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第18話:聖女様の『つわり』は、俺のマナがお好き?
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セシリアの懐妊が分かってから、俺の生活は一変した。勇者である前に、一人の夫として、そして父となる男として、俺は完全に過保護モードに突入していた。
「セシリア、その石段は危ないから俺が抱えて……」 「カイト、大袈裟です。まだお腹はこれっぽっちも出ていないのですよ?」 「駄目だ。万が一ってことがある。それに、あんたの身体はもうあんただけのものじゃないんだからな!」
そんなやり取りが、俺たちの日常になっていた。アレクシスや騎士たちは、そんな俺の姿を生暖かい目で見守っている。グランデルに至っては、「若いというのは、よいのぅ」と楽しそうだ。
だが、彼女の身に起こり始めた変化は、ただお腹が大きくなるというだけではなかった。それは、ある日の朝食の席で起こった。
「……うーん……なんだか、とてもお腹が空きます……」
セシリアが、しょんぼりとした顔で呟いた。目の前には、料理長が腕によりをかけて作った、栄養満点のスープやパンが並んでいる。だが、彼女はそれに一切手を付けようとしない。
「どうした? 食欲ないのか? 何か食べたいものがあったら、何でも言えよ。竜の肉でも、地の果てからでも取ってくるから」 「いえ、そういうことでは……ないのです。食べ物のことではなくて……なんて言えばいいのか……もっと、こう、キラキラしたものが……」
キラキラしたもの? 彼女は、まるで夢見るような瞳で、俺の腰に佩かれた聖剣を、じっと見つめた。そして、おずおずと、その白い指先で、聖剣の鞘にそっと触れた。
その瞬間。聖剣が、ポゥッ、と淡い光を放った。まるで、彼女の指先に吸い寄せられるかのように。
「……あ……♡」
セシリアの頬が、ぽっと上気した。 その顔は、空腹の子供が、ようやくお菓子にありつけた時のような、とろんとした、満足げな表情。
(……美味しい……)
彼女の心の声が、俺の中に流れ込んでくる。どうやら、お腹の子は、普通の食べ物じゃなく、純粋な“マナ”を栄養として求めているらしい。そして、母親であるセシリアを通じて、俺の聖剣から、おやつをねだるようにマナを啜ったのだ。これが、聖女様の『つわり』か……。
「……俺ので、よかったら、いくらでも」
俺は、彼女の隣に座り直し、そっとその手を握った。俺の身体から、温かいマナが、彼女の中へ、そしてお腹の小さな光へと、ゆっくりと流れ込んでいく。 彼女は、うっとりとした表情で目を閉じ、俺の肩にこてんと頭を預けてきた。
「ん……ふふ……。カイトの味……一番、落ち着きます……♡」
その無防備で甘えきった姿に、俺の心臓が、別の意味で高鳴り始めたのは言うまでもない。
だが、問題はそれだけではなかった。お腹の子が成長するにつれて、セシリア自身のマナの制御が、不安定になってきているのだ。
「――きゃっ!」
中庭を散歩していると、彼女が持っていた紅茶のカップが、突然、聖なる光を放って、内側から砕け散った。
「すみません……! ちょっと、力を制御できなくて……」
お腹の子が、母親の魔力を無意識に吸い上げてしまうため、彼女の意思とは関係なく、力が暴発してしまうことがあるのだ。このままでは、彼女自身の身が危ない。俺たちは、グランデルの元へ相談に向かった。
「……ふむ。やはり、そうなったか」
グランデルは、事態を予測していたかのように、静かに頷いた。「御子の魂は、あまりに強大すぎる。母胎である聖女様の許容量を、いずれ超えてしまうやもしれん。……そうなれば、母子ともに危険な状態に陥る」
「そんな……! どうすればいいんですか!?」
グランデルは、一つの可能性を示した。「……古き混沌を呼び覚ます鍵、という予言は、逆に言えば、その混沌を封じるための鍵でもある、と解釈できる。おそらく、王国に残る文献だけでは、情報は不十分じゃろう。……いにしえの時代、神々と魔族が争った時代の遺物が眠ると言われる、『忘れられた神殿』……そこに、何か手がかりがあるやもしれん」
忘れられた神殿。それは、王都から遥か南、瘴気が立ち込める古代の森の奥深くにあるという、伝説上の場所だった。
その夜。俺は、ベッドで眠るセシiliaの寝顔を見ながら、一人、覚悟を決めていた。神殿への旅は、危険すぎる。今の彼女を、連れて行くわけにはいかない。俺が、一人で行く。俺が、必ず、解決策を見つけて帰ってくる。
そう決意した、その時だった。
(……一人で、行くつもりですか?)
眠っているはずのセシリアの、静かな心の声が響いた。彼女はゆっくりと目を開け、俺を真っ直ぐに見つめた。その瞳には、すべてお見通しだ、と書かれている。
「……危ないから、置いていくなんて言わないでくださいね」
「でも、セシリア……」 「わたくしたちは、一心同体なのでしょう? あなたが一人で行くのなら、わたくしの魂も、半分、そこに行くのです。わたくしの身体がここに残っていても、あなたが傷つけば、わたくしも、この子も、傷つくのです」
彼女は、俺の手に、そっと自分のお腹を導いた。
「……三人で、一緒です。もう、わたくしたちが、離れ離れになることなど、できないのですから」
その言葉に、俺の決意は、いとも容易く砕け散った。そうだ。俺たちは、もう、そういう存在なんだ。俺は、彼女のお腹に手を当てたまま、その上に自分の額を乗せた。
「……分かった。一緒に行こう。俺が、あんたと、この子を、絶対に守る」
お腹の中の小さな光が、また、ぽん、と温かく脈打った。まるで、「その意気だ、パパ!」とでも言うかのように。俺たちの、家族としての、最初の冒険が、始まろうとしていた。
【続く】
「セシリア、その石段は危ないから俺が抱えて……」 「カイト、大袈裟です。まだお腹はこれっぽっちも出ていないのですよ?」 「駄目だ。万が一ってことがある。それに、あんたの身体はもうあんただけのものじゃないんだからな!」
そんなやり取りが、俺たちの日常になっていた。アレクシスや騎士たちは、そんな俺の姿を生暖かい目で見守っている。グランデルに至っては、「若いというのは、よいのぅ」と楽しそうだ。
だが、彼女の身に起こり始めた変化は、ただお腹が大きくなるというだけではなかった。それは、ある日の朝食の席で起こった。
「……うーん……なんだか、とてもお腹が空きます……」
セシリアが、しょんぼりとした顔で呟いた。目の前には、料理長が腕によりをかけて作った、栄養満点のスープやパンが並んでいる。だが、彼女はそれに一切手を付けようとしない。
「どうした? 食欲ないのか? 何か食べたいものがあったら、何でも言えよ。竜の肉でも、地の果てからでも取ってくるから」 「いえ、そういうことでは……ないのです。食べ物のことではなくて……なんて言えばいいのか……もっと、こう、キラキラしたものが……」
キラキラしたもの? 彼女は、まるで夢見るような瞳で、俺の腰に佩かれた聖剣を、じっと見つめた。そして、おずおずと、その白い指先で、聖剣の鞘にそっと触れた。
その瞬間。聖剣が、ポゥッ、と淡い光を放った。まるで、彼女の指先に吸い寄せられるかのように。
「……あ……♡」
セシリアの頬が、ぽっと上気した。 その顔は、空腹の子供が、ようやくお菓子にありつけた時のような、とろんとした、満足げな表情。
(……美味しい……)
彼女の心の声が、俺の中に流れ込んでくる。どうやら、お腹の子は、普通の食べ物じゃなく、純粋な“マナ”を栄養として求めているらしい。そして、母親であるセシリアを通じて、俺の聖剣から、おやつをねだるようにマナを啜ったのだ。これが、聖女様の『つわり』か……。
「……俺ので、よかったら、いくらでも」
俺は、彼女の隣に座り直し、そっとその手を握った。俺の身体から、温かいマナが、彼女の中へ、そしてお腹の小さな光へと、ゆっくりと流れ込んでいく。 彼女は、うっとりとした表情で目を閉じ、俺の肩にこてんと頭を預けてきた。
「ん……ふふ……。カイトの味……一番、落ち着きます……♡」
その無防備で甘えきった姿に、俺の心臓が、別の意味で高鳴り始めたのは言うまでもない。
だが、問題はそれだけではなかった。お腹の子が成長するにつれて、セシリア自身のマナの制御が、不安定になってきているのだ。
「――きゃっ!」
中庭を散歩していると、彼女が持っていた紅茶のカップが、突然、聖なる光を放って、内側から砕け散った。
「すみません……! ちょっと、力を制御できなくて……」
お腹の子が、母親の魔力を無意識に吸い上げてしまうため、彼女の意思とは関係なく、力が暴発してしまうことがあるのだ。このままでは、彼女自身の身が危ない。俺たちは、グランデルの元へ相談に向かった。
「……ふむ。やはり、そうなったか」
グランデルは、事態を予測していたかのように、静かに頷いた。「御子の魂は、あまりに強大すぎる。母胎である聖女様の許容量を、いずれ超えてしまうやもしれん。……そうなれば、母子ともに危険な状態に陥る」
「そんな……! どうすればいいんですか!?」
グランデルは、一つの可能性を示した。「……古き混沌を呼び覚ます鍵、という予言は、逆に言えば、その混沌を封じるための鍵でもある、と解釈できる。おそらく、王国に残る文献だけでは、情報は不十分じゃろう。……いにしえの時代、神々と魔族が争った時代の遺物が眠ると言われる、『忘れられた神殿』……そこに、何か手がかりがあるやもしれん」
忘れられた神殿。それは、王都から遥か南、瘴気が立ち込める古代の森の奥深くにあるという、伝説上の場所だった。
その夜。俺は、ベッドで眠るセシiliaの寝顔を見ながら、一人、覚悟を決めていた。神殿への旅は、危険すぎる。今の彼女を、連れて行くわけにはいかない。俺が、一人で行く。俺が、必ず、解決策を見つけて帰ってくる。
そう決意した、その時だった。
(……一人で、行くつもりですか?)
眠っているはずのセシリアの、静かな心の声が響いた。彼女はゆっくりと目を開け、俺を真っ直ぐに見つめた。その瞳には、すべてお見通しだ、と書かれている。
「……危ないから、置いていくなんて言わないでくださいね」
「でも、セシリア……」 「わたくしたちは、一心同体なのでしょう? あなたが一人で行くのなら、わたくしの魂も、半分、そこに行くのです。わたくしの身体がここに残っていても、あなたが傷つけば、わたくしも、この子も、傷つくのです」
彼女は、俺の手に、そっと自分のお腹を導いた。
「……三人で、一緒です。もう、わたくしたちが、離れ離れになることなど、できないのですから」
その言葉に、俺の決意は、いとも容易く砕け散った。そうだ。俺たちは、もう、そういう存在なんだ。俺は、彼女のお腹に手を当てたまま、その上に自分の額を乗せた。
「……分かった。一緒に行こう。俺が、あんたと、この子を、絶対に守る」
お腹の中の小さな光が、また、ぽん、と温かく脈打った。まるで、「その意気だ、パパ!」とでも言うかのように。俺たちの、家族としての、最初の冒険が、始まろうとしていた。
【続く】
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