冷徹社長と完璧秘書、二人きりの“業務報告”は蜜の味

どえろん

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第8話:最後の賭けと、逆転の“切り札”

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 緊急取締役会の会議室は、まるで告別式のような重苦しい空気に満ちていた。
 中央に座る古賀会長の顔には、勝利を確信した冷酷な笑みが浮かんでいる。その両脇を固めるのは、完全に会長側になびいた役員たちだ。
 俺の解任動議。それが、この会議の議題だった。

「――以上が、橘 蓮社長の解任を要求する理由である」

 古賀会長の腹心である常務取締役が、用意された原稿を読み上げる。
 会社の私物化、筆頭株主への背信行為、そして、会社の品位を貶める不適切な男女関係。
 その全てが、俺と雫の関係を指していることは明らかだった。

「橘社長、何か反論は?」

 促す古賀会長の目は、哀れみと嘲笑に満ちていた。
 俺の隣に座る雫は、唇を固く結び、耐えるように俯いている。彼女の手が、テーブルの下で小さく震えているのが分かった。
 俺はその手を、力強く握りしめる。大丈夫だ、と無言で伝えるために。

 俺はゆっくりと立ち上がった。

「……反論は、ありません」

 俺の言葉に、会議室がざわめく。
 雫が、信じられないという顔で俺を見上げた。

「ですが、一つだけ、皆様にご提案したいことがあります」

 俺はそう言うと、雫が準備していたタブレットを操作し、正面の巨大モニターに一つのグラフを映し出した。

「これは、私が社長に就任してからの、我が社の株価と業績の推移です。そしてこちらが、私が提案した新規事業を、皆様が承認した場合の……5年後の予測収益。最低でも、現在の5倍の企業価値になるとお約束します」

「絵に描いた餅だ!」と役員の一人が野次を飛ばす。

「ええ、そうかもしれません」と俺は静かに認めた。

「ですが、経営とは、未来への投資です。確実な衰退を選ぶか、リスクを冒してでも未来に賭けるか。……私は、後者を選びたい」

 俺は一度言葉を切り、古賀会長をまっすぐに見据えた。

「そこで、ご提案です。私の解任動議、受け入れましょう。ただし、条件があります」
「……条件だと?」
「はい。私に、あと1ヶ月だけ時間をください。その間に、私が提案している新規事業……海外テック企業との大型提携を、この手でまとめてみせます。もしそれが成功した暁には、私の解任動議は白紙撤回。そして、この件に関する一切の権限を、社長である私に一任していただく。もし失敗すれば、私は潔くこの会社を去ります。……この勝負、お受けいただけますか、古賀会長」

 会議室が、水を打ったように静まり返る。
 それは、あまりにも無謀な賭けだった。業界の誰もが不可能だと言う、巨大テック企業との提携。それをたった1ヶ月でまとめるなど、正気の沙汰ではない。
 だが、俺には勝算があった。いや、勝算というよりは……たった一つの“切り札”が。

 古賀会長は、しばらく腕を組んで考えていたが、やがて愉快そうに口の端を吊り上げた。

「……面白い。よかろう、その賭け、乗ってやろうじゃないか。だが、もし失敗すれば、君は社長の座だけでなく、この業界からも去ってもらうぞ」
「望むところです」

 こうして、俺の運命を決める、狂気の1ヶ月が始まった。

 その夜、社長室は野戦病院のような様相を呈していた。
 デスクには海外との通信ログ、分厚い契約書の束、そしてエナジードリンクの空き缶が散乱している。

「……蓮さん、少し休んでください。もう三日も、まともに寝ていないじゃありませんか」

 雫が、心配そうに俺の顔を覗き込む。

「時間がないんだ」
「ですが、倒れてしまっては元も子もありません」
「……雫」

 俺はモニターから目を離さずに、彼女に言った。

「お前は、どうして俺を信じる?」
「え……?」
「誰もが不可能だと言う賭けだ。お前も、心のどこかでは俺が負けると思っているんじゃないか?」

 その問いに、雫は静かに微笑んだ。

「わたくしは、橘 蓮という経営者を信じているのではありません」

 彼女は俺の後ろに回り込むと、疲労で凝り固まった俺の肩を、優しく揉み始めた。

「わたくしが信じているのは、ただ一人……愛する男性である、蓮さん、あなたです。あなたが勝つと信じているから、信じるのではありません。あなたが戦うと決めたから、わたくしは隣にいるのです。たとえ、その先に待っているのが、破滅だったとしても」

 その言葉が、乾ききった俺の心に、温かい雫のように染み渡っていく。
 ああ、俺は、この女のために戦っているのだと、改めて実感した。

 俺は彼女の手を取り、自分の椅子に彼女を座らせた。そして、その前にひざまずく。

「……っ、蓮さん!?」
「……力を、貸してくれ、雫」

 俺はそう言うと、彼女のスカートの中に、顔をうずめた。

「え……あ……っ♡♡」
「俺はもう、限界かもしれない。だが、お前がいれば、まだ戦える。お前の“全部”を、俺にくれ。そうすれば、俺は何度でも立ち上がれる」

 それは、今までで一番弱々しく、そして一番切実な“おねだり”だった。
 雫は、一瞬戸惑ったが、やがて覚悟を決めたように、俺の頭を優しく抱きしめた。

「……はい、蓮さん♡ わたくしの全部、あなたに捧げます。だから……勝ってください。わたくしたちの、未来のために」

 俺は、彼女の言葉に応えるように、その一番奥深くに隠された、生命の泉を求め始めた。
 それは、ただの快楽のための行為ではなかった。
 明日を戦うための、エネルギーの補給。
 枯渇した魂を潤すための、聖なる儀式。
 そして、二人で未来を掴むための……最後の“調印式”だった。

 じゅぷ、と生々しい水音が、静かな社長室に響く。
 それは、逆転の物語が始まる、ファンファーレの音だった。

【続く】
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