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第一章 陰謀編
陰謀Ⅲ 月が綺麗な夜のこと
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イェーゴ村に王国正教の増援が到着してから3日ほど過ぎた日の夜。今は村人誘拐事件はぱったりと止み、しばらく蜂と人間の睨み合いが続いている。
「はぁ、今日も作戦会議、疲れたなぁ」
聖剣の乙女アムリス・ミレアは寝ぼけまなこを擦りながら、村長の家から自分の野営テントに向かう。
「セリシア隊長も村長さんもいつ休んでるんだろってくらい働いてるし、私も何か役に立たなきゃって思って議事録の書記に立候補してみたけど、こんな時間になっちゃった……。」
既に日没からはかなりの時間が経ち、今彼女が出た村長の家を除きもはやイェーゴ村に明かりが付いている家はない。
「隊長にも休んでもらわないといけないし、急がなきゃ。」
走り出したアムリスの目の端にふと、人影が映る。村全体が寝静まったこんな時間に何をしているのかと気になってしまったアムリスは人影に近付き、その正体に驚きの声を上げた。
「村長さん!?」
「おや、聖剣の乙女様。議事録はまとめ終わったようですね。」
「え、あ、はい。村長さんはどうしてこんな時間に?」
「見張りの方へ差し入れをと思いまして。今から村の入り口まで向かっておりました。」
そういうと村長は持っていた風呂敷を解き、中をアムリスに見せた。
「薬草と、お饅頭ですか?これは」
「はい。それと瓶の水を何本か」
「お気遣い感謝いたします。ですが今は夜に出歩くのは危険でございます。私が代わりに届けますよ。」
「おお、本当かい。それじゃあ、お願いしようかのう。」
「はい!」
アムリスは村長から風呂敷と瓶が入った籠を受け取り、村長に別れを告げ入り口へ向かった。
イェーゴ村の入り口に建つ物見櫓。見張りのアレックス・アドムサージュはやや遠方に聳える巨大な塔の様子を伺っていた。そこへ村長から差し入れを受け取ったアムリスがやってくる。
「アレックスー!」
「おお!アムリス!どうしたんだよ、こんな時間に。」
「村長さんが差し入れくれたの!今から上がるねー!」
「ええ!?いや俺が降りるから待ってろ……ってもう居ねえ!?」
アムリスは凄まじい速さで櫓の階段を駆け上がり、風呂敷と籠をアレックスに手渡した。
「さっきも言ったけど、これ、村長さんが。」
「ああ、ありがとって伝えておいてくれ。」
「じゃあ私、これで」
「いや、ちょっと待って。」
「どうしたの?」
「ああいや……。時間が許すなら、一緒に居てくれないか。」
「ふふっ、いいわよ。」
アムリスはアレックスの隣に向かい、首をアレックスの肩に預けるようにして座った。
「……近いな。」
「えへへ。」
「こんな時間まで、何してたんだ?」
「会議の議事録書いて、隊長に出して来たの。そのときに村長さんから預かってさ。」
アムリスは風呂敷を解いた。
「これは……饅頭か。」
「そうみたいね。有名だもんね、ここのお饅頭。」
「ああ。イェーゴでの任務と聞いて気にはなっていたんだ。お前も食うか?」
「いらない。こんな時間に食べたら太っちゃうでしょ。」
「まあ、それもそうだな。」
「ちょっとは否定しなさいよ。」
アムリスは頬を膨らませ拗ねてみる。
「ははっ……。」
アレックスは笑い飛ばしたものの、その顔に笑顔はなかった。
「どうしたの、なにかあった?」
「いや……、まあ、懐かしいなぁって。お前とこうして2人きりだと、故郷にいた頃を思い出してよ。」
アムリスとアレックスはアタラクシアのやや王都寄りにある村・ウインドールの生まれである。ウインドールも含めアタラクシアの周囲の村は教育も兼ねて教会に子供を預けることが多く、18歳で故郷に戻るか教会で修行を続けるかの選択をする。
「イェーゴってウインドールみたいな雰囲気だもんね。私もお父さんやお母さんや妹たち思い出してきちゃった。」
「お前んとこは大家族だもんな。まあ俺も、オカンが心配だけどよ。」
「おばさんならきっと大丈夫よ!アレックスよりも強いんだからさ!」
「お前なぁ……。まあ、村にいた頃何度も悪さして投げ飛ばされてたし、あのオカンがそう簡単にくたばるわけないか!」
「うふふ……」
しばし談笑を楽しむ二人。アレックスはあっという間に饅頭を平らげていた。
「よし、お前もいい加減、戻って寝ろ。」
「あんたが呼び止めたんでしょ……。まあでもそうね。明日も早いしそろそろ戻るわ。」
アムリスはふと、塔に目をやる。よく見ると塔の周りに無数の蜂の魔族が群がっている。同じものを見ているのであろう、アレックスの膝ががくがくと震えていた。
「アレッ……」
「アムリス。おやすみ、ありがとう。」
「……うん、おやすみ。また明日。」
(ご武運を、アレク。)
櫓のてっぺんから降り注ぐ、うざったいほど美しい満月の青白。アレックスの背中が、アムリスには小さく見えた。
翌朝。櫓の上。アレックスの服と骨だけが見つかった。
「はぁ、今日も作戦会議、疲れたなぁ」
聖剣の乙女アムリス・ミレアは寝ぼけまなこを擦りながら、村長の家から自分の野営テントに向かう。
「セリシア隊長も村長さんもいつ休んでるんだろってくらい働いてるし、私も何か役に立たなきゃって思って議事録の書記に立候補してみたけど、こんな時間になっちゃった……。」
既に日没からはかなりの時間が経ち、今彼女が出た村長の家を除きもはやイェーゴ村に明かりが付いている家はない。
「隊長にも休んでもらわないといけないし、急がなきゃ。」
走り出したアムリスの目の端にふと、人影が映る。村全体が寝静まったこんな時間に何をしているのかと気になってしまったアムリスは人影に近付き、その正体に驚きの声を上げた。
「村長さん!?」
「おや、聖剣の乙女様。議事録はまとめ終わったようですね。」
「え、あ、はい。村長さんはどうしてこんな時間に?」
「見張りの方へ差し入れをと思いまして。今から村の入り口まで向かっておりました。」
そういうと村長は持っていた風呂敷を解き、中をアムリスに見せた。
「薬草と、お饅頭ですか?これは」
「はい。それと瓶の水を何本か」
「お気遣い感謝いたします。ですが今は夜に出歩くのは危険でございます。私が代わりに届けますよ。」
「おお、本当かい。それじゃあ、お願いしようかのう。」
「はい!」
アムリスは村長から風呂敷と瓶が入った籠を受け取り、村長に別れを告げ入り口へ向かった。
イェーゴ村の入り口に建つ物見櫓。見張りのアレックス・アドムサージュはやや遠方に聳える巨大な塔の様子を伺っていた。そこへ村長から差し入れを受け取ったアムリスがやってくる。
「アレックスー!」
「おお!アムリス!どうしたんだよ、こんな時間に。」
「村長さんが差し入れくれたの!今から上がるねー!」
「ええ!?いや俺が降りるから待ってろ……ってもう居ねえ!?」
アムリスは凄まじい速さで櫓の階段を駆け上がり、風呂敷と籠をアレックスに手渡した。
「さっきも言ったけど、これ、村長さんが。」
「ああ、ありがとって伝えておいてくれ。」
「じゃあ私、これで」
「いや、ちょっと待って。」
「どうしたの?」
「ああいや……。時間が許すなら、一緒に居てくれないか。」
「ふふっ、いいわよ。」
アムリスはアレックスの隣に向かい、首をアレックスの肩に預けるようにして座った。
「……近いな。」
「えへへ。」
「こんな時間まで、何してたんだ?」
「会議の議事録書いて、隊長に出して来たの。そのときに村長さんから預かってさ。」
アムリスは風呂敷を解いた。
「これは……饅頭か。」
「そうみたいね。有名だもんね、ここのお饅頭。」
「ああ。イェーゴでの任務と聞いて気にはなっていたんだ。お前も食うか?」
「いらない。こんな時間に食べたら太っちゃうでしょ。」
「まあ、それもそうだな。」
「ちょっとは否定しなさいよ。」
アムリスは頬を膨らませ拗ねてみる。
「ははっ……。」
アレックスは笑い飛ばしたものの、その顔に笑顔はなかった。
「どうしたの、なにかあった?」
「いや……、まあ、懐かしいなぁって。お前とこうして2人きりだと、故郷にいた頃を思い出してよ。」
アムリスとアレックスはアタラクシアのやや王都寄りにある村・ウインドールの生まれである。ウインドールも含めアタラクシアの周囲の村は教育も兼ねて教会に子供を預けることが多く、18歳で故郷に戻るか教会で修行を続けるかの選択をする。
「イェーゴってウインドールみたいな雰囲気だもんね。私もお父さんやお母さんや妹たち思い出してきちゃった。」
「お前んとこは大家族だもんな。まあ俺も、オカンが心配だけどよ。」
「おばさんならきっと大丈夫よ!アレックスよりも強いんだからさ!」
「お前なぁ……。まあ、村にいた頃何度も悪さして投げ飛ばされてたし、あのオカンがそう簡単にくたばるわけないか!」
「うふふ……」
しばし談笑を楽しむ二人。アレックスはあっという間に饅頭を平らげていた。
「よし、お前もいい加減、戻って寝ろ。」
「あんたが呼び止めたんでしょ……。まあでもそうね。明日も早いしそろそろ戻るわ。」
アムリスはふと、塔に目をやる。よく見ると塔の周りに無数の蜂の魔族が群がっている。同じものを見ているのであろう、アレックスの膝ががくがくと震えていた。
「アレッ……」
「アムリス。おやすみ、ありがとう。」
「……うん、おやすみ。また明日。」
(ご武運を、アレク。)
櫓のてっぺんから降り注ぐ、うざったいほど美しい満月の青白。アレックスの背中が、アムリスには小さく見えた。
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