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しおりを挟む行李の中身を見て、瞬時に妻の意図を察した。どうやら同じ物を見て、同じ考えが浮かんだらしい。天界ほどではないが下界も広い。妙な所で行動が一致するから、今も夫婦の関係で居られているのかもしれない。
上衣に顔を押し付けて二週ぶりの妻の香りに溺れている。気色悪いと言われても仕方のない行いだ。性的な欲求とは別の、相手の存在そのものを己の心身に溶かし込みたいと欲する気持ち、それは私達と同じような境遇にあった者しか共感できない。
前菜も程々に、続いて真新しい衣を何着か広げてみる。ご丁寧に肌着まで用意されている。言うまでもなく全て女性物だ。化粧が入った瓶を手に取りながら、私は「気合入ってんなぁ」と呟いた。
この境遇になって数百年、思い浮かぶ性的嗜好は網羅し尽くしている。女装は先にも述べた通り数十年前にやったし、何なら初体験はもっと昔で、外見や所作もそれなりに嗜んでいる。織女が一時期その手の読み物にのめり込んでいた時期があったせいだ。
とはいえ異性の衣を身に纏うのは非日常なので一定の興奮作用を体にもたらす。裸になって襦裙を手に取ると胸が躍る。袖に腕を通すと、生地が肌に触れるだけでこそばゆい。体が敏感になっているのがわかる。裙を体に巻き、帯を締めれば圧迫感でときめきのような心地よさが体に広がる。その一方で下半身はスースーして落ち着かない。羞恥と背徳の反道徳的な感覚は興奮を増幅させ、私の分身はすでに着衣の上からでも窺えるほどに張りつめていた。
「久しぶりにするとドキドキするな……」
化粧の瓶を持って鏡を覗く。しがない牛飼いの顔が映っている。首から下は艶やかな襦裙姿で実に歪であった。白粉と紅粉を指に馴染ませて、私は少しずつ「女」に近付いていくのであった。
彼が置いていった衣を握り締めながら、贈り物への反応を想像する。
驚くかな。喜ぶかな。戸惑う……はないな。今まで散々色んなことを試してきたし。あーあ、今頃は可愛い女の子になっているのだろうなぁ。見たいなぁ観察したいなぁ愛でたいなぁ監禁したいなぁ直接たっぷりいじめたいなぁ……。
そうだ。向こうが女になるのなら、こっちは男になろう。彼の着替えが一式揃っている。櫃から取り出して広げてみると、私には少し大きい気がした。まぁそこは帯紐で調整すれば良い。
まずは胸をどうするかだ。胸……。
平平白沙丘 平平たる白沙の丘、
緩緩深院門 緩緩たる深院の門。
胸元に目線を落として、思わず詩を作りそうになるくらい悲しくなった。さらしとか巻かなくて良いや。平服ならば男物は楽だ。父が着ているような礼服はとても一人では着られない。
髪は結ってかんざしで止めればそれっぽくなった。思えば男装は彼が嫌がるのもあって、今まであまり経験していない。手探りで自分のツボを推し量っていくのは久しぶりで新鮮だ。
「ふふん」と得意げに姿勢を取って男になり切ってみる。と言っても機織りで引き籠もってばかりだし、それ以外に神付き合いはないし、見本にできるほど男性と接する経験が多くなかった。
そして何よりナニがない。男が女装する時は代替する穴があるけれども、女が男装する時はない物を足さなければならない。はぁ……今の身分になってから、ない物ねだりばかりしている気が――。
「いや、あったわ」
この前、彼を攻めた時に使っていた物がいくらでもあるじゃないか。
寝台の中に作った隠し収納を漁り、目的に合った逸品を見つけた。ここに収められている品々は父に別居させられた時にも隠し通した伝説の性具だ。当時、収めた箱ごと壁に埋め込んで、後に彼にこっそり送ってもらって以来、ずっと連れ添ってきた相棒達である。
その中で今回、私が選んだのは未来の世で「ペニスバンド」と呼ばれているひも付きの張形だ。木を磨き上げて作られており、根元側に空けられた穴に帯紐を通すことで体に固定できるようになっている。
「おーすごい張ってる」
下腹を露わにして、棒の根っこを陰核に当てがいながら帯を巻いて固定する。ズボンを上げると股間に見事な三角錐が出来上がった。竿が抑え込まれるせいで、ひんやりとした感覚と上からの圧が陰部に与えられて体が反応してしまう。
「あ、これきもちいい」
再び彼の服を持って匂いを嗅ぐ。彼が隣にいると想像しながら、股にできた竿を布団に押し付ける。グリグリとした圧迫感が気持ちを高ぶらせ、自分でもわかるくらいぬめっているのがわかった。露が張形の根本から先端にかけて垂れていき、布地に染みを作る。
息を荒くして「雄」は浅ましくも刺激的な妄想の世界に入り込んでいくのだった。
身を包む上衣の甘い匂い、顔に塗った白粉と紅粉が放つ女性特有の香り……私は妻になっている。
彼女の愛らしい姿を脳裏に浮かべながら、意識をそこに重ねていく。言葉、声、所作、男としての振る舞いは上書きされて、身も心も女に生まれ変わろうとしていた。
女だからもちろん局部の象徴はない……とはいかない。象徴は象徴たる所以を高々と主張していた。これを陰核と呼ぶには無理がある。でもそういうものとして扱う。何故なら私は今、女だから。
先端から滴る愛液は染みをますます広げ、美しく染まった布地の色彩を濃くしていく。それに伴い、私の身も雌の雰囲気をさらに醸し出していく。
「んっ……」
胸にある小さな突起を指で捏ねると、腰が反応して跳ねる。摘まむ、弾く、引っかく、撫でる、触る度に背から腰にかけてビリビリと快感が走る。これも過去に彼女に教え込まれたせいだ。
「ああっ!」
溜まりに溜まった劣情によって下腹の我慢が決壊しかける。乳首だけで逝くなんて今日の私はおかしい。緊張と弛緩を繰り返して陰茎が先を揺らす度、粘糸が力なく垂れ落ちている。これだけの快楽を貪りながらも体は「物足りない」と飢えを叫んでいた。もはや心の底まで雌になり切っていた私は、体の芯を貫くような女性ならではの絶頂を求めていた。
「入れたい」
下界で見た光景が脳内に甦る。女官に激しく姦淫される宦官、女となって男と身を結ぶ男娼の姿を思い出すだけで尻穴が疼いた。
牛に小突かれただけで感じるほどに敏感な穴だ。今、責めたら私は私でなくなるかもしれない。だがそれでも良い。私は犯されたい。意地悪そうに微笑む妻の顔が思い浮かんだ。彼女に犯されたい。いや、彼女に染められたい。
衝動と悦楽に身じろぎしていると、行李が寝台から落下した。床に落ちたそれを拾い上げると、ゴトリと重く冷たい物体が転がり出てきた。
妄想は佳境に入っていた。
愛らしいあの人の首筋に吸い付いて情交の証を刻み込む。そのまま力任せに襟元をはだけさせ、鎖骨から乳首にかけて執拗に唇と舌を這わせる。拘束から逃れようと身じろぐ彼をがっちりと抑え込み、舌でひたすら突起を弾く。潤んだ瞳でこちらを窺うあの人を上目遣いで見て愉悦に浸る。そして、息絶え絶えに声も上げられぬほどに疲弊した口を接吻で塞ぐ。粘膜と粘膜が絡み合い、息と息が混じり合い、どちらが私でどちらがあの人なのか、それもわからなくなるくらい身を寄せ合って、ぐちょぐちょに迸った互いの局部を擦り合わせる。
やがて私の分身はするりと「彼女」の中に……。
私の体は相手の物をすんなりと受け入れた。固くて太い物に体の中が押し広げられる感覚、奥まで入り切った時、体の足りない部分が埋まったような満ち足りた気持ちが止めどなく溢れてきた。それと同時にもう永遠に離れたくなくなる切なさが全身を包み、それから逃れたくて私は「彼」にしがみつく。
身も心もかき抱き、己の存在を植え付けるように私は「彼女」に愛を注ぎ込んだ。
上下の粘膜から浸蝕され、私の意識は「彼」だけを感じながら途絶えた。
この日の夜、下界に虹色の雨が降った。
当時、宮中では帝が男色に耽っていた為に後継不在が懸案となっていたが、側付きの男性がこの雨に降られた所、皇帝の子を宿すという変事が起こった。初めは凶兆とされたが、後にその赤子は民の願いを普く叶え、国に繁栄をもたらし、永く語り継がれる名君となったのである。
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