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第三章 箱庭編
箱庭ⅩⅩⅠ アタラクシアの悪魔
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この孤児院に来て1ヶ月が経った。日々の雑務にも慣れ、孤児達の顔と名前も覚え一部の子とも表面上はある程度仲良くなった頃合いではあったが、わたくしは苦痛を感じていました。というのも、純粋無垢な子供たちに加えて大人たちまでもが修道院の模範生ばかりであり、この世の悪から完全に隔絶された環境に放り込まれていたからでありました。突然上司として現れた歳下のわたくしにさえ
「貴女がクリステラ・バートリー様ですのね!」
「ああ、あのバートリー家の!」
「私、一度お会いしたかったと思ってましたのに、まさかご一緒にお仕事できるなんて!!」
と嫌味などなく完全な善意で抜かし歓迎してくれる人たちである。どう育ったらこうなるのか……わたくしは必死に吐き気を我慢しながら、総毛立つ思いでその場を乗り切りました。それからというもの子供たちにも大人たちにも何の問題も起こらない、たまに子供たちが物の取り合いで喧嘩になるがすぐさま大人が仲裁に入り、5分と立たずお互い謝罪をし解決してしまうという、歪な天国が形成されていた。
「はぁ……。」
あまりに負の感情が無さすぎて頭痛がしてきたわたくしは、院長室のチェアに座り頭を押さえる。一体どうしたものかと目を瞑り思案に耽ると
「クリステラ先生、大丈夫?」
と下の方から声がする。
「うわぁ、どうしたのノービス。そんなところにいるとびっくりするわよ。」
ノービス――わたくしが最初にぶつかった子はわたくしを心配そうに見つめながら机の下から這い出して、足元に寄ってくる。
「だって、先生ずっと苦しそうにしてたから、なかなか出られなくて。」
「あ、ああ。ごめんなさいね。ちょっと考えごとをしてたのよ。」
「もしかして……ぼく、先生になにか悪いことしたのかなって……」
「あらあら……泣かないでノービス。そんなことは全くないわよ。ノービスはいつも子供たちをまとめてくれているリーダーじゃない。」
わたくしはなだめようとしましたが、彼は一向に泣き止む気配がありません。どうしようかと慌てて辺りを見回す。すると、彼の手に握られたなにかに目が行きました。
「ノービス、貴方は何を持っているのかしら?」
「グスッ……ぼく、先生に内緒にしてたことがあって、それで、これは先生に秘密にしてて、先生と会ってから1ヶ月だからって、あと先生の誕生日ももうすぐだって……」
「あらあら、つまりわたくしの院長就任1ヶ月記念と誕生日のお祝いをしてくれたのね。」
「うん。」
そう言ってノービスはわたくしに持っていた小さな花束を渡してくれました。わたくしがお礼を述べノービスの頭をサッと撫でると、ノービスは意外なような物足りないような顔になりました。
「どうしたの?そんな物欲しそうな目をして。」
「お、怒られると思ってた。だってぼく、先生に隠し事してたから……」
「うふふ、そんなことじゃ怒りませんよ。そうねぇ……例えば、他の先生達が寝静まった頃に、子供たちを全員集めてわたくしの部屋に急に押しかけ誕生日パーティーをするなんてくらいじゃなきゃ、わたくしも先生達も怒ったりしませんよぉ。」
「そ、そっか……。ありがと先生!それじゃまた夜に来るね……じゃなかった!またね!!」
ノービスはそう言って院長室を出て行った。
「うふふ……わたくしも、パーティーの準備をしなきゃですわね。」
頭痛は完全に治り、わたくしは今晩使う器具の手入れを始めた。
日付が変わる頃の深夜、院長室の前に集まった子供たちは小さな声で話をしていた。
「それじゃ、ぼくがせーのって言うから、それで勢いよくドアを開けて中に入ろう。」
「うん。ノービスくんの言う通りでいいよ。」
「よし、それじゃ、せーの!!」
ノービスの掛け声と同時に子供たちはドアに体当たりをする。ドアがあっさりと開いてしまい部屋に16人が一気に雪崩込む。真っ暗な院長室でわたくしを求めるように彷徨う16人の子供たちだったが、突如として背後のドアがバタンと閉じる。
「キャー!!」
「何が起きた!?」
「ド、ドアが……」
パニックになる子供たち。そこでドアを閉めた張本人であるわたくしが炎魔法で照明に火を灯す。
「せ、先生!」
「あらあら……ノービスには事前に忠告したはずなのに。仕方がないので、おしおきですわ。」
カチャリと鍵をかけ、わたくしは子供たちの方に笑顔で向き直りました。その時、ほんの少しだけ負の感情が彼らから向けられました。あの十日間とは比べものにならないほど僅かな量ですが、ここに来てから負の感情に飢えていたわたくしにとっては十分でございました。
「あはぁ……いい表情するじゃない。これからもっと歪ませてあげるわぁ。」
わたくしはそう言って子供たちを全員縛り、部屋の隅に追いやった。
「貴女がクリステラ・バートリー様ですのね!」
「ああ、あのバートリー家の!」
「私、一度お会いしたかったと思ってましたのに、まさかご一緒にお仕事できるなんて!!」
と嫌味などなく完全な善意で抜かし歓迎してくれる人たちである。どう育ったらこうなるのか……わたくしは必死に吐き気を我慢しながら、総毛立つ思いでその場を乗り切りました。それからというもの子供たちにも大人たちにも何の問題も起こらない、たまに子供たちが物の取り合いで喧嘩になるがすぐさま大人が仲裁に入り、5分と立たずお互い謝罪をし解決してしまうという、歪な天国が形成されていた。
「はぁ……。」
あまりに負の感情が無さすぎて頭痛がしてきたわたくしは、院長室のチェアに座り頭を押さえる。一体どうしたものかと目を瞑り思案に耽ると
「クリステラ先生、大丈夫?」
と下の方から声がする。
「うわぁ、どうしたのノービス。そんなところにいるとびっくりするわよ。」
ノービス――わたくしが最初にぶつかった子はわたくしを心配そうに見つめながら机の下から這い出して、足元に寄ってくる。
「だって、先生ずっと苦しそうにしてたから、なかなか出られなくて。」
「あ、ああ。ごめんなさいね。ちょっと考えごとをしてたのよ。」
「もしかして……ぼく、先生になにか悪いことしたのかなって……」
「あらあら……泣かないでノービス。そんなことは全くないわよ。ノービスはいつも子供たちをまとめてくれているリーダーじゃない。」
わたくしはなだめようとしましたが、彼は一向に泣き止む気配がありません。どうしようかと慌てて辺りを見回す。すると、彼の手に握られたなにかに目が行きました。
「ノービス、貴方は何を持っているのかしら?」
「グスッ……ぼく、先生に内緒にしてたことがあって、それで、これは先生に秘密にしてて、先生と会ってから1ヶ月だからって、あと先生の誕生日ももうすぐだって……」
「あらあら、つまりわたくしの院長就任1ヶ月記念と誕生日のお祝いをしてくれたのね。」
「うん。」
そう言ってノービスはわたくしに持っていた小さな花束を渡してくれました。わたくしがお礼を述べノービスの頭をサッと撫でると、ノービスは意外なような物足りないような顔になりました。
「どうしたの?そんな物欲しそうな目をして。」
「お、怒られると思ってた。だってぼく、先生に隠し事してたから……」
「うふふ、そんなことじゃ怒りませんよ。そうねぇ……例えば、他の先生達が寝静まった頃に、子供たちを全員集めてわたくしの部屋に急に押しかけ誕生日パーティーをするなんてくらいじゃなきゃ、わたくしも先生達も怒ったりしませんよぉ。」
「そ、そっか……。ありがと先生!それじゃまた夜に来るね……じゃなかった!またね!!」
ノービスはそう言って院長室を出て行った。
「うふふ……わたくしも、パーティーの準備をしなきゃですわね。」
頭痛は完全に治り、わたくしは今晩使う器具の手入れを始めた。
日付が変わる頃の深夜、院長室の前に集まった子供たちは小さな声で話をしていた。
「それじゃ、ぼくがせーのって言うから、それで勢いよくドアを開けて中に入ろう。」
「うん。ノービスくんの言う通りでいいよ。」
「よし、それじゃ、せーの!!」
ノービスの掛け声と同時に子供たちはドアに体当たりをする。ドアがあっさりと開いてしまい部屋に16人が一気に雪崩込む。真っ暗な院長室でわたくしを求めるように彷徨う16人の子供たちだったが、突如として背後のドアがバタンと閉じる。
「キャー!!」
「何が起きた!?」
「ド、ドアが……」
パニックになる子供たち。そこでドアを閉めた張本人であるわたくしが炎魔法で照明に火を灯す。
「せ、先生!」
「あらあら……ノービスには事前に忠告したはずなのに。仕方がないので、おしおきですわ。」
カチャリと鍵をかけ、わたくしは子供たちの方に笑顔で向き直りました。その時、ほんの少しだけ負の感情が彼らから向けられました。あの十日間とは比べものにならないほど僅かな量ですが、ここに来てから負の感情に飢えていたわたくしにとっては十分でございました。
「あはぁ……いい表情するじゃない。これからもっと歪ませてあげるわぁ。」
わたくしはそう言って子供たちを全員縛り、部屋の隅に追いやった。
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