吹っ切れた部分もあるのだろう。ラナは俺の顔色を窺うように上目遣いで視線をよこす。
 
「エルさん。これからもお友達でいてくれますか」

「もちろん」

「すごく、すごく嬉しいです。私なんかにはもったいないぐらいです。……でも」

 それに続く言葉が訪れず、問いかけた。

「どうした?」

「あの。その。ちょっと内緒のお話が」

 まったく話の流れが分からず、ラナの行動を待った。よほど聞かれたくないことなのか俺のもとへ身を寄せた。そして耳元に顔が近づいて……ちゅ。と頬に触れる柔らかい感触があった。

「え、えへ。お礼です」

 目が合うとラナは照れくさそうにはにかんだ。無言で見つめていると、これ以上ないぐらいに頬を赤く染めてあわあわと口を動かした。 

「べ、別に変な意味は全然ないっていうか。ただお礼を言いたくて、ほ、ほんとそれだけです!」

 さらに挙動不審になって捲し立てると跳ねるようにして逃げて行った。

「危ないから走らないようにな」

「は、はいぃ!」

 忠告には不明瞭な返事が返ってきた。なんとも最近の若い子は忙しいものだ。

 ラナの笑顔はあまりに眩かった。この残酷で非情な世界にて、誰もがそんなふうに笑えるようにしてやりたかった。物語のように優しい結末が訪れたらななんと幸福なことか。

 例えそれが儚い夢のようなものだとしても。それが俺のエゴにすぎないとしても。恩人であるセレスの面影をどこか感じる彼女にそのままでいて欲しかったのだ。

「エル。話さなくて良かったのか」

 隣の部屋にいたアステールが俺のもとに来て囁いた。二人で話すために少し席を外していたのだ。何かを懸念するような不安そうな表情だった。もちろんその内容は俺も察しがついていた。

「どうせあの呪いは解けない。知る必要はない」
 
 既に1人捕まえていた暗殺者、彼には強い呪いがかけられていた。それはルシャにも外せないほど強力なものだ。その内容は反抗や時間経過により命を奪うものがあった。犯罪者である彼らを縛るもの、だからこそ彼らは東に逃げるようなことはせず俺の暗殺を狙ったのだ。

 出戻りしたリリーの処遇は不透明だ。もしかしたら殺されるかもしれない、呪いを解いてもらえるかもしれない。どうなるかは賭けになる。リリー本人もそれを理解していて戻ったのだ。

 だがそれをラナに教えたところで何もなりはしない。余計な悩みを抱えるだけ、だから伝えなかった。

「もしかしたら、恨まれるかもしれないぞ」

「構わないさ」

 俺はセレスとの誓いに反して今までたくさん殺してきた。ルシャたちに出会い、昔のことを考えるようになった。俺の行いは過ちだったのかと。

 だがやはり、そうではない。間違っていなかったのだと今は信じている。どんなに美しい花でも踏みにじる者がいる。何の罪悪感を抱くこともなく。だから誰かが降りかかる火の粉を払わなければならない。優しい人が優しいままでいていられるように。

「あなたという人は……」

 アステールは呆れ交じりのため息をもらした。

「無理だけはしないでほしい。私もあなたを助けたいんだ」
 
「ありがとう。気を付ける」

 だがいざとなれば命を賭けることを厭うつもりはなかった。

 ◇◇◇◇
 
 ラナは幼い時、学校からの帰り道を毎日のように泣きながら帰っていた。クラスメイトから執拗にいじめられて、助けてくれる友人もいなかったためだ。家に戻っても安らぎはなかった。父親は厳しい人であり愛人との間の子供であるラナを邪魔者のように扱った。

 そんな生活で唯一の心の支えが祖母だった。

「おばあちゃん。どうしてみんなわたしを変だっていうの」

 帰ってすぐに泣きつくと優しく抱きしめて頭を撫でてくれた。

「わたしも普通の人間だったら良かった。みんなと同じが良かった」

「違うことは悪いことじゃない」

 繰り返し言い聞かせるようにラナにそう言ったものだ。だがそれが真実とは到底思えなかった。他人と違うことはとても恐ろしく、とても寂しいことだった。

「きっとありのままのラナを理解してくれる人がいるはずだよ」

「そんな人いないもん」

「まだ出会ってないだけさ。諦めちゃいけないよ」

「おばあちゃんがいてくれればいい」

 信じて傷つくぐらいなら希望など持っていたくはなかった。初めから諦めたらどんなに楽なことか。そんな弱音を吐くと祖母は言い聞かせるように何度も言う。 

「こうやって生まれたことを誇りに思える日がくる。それまで辛いだろうけど我慢するんだよ。きっと辛かった分だけ幸せの価値を知れるから」

「ほんとうに?」

「いつかきっと」

 希望を宿して見上げると祖母は優しく笑ってみせるのだ。
 これは他愛もないありし日の光景だった。



 ──な。ラナ。

「ラナー。どうかした?」

 ぼんやりと過去を思い返していたラナは顔を上げる。目のすぐ前でレイチェルが手を振っていた。

「え、あ、なに?」

「だって急にぼんやりするから」

「大丈夫ですか? 具合が悪いなら私が治します!」

「あ、ごめんね。二人とも。何でもないから大丈夫」

 ルシャやレイチェルとお茶会の途中だったのだ。ルシャも心配そうのぞき込んでいた。慌てて手を振って何でもないと伝えて、手元の紅茶を味わってリラックスする。軽い吐息をもらして正面を見れば姿見があった。

 そこに映る姿は人とは違った猫耳がある。他人と違う場所、昔は嫌で仕方がなかった。それでも今は違う、こんなに素晴らしい人たちに出会うことができたのだから。こうやって生まれて良かったと心から思う。

「本当だったよ、おばあちゃん」

 優しい人たちとともに生きれて、今とても幸せだった。
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