よく分からない。だけど…

いなば

文字の大きさ
6 / 8

6

しおりを挟む
授業を終えて、村瀬とともにいつもの最寄り駅へ辿り着いた。大きな駅ではなく入口はひとつしかない。ホームへと進んでいく
「なぁ~、言おうか悩んでたけど、その顔で隣歩かれると俺が相手だって勘違いされそうなんですけど~。」
やれやれといった表情で俺を見上げている。
「へっ!?どんな顔してた?」
「ぽわぽわしてるよ」
ふと背後から声がして2人して慌てて振り返る。
胸板だ!
「え!ぽわぽわってどんな...ってか、え!?」
俺が慌てふためいてる間に村瀬は、どうも~と胸板と挨拶を交わしていた
「ぽわぽわ!上手いこと表しますね!じゃ、お邪魔しちゃ悪いので俺はここまでで」
ニヤニヤと村瀬が去ろうとすると、あ、まって。と胸板が引き留めた。
「向こうに彼が居ると思うからちゃんと合流してね」
「彼?」
村瀬が誰のことか訪ねようとする前に、また背後から声がした。
「俺ですかね」
少年だ。後ろ向いたり前を向いたり俺たちは何してるんだか...
「そうそう君のことだよ。この2人は放っとくと餌食だからね。」
「やっぱり、そう思いますか」
はぁ~と、少年は、ため息混じりに言っている。なんのことを言っているのか分からない俺たちは頭の上にたくさんのクエスチョンマークを出しながら、また明日なと手を振り、村瀬はぐいぐいと押されながら別車両の場所へと移動して行った。

「同じ電車に乗るのに変な感じだな...」
「寂しい?みんなで帰る?」
ボソッと俺が呟くと胸板が遠慮がちに顔を覗き込んできた。
「わっ、えーと、....少しだけ」
「仲良いもんね、親離れ的な感じかな?」
胸板に、問いかけられ、そんな感じかもと答える。
「あ、でも逆かも。あっちが親っぽい」
俺が付け加えると胸板はハハハと笑った。
「君、見た目の割にぽわぽわしてるもんな~ところで、年下なのか年上なのかも分からないんだけど年下かな?」
たしかに!何も知らない。
「高校1年生の16歳。ていうか、それよりも名前知りたい!です!」
「確かに。名前も知らないのに付き合ってたね俺たち。俺は18歳。高3」
「年上かなとは思ってました。」
納得して頷いていると、老け顔だからね、と胸板が苦笑した。
「違います!頼れるって言うか落ち着いてるって言うか...あ、俺は森   咲也って言います」
「もりさくや...名前を呼び捨てで呼んでももいいかな?」
「もちろんです。家族以外にあまり名前で呼ばれないからすこし恥ずかしいです」
「そうなんだ?彼氏感があって嬉しい」
胸板が微笑む。....清潔感ある人だなぁ本当に。
「俺は、板野 悠生」
「ゆうせい?かっこいい名前ですね!顔に合ってます。」
「ハハハ、ありがとう。で、なんて呼んでくれるの?」
「みんなになんて呼ばれてます?」
さりげなく聞いてみた
「そうだな、実は友達がいないんだ。だから名前では呼ばれてないな。」
俺も、村瀬くらいしかいないしな...呼び捨ても気が引ける...
「悠生くん...?」
呼んでみて、表情がみたくて胸板の様子をうかがった。胸板、もとい悠生くんは大きな手のひらで自らの顔を覆っている。
「...君のそのツンとした綺麗な顔に、君付けされると...いや、ほんと君こないだの変態と同じにはなりたくないけど色気いきなりだすよね?」
は?!
「え?!よく分かんないですけど無自覚ですからね?!」
「自覚ありだったら怖いよ!敬語もやめよう、対等でいたいな」
ハハハとまた悠生くんが笑ったところで、電車が到着するアナウンスがなる。
なんとなく、2人とも無言で電車が止まるのを見ている。
付き合ってる...っていう感じはよく分からないけど、地に足がついてない感じがして、腹の奥が、妙にそわそわする。
悠生くんの隣に立っている事が嬉しくて、口元が緩む。こっそりと悠生くんの顔を見てみると横顔もキリッとしていて鼻が高くて輪郭もシュッとしていて、横から見てもしっかりとした体格がわかる。あの腕の中にいたんだよな、この間。守ってもらったんだ...と思うと、そわそわどころかギリギリと軋む。
これが、恋なのか?ただの腹痛か??こんなにも気持ちが落ち着かないもんなのか?
扉が開き電車に乗った。次の駅に備えてなるべく隅へ乗り込む。
「大丈夫か?」
悠生くんが覗き込んでくる。
「なにが?」首を傾げる俺を見て悠生くんは微笑んだ
「大丈夫そうだな。俯いて黙ってしまったから電車怖いのかと思って」
「ああ、うん。平気、それどころじゃないし」
首を傾げる悠生くん本人に、まさか、
悠生くんがとなりにいて、そわそわギリギリしててそれどころじゃありません。なんて言えないしとっさに別の内容を考えた
「悠生くんは、どこの駅で降りる?」
「咲也が降りる駅で乗り換えてもうすこし行く」
「結構遠いね」
「そうだね、わざわざ遠いところ選んだからね」
「そうなんだ?」
「地元でゲイバレしたからな…ちょっと田舎だからか、存在が浮いてしまったんだ。」
「え!俺傷口えぐった?」
あわあわと俺が慌てると悠生くんは気にしないで、と微笑んだ。
「それに、咲也も今は同性愛者だよ、平気?」
そう言って、急に無表情になった悠生くんは少し怖かった。
「それよりも、安心したかな今は。色々、あるんだろうけど俺にはまだよくわからないし。」
悠生くんの表情が、不思議そうな顔に変わる。怖くなくなった。
「上手く言えないんだけど今日は色んな表情の悠生くんが見れて嬉しいな。とか隣に立ってるだけで嬉しいなとか、そういう感情俺にもあるんだなって。自慢じゃないけど、好意って押し付けられることが多くて苦手だったけど、好意を向けて貰えて嬉しいなって素直に思える自分に安心した感じ?」
悠生くんが黙って聞いてくれている。
「それに、なにが支障なのかとかも、実際体験してみないとわからない、それを一緒に乗り越えられる人なのかとかもお試し期間で見極めるものなのかなァって思うしお互いにね」
そうこう話してるうちに次の駅に付き、人の並が押し寄せてきた。
悠生くんが俺を庇うようにして立ってくれた。
「男前だな、ますます惚れた。絶対俺の男にするしその見極めで振り落とされないように頑張るわ、覚悟して」
耳元で、悠生くんが言うその声音で俺は、そわそわともギリギリともちがう、ゾクゾクとした感覚を得た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

【8話完結】帰ってきた勇者様が褒美に私を所望している件について。

キノア9g
BL
異世界召喚されたのは、 ブラック企業で心身ボロボロになった陰キャ勇者。 国王が用意した褒美は、金、地位、そして姫との結婚―― だが、彼が望んだのは「何の能力もない第三王子」だった。 顔だけ王子と蔑まれ、周囲から期待されなかったリュシアン。 過労で倒れた勇者に、ただ優しく手を伸ばしただけの彼は、 気づかぬうちに勇者の心を奪っていた。 「それでも俺は、あなたがいいんです」 だけど――勇者は彼を「姫」だと誤解していた。 切なさとすれ違い、 それでも惹かれ合う二人の、 優しくて不器用な恋の物語。 全8話。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

処理中です...