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第六話:夜が明けても、君は俺の腕の中に
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差し込む朝日で、意識がゆっくりと浮上する。
最初に感じたのは、腕の中にある確かな温もりと、規則正しい寝息。そして、シャンプーの甘い香り。
目を開けると、俺の胸にすっぽりと収まって眠る、白銀夜瑠の無防備な寝顔が飛び込んできた。
長い睫毛が、白い頬に影を落としている。わずかに開かれた唇から、すぅ、すぅ、と安らかな呼吸が漏れていた。
昨夜の出来事が、夢ではなかったことを突きつけられる。
俺たちは、一線を越えた。
この、完璧で、孤高で、誰にも弱さを見せなかった生徒会長の、全てを。
じっとその寝顔を見つめていると、彼女の睫毛がふるりと震え、ゆっくりと瞼が持ち上がった。
月明かりの下で見た潤んだ瞳とは違う、寝起きの、どこか幼さを感じさせるぼんやりとした瞳が、俺を捉える。
「……おはよう、有栖川くん」
掠れた、甘い声。
その声で自分の名前を呼ばれただけで、心臓が大きく跳ねた。
「……おはよう、白銀さん。体調は、どうだ?」
俺はそう言って、そっと彼女の額に手を当てる。
まだ熱い。昨夜よりは少しマシになった気もするが、平熱とは言えないだろう。
俺の手に、彼女が自分の手を重ねてくる。
そして、猫のように頬をすり寄せた。
「……あなたの手、つめたい。きもちいい……」
その仕草に、愛おしさが込み上げてくるのを止められない。
だが、次の瞬間、彼女ははっとしたように目を見開き、昨夜の記憶がフラッシュバックしたのか、顔をぼっと赤らめた。
「あ……わ、わたし……きのう……あんな、はしたない、こと……」
シーツを胸元まで引き上げ、羞恥に顔を歪める。
完璧な生徒会長の仮面を、慌てて拾い集めようとしているのが見て取れた。
そんな彼女の姿が、どうしようもなく健気に見える。
「白銀さん」
俺は彼女の頬を両手で包み、まっすぐにその瞳を見つめた。
「俺は、嬉しかったよ」
「……え?」
「完璧な白銀夜瑠じゃなくて、ただの白銀夜瑠を見せてくれたことが。俺を、頼ってくれたことが」
俺の言葉に、彼女の瞳がみるみるうちに潤んでいく。
「……でも、私……すごく、いやらしい女だったと、思う……あなたに、迷惑を……」
「迷惑なもんか。むしろ逆だ」
俺はそこで言葉を切ると、少し意地悪く微笑んでみせた。
「……すごく、可愛かった」
その一言で、彼女の顔は爆発したように真っ赤になった。
「か、からかわないでっ!」と、か細い声で抗議してくる。
昨夜、あれだけ大胆だった彼女が見せる、その初々しい反応。
そのギャップに、俺は完全に心を奪われていた。
「腹、減っただろ。何か食えるもの、作ってやるよ。お粥とかでいいか?」
「え、で、でも……」
「病人は大人しく寝てろって。キッチン、借りるぞ」
俺はそう言ってベッドから抜け出すと、彼女の部屋を後にした。
広すぎるキッチンで、米と、冷蔵庫にあった卵、ネギを拝借する。
手際よく土鍋で粥を炊き、溶き卵を回し入れ、刻んだネギを散らした。
完成した熱々の卵粥をトレーに乗せ、彼女の部屋へ戻る。
彼女は、ベッドの上で不安そうに体育座りをしていた。
「ほら、できたぞ。熱いから気をつけろよ」
「……ありすがわ、くんが……作って、くれた……」
彼女は、湯気の立つ粥を、信じられないものを見るような目で見つめている。
「……食べさせて、あげようか?」
「……自分で、食べれるわよ!」
強がるように言うが、その手はまだ微かに震えていた。
俺は構わず、れんげで粥をすくうと、ふーふー、と息を吹きかけて冷ます。
そして、彼女の唇元へ、そっと差し出した。
「……ほら、あーん」
「~~~~~ッ!」
彼女は顔を真っ赤にしながらも、おずおずと小さな口を開き、れんげを受け入れた。
もぐ、もぐ、とゆっくり咀嚼する。
「……おいしい……」
ぽつり、と呟かれたその言葉。
その瞳には、うっすらと涙の膜が張っていた。
完璧な生徒会長が、俺の腕の中で、俺の作った粥を食べて、静かに泣いている。
その光景は、俺たちの関係が、もう決して元には戻れない、新しい段階に入ったことを示していた。
俺は、そんな彼女が愛おしくてたまらなくなり、もう一口、粥を彼女の口元へと運ぶのだった。
【続く】
最初に感じたのは、腕の中にある確かな温もりと、規則正しい寝息。そして、シャンプーの甘い香り。
目を開けると、俺の胸にすっぽりと収まって眠る、白銀夜瑠の無防備な寝顔が飛び込んできた。
長い睫毛が、白い頬に影を落としている。わずかに開かれた唇から、すぅ、すぅ、と安らかな呼吸が漏れていた。
昨夜の出来事が、夢ではなかったことを突きつけられる。
俺たちは、一線を越えた。
この、完璧で、孤高で、誰にも弱さを見せなかった生徒会長の、全てを。
じっとその寝顔を見つめていると、彼女の睫毛がふるりと震え、ゆっくりと瞼が持ち上がった。
月明かりの下で見た潤んだ瞳とは違う、寝起きの、どこか幼さを感じさせるぼんやりとした瞳が、俺を捉える。
「……おはよう、有栖川くん」
掠れた、甘い声。
その声で自分の名前を呼ばれただけで、心臓が大きく跳ねた。
「……おはよう、白銀さん。体調は、どうだ?」
俺はそう言って、そっと彼女の額に手を当てる。
まだ熱い。昨夜よりは少しマシになった気もするが、平熱とは言えないだろう。
俺の手に、彼女が自分の手を重ねてくる。
そして、猫のように頬をすり寄せた。
「……あなたの手、つめたい。きもちいい……」
その仕草に、愛おしさが込み上げてくるのを止められない。
だが、次の瞬間、彼女ははっとしたように目を見開き、昨夜の記憶がフラッシュバックしたのか、顔をぼっと赤らめた。
「あ……わ、わたし……きのう……あんな、はしたない、こと……」
シーツを胸元まで引き上げ、羞恥に顔を歪める。
完璧な生徒会長の仮面を、慌てて拾い集めようとしているのが見て取れた。
そんな彼女の姿が、どうしようもなく健気に見える。
「白銀さん」
俺は彼女の頬を両手で包み、まっすぐにその瞳を見つめた。
「俺は、嬉しかったよ」
「……え?」
「完璧な白銀夜瑠じゃなくて、ただの白銀夜瑠を見せてくれたことが。俺を、頼ってくれたことが」
俺の言葉に、彼女の瞳がみるみるうちに潤んでいく。
「……でも、私……すごく、いやらしい女だったと、思う……あなたに、迷惑を……」
「迷惑なもんか。むしろ逆だ」
俺はそこで言葉を切ると、少し意地悪く微笑んでみせた。
「……すごく、可愛かった」
その一言で、彼女の顔は爆発したように真っ赤になった。
「か、からかわないでっ!」と、か細い声で抗議してくる。
昨夜、あれだけ大胆だった彼女が見せる、その初々しい反応。
そのギャップに、俺は完全に心を奪われていた。
「腹、減っただろ。何か食えるもの、作ってやるよ。お粥とかでいいか?」
「え、で、でも……」
「病人は大人しく寝てろって。キッチン、借りるぞ」
俺はそう言ってベッドから抜け出すと、彼女の部屋を後にした。
広すぎるキッチンで、米と、冷蔵庫にあった卵、ネギを拝借する。
手際よく土鍋で粥を炊き、溶き卵を回し入れ、刻んだネギを散らした。
完成した熱々の卵粥をトレーに乗せ、彼女の部屋へ戻る。
彼女は、ベッドの上で不安そうに体育座りをしていた。
「ほら、できたぞ。熱いから気をつけろよ」
「……ありすがわ、くんが……作って、くれた……」
彼女は、湯気の立つ粥を、信じられないものを見るような目で見つめている。
「……食べさせて、あげようか?」
「……自分で、食べれるわよ!」
強がるように言うが、その手はまだ微かに震えていた。
俺は構わず、れんげで粥をすくうと、ふーふー、と息を吹きかけて冷ます。
そして、彼女の唇元へ、そっと差し出した。
「……ほら、あーん」
「~~~~~ッ!」
彼女は顔を真っ赤にしながらも、おずおずと小さな口を開き、れんげを受け入れた。
もぐ、もぐ、とゆっくり咀嚼する。
「……おいしい……」
ぽつり、と呟かれたその言葉。
その瞳には、うっすらと涙の膜が張っていた。
完璧な生徒会長が、俺の腕の中で、俺の作った粥を食べて、静かに泣いている。
その光景は、俺たちの関係が、もう決して元には戻れない、新しい段階に入ったことを示していた。
俺は、そんな彼女が愛おしくてたまらなくなり、もう一口、粥を彼女の口元へと運ぶのだった。
【続く】
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