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第14話 帰還の日
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春の光が、館の屋根を金色に染めていた。
小鳥の声が高く響き、雪解けの水が遠くでせせらいでいる。
その朝、ジェスが慌ただしく廊下を駆けてきた。
「ミカ様! 王都からの早馬が――旦那様が本日、お戻りとのことです!」
「――本当ですか!?」
ミカの声が弾んだ。
紅茶のカップを置く手が震える。
隣でリアムが目を輝かせた。
「パパ、帰ってくるの!?」
「うん! 今日だって!」
二人は顔を見合わせて笑い合う。
◇
その日の午後。
ミカはリアムと一緒に玄関の前を磨き、花瓶には新しく摘んだ花を生けた。
スノードロップとベルフラワー。
“希望”と“再会”の花だ。
「ミカ先生、ここ、もう少し拭いてもいい?」
「うん、リアムくん上手だね。」
「だってパパが帰ってくるんだもん!」
リアムはぞうきんを両手に持ち、小さな身体で必死に床を拭いていた。
ミカはそんな姿を見つめながら、胸にじんわりとあたたかいものが広がっていく。
(……あなたがいない間も、ちゃんと日々成長してましたよ。)
春風がカーテンを揺らす。
遠くで馬の蹄の音が響いた。
リアムが顔を上げる。
「ミカ先生! 聞こえた!」
その瞬間、ミカの心臓が高鳴った。
◇
玄関の扉が開く音。
外の光が差し込み、長旅を終えたダリウスの姿がそこにあった。
その瞳は――いつもの鋼灰色のまま、少しだけ疲れの色が見えた。
「パパ――っ!」
リアムが駆け出す。
ダリウスは膝をつき、その小さな身体を抱きしめた。
「元気にしていたか」
「うん! お勉強もいっぱいしたんだよ!」
「そうか。偉いな」
そのやり取りを見ているうちに、ミカの視界が少し滲んだ。
胸が熱くなる。
ダリウスがリアムの背を軽く叩き、顔を上げた。
「……ミカ、遅くなって済まない」
「いいえ、ご無事で……何よりです」
その言葉が、胸の奥に沁みる。
長い時間を経て、ようやく言えた“約束の言葉”。
ダリウスの目が、ミカに向けられる。
視線が合った瞬間、何も言えなくなった。
ほんの数歩、彼が歩み寄るたびに、鼓動が早くなっていく。
「館は、無事だったか」
「はい。リアムくんも頑張って……」
言いかけたところで、リアムが胸を張った。
「ねぇパパ! 見て!」
机の上に並べられた厚紙。
そこにはリアムの文字で「りあむ」「パパ」「ミカ」と書かれていた。
ダリウスは驚いたように目を見開き、そして、ゆっくりと笑った。
「……ずいぶん、上手になったな」
「いっぱい練習した!」
「そうか」
大きな手がミカの方へと伸び、軽く肩を叩く。
「……ありがとう。お前のおかげだ」
その手の感触に、心臓が跳ねた。
「い、いえ……僕なんて……」
「いいや」
ダリウスの声が低く、柔らかく響く。
「お前がいてくれたから、帰る場所があった」
その言葉に、胸の奥の何かが決壊した。
涙がこぼれそうになるのを堪えて、ミカは笑った。
「おかえりなさい、旦那様」
「ああ、ただいま」
その言葉を交わした直後、ダリウスがそっと手を伸ばし、ミカを抱き寄せた。
驚いて息を呑むミカ。
リアムの前で恥ずかしいのに、それ以上に彼の腕の中が嬉しかった。
「会いたかった」
その小さな声が、耳もとで囁かれる。
ミカの頬が一気に赤く染まる。
胸の奥で、何かがほどける音がした。
「……僕も、ずっと」
言葉を重ねるように、ダリウスが唇を寄せた。
短く、優しいキス。
約束を果たした証のような、静かな口づけだった。
リアムが無邪気に笑いながら言った。
「パパ! もうずっとおうちにいる?」
ダリウスはミカから離れ、照れたように微笑んで息子を抱き上げた。
「ああ。しばらくは大丈夫だろう」
「やったー!」
その笑顔を見て、ミカも笑った。
泣き笑いのまま、胸の奥に確かな幸福が満ちていく。
(ああ……これが、帰ってくるってことなんだ。)
春の風が吹き抜け、玄関の花瓶の花びらが一つ、ふわりと舞った。
それはまるで、三人を祝福するようにきらめきながら落ちていった。
小鳥の声が高く響き、雪解けの水が遠くでせせらいでいる。
その朝、ジェスが慌ただしく廊下を駆けてきた。
「ミカ様! 王都からの早馬が――旦那様が本日、お戻りとのことです!」
「――本当ですか!?」
ミカの声が弾んだ。
紅茶のカップを置く手が震える。
隣でリアムが目を輝かせた。
「パパ、帰ってくるの!?」
「うん! 今日だって!」
二人は顔を見合わせて笑い合う。
◇
その日の午後。
ミカはリアムと一緒に玄関の前を磨き、花瓶には新しく摘んだ花を生けた。
スノードロップとベルフラワー。
“希望”と“再会”の花だ。
「ミカ先生、ここ、もう少し拭いてもいい?」
「うん、リアムくん上手だね。」
「だってパパが帰ってくるんだもん!」
リアムはぞうきんを両手に持ち、小さな身体で必死に床を拭いていた。
ミカはそんな姿を見つめながら、胸にじんわりとあたたかいものが広がっていく。
(……あなたがいない間も、ちゃんと日々成長してましたよ。)
春風がカーテンを揺らす。
遠くで馬の蹄の音が響いた。
リアムが顔を上げる。
「ミカ先生! 聞こえた!」
その瞬間、ミカの心臓が高鳴った。
◇
玄関の扉が開く音。
外の光が差し込み、長旅を終えたダリウスの姿がそこにあった。
その瞳は――いつもの鋼灰色のまま、少しだけ疲れの色が見えた。
「パパ――っ!」
リアムが駆け出す。
ダリウスは膝をつき、その小さな身体を抱きしめた。
「元気にしていたか」
「うん! お勉強もいっぱいしたんだよ!」
「そうか。偉いな」
そのやり取りを見ているうちに、ミカの視界が少し滲んだ。
胸が熱くなる。
ダリウスがリアムの背を軽く叩き、顔を上げた。
「……ミカ、遅くなって済まない」
「いいえ、ご無事で……何よりです」
その言葉が、胸の奥に沁みる。
長い時間を経て、ようやく言えた“約束の言葉”。
ダリウスの目が、ミカに向けられる。
視線が合った瞬間、何も言えなくなった。
ほんの数歩、彼が歩み寄るたびに、鼓動が早くなっていく。
「館は、無事だったか」
「はい。リアムくんも頑張って……」
言いかけたところで、リアムが胸を張った。
「ねぇパパ! 見て!」
机の上に並べられた厚紙。
そこにはリアムの文字で「りあむ」「パパ」「ミカ」と書かれていた。
ダリウスは驚いたように目を見開き、そして、ゆっくりと笑った。
「……ずいぶん、上手になったな」
「いっぱい練習した!」
「そうか」
大きな手がミカの方へと伸び、軽く肩を叩く。
「……ありがとう。お前のおかげだ」
その手の感触に、心臓が跳ねた。
「い、いえ……僕なんて……」
「いいや」
ダリウスの声が低く、柔らかく響く。
「お前がいてくれたから、帰る場所があった」
その言葉に、胸の奥の何かが決壊した。
涙がこぼれそうになるのを堪えて、ミカは笑った。
「おかえりなさい、旦那様」
「ああ、ただいま」
その言葉を交わした直後、ダリウスがそっと手を伸ばし、ミカを抱き寄せた。
驚いて息を呑むミカ。
リアムの前で恥ずかしいのに、それ以上に彼の腕の中が嬉しかった。
「会いたかった」
その小さな声が、耳もとで囁かれる。
ミカの頬が一気に赤く染まる。
胸の奥で、何かがほどける音がした。
「……僕も、ずっと」
言葉を重ねるように、ダリウスが唇を寄せた。
短く、優しいキス。
約束を果たした証のような、静かな口づけだった。
リアムが無邪気に笑いながら言った。
「パパ! もうずっとおうちにいる?」
ダリウスはミカから離れ、照れたように微笑んで息子を抱き上げた。
「ああ。しばらくは大丈夫だろう」
「やったー!」
その笑顔を見て、ミカも笑った。
泣き笑いのまま、胸の奥に確かな幸福が満ちていく。
(ああ……これが、帰ってくるってことなんだ。)
春の風が吹き抜け、玄関の花瓶の花びらが一つ、ふわりと舞った。
それはまるで、三人を祝福するようにきらめきながら落ちていった。
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