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第三章 箱庭編
箱庭Ⅹ 疎外
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ガニオを囲む木の杭の外、西側の街道沿いに数百メートルほど進んだ先にある郊外の町・ギェーラ。といってもガニオほど規模の大きな町ではなく、むしろ人口的には集落や村の方が近いくらいの、のどかな雰囲気の地区である。
「漸く着いたわね……。」
アルエットはヴェレットから渡された地図を握りしめ、ギェーラの入口の前で呟いた。アムリスとガステイルが少し遅れて到着する。
「殿下、ドニオさんとやらの家って……」
「多分、あそこかな」
アルエットが示した指の先、奥の少し小高い丘にポツンと建つ小さな木の家。周りを高い木で囲まれていることもあり、鬱蒼な雰囲気を醸し出している。
「なーんか、らしいと言えばらしい家ですね。」
「そうかもしれないわねぇ。とにかく、急ぐわよ。」
「待ってください、アルエット様」
再び強化魔法を使いドニオの家まで急ごうとするアルエットを、アムリスが制止する。アルエットはゆっくり振り返り、
「どうしたの?アムリス。」
と、取り繕うような愛想笑いでアムリスに尋ねる。まるで笑っていない声色に、アムリスは少し息を呑むが、
「少し、嫌な予感がします。シャガラさんの話でも裏で動いている第三者の存在がありましたし、念の為に魔力は温存しておいた方がいいと思います。」
落ち着き払った声で、アルエットに進言した。アルエットは真顔でアムリスをじっと見つめる。
「……」
しばし無言が続くが、やがてアルエットは毒気を抜かれたようにため息をつき口を開く。
「分かったわよ。アムリスの言う通り、魔力の無駄遣いはよくないものね。」
アルエットはそう言って、膝を手でパンパンと払う。先程までの上辺だけの愛想笑いはもはや無く、今まで通りのアルエットの笑顔に戻っていた。
「殿下、漸く笑ってくれましたね。」
ガステイルの言葉に、アルエットは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をし、慌てて頬に手をやる。
「今までの私は、そんなに酷い顔をしてたのか?」
「いえ、そういう訳ではなく。ガニオに来てから、何か思い詰めてらっしゃるようにお見受けしましたので。」
「そうか、そう見えていたのか……。」
アルエットは少し考える素振りを見せるが、すぐに二人に向き直り、
「そういうことならゆっくり向かおうか。アムリス、ガステイル。」
爽やかにそう言い放つ。
「「はい!」」
アムリスとガステイルは、アルエットに続いてギェーラの町に足を踏み入れた。
「やっぱり、町というか村みたいなところですね~。」
「そうねぇ。特に最近はエリフィーズやオルデア、ガニオって見てきてるから、こんな落ち着いたところは久しぶりね。」
アムリスとアルエットはそんな他愛ない会話をしながら、ギェーラを歩いていた。ガステイルも二人の様子を伺いながら会話に入る。
「イェーゴやウインドールもこんな感じなんです?」
「あー、そこまで小さい村でもないかも。確かに村と言うには大きいのかもしれないですね。」
「確かに、イェーゴにはないような店はたくさんあるわね。というか、雑貨屋くらいしか無かったような……。」
「そうですね。ウインドールも雑貨屋に無いものは行商人から買うしかありませんでしたし。酒場とかも無かったですね。」
アムリスが指をさす先には大衆酒場があり、店主と思しき男がテーブルを忙しなく拭いている。
「え、酒場が無いんですか?ストレス発散とかどうしてたんです?」
「月に1回、村長の家で会合があるんです。その時に沢山飲むみたいですよ。あとは収穫祭とか祭りの日の夜なんかも、子供たちが寝静まってから大人たちで楽しむみたいです。」
「へえ、なんだか私も飲みたくなってきたなぁ。」
「アルエット様は絶対にダメですよ。」
アムリスは食い気味に否定する。アルエットはなんでと言わんばかりに涙目になりながらアムリスに訴える。
「そんな顔しても無駄です!ルーグさんにぶっかけたのもう忘れたんですか!」
アムリスはやや絆されかけたのか、頬を赤く染め目を逸らしながら突き放すように言う。そこへルーグにぶっかけたの部分に食いついたガステイルがニヤニヤしながら尋ねる。
「なんだか、面白そうな話の匂いがするんですけど……アムリスさん、聞いてもいいですか?」
「そうですよガステイルさん!アルエット様ったらエリフィーズに行く前ですね、アルコール入りのチョコレート食べちゃって……」
「わーわー!私が悪かった!謝るからその話終わり!!」
ふくれっ面になりながら話し始めるアムリスを慌てて止めるアルエット。そんな談笑をしながら街道を進んで行くと、遂にドニオの家がある丘の前に到着した。
「あとは、ここを登れば到着ですか。」
「ええ……しかし、近くで見ると少し不気味だね。」
「なんか、おとぎ話に出てくる悪い魔女が住んでいそうな家ですね。」
少しずつ漂う緊張感の中唐突にぶち込まれたアムリスの可愛らしい例え話に、二人は思わず軽く吹き出す。
「え、そんなにおかしかったですか?」
「いや、言いたいことは分かるわよ。」
「ただ、悪い魔女って……半分正解かもしれないですけど……」
クスクスと笑う二人と、バツが悪そうに顔を赤くし照れるアムリス。一頻り笑ったあとアルエットは
「アムリス、ありがとね。」
本心からの笑顔でアムリスに告げ、一行は丘を上り始めた。
「漸く着いたわね……。」
アルエットはヴェレットから渡された地図を握りしめ、ギェーラの入口の前で呟いた。アムリスとガステイルが少し遅れて到着する。
「殿下、ドニオさんとやらの家って……」
「多分、あそこかな」
アルエットが示した指の先、奥の少し小高い丘にポツンと建つ小さな木の家。周りを高い木で囲まれていることもあり、鬱蒼な雰囲気を醸し出している。
「なーんか、らしいと言えばらしい家ですね。」
「そうかもしれないわねぇ。とにかく、急ぐわよ。」
「待ってください、アルエット様」
再び強化魔法を使いドニオの家まで急ごうとするアルエットを、アムリスが制止する。アルエットはゆっくり振り返り、
「どうしたの?アムリス。」
と、取り繕うような愛想笑いでアムリスに尋ねる。まるで笑っていない声色に、アムリスは少し息を呑むが、
「少し、嫌な予感がします。シャガラさんの話でも裏で動いている第三者の存在がありましたし、念の為に魔力は温存しておいた方がいいと思います。」
落ち着き払った声で、アルエットに進言した。アルエットは真顔でアムリスをじっと見つめる。
「……」
しばし無言が続くが、やがてアルエットは毒気を抜かれたようにため息をつき口を開く。
「分かったわよ。アムリスの言う通り、魔力の無駄遣いはよくないものね。」
アルエットはそう言って、膝を手でパンパンと払う。先程までの上辺だけの愛想笑いはもはや無く、今まで通りのアルエットの笑顔に戻っていた。
「殿下、漸く笑ってくれましたね。」
ガステイルの言葉に、アルエットは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をし、慌てて頬に手をやる。
「今までの私は、そんなに酷い顔をしてたのか?」
「いえ、そういう訳ではなく。ガニオに来てから、何か思い詰めてらっしゃるようにお見受けしましたので。」
「そうか、そう見えていたのか……。」
アルエットは少し考える素振りを見せるが、すぐに二人に向き直り、
「そういうことならゆっくり向かおうか。アムリス、ガステイル。」
爽やかにそう言い放つ。
「「はい!」」
アムリスとガステイルは、アルエットに続いてギェーラの町に足を踏み入れた。
「やっぱり、町というか村みたいなところですね~。」
「そうねぇ。特に最近はエリフィーズやオルデア、ガニオって見てきてるから、こんな落ち着いたところは久しぶりね。」
アムリスとアルエットはそんな他愛ない会話をしながら、ギェーラを歩いていた。ガステイルも二人の様子を伺いながら会話に入る。
「イェーゴやウインドールもこんな感じなんです?」
「あー、そこまで小さい村でもないかも。確かに村と言うには大きいのかもしれないですね。」
「確かに、イェーゴにはないような店はたくさんあるわね。というか、雑貨屋くらいしか無かったような……。」
「そうですね。ウインドールも雑貨屋に無いものは行商人から買うしかありませんでしたし。酒場とかも無かったですね。」
アムリスが指をさす先には大衆酒場があり、店主と思しき男がテーブルを忙しなく拭いている。
「え、酒場が無いんですか?ストレス発散とかどうしてたんです?」
「月に1回、村長の家で会合があるんです。その時に沢山飲むみたいですよ。あとは収穫祭とか祭りの日の夜なんかも、子供たちが寝静まってから大人たちで楽しむみたいです。」
「へえ、なんだか私も飲みたくなってきたなぁ。」
「アルエット様は絶対にダメですよ。」
アムリスは食い気味に否定する。アルエットはなんでと言わんばかりに涙目になりながらアムリスに訴える。
「そんな顔しても無駄です!ルーグさんにぶっかけたのもう忘れたんですか!」
アムリスはやや絆されかけたのか、頬を赤く染め目を逸らしながら突き放すように言う。そこへルーグにぶっかけたの部分に食いついたガステイルがニヤニヤしながら尋ねる。
「なんだか、面白そうな話の匂いがするんですけど……アムリスさん、聞いてもいいですか?」
「そうですよガステイルさん!アルエット様ったらエリフィーズに行く前ですね、アルコール入りのチョコレート食べちゃって……」
「わーわー!私が悪かった!謝るからその話終わり!!」
ふくれっ面になりながら話し始めるアムリスを慌てて止めるアルエット。そんな談笑をしながら街道を進んで行くと、遂にドニオの家がある丘の前に到着した。
「あとは、ここを登れば到着ですか。」
「ええ……しかし、近くで見ると少し不気味だね。」
「なんか、おとぎ話に出てくる悪い魔女が住んでいそうな家ですね。」
少しずつ漂う緊張感の中唐突にぶち込まれたアムリスの可愛らしい例え話に、二人は思わず軽く吹き出す。
「え、そんなにおかしかったですか?」
「いや、言いたいことは分かるわよ。」
「ただ、悪い魔女って……半分正解かもしれないですけど……」
クスクスと笑う二人と、バツが悪そうに顔を赤くし照れるアムリス。一頻り笑ったあとアルエットは
「アムリス、ありがとね。」
本心からの笑顔でアムリスに告げ、一行は丘を上り始めた。
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