よく分からない。だけど…

いなば

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案の定ぎゅうぎゅうになる電車内で、俺たちの密着度は必然的に高まった。だが悠生くん意外との密着は全くなく、悠生くんとの距離も肩から肘の長さ分は保たれていた。守られてる...男に守られているのは正直恥ずかしいが、安堵感が勝った。

「精一杯、距離は保ってるけど嫌だったらごめんな。ちょっと我慢しててな」

悠生くんは、グイグイとくる割に凄く慎重に俺との距離をとってくれている。
それが、自身がゲイだということの配慮なら寂しいと感じる。正直、俺にはよく分からない。というよりは
「ゲイとかゲイじゃないとかより、俺は悠生くんに出逢うために今まで誰にも惹かれなかったと思いたいんだけどな...」
「え?」
悠生くんの声で俺の心の声が、自身の耳から聞こえてきたことに気づく。
「ん?あれ?」
慌てて耳を押えてみるも今更だし自分の耳を塞いだとて意味が無い。
「ロマンティックなこと言うんだな?」
少し見上げて悠生くんの反応をうかがうと、悠生くんは向こうを向いていた。
「ちがっ...違わないけど、キモいこと言った...よな?」
慌てて、表情を確認したくて胸板あたりの服を引っ張るようにしてきいてみた。
「いや、もう。可愛いことしないで追い討ちかけないで。今顔にやけてるから、こっち見ないで」
悠生君は向こうを向いたままだが嫌がっているようでは無いことは分かったので安堵した。
「ありがとうな」
再び視線を下に戻した俺の耳元で悠生君がボソッと言った。
「ゲイだってただ人を好きになるだけなんだ。」
ビクッと耳からの刺激に身体が反応するのを誤魔化しつつ俺は悠生君の声を聞き漏らさないように耳へと神経を集中させる。
「人を好きになれるだけで素敵な事だと俺は思うよ」
人を好きになったことの無い俺が、悠生君に出会って色んな感情を持った。
「人を好きになるって自分に凄く影響を与えるし体力も精神力もすり減っていくんだ。誰にもバカにされたくないことだと思うしむしろ貶される言われは無いよ」
うんうんと、俺は自分の発言にも頷いた。
「疲れさせちゃった?」
悠生君の声色が、あからさまに落ち込んだ。慌てて俺は顔を上げると、悠生君はニコリと微笑んだ。
「なんてね、俺は優しくないよ。今は猛烈アピール中だから、頭の中俺でいっぱいで疲れちゃってよ。あ~もう仕方が無いから付き合うしかないな。っていうのでも良いからさ」
狙い通りになってるわけね...俺は、もう、どんなに悩もうと戸惑おうとも、悠生君の手の内に既に居て、あとは落ちるしかないと察した瞬間だった。
あとは自分が、好きとはなにかという所で腑に落ちないことにはお試しの終わりは無いということか?
なんだか、ややこしいことになったかもしれない。俺の悩みは尽きなかった。

降車駅につき、電車から降りると向こうの方に村瀬の後ろ姿を見つけた。少年とのやりとりに、しどろもどろになっているのが背中から伝わってきた。視線を感じさせて閉まったのか村瀬はチラッと振り返り俺と目が合うと、ダッシュでこちらにやってきた。その後ろを微笑みを浮かべながら少年が追っている。
「森!森!」
肩で息をしながら村瀬は手を伸ばし俺の肩をガタガタと揺らした。
「おお、どうしたどうした?」
腕にしがみついてくる。
「お、お、お、男たらしだコイツ!いちいち動きが王子様だ!!」
その様子に俺は、何こわがってんだよと頭にポンと手を置いた。
「眼福だが...」
「ええ、言いたいことはわかります。でも、このハイレベルな美形と可愛い系のカップリングは抜群ですよね」
悠生君が言葉を濁し、少年が共感し、うんうんと頷きあっている。
「この2人に付き合っているやつがいないのはお互いに邪魔をしていたとしか...」
少年が言うと
「...まぁ、言いたいことは分かる...」
と悠生君が納得している。
「な、なんだよ?」
村瀬が言う。俺も首をかしげる。
「まあ、なんだそのつまり、ヤキモチ妬いたようなもんだな。俺は。俺の彼氏」
悠生君が、少しだけムッとした顔をしている。俺が彼氏という響きに心臓がグワッとなっていると
「攻め顔から受け顔に変わりましたね」
少年がニヤニヤとしながら、
さーさ、邪魔をしてはいけませんよ。
と俺の腕から村瀬を剥がした。
「わぁあ、すみませんそんな関係ではないんです、でも~」
村瀬が悠生くんに謝りながら少年に連れられその場を去っていった。

「心の狭い男でごめんな。」
悠生君が、ぼそっと呟くようにいった。
「これがヤキモチ...心が狭くて唯一良いことだな」
俺が悠生君を見上げると悠生君はポカンとした顔をした。
「あ!いや、悠生君が心の狭い男だと認めたわけでは無いんだ!!」
慌てて手を左右に降って否定する。
「やっぱり、咲也は良い男だな。」
あははと悠生君は笑った。
「そして、綺麗なのに可愛い。好きになって良かった」
悠生君は伏し目がちにそう言った。
良かったと言っているのに表情が少し曇ったように見える。
「じゃあ、名残惜しいけどそろそろ解散かな。」
「あ!乗り換えの時間?」
曇ったようにみえた表情がいつもの爽やかな笑顔に戻っていて、俺は時間の方に気を向けてしまった。
「咲也が駅から出るまで見送ろうか?」
「え、そんな大丈夫!もう胸いっぱいすぎて今日の分を整理しながら帰りたいし。」
なんだそれ、と悠生君は笑った。
明日も一緒に帰れそうだからと、約束をして俺たちは解散した。

家までの帰り道俺は今日一日の事を振り返る。人を好きになると言うこと。やっぱりよく分からない。悠生君のことはきっともう好きだと思う。けど
好きだから、そこからどうして触れ合いたいになるのか、好きになったからといって何が変わるのか。付き合うってなんだろう。
今日よく分かったのは、悠生君といると他の人には感じないドキドキがとまらない緊張、発言を1回撤回して言い直したくなるような、よりよく見せたい見栄、名前を呼ばれただけなのに高揚する気持ち、悠生君といるときの安心感。そして何より
逢えるか分からなかった存在だったのに
明日も悠生君にまた逢えることが嬉しかった。
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