200年級ニートが魔王討伐という名目で厄介払いされる話

盈月

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第三章 箱庭編

箱庭Ⅱ 宿場町ガニオ

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 エリフィーズを出て四日目の朝。本来はもうガニオに着いているはずだったが、

「まさか、道中でアンデッドの群れに遭遇しちゃうなんてね……」

 二日目の夜に街道を占拠していた百匹を超えるアンデッドの魔物と交戦する羽目になり、ガニオへの到着がかなり遅れていた。ルーグとガステイルも疲労困憊の様子で、聖魔法が使えるため一番働いていたアムリスに至っては気絶するように眠っていた。

「しかし、アンデッドが群れで行動するなんて珍しいですね。」
「そうね。アンデッドが出現するってことはそこで人間が死んでいるわけだし、あれだけの数……何かの争いの跡地だったりするのかしら。」

 アルエットもルーグもそんな戦いには心当たりなく、ガステイルも

「エリフィーズにもそんな話は流れて来ませんでしたね。森の付近の情報はだいたい流れて来ますので、少なくともここ300年はそういう話はなかったと思います。」

 と首を傾げた。

「ガステイルの言う通りなら、むしろ最近何か起こったと考えるべきかしら?」
「その可能性はありますね。ここ2年とかで何か起きていたら流石に俺も分からないですよ。」

 ルーグはガステイルの発言をジョークだと受け取ったのか、唐突に高笑いをし始めた。

「あっはっは、いやいや、2年も前の話なら流石に俺たちが知っていますよ。」
「え?」
「んん?」

 人間とエルフの時間感覚のズレのコントを披露している間に、馬車のスピードが少しずつゆっくりになっていく。アルエットは体を乗り出し、外前方を見て二人に告げる。

「見えてきたよ。あれがガニオだ。」

 前方の彼方に集落が見える。イェーゴよりは大きいが、フォーゲルシュタットやオルデアの大都市には及ばないくらいの大きさの街であった。大都市のような派手な城壁こそないが、街の外周には魔物を追い返すための乱杭が刺さっている。魔族領に近い街や村だとよく見られる光景だ。入り口にはイェーゴのような櫓も付いている。

「へぇ、なかなか良さそうな街じゃないですか。」
「あの杭で魔物を追い払うのでしょうか。」
「そうね。エリフィーズでは見られない光景かもね。」
「まあ、フォーゲルシュタットの城壁には及びませんがね!」
「んん……」

 後ろで寝ていたアムリスがもぞもぞと動き出す。

「あれ……着いたんですか?」
「ほら、ルーグが五月蝿いから、アムリスが起きちゃったじゃない。」
「痛ぁ!」

 アルエットが肘をルーグに向けてぐりぐりと突っつく。ガステイルも便乗し、

「ちょ、ガステイル君まで!」
「自慢みたいな口調がちょっとイラついたので。」

 両サイドから肘で攻撃されるルーグを、アムリスは寝ぼけまなこを擦りながら見ている。

「ルーグさん、楽しそうですね。」

 そんなやり取りをしている間に、馬車はガニオの入り口の前で停まった。


 ガニオ入り口、『宿場町ガニオ』と書かれた大きなアーチ看板の下に青年がもたれかかりながら突っ立っていた。

(妙ね。櫓には見張りがいるのに、あんな危ないところに棒立ちなんて。)
「アルエット様、どうかしました?」
「ん、いや、なんでもないよ。馬車ごと入れて貰えないかちょっと聞いてくるね。」

 アルエットはそう言って馬車を降り、入り口の青年に近付いた。

「あの……」

 アルエットが青年にそう話しかけた瞬間、

「ようこそ!宿場町ガニオへ!!」
「きゃあ!」

 青年はいきり立ち胸を逸らしながら大声で言い放った。その勢いと声量にアルエットは腰を抜かす。

「びっくりした……すみません、馬車ごと入りたいんですが。」
「ようこそ!宿場町ガニオへ!!」

 青年は全く変わらない姿勢、全く同じ声量と勢いで復唱した。

「あの、いや、そうじゃなくて」
「ようこそ!宿場町ガニオへ!!」
「いやそれはもう分かったから、歓迎しているってことでいいのね!?」

 アルエットも負けじと声を張り上げる。しかし青年は動じることなく

「ようこそ!宿場町ガニオへ!!」

 一字一句違えず、定型句を叫び続ける。アルエットはやれやれといった具合に首を振りながら、

「意味分かんないけど、とりあえず拒絶されてるわけではなさそうね……。」

 と呟く。

(特定の言葉しか言えないような魔法や呪いなんてあったかしら……なんにせよ不気味ね。でもガニオでの補給ありきの荷物でエリフィーズを出ちゃったからここで休まない選択肢はない。)
「それに、いい加減ふかふかのベッドで休みたいわ。」

 数瞬の思案の後、アルエットは御者に向けて人差し指を二度起こすように動かした。『こちらに来い』と示したジェスチャーに従い、馬車は街へと入っていく。御者には三日後の再集合を伝えて最低限の荷物を持って別れさせると、アルエットは三人を集めて入り口でのことを話した。

「なんだか、不気味ですね。」
「アムリスも知らないなら、呪いの線は薄そうね……。ガステイルはどう思う?」
「……怪しいとすれば、洗脳の類いでしょうか。それこそ殿下の声のみたいに命令を強制する魔法ならありえなくはないかと。」
「とりあえず、宿を決めて街の人や町長に話を聞いてみましょう。」

 不穏な空気が漂う町。アルエット一行は後ろを尾ける小さな影には気付かなかった。
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