冷徹社長と完璧秘書、二人きりの“業務報告”は蜜の味

どえろん

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第7話:宣戦布告と、二人だけの“調印式”

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 箱根から戻った翌日、会社の空気は目に見えて変わっていた。
 俺と古賀会長の間に走った亀裂は、すでに敏感な役員たちの間にまで伝わっているようだった。すれ違う社員たちの視線に、好奇と不安の色が混じる。

 だが、俺の隣を歩く雫は、いつもと変わらず完璧な秘書として、背筋を伸ばし、凛としていた。
 箱根の夜、俺の腕の中で涙を見せた弱さは微塵も感じさせない。

 しかし、俺にはわかっていた。
 彼女の完璧な仮面の下で、心がどれだけ揺れているかを。俺のせいで、彼女を会社の政争の具にしてしまったという罪悪感が、俺の胸を締め付ける。

 だから、決めた。
 もう、曖昧な関係のままではいられない。

「雫」

 社長室に入るなり、俺は彼女を呼び止めた。

「次のアポイントは?」
「15時から、古賀会長との面談が入っております。例の縁談についての、最終回答を、と……」

 彼女の声が、わずかに震える。

「そうか。……お前も、その会議に出ろ」
「え……? わたくしは、秘書として当然、同席いたしますが」
「違う」

 俺は彼女の肩を掴み、まっすぐにその瞳を見つめた。

「“秘書”としてじゃない。“俺のパートナー”として、俺の隣に立て。これは命令だ」

 雫の瞳が、驚きに見開かれる。
 社長室での秘密の関係を、公の、それも最大の敵である古賀会長の前に晒すということ。それが何を意味するのか、彼女が理解しないはずがない。

「ですが、そんなことをすれば、蓮様の立場が……!」
「俺の立場など、どうでもいい。俺はお前を、日陰の女になどするつもりはない」

 俺は彼女の戸惑いを封じるように、その唇に短く、しかし強くキスをした。

「行くぞ」

 重厚な会長室の扉を開けると、古賀会長はすでに革張りの椅子にふんぞり返り、俺たちを待っていた。
 俺の隣に立つ雫の姿を認めると、その眉間に深い皺が刻まれる。

「橘くん、どういうつもりかね。大事な話に、秘書を同席させるとは」
「彼女は秘書ではありません。俺の生涯のパートナーです」

 俺は、はっきりと告げた。
 部屋の空気が、凍りつく。

「……正気かね、君は」
「ええ、正気です。会長から頂いた縁談、誠に光栄ではありますが、この場でお断りさせていただきます。俺が愛し、生涯を共にすると決めた女性は、水瀬雫ただ一人ですので」

 俺は隣に立つ雫の手を、強く握った。
 彼女は息を呑み、俺の顔を驚きと、そして溢れんばかりの愛しさを込めた目で見上げてくる。

 古賀会長の顔が、怒りで赤黒く染まっていく。

「……面白い冗談だ。たかが秘書一人にうつつを抜かし、会社を私物化する気か。貴様を社長の座に引き上げたのは、誰だと思っている!」
「感謝していますよ、会長。ですが、俺は会社の駒であるために社長になったのではありません。俺の信じる未来を創るためだ。そして、その未来に、雫は必要不可欠な存在なんです」

 決裂は、決定的だった。

「……後悔するなよ、若造」

 古賀会長の吐き捨てた言葉を背に、俺たちは会長室を後にした。

 社長室に戻った瞬間、雫はその場に崩れ落ちそうになった。俺は慌ててその身体を支える。

「……申し訳、ありません……わたくしの、せいで……」
「お前のせいじゃない。俺が、俺の意思でお前を選んだんだ」

 俺は社長室のドアに鍵をかけると、震える彼女をきつく抱きしめた。
 恐怖、不安、そして俺に選ばれたという喜び。様々な感情が渦巻いて、彼女の呼吸は浅く、速くなっていた。

「蓮、様……」
「もう、社長じゃない。蓮、と呼べ」
「……蓮さん……」

 俺はそのか細い声に応えるように、彼女を抱き上げた。
 向かう先は、俺がいつも座っている社長席のデスク。
 箱根での夜よりも、会議室での昼下がりよりも、もっと強く、もっと確かに、彼女が俺のモノだと刻みつけたかった。

「ここでした契約は、全て会社の発展のためだった」

 俺は雫をデスクの上にそっと座らせ、その足元にひざまずいた。そして、彼女が履いているストッキングに、そっと口づける。

「ひゃっ……♡」

「だが、今から結ぶのは、二人だけの契約だ。俺の人生の全てを、お前に捧げるという……“調印式”だ」

 俺はストッキングをゆっくりと引き下げ、露わになった彼女の素肌に、愛を刻むように口づけを落としていく。

「だめ……蓮さん、そんな……♡」
「どうしてダメなんだ? 俺の全てを捧げると言っただろう?……まず、俺の魂から、お前に捧げる」

 俺は彼女の一番奥深くに顔をうずめ、宣戦布告の狼煙を上げるように、熱く、深く、彼女を味わい始めた。

「あ“ぁああああーーーーーーっっ♡♡♡」

 雫は絶叫に近い声を上げ、俺の髪を掻きむしる。
 もう、ここが社長室であるとか、これから会社がどうなるとか、そんな思考は全て吹き飛んでいた。
 ただ、目の前の男が、自分のために全てを賭けてくれた。
 その事実が、彼女の身体を快感の灼熱地獄へと突き落とす。

「蓮さん、蓮さん……っ♡ わたくしも……わたくしの全部、あなたに捧げます……っ♡♡」

 俺は顔を上げ、涙と涎でぐしょぐしょになった彼女の顔を優しく拭うと、自らの全てで、その願いに応えた。
 デスクが、俺たちの愛の重みできしむ。

「好きだ、雫……!」
「愛しています……蓮さんっ……!」

 それは、今までで一番激しく、そして一番優しい交わりだった。
 会社という戦場で、たった二人、裸で結ばれる。
 それは、世界中の全てを敵に回しても、この愛だけは手放さないという、俺たちの覚悟の証だった。

 絶頂の光の中で、俺たちは固く、固く抱きしめ合った。

 ――その時、俺の携帯が震えた。
 ディスプレイには『緊急取締役会招集』の文字。
 差出人は、古賀会長だった。

 俺は携帯を握りつぶし、腕の中の愛しい女に囁いた。

「……本当の戦いは、ここからだ」

 彼女は、静かに、しかし力強く、こくりと頷いた。
 その瞳には、もう涙はなかった。

【続く】
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