200年級ニートが魔王討伐という名目で厄介払いされる話

盈月

文字の大きさ
59 / 165
第三章 箱庭編

箱庭Ⅸ 弱音

しおりを挟む
「それじゃ、ルーグさん。行ってきますね!」

 アムリスはそう言って、アルエットとガステイルと共に小屋を出る。

「ああ、気をつけて。」

 ルーグはアムリスに向けて手を振ろうとするも、アルエットと目が合い、気まずそうに手を下ろす。アルエットもそんなルーグを見て、すぐに前を向きずかずかと歩き出した。

「やれやれ……」

 ガステイルは呆れた様子で、苦笑いしながら首を振る。慌ててアルエットを追いかける二人の背中を見て、ルーグは唇を噛み締める。

「結局、シャガラ君は起きませんでしたね。」
「そうね。まあでもヴェレットさんなら知ってるかもしれないわ。」
「もう一度、あの家に行って聞いてみるってことですね。」
「ええ。急ぎましょう。」

 アルエットはそう言って加速する。

「うわぁ、もう見えなくなったよ……」
「アルエット様……何かを焦っているかのように見えるのは私だけでしょうか。」

 少しずつ速度を上げながらアムリスはそう呟く。ガステイルはアムリスの言葉を聞き、意外そうに目を細める。

「焦っている?どうしてそう思うんですか?」
「何故かは分からないんですが、昨日のルーグさんとの喧嘩も、魔族なら全て殺さなければならないって考え方も……いえ、そもそも早く魔王を討伐しなきゃいけないってご自身で言ってるのに、こんな街の事情に寄り道して矛盾してるのも、なんだからしくない気がするんです。」
「なるほど……。私よりも二人と付き合いの長いアムリスが言うのなら、恐らくそうなんでしょうね。」
「まあ、そんなに変わらないけどね。ガステイルさんは昨日の夜、ルーグさんと何を話していたんですか?」
「おっと、気付かれていたようですね。なぁに、大した話はしておりませんよ。今後の展望を少しだけ。」

 はぐらかすガステイルに、アムリスは少し眉を顰める。

「私もルーグさんと同じ気持ちですよ。本当にシャガラさんが魔族と人間のハーフだと言うなら、アルエット様は彼を殺してはならないと思います。」
「盗み聞きとは、あまり感心しませんね。男同士水入らずの会話なんですから。」
「真面目に聞いてください。」
「俺はずっと真面目に聞いてますよ……。盗み聞きしたのはアムリス一人ですか?」

 アムリスはハッと目を見開く。少しだけ返答に困り、口篭りながら答えた。

「ええ。でも二人の様子を見に行く直前、アルエット様に質問されたわ。」
(起きてたのか……まあ、話を聞かれなかったのは不幸中の幸いか。)

 ガステイルはそっと胸を撫で下ろした。

「詳しく聞いてもいいかい?」
「まあ、何の気ない会話だと思うけど……。『アムリスはずっと、私のそばに居てくれるよね?』と。」

 ガステイルは少し興奮しながらアムリスに詰め寄る。

「それで、なんと答えたんですか!」

 アムリスはギョッとして戸惑うが、すぐに答え始める。

「私は……アルエット様の旅の仲間である以前に正教の人間なので、魔王を倒してからのことはどうなるか分かりません。なので『魔王を倒すまではお供いたします』と答えました。アルエット様は『そう』とだけ仰って眠りにつきました。」

 ガステイルはため息をひとつついて口を開く。

「なるほどねぇ。俺ら、やっちまったみたいですね。」
「何か分かったんですか!」
「ズバリ、不安だよ。先のラルカンバラ達の戦いからずっと引きずってる不安さ。記憶がない部分以外の殿下はラルカンバラに斬られて重傷を負っただけだからね。そんな中でルーグとアムリスはゼーレン様に鍛えられ強くなっている。そのレベルアップした戦闘についていけるのだろうか……そして、戦闘でもお荷物な自分に三人はきちんとついて来てくれるのだろうか。」
「ついて行くに決まってますよ!!」

 ガステイルの言葉に、アムリスは食ってかかる。

「そりゃ、三人はそう思ってるよ。でも殿下に伝わってるかどうかは分からないね。なぜなら今の殿下にとっては……生まれて初めて自分の知らない一面を見せて反抗した従者と、自分よりも同性の従者を優先したエルフと、最後の希望と追い縋ったもののただの業務関係だと言い切られた聖剣の乙女に見えているだろうから。それに、最近はどうも三人揃って自分に何か隠し事をしているらしい。だから、アムリスが言ったように『魔族を討伐する』という功を焦ってるのさ。」
「うそ……」

 アムリスは顔を真っ青にし、少し俯く。しかし、すぐに前を向き直すと、身体強化魔法のスピードを一気に上げアルエットの方へと走り去って行った。

「あっ、ちょっと……速いって!」

 一人取り残されるガステイル。頭をポリポリと掻きやれやれと苦笑いを浮かべた後、肩を押さえ首をぐるりと回す。そして、

「まあ、行くしかないよねぇ」

 とはるか前方を行く二人に追いつくべく、最高速で駆け出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

最強剣士が転生した世界は魔法しかない異世界でした! ~基礎魔法しか使えませんが魔法剣で成り上がります~

渡琉兎
ファンタジー
政権争いに巻き込まれた騎士団長で天才剣士のアルベルト・マリノワーナ。 彼はどこにも属していなかったが、敵に回ると厄介だという理由だけで毒を盛られて殺されてしまった。 剣の道を極める──志半ばで死んでしまったアルベルトを不憫に思った女神は、アルベルトの望む能力をそのままに転生する権利を与えた。 アルベルトが望んだ能力はもちろん、剣術の能力。 転生した先で剣の道を極めることを心に誓ったアルベルトだったが──転生先は魔法が発展した、魔法師だらけの異世界だった! 剣術が廃れた世界で、剣術で最強を目指すアルベルト──改め、アル・ノワールの成り上がり物語。 ※アルファポリス、カクヨム、小説家になろうにて同時掲載しています。

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

追放料理人とJKの異世界グルメ無双珍道中〜ネットスーパーは最強です〜

音無響一
ファンタジー
わーい、異世界来ちゃった! スキルスキル〜何かな何かな〜 ネットスーパー……? これチートでしょ!? 当たりだよね!? なになに…… 注文できるのは、食材と調味料だけ? 完成品は? カップ麺は? え、私料理できないんだけど。 ──詰みじゃん。 と思ったら、追放された料理人に拾われました。 素材しか買えない転移JK 追放された料理人 完成品ゼロ 便利アイテムなし あるのは、調味料。 焼くだけなのに泣く。 塩で革命。 ソースで敗北。 そしてなぜかペンギンもいる。 今日も異世界で、 調味料無双しちゃいます!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...