7 / 35
第7話:宣戦布告と、二人だけの“調印式”
しおりを挟む
箱根から戻った翌日、会社の空気は目に見えて変わっていた。
俺と古賀会長の間に走った亀裂は、すでに敏感な役員たちの間にまで伝わっているようだった。すれ違う社員たちの視線に、好奇と不安の色が混じる。
だが、俺の隣を歩く雫は、いつもと変わらず完璧な秘書として、背筋を伸ばし、凛としていた。
箱根の夜、俺の腕の中で涙を見せた弱さは微塵も感じさせない。
しかし、俺にはわかっていた。
彼女の完璧な仮面の下で、心がどれだけ揺れているかを。俺のせいで、彼女を会社の政争の具にしてしまったという罪悪感が、俺の胸を締め付ける。
だから、決めた。
もう、曖昧な関係のままではいられない。
「雫」
社長室に入るなり、俺は彼女を呼び止めた。
「次のアポイントは?」
「15時から、古賀会長との面談が入っております。例の縁談についての、最終回答を、と……」
彼女の声が、わずかに震える。
「そうか。……お前も、その会議に出ろ」
「え……? わたくしは、秘書として当然、同席いたしますが」
「違う」
俺は彼女の肩を掴み、まっすぐにその瞳を見つめた。
「“秘書”としてじゃない。“俺のパートナー”として、俺の隣に立て。これは命令だ」
雫の瞳が、驚きに見開かれる。
社長室での秘密の関係を、公の、それも最大の敵である古賀会長の前に晒すということ。それが何を意味するのか、彼女が理解しないはずがない。
「ですが、そんなことをすれば、蓮様の立場が……!」
「俺の立場など、どうでもいい。俺はお前を、日陰の女になどするつもりはない」
俺は彼女の戸惑いを封じるように、その唇に短く、しかし強くキスをした。
「行くぞ」
重厚な会長室の扉を開けると、古賀会長はすでに革張りの椅子にふんぞり返り、俺たちを待っていた。
俺の隣に立つ雫の姿を認めると、その眉間に深い皺が刻まれる。
「橘くん、どういうつもりかね。大事な話に、秘書を同席させるとは」
「彼女は秘書ではありません。俺の生涯のパートナーです」
俺は、はっきりと告げた。
部屋の空気が、凍りつく。
「……正気かね、君は」
「ええ、正気です。会長から頂いた縁談、誠に光栄ではありますが、この場でお断りさせていただきます。俺が愛し、生涯を共にすると決めた女性は、水瀬雫ただ一人ですので」
俺は隣に立つ雫の手を、強く握った。
彼女は息を呑み、俺の顔を驚きと、そして溢れんばかりの愛しさを込めた目で見上げてくる。
古賀会長の顔が、怒りで赤黒く染まっていく。
「……面白い冗談だ。たかが秘書一人にうつつを抜かし、会社を私物化する気か。貴様を社長の座に引き上げたのは、誰だと思っている!」
「感謝していますよ、会長。ですが、俺は会社の駒であるために社長になったのではありません。俺の信じる未来を創るためだ。そして、その未来に、雫は必要不可欠な存在なんです」
決裂は、決定的だった。
「……後悔するなよ、若造」
古賀会長の吐き捨てた言葉を背に、俺たちは会長室を後にした。
社長室に戻った瞬間、雫はその場に崩れ落ちそうになった。俺は慌ててその身体を支える。
「……申し訳、ありません……わたくしの、せいで……」
「お前のせいじゃない。俺が、俺の意思でお前を選んだんだ」
俺は社長室のドアに鍵をかけると、震える彼女をきつく抱きしめた。
恐怖、不安、そして俺に選ばれたという喜び。様々な感情が渦巻いて、彼女の呼吸は浅く、速くなっていた。
「蓮、様……」
「もう、社長じゃない。蓮、と呼べ」
「……蓮さん……」
俺はそのか細い声に応えるように、彼女を抱き上げた。
向かう先は、俺がいつも座っている社長席のデスク。
箱根での夜よりも、会議室での昼下がりよりも、もっと強く、もっと確かに、彼女が俺のモノだと刻みつけたかった。
「ここでした契約は、全て会社の発展のためだった」
俺は雫をデスクの上にそっと座らせ、その足元にひざまずいた。そして、彼女が履いているストッキングに、そっと口づける。
「ひゃっ……♡」
「だが、今から結ぶのは、二人だけの契約だ。俺の人生の全てを、お前に捧げるという……“調印式”だ」
俺はストッキングをゆっくりと引き下げ、露わになった彼女の素肌に、愛を刻むように口づけを落としていく。
「だめ……蓮さん、そんな……♡」
「どうしてダメなんだ? 俺の全てを捧げると言っただろう?……まず、俺の魂から、お前に捧げる」
俺は彼女の一番奥深くに顔をうずめ、宣戦布告の狼煙を上げるように、熱く、深く、彼女を味わい始めた。
「あ“ぁああああーーーーーーっっ♡♡♡」
雫は絶叫に近い声を上げ、俺の髪を掻きむしる。
もう、ここが社長室であるとか、これから会社がどうなるとか、そんな思考は全て吹き飛んでいた。
ただ、目の前の男が、自分のために全てを賭けてくれた。
その事実が、彼女の身体を快感の灼熱地獄へと突き落とす。
「蓮さん、蓮さん……っ♡ わたくしも……わたくしの全部、あなたに捧げます……っ♡♡」
俺は顔を上げ、涙と涎でぐしょぐしょになった彼女の顔を優しく拭うと、自らの全てで、その願いに応えた。
デスクが、俺たちの愛の重みできしむ。
「好きだ、雫……!」
「愛しています……蓮さんっ……!」
それは、今までで一番激しく、そして一番優しい交わりだった。
会社という戦場で、たった二人、裸で結ばれる。
それは、世界中の全てを敵に回しても、この愛だけは手放さないという、俺たちの覚悟の証だった。
絶頂の光の中で、俺たちは固く、固く抱きしめ合った。
――その時、俺の携帯が震えた。
ディスプレイには『緊急取締役会招集』の文字。
差出人は、古賀会長だった。
俺は携帯を握りつぶし、腕の中の愛しい女に囁いた。
「……本当の戦いは、ここからだ」
彼女は、静かに、しかし力強く、こくりと頷いた。
その瞳には、もう涙はなかった。
【続く】
俺と古賀会長の間に走った亀裂は、すでに敏感な役員たちの間にまで伝わっているようだった。すれ違う社員たちの視線に、好奇と不安の色が混じる。
だが、俺の隣を歩く雫は、いつもと変わらず完璧な秘書として、背筋を伸ばし、凛としていた。
箱根の夜、俺の腕の中で涙を見せた弱さは微塵も感じさせない。
しかし、俺にはわかっていた。
彼女の完璧な仮面の下で、心がどれだけ揺れているかを。俺のせいで、彼女を会社の政争の具にしてしまったという罪悪感が、俺の胸を締め付ける。
だから、決めた。
もう、曖昧な関係のままではいられない。
「雫」
社長室に入るなり、俺は彼女を呼び止めた。
「次のアポイントは?」
「15時から、古賀会長との面談が入っております。例の縁談についての、最終回答を、と……」
彼女の声が、わずかに震える。
「そうか。……お前も、その会議に出ろ」
「え……? わたくしは、秘書として当然、同席いたしますが」
「違う」
俺は彼女の肩を掴み、まっすぐにその瞳を見つめた。
「“秘書”としてじゃない。“俺のパートナー”として、俺の隣に立て。これは命令だ」
雫の瞳が、驚きに見開かれる。
社長室での秘密の関係を、公の、それも最大の敵である古賀会長の前に晒すということ。それが何を意味するのか、彼女が理解しないはずがない。
「ですが、そんなことをすれば、蓮様の立場が……!」
「俺の立場など、どうでもいい。俺はお前を、日陰の女になどするつもりはない」
俺は彼女の戸惑いを封じるように、その唇に短く、しかし強くキスをした。
「行くぞ」
重厚な会長室の扉を開けると、古賀会長はすでに革張りの椅子にふんぞり返り、俺たちを待っていた。
俺の隣に立つ雫の姿を認めると、その眉間に深い皺が刻まれる。
「橘くん、どういうつもりかね。大事な話に、秘書を同席させるとは」
「彼女は秘書ではありません。俺の生涯のパートナーです」
俺は、はっきりと告げた。
部屋の空気が、凍りつく。
「……正気かね、君は」
「ええ、正気です。会長から頂いた縁談、誠に光栄ではありますが、この場でお断りさせていただきます。俺が愛し、生涯を共にすると決めた女性は、水瀬雫ただ一人ですので」
俺は隣に立つ雫の手を、強く握った。
彼女は息を呑み、俺の顔を驚きと、そして溢れんばかりの愛しさを込めた目で見上げてくる。
古賀会長の顔が、怒りで赤黒く染まっていく。
「……面白い冗談だ。たかが秘書一人にうつつを抜かし、会社を私物化する気か。貴様を社長の座に引き上げたのは、誰だと思っている!」
「感謝していますよ、会長。ですが、俺は会社の駒であるために社長になったのではありません。俺の信じる未来を創るためだ。そして、その未来に、雫は必要不可欠な存在なんです」
決裂は、決定的だった。
「……後悔するなよ、若造」
古賀会長の吐き捨てた言葉を背に、俺たちは会長室を後にした。
社長室に戻った瞬間、雫はその場に崩れ落ちそうになった。俺は慌ててその身体を支える。
「……申し訳、ありません……わたくしの、せいで……」
「お前のせいじゃない。俺が、俺の意思でお前を選んだんだ」
俺は社長室のドアに鍵をかけると、震える彼女をきつく抱きしめた。
恐怖、不安、そして俺に選ばれたという喜び。様々な感情が渦巻いて、彼女の呼吸は浅く、速くなっていた。
「蓮、様……」
「もう、社長じゃない。蓮、と呼べ」
「……蓮さん……」
俺はそのか細い声に応えるように、彼女を抱き上げた。
向かう先は、俺がいつも座っている社長席のデスク。
箱根での夜よりも、会議室での昼下がりよりも、もっと強く、もっと確かに、彼女が俺のモノだと刻みつけたかった。
「ここでした契約は、全て会社の発展のためだった」
俺は雫をデスクの上にそっと座らせ、その足元にひざまずいた。そして、彼女が履いているストッキングに、そっと口づける。
「ひゃっ……♡」
「だが、今から結ぶのは、二人だけの契約だ。俺の人生の全てを、お前に捧げるという……“調印式”だ」
俺はストッキングをゆっくりと引き下げ、露わになった彼女の素肌に、愛を刻むように口づけを落としていく。
「だめ……蓮さん、そんな……♡」
「どうしてダメなんだ? 俺の全てを捧げると言っただろう?……まず、俺の魂から、お前に捧げる」
俺は彼女の一番奥深くに顔をうずめ、宣戦布告の狼煙を上げるように、熱く、深く、彼女を味わい始めた。
「あ“ぁああああーーーーーーっっ♡♡♡」
雫は絶叫に近い声を上げ、俺の髪を掻きむしる。
もう、ここが社長室であるとか、これから会社がどうなるとか、そんな思考は全て吹き飛んでいた。
ただ、目の前の男が、自分のために全てを賭けてくれた。
その事実が、彼女の身体を快感の灼熱地獄へと突き落とす。
「蓮さん、蓮さん……っ♡ わたくしも……わたくしの全部、あなたに捧げます……っ♡♡」
俺は顔を上げ、涙と涎でぐしょぐしょになった彼女の顔を優しく拭うと、自らの全てで、その願いに応えた。
デスクが、俺たちの愛の重みできしむ。
「好きだ、雫……!」
「愛しています……蓮さんっ……!」
それは、今までで一番激しく、そして一番優しい交わりだった。
会社という戦場で、たった二人、裸で結ばれる。
それは、世界中の全てを敵に回しても、この愛だけは手放さないという、俺たちの覚悟の証だった。
絶頂の光の中で、俺たちは固く、固く抱きしめ合った。
――その時、俺の携帯が震えた。
ディスプレイには『緊急取締役会招集』の文字。
差出人は、古賀会長だった。
俺は携帯を握りつぶし、腕の中の愛しい女に囁いた。
「……本当の戦いは、ここからだ」
彼女は、静かに、しかし力強く、こくりと頷いた。
その瞳には、もう涙はなかった。
【続く】
0
あなたにおすすめの小説
M&A成立の代償は、冷徹CEOとの夜の“特別業務”でした〜完璧な右腕(秘書)は、幼馴染の執着から逃げられない〜
どえろん
経済・企業
経営危機に陥った老舗メーカーを立て直すべく、若くしてCEOに就任した御堂 蓮(みどう れん)。その完璧な右腕として冷徹に業務を遂行する敏腕秘書の結衣(ゆい)。
社内では「氷の最強タッグ」と恐れられる二人だが、実は幼馴染。ある夜、大型買収(M&A)の成功を祝う社長室で、張り詰めていた糸が切れ、二人は“一夜の過ち”を犯してしまう。
「ビジネスパートナー」という一線を越えた日から、昼間は厳しい上司、夜は結衣を甘く縛り付ける雄へと変貌する蓮。企業戦略の裏で繰り広げられる、執着と快楽のオフィス・ラブストーリー。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる