4 / 10
第4話 先輩、ご褒美もらえますか?
しおりを挟む月曜の朝一、真壁は出張から戻ったばかりで、山積みのメールを処理していた。
横からひょこっと顔を出すのは、もちろん新人・佐倉有紀。
「先輩、出張報告、僕も一緒にまとめます!」
「いや、お前はまだ案件の流れを掴んでないだろ」
「でも先輩のまとめ方、勉強したいんです」
「……勝手にしろ」
言いながらも、モニターを少しだけ傾けてやる自分がいる。
(なんで俺は、こう甘くなるんだか)
昼前に視察報告も兼ねた会議が行われた。
顧客向けの提案資料を確認していたとき、佐倉が隣で声を潜めて言った。
「先輩、この表、フォントが違う気がします」
「ん? どれだ」
「ここです、ここ」
佐倉が身を乗り出してきて、肩がぴたりと触れる。
しかし、顔が近い。——いや、近すぎだろ。
「……お前、だから距離感考えろ」
「え?」
「会議中だぞ」
「だから小声で話してるんですけど?」
「そういうことじゃねぇ」
斜め前の席から、西條がにやにやしながら振り返った。
「お、真壁、熱心な教育だなぁ」
「違う」
(くそ、完全に誤解されてる)
佐倉はといえば、ケロっとした顔で「僕、メモしますね」と言っている。
本人に悪気ゼロだから余計にタチが悪い。
昼休み、毎日のように佐倉は食堂に向かう真壁の後を追ってくる。
お陰で佐倉と昼を取ることがルーチンになりそうだ。
午後は少し離れようと、コピー機の前で印刷が終わるのを待っていると、佐倉がまた当然のように隣に立った。
「先輩、肩にゴミついてますよ」
「え?」
佐倉が指先でスーツの肩を払う。
肩の方を向くと、思った以上に佐倉が近かった。
佐倉はこの距離のまま真壁を見上げ、にこっと笑う
「よし、取れました」
「お、おう……」
(いや、コピー機の前で、なんで見つめ合ってんだよ、俺らは)
その瞬間、ちょうど通りかかった女子社員二人が足を止めた。
「きゃー真壁さん、そんな顔するんですね」
「新人くん、完全に特別扱いじゃない?」
(どんな顔だよ!?)
「ちが——」
否定する間もなく、佐倉はにっこり笑ってこう言った。
「そうなんです!先輩、とても僕を大事にしてくれます」
(おいおい、なんてこと言うんだよ)
同僚女子たちは「お似合いじゃん~」と盛り上がりながら去っていった。
真壁はその場で崩れ落ちそうになった。
(……俺の評判、完全に変な方向行ってないか)
定時を過ぎた頃。
残業組のオフィスは静かで、タイピング音だけが響く。
「……」
「……」
ふと隣を見れば、佐倉が眠そうに瞬きをしていた。
前髪が目にかかりそうで、真壁はつい声をかける。
「佐倉、疲れただろ?今日はもう上がれ」
「でも、先輩が残ってるのに」
「いいから。お前の分は俺がやっとく」
「……先輩、優しい」
「とにかく、今日は」
帰れと続く前に佐倉に遮られた。
「じゃあ、ご褒美ください」
「は?」
「昨日までの出張とか頑張ったご褒美がほしいです。えーと、先輩の笑顔とか?そしたら、もう少し頑張れます」「なんだそれは」
「あ……こういうのは?」
佐倉は、机の下でそっと真壁の小指をぎゅっと握る。
誰にも見えない位置で、子供みたいに。
「……お前」
「えへへ」
笑顔で誤魔化すその仕草が、また無自覚に心臓を揺さぶってくる。
(ほんと……こいつは俺をどうしたいんだ??)
帰り道、西條からメッセージが飛んできた。
〈なあ真壁、お前ら付き合ってんの?〉
「……っ」
思わず足を止める。
(西條に見られてた?)
すぐ横で歩いていた佐倉が首を傾げた。
「どうしました?」
「なんでもない」
画面を伏せて、真壁は小さく息を吐いた。
(違う。付き合ってない。けど、なんかもう自信もない……)
街灯の下で見上げてきた佐倉の笑顔が、やけに近く感じた。
13
あなたにおすすめの小説
俺にだけ厳しい幼馴染とストーカー事件を調査した結果、結果、とんでもない事実が判明した
あと
BL
「また物が置かれてる!」
最近ポストやバイト先に物が贈られるなどストーカー行為に悩まされている主人公。物理的被害はないため、警察は動かないだろうから、自分にだけ厳しいチャラ男幼馴染を味方につけ、自分たちだけで調査することに。なんとかストーカーを捕まえるが、違和感は残り、物語は意外な方向に…?
⚠️ヤンデレ、ストーカー要素が含まれています。
攻めが重度のヤンデレです。自衛してください。
ちょっと怖い場面が含まれています。
ミステリー要素があります。
一応ハピエンです。
主人公:七瀬明
幼馴染:月城颯
ストーカー:不明
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
内容も時々サイレント修正するかもです。
定期的にタグ整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話
日向汐
BL
「好きです」
「…手離せよ」
「いやだ、」
じっと見つめてくる眼力に気圧される。
ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26)
閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、
一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨
短期でサクッと読める完結作です♡
ぜひぜひ
ゆるりとお楽しみください☻*
・───────────・
🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧
❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21
・───────────・
応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪)
なにとぞ、よしなに♡
・───────────・
優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―
無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」
卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。
一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。
選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。
本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。
愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。
※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。
※本作は織理受けのハーレム形式です。
※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください
この変態、規格外につき。
perari
BL
俺と坂本瑞生は、犬猿の仲だ。
理由は山ほどある。
高校三年間、俺が勝ち取るはずだった“校内一のイケメン”の称号を、あいつがかっさらっていった。
身長も俺より一回り高くて、しかも――
俺が三年間片想いしていた女子に、坂本が告白しやがったんだ!
……でも、一番許せないのは大学に入ってからのことだ。
ある日、ふとした拍子に気づいてしまった。
坂本瑞生は、俺の“アレ”を使って……あんなことをしていたなんて!
もう観念しなよ、呆れた顔の彼に諦めの悪い僕は財布の3万円を机の上に置いた
谷地
BL
お昼寝コース(※2時間)8000円。
就寝コースは、8時間/1万5千円・10時間/2万円・12時間/3万円~お選びいただけます。
お好みのキャストを選んで御予約下さい。はじめてに限り2000円値引きキャンペーン実施中!
液晶の中で光るポップなフォントは安っぽくぴかぴかと光っていた。
完結しました *・゚
2025.5.10 少し修正しました。
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる