君とは付き合いたくない!

風崎なをき/次作は四月くらい

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第6話 事情と純情(1)

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「奏汰はお兄ちゃんと違って良い子だねぇ」
「奏汰だったらできるもんねぇ」
「奏汰はそんな事しないよねぇ」

 違う。俺は、全然良い子じゃないんです。怒られたくなかった、嫌われたくなかった、みんな笑ってる方が良かった。それだけなんです。





 6月中旬の月曜日は朝から雨が降っていて肌寒かった。奏汰は隣で寝そべっている『カイ君』の腕に甘えるように絡みついた。カイも別段嫌がる様子もなく自然に奏汰を抱き寄せた。
 やはり馴染みのある肌は落ち着くと奏汰はホッと息をつく。もうそろそろ大学に行く準備をしなければならない。久しぶりに昨夜から一緒にいたから名残惜しい。奏汰はカイの硬い肌の感触を焼き付けようと肌を擦り合わせた。
「そういえばあの少年とはどうなった?ヤッた?」
 カイが言ってるのは『コウ君』のことだろう。
「少年って……大学生だよ。ヤッたけど、やっぱり違ったなあ。可愛いかったけどフツーの子だったよ」
 奏汰はコウの事を思い出す。愚かしいと思うほど素直で純情な子だった。
 残念ながら自分が求めるタイプではなかったのだが、あまりにも縋るような瞳を向けてくるものだから、せめて良い思い出になればと思い最後まで抱いてあげた。しかし、本気で惚れられそうになったので釘を刺しておいた。
 その後もメッセージが来たが、すげなく対応してしまった。傷ついてないだろうか、と勝手ながら心配もした。
 奏汰はこうやって優しくして最後まで責任を持たない事が、多々ある。自分でも嫌になるが、なかなか直らない性分だった。
「プロフに性癖でも書いておけば?」
「やだよ。自称ドSのモラハラ暴力野郎しか寄って来ないもん」
「それもそうか」
 奏汰はハァとため息を出す。なかなか『カイ君』よりときめく男と出会えない。けれどいつまでもカイと一緒にいられるとは思わなかった。彼は本当に自由気ままで、出会って数年経つが未だ本名すら知らないのだ。いつ連絡が取れなくなるかも分からない。
「まあ、別に性癖が合わなくてもいいんだけどさ。セックスなんかどうでもいい!って思えるくらいイイ人いないかなあ」
「いやあ?体の相性は大事だろ」
「でも本当に好きだったらセックスなんてしなくてもいいって思うんじゃない?」
「好きな人とヤリたいって普通じゃないの?」
「カイ君にそんな感覚あったんだ」
「いや一般論。俺はタイプだったら誰でもいい」
「だよねー」
 奏汰は棒読みで答えた。
「それにお前、セックスなしじゃ付き合えないだろ」
 カイは痛いところを突いてきた。
「まあね……」
 今度は諦めたように力無く答えた。
「先にシャワー使うよ。2限から学校だから」
 奏汰はそう言って風呂場に向かった。
 今日は雨だしサークルの集まりもあるわでだるい一日になりそうだ。気分が上がる高めの香水をつけよう。雨で濡れるから細身のパンツに撥水性のある上着がいいな。奏汰は脳内で支度を始めた。



 5限終わると、学生会館へ移動した。奏汰はこの大学に入って天文サークルに入った。天文部に入るのはずっと夢だったのだが、厳しい祖母が運動部以外許してくれず、中高はテニスをする羽目になった。
 それはそれで楽しかったが、本来奏汰は文化系の人間だ。読書をしたり自然を見ているのが好きだった。
 この大学の天文サークルはなかなか規模も大きく伝統もある。毎月、山小屋に天体観測に行くのが主な活動になっていた。今月も六月末に観測に行く。梅雨が明けているか分からないため希望者は少ない。

「カナちゃーん、一年の名簿取ってー!」
 奏汰は四年生の女生徒から呼びかけられると、手元にあった名簿を手に取った。
「はーい、渡しますよー」
 奏汰はスマートに名簿をスライドさせて女生徒に渡した。
 今日は一年から四年までの幹事で集まって打ち合わせをする日だ。まだ全員集まっていないが、奏汰は成り行きで三年生の幹事になってしまっていた。昔からリーダーになってしまうことが多々あった。
「佐伯くーん!ってあれ佐伯くんまだ?」
 女生徒がきょろきょろと辺りを見回す。佐伯とは一年生の幹事をしてくれている男の子だ。奏汰もつられて顔を上げて辺りを見回した。その時、ドアが勢いよくガラッと開く。
「遅れてすみません!」
「おー、お疲れ」
 噂をすればなんとやら。佐伯が入ってきた。彼はものすごく人当たりの良さそうな男の子で奏汰も好感を持っていた。今日も息を切らしてやってきた。まだ高校生のようにあか抜けていなくてそこが可愛かった。
「ん…?」
 佐伯の隣にもう一人男子生徒が立っていた。その男は奏汰のことを目を丸くして見ていた。奏汰はその男と目が合う。突然、
「カナタさん!?」
 とでかい声で名を呼ばれた。
「!?」
 奏汰は驚きと危機感で全身の毛穴が開くような思いがした。
 
 コウ君!!??

 二週間ほど前にマチアプで会った男だった。奏汰は『コウ君』が次の言葉を発する前に素早く席を立って、ガシッと肩を組んだ。
「う、うおおお!!めっちゃ久しぶりじゃん!!スッゲェ偶然!!なになに!?この学校だったの!?言えよー!俺ちょっとこいつと話あるから借りてくな!?」
「え!?」
 奏汰は誰かが何かを言う前に、素早く『コウ君』を部室の外に連れ出した。

「あの、カナタさん…?」
 奏汰は無言で光輝の肩を抱いたまま、いやほとんど首根っこを掴むようしてずんずん進む。光輝はわけが分からず混乱して名を呼んだ。二週間前にシャワーに連れていってくれた手つきとはまるで違った。
「浅見」
 奏汰は低い声でそれだけ言った。
「え?」
「俺の名字。そっちで呼んで」
「は、はい…」

 その後、光輝を引っ張るように喫煙所に連れて行った。昼頃まで降っていた雨は止んでいた。奏汰はどかっとベンチに座ると電子タバコを取り出した。その間、光輝はぽかんと突っ立っていた。奏汰は電子タバコを雑に吸って息を吐き出すと、ややイライラした声を出して話し出す。
「はーっ!あのさあ、アプリで会った男に偶然会っても反応すんなよな」
「え…」
 光輝は怒られたことよりも奏汰が第一印象とはまるで違う声音で喋り出した事にショックを受けた。
「めっちゃ聞かれるじゃん。どういう関係なのか。どうすっかな。無難に高校の後輩にでもしとくか。いやそれじゃすぐバレるな。バイトだバイト!昔のバイトの後輩!」
「す、すみません…」
 光輝は気圧されながら謝る。そしてもじもじしながら
「俺、カナ…じゃなくて浅見さんにもう一回会いたかったから…嬉しくて…つい…」
 と言った。奏汰はあーあと思った。アプリで出会った男とプライベートで出会うなんて初めてだ。しかもこの男はどうやらあれ以来、自分を思い続けていたらしい。実質振ったじゃないか、と思いながら奏汰は冷たく言い放った。
「なんで?そんなに良かった?もっかいヤリたいって事?」
 光輝はびっくりして否定する。
「違います!!」
 そして
「好きです!!」
 と重ねて伝えた。
「へ?」
「浅見さんのこと、好きになりました…俺、あれから浅見さんのこと忘れられなくて、このこと言いたくて、でも」
 恥ずかしそうに呟く光輝に奏汰は周りをきょろきょろ見回しながら、片手で制止のポーズを取る。
「ちょ、ちょっと待て待て。分かった。分かったから学校以外で話そう。今日の予定は?」
「何もないですけど……」
「んじゃ俺の家来て。こっから3駅だから」
「家!?」
 光輝の顔が赤くなる。相変わらずピュアな子だなあと呆れながら、
「言っておくけど、誘ってるわけじゃないから」
 と釘を刺す。
「分かってます…」
 光輝は拗ねたような顔をした。奏汰は光輝の表情を無視してスマホを取り出した。
「連絡先。教えて。住所教えるから部会終わったら一人で来て」
 
 連絡先を交換すると、光輝は嬉しそうにスマホを眺め出した。
「浅見奏汰…カナタって本名だったんですね、すごい…綺麗な名前…」
 奏汰はだめだこりゃ。と思った。完全に自分に入れ込んでいる。
 奏汰は光輝の登録名を見た。

 『鳥羽光輝』

 こっちの方がよっぽど綺麗な名前じゃんと思った。



 
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