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第3話 先輩、これって報告案件ですかね?
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営業部に急な出張が入った。
取引先の工場視察で、行先は車で二時間、泊まりがけの出張だ。
「佐倉、お前も来い」
「はい! よろしくお願いします」
佐倉は元気よく返事をし、書類をまとめている真壁の横にすぐ座った。
出張準備の会話だけで、なぜか距離が近い。
(……まただ。毎回このゼロ距離は何なんだ)
早朝、真壁の車で出発し、現場に向かった。
視察中、佐倉は終始メモを取りながら、相槌も忘れない。
取引先の部長に「若いのに愛想がいいね」と褒められて、真壁は軽く笑って返した。
「うちの新人です。使えるやつですよ」
「えへへ。ありがとうございます、先輩」
真横でにこっとされた瞬間、なぜか自分の心拍数が少し上がった。
視察後、ホテル近くの居酒屋で打ち上げをすることになった。
取引先の人たちと盛り上がったが、二次会は断って真壁と佐倉だけでホテルへ戻る。
部屋は——まさかのツイン。
「……あれ? 部屋、分かれてないんですね」
「予約が埋まってたらしい。まぁ、仕方ねえな」
「じゃあ、よろしくお願いします!」
(お前、よろしくって……)
シャワーを終えた真壁が部屋に戻ると、佐倉がベッドに寝転がっていた。
タオルドライした髪、Tシャツにスウェットというラフな格好。
それを見た瞬間、真壁は思わず足を止める。
「……そっち、俺のベッドじゃなかったか?」
「そうですよ。先輩のベッドの方がWi-Fi強いんです」
「だからって……」
「あ、先輩、髪、濡れてますよ」
佐倉が立ち上がり、タオルを持って近づいてくる。
「ほら、拭いてあげますから」
「いや、いい。自分で——」
ぐいっと腕を引っ張られ、ベッドに座らされる。
佐倉が目の前に立つと、タオルが頭に乗せられ、くしゃくしゃと乾かされる。
至近距離で覗き込まれて、真壁は固まった。
(……!? この距離はダメだろ!)
「先輩、意外と髪柔らかいですね」
「触んな」
「照れてます?」
「……っ」
タオルドライが終わると、佐倉は隣のベッドにころんと転がった。
「はー、出張って楽しいですね。きっと先輩と一緒だからですね」
「……そうか」
「僕、もっと仕事覚えたいです。先輩と一緒にたくさん仕事出来たらうれしいな。先輩の傍は安心します」
(安心?……遊び相手から一度も言われたことないな)
真壁はしばし黙り、そして、ふと口をついた。
「佐倉」
「はい?」
「俺のこと……お前からどう見えてるんだ?」
佐倉は首を傾げて、いつもの調子で答えた。
「えっと……仕事できて、かっこいいです……」
「……いや、そういうことじゃなくて」
「あ!あと、めちゃくちゃ優しいです」
「……やさしい?」
「はい、先輩、優しいです」
真壁はベッドに横たわり、天井を見上げる。
(優しい、ね……俺にそんな形容詞、あったか?)
翌朝、ホテルのチェックアウトを済ませて車に乗り込む。
助手席で佐倉がシートベルトを締めながら、ふと笑った。
「先輩」
「なんだ」
「昨日、僕が先輩の髪拭いたの、セクハラでした?」
「……」
「パワハラ?」
「両方だ」
「じゃあ僕、捕まっちゃいますね」
「人事に報告だな」
「え、ほんとに?」
「……冗談だ」
「先輩、嫌ではなかったんですよね?」
急に少し真面目な声になった佐倉の言葉がすぐに理解できなかった。
「は?」
「いえ、なんでもないです。あ……前見てください、先輩」
佐倉の言葉が車内に妙な温度を残した。
真壁はとりあえず、ハンドルを握る指先に力を入れた。
取引先の工場視察で、行先は車で二時間、泊まりがけの出張だ。
「佐倉、お前も来い」
「はい! よろしくお願いします」
佐倉は元気よく返事をし、書類をまとめている真壁の横にすぐ座った。
出張準備の会話だけで、なぜか距離が近い。
(……まただ。毎回このゼロ距離は何なんだ)
早朝、真壁の車で出発し、現場に向かった。
視察中、佐倉は終始メモを取りながら、相槌も忘れない。
取引先の部長に「若いのに愛想がいいね」と褒められて、真壁は軽く笑って返した。
「うちの新人です。使えるやつですよ」
「えへへ。ありがとうございます、先輩」
真横でにこっとされた瞬間、なぜか自分の心拍数が少し上がった。
視察後、ホテル近くの居酒屋で打ち上げをすることになった。
取引先の人たちと盛り上がったが、二次会は断って真壁と佐倉だけでホテルへ戻る。
部屋は——まさかのツイン。
「……あれ? 部屋、分かれてないんですね」
「予約が埋まってたらしい。まぁ、仕方ねえな」
「じゃあ、よろしくお願いします!」
(お前、よろしくって……)
シャワーを終えた真壁が部屋に戻ると、佐倉がベッドに寝転がっていた。
タオルドライした髪、Tシャツにスウェットというラフな格好。
それを見た瞬間、真壁は思わず足を止める。
「……そっち、俺のベッドじゃなかったか?」
「そうですよ。先輩のベッドの方がWi-Fi強いんです」
「だからって……」
「あ、先輩、髪、濡れてますよ」
佐倉が立ち上がり、タオルを持って近づいてくる。
「ほら、拭いてあげますから」
「いや、いい。自分で——」
ぐいっと腕を引っ張られ、ベッドに座らされる。
佐倉が目の前に立つと、タオルが頭に乗せられ、くしゃくしゃと乾かされる。
至近距離で覗き込まれて、真壁は固まった。
(……!? この距離はダメだろ!)
「先輩、意外と髪柔らかいですね」
「触んな」
「照れてます?」
「……っ」
タオルドライが終わると、佐倉は隣のベッドにころんと転がった。
「はー、出張って楽しいですね。きっと先輩と一緒だからですね」
「……そうか」
「僕、もっと仕事覚えたいです。先輩と一緒にたくさん仕事出来たらうれしいな。先輩の傍は安心します」
(安心?……遊び相手から一度も言われたことないな)
真壁はしばし黙り、そして、ふと口をついた。
「佐倉」
「はい?」
「俺のこと……お前からどう見えてるんだ?」
佐倉は首を傾げて、いつもの調子で答えた。
「えっと……仕事できて、かっこいいです……」
「……いや、そういうことじゃなくて」
「あ!あと、めちゃくちゃ優しいです」
「……やさしい?」
「はい、先輩、優しいです」
真壁はベッドに横たわり、天井を見上げる。
(優しい、ね……俺にそんな形容詞、あったか?)
翌朝、ホテルのチェックアウトを済ませて車に乗り込む。
助手席で佐倉がシートベルトを締めながら、ふと笑った。
「先輩」
「なんだ」
「昨日、僕が先輩の髪拭いたの、セクハラでした?」
「……」
「パワハラ?」
「両方だ」
「じゃあ僕、捕まっちゃいますね」
「人事に報告だな」
「え、ほんとに?」
「……冗談だ」
「先輩、嫌ではなかったんですよね?」
急に少し真面目な声になった佐倉の言葉がすぐに理解できなかった。
「は?」
「いえ、なんでもないです。あ……前見てください、先輩」
佐倉の言葉が車内に妙な温度を残した。
真壁はとりあえず、ハンドルを握る指先に力を入れた。
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