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しおりを挟む年一度の逢瀬から二週が経つ頃、悶々とした情はこの頃が最盛を迎える。毎年のことだが「またか」とはならない。河の向こう側にいる彼女もそのようで、性交とはまた違った趣向を最高に楽しめると認識しているらしい。
天を隔つ大河の岸に座り、ぼんやりと「さて、今宵は何をしようか」とむくむくと想像を膨らませる。何だか普通の自慰では我慢ならない。かと言って「これだ」とピンとくる種もない。
「ふむ……」
己の半身はもう半勃ちになっている。若干の前屈みで河岸までゆるりと歩み寄り、水面に映る下界の様子を窺ってみる。
「宦官め、働きもせずにまた尻遊びに興じているな?」
都で茫々と湧き立つ淫気を感じ取り、視点を寄せてみると昼間から女官と宦官が情事に耽っていた。女官の手には棒状の物体が握られており、火でも噴きそうなほどに素早く、宦官の肛門を出入りしていた。
「ほほう、なかなかにこじらせている」
尻か……。準備と片付けが面倒だな……。
面白いものを見られたが、どうにもしっくりこない。宮中から目線を移して今度は市井の様子を覗く。宅地、寺院、市場と視線を動かすも、さすがに昼間では濃縮された変態が見つからない。
「いや、待てよ?」
発想を転換して歓楽街へ意識を向ける。妓楼が軒を連ねる一帯は夜間に比べると、ひっそりとしていて穏やかな様子だった。そりゃそうだ。こんな時間から訪れるのは暇と金があり余った者くらいだ。だが、暇な人間こそ、精神の渇きを潤さんとして俗的な快楽の探求に耽るもので、今ここを訪れている客はそれなりに「嗜み」をもっているに違いない。
意識を研ぎ澄まし、一つひとつ漏れ聞こえる声に耳を澄ます。好きな時に、しかも周囲にバレずに性的な光景に触れられるのは、不便な身の上になった中で唯一の役得と言って良い。しかし、このまま文明が発展すれば、下界の人間も私のように千里眼を扱えるようになるだろうし、大したものではない。七月七日以外のいつでも、望む時に愛する者を抱けるようになるのなら、こんな力など喜んで捨ててやる。
(まぁでも、今はこれで楽しませてもらうけどね)
そんなことを考えつつ、昼間の妓楼で催されている秘め事を覗き見していくが、自分の琴線に触れる行為にはなかなか遭遇できない。「目論見が外れたか」と内心がっくりしたまま、とある娼館へと視点を向ける。中では例の如く見目麗しい娘と若い男が褥にこもって身をまさぐり合っていた。
「なんだ……。ボンボンが金に物言わせているだけか」
「やはり普通に済ますか」とぶつくさ言いつつ、水鏡から目を離そうとした瞬間、ある違和感に気付いた。
「……薄いな」
しなやかな肢体がはだけた布団から垣間見える。これだけなら見るからに女体だ。しかし……。
交わりが盛り上がって男と娘は暑くなったのか、掛け布団を放り出した。「娘」の姿が露わとなる。
「こいつはツいている。最後の最後に良いネタを見つけた!」
娘の薄い胸板には申し訳程度の小ぶりな乳首が添えられており、ぷっくりと膨れ上がって存在を主張している。だがそれよりもさらに強く激しく存在を訴えかけているブツがあった。きめ細やかな肌といじらしい表情には似つかわぬ「象徴」が。
「まさか男娼だったとは! それにしても上玉だ」
思わず前のめりになって水面を覗き込んだ。
――妻ほどではないが美しい。
咲き乱れた菊を夢中になって鑑賞していると、背後から牛に声をかけられた。
「牽牛さん牽牛さん、お仕事は良いのですか?」
「まぁ待て。今ちょうど良い所だから」
「やれやれ」と背後で聞こえ、牛の気配が一旦遠のいた。どうせ人の性文化の尊さを説いた所で理解でき――。
「んひぃ!?」
尻穴にツンと何かが当たった。ガバっと振り返ると牛の大きな顔が間近にあった。
「バ、バカ! 角で突く奴がいるか!」
「軽く当てただけじゃないですか。ほら、いい加減にしないとお義父さんのカミナリが落ちますよ?」
天を仰げば若干雲行きが怪しい。何を視ていたのかまではバレていないだろうが(バレていたらもう鉄槌が降っているはず)、これ以上仕事をサボる訳にはいかないようだ。
(それにしても女装か……。数十年ぶりにやってみるのもありだけど、道具がもうダメになっているだろうな)
せっかく良い案を見つけたのに実行できないのがもどかしい。悶々としながら仕事をこなし、そろそろ日が暮れようという頃、牛が「そういえば」と雑草を食みながら呟いた。
「織女様から例年通り荷物が届いていましたよ。『今年はそれを使いなさい』と一筆添えられて」
「ん……? どういうことだ?」
「さあ? 私にはわかりませんよ。馬鹿ではなく牛ですが、同じくそこまで賢くありませんし……。もう良い時間ですし引き上げますね。それでは良い夜を」
もちゃもちゃと草を反芻させながら牛は厩舎に戻っていった。付き合いが長いからわかっているだろうに……。あいつも馬鹿の振りをするのが上手くなったものだ。
今年は求めるだけじゃなくて攻めてみよう。
下界で偶然見かけた男女の絡みが私にそう決心させた。「男」と言っても、その機能を奪われた人だったのだけれど、乱れてよがっている姿はやっぱり「雄」で、それが美しくて、私もあの人をあんな風に無茶苦茶にしたいって思ってしまった。
攻めるだけじゃまだ足りない。染めてしまいたい。続いて見かけた男女の交わりが私にそう迸らせた。「女」と言っても、身も心も男の人だったのだけれど、身悶えている姿は見るからに「雌」で、それが愛おしくて、私もあの人をあんな風に慈しみたいって思ってしまった。
そう思ったが吉日、すぐに荷造りに取りかかった。河の向こうでも鵲に頼めば当日に届くはず。
彼の身丈は体が覚えている。こちとらこの仕事を始めて数百年の大ベテランだから、常人がひと月かかる仕事も一日で済ませられるのだ。私は磨き続けた機織りの手腕をこれでもかと彼の為に注いで布を織り、女性に生まれ変わった姿を想い浮かべながら衣へと作り上げていった。時間はまだ日が傾き始めたぐらい。これなら間に合う。
行李に完成したばかりの衣を詰めていく。ムフフ……せっかくだからお化粧品も入れちゃおう。ずっと前にやってから全然変身していないって何年か前に聞いたし。そして、最後に私が着ていた上衣を入れて……これで私に包まれながら……いかんいかん、ぼーっとしている場合ではない。
そうして一筆したためた後、指笛で鵲を呼んだ。
「やあ」
「いつもありがとう。これを彼の家に」
「君を乗せるのに比べたら、これくらいお安い御用さ」
年一回のこととはいえ、数百年も重なると顔なじみを通り越してもはや家族同然だ。鵲とは羽のような軽さで軽口を交わす仲になっていた。
「ちょっとーそれどういうことよ?」
「いいや、仲睦まじくて良いねってことさ! そう、まるでミサゴのように!」
鵲は羽を大げさに広げてキキキッとさえずる。彼が言っているのは下界で長く受け継がれている詩の一節だ。
「ミサゴは河の州でいちゃいちゃできて羨ましいわ。私達は河を隔てて会えないというのに」
つくづくあの馬鹿でかい河が忌々しい。とはいえ、こうなったのも自らの至らなさが原因だから何も言えない。寝ても覚めても思い慕うしかない日々が今なおもどかしい。
「会えずとも心は繋がっているさ」
「お気遣いどうも。じゃあ頼んだよ」
鵲のくちばしに荷物をかけてやる。彼は自分の身丈より大きな荷物も何のそのと軽々と飛び上がっていった。
「私にも翼があれば」と、今まで何百回思ったことだろう。逢瀬から二週が経って、なお体の疼きは収まらない。
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