200年級ニートが魔王討伐という名目で厄介払いされる話

盈月

文字の大きさ
71 / 165
第三章 箱庭編

箱庭ⅩⅩⅠ アタラクシアの悪魔

しおりを挟む
 この孤児院に来て1ヶ月が経った。日々の雑務にも慣れ、孤児達の顔と名前も覚え一部の子とも表面上はある程度仲良くなった頃合いではあったが、わたくしは苦痛を感じていました。というのも、純粋無垢な子供たちに加えて大人たちまでもが修道院の模範生ばかりであり、この世の悪から完全に隔絶された環境に放り込まれていたからでありました。突然上司として現れた歳下のわたくしにさえ

「貴女がクリステラ・バートリー様ですのね!」
「ああ、あのバートリー家の!」
「私、一度お会いしたかったと思ってましたのに、まさかご一緒にお仕事できるなんて!!」

 と嫌味などなく完全な善意で抜かし歓迎してくれる人たちである。どう育ったらこうなるのか……わたくしは必死に吐き気を我慢しながら、総毛立つ思いでその場を乗り切りました。それからというもの子供たちにも大人たちにも何の問題も起こらない、たまに子供たちが物の取り合いで喧嘩になるがすぐさま大人が仲裁に入り、5分と立たずお互い謝罪をし解決してしまうという、歪な天国が形成されていた。

「はぁ……。」

 あまりに負の感情が無さすぎて頭痛がしてきたわたくしは、院長室のチェアに座り頭を押さえる。一体どうしたものかと目を瞑り思案に耽ると

「クリステラ先生、大丈夫?」

 と下の方から声がする。

「うわぁ、どうしたのノービス。そんなところにいるとびっくりするわよ。」

 ノービス――わたくしが最初にぶつかった子はわたくしを心配そうに見つめながら机の下から這い出して、足元に寄ってくる。

「だって、先生ずっと苦しそうにしてたから、なかなか出られなくて。」
「あ、ああ。ごめんなさいね。ちょっと考えごとをしてたのよ。」
「もしかして……ぼく、先生になにか悪いことしたのかなって……」
「あらあら……泣かないでノービス。そんなことは全くないわよ。ノービスはいつも子供たちをまとめてくれているリーダーじゃない。」

 わたくしはなだめようとしましたが、彼は一向に泣き止む気配がありません。どうしようかと慌てて辺りを見回す。すると、彼の手に握られたなにかに目が行きました。

「ノービス、貴方は何を持っているのかしら?」
「グスッ……ぼく、先生に内緒にしてたことがあって、それで、これは先生に秘密にしてて、先生と会ってから1ヶ月だからって、あと先生の誕生日ももうすぐだって……」
「あらあら、つまりわたくしの院長就任1ヶ月記念と誕生日のお祝いをしてくれたのね。」
「うん。」

 そう言ってノービスはわたくしに持っていた小さな花束を渡してくれました。わたくしがお礼を述べノービスの頭をサッと撫でると、ノービスは意外なような物足りないような顔になりました。

「どうしたの?そんな物欲しそうな目をして。」
「お、怒られると思ってた。だってぼく、先生に隠し事してたから……」
「うふふ、そんなことじゃ怒りませんよ。そうねぇ……例えば、他の先生達が寝静まった頃に、子供たちを全員集めてわたくしの部屋に急に押しかけ誕生日パーティーをするなんてくらいじゃなきゃ、わたくしも先生達も怒ったりしませんよぉ。」
「そ、そっか……。ありがと先生!それじゃまた夜に来るね……じゃなかった!またね!!」

 ノービスはそう言って院長室を出て行った。

「うふふ……わたくしも、パーティーの準備をしなきゃですわね。」

 頭痛は完全に治り、わたくしは今晩使う器具の手入れを始めた。


 日付が変わる頃の深夜、院長室の前に集まった子供たちは小さな声で話をしていた。

「それじゃ、ぼくがせーのって言うから、それで勢いよくドアを開けて中に入ろう。」
「うん。ノービスくんの言う通りでいいよ。」
「よし、それじゃ、せーの!!」

 ノービスの掛け声と同時に子供たちはドアに体当たりをする。ドアがあっさりと開いてしまい部屋に16人が一気に雪崩込む。真っ暗な院長室でわたくしを求めるように彷徨う16人の子供たちだったが、突如として背後のドアがバタンと閉じる。

「キャー!!」
「何が起きた!?」
「ド、ドアが……」

 パニックになる子供たち。そこでドアを閉めた張本人であるわたくしが炎魔法で照明に火を灯す。

「せ、先生!」
「あらあら……ノービスには事前に忠告したはずなのに。仕方がないので、おしおきですわ。」

 カチャリと鍵をかけ、わたくしは子供たちの方に笑顔で向き直りました。その時、ほんの少しだけ負の感情が彼らから向けられました。あの十日間とは比べものにならないほど僅かな量ですが、ここに来てから負の感情に飢えていたわたくしにとっては十分でございました。

「あはぁ……いい表情するじゃない。これからもっと歪ませてあげるわぁ。」

 わたくしはそう言って子供たちを全員縛り、部屋の隅に追いやった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

最強剣士が転生した世界は魔法しかない異世界でした! ~基礎魔法しか使えませんが魔法剣で成り上がります~

渡琉兎
ファンタジー
政権争いに巻き込まれた騎士団長で天才剣士のアルベルト・マリノワーナ。 彼はどこにも属していなかったが、敵に回ると厄介だという理由だけで毒を盛られて殺されてしまった。 剣の道を極める──志半ばで死んでしまったアルベルトを不憫に思った女神は、アルベルトの望む能力をそのままに転生する権利を与えた。 アルベルトが望んだ能力はもちろん、剣術の能力。 転生した先で剣の道を極めることを心に誓ったアルベルトだったが──転生先は魔法が発展した、魔法師だらけの異世界だった! 剣術が廃れた世界で、剣術で最強を目指すアルベルト──改め、アル・ノワールの成り上がり物語。 ※アルファポリス、カクヨム、小説家になろうにて同時掲載しています。

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

追放料理人とJKの異世界グルメ無双珍道中〜ネットスーパーは最強です〜

音無響一
ファンタジー
わーい、異世界来ちゃった! スキルスキル〜何かな何かな〜 ネットスーパー……? これチートでしょ!? 当たりだよね!? なになに…… 注文できるのは、食材と調味料だけ? 完成品は? カップ麺は? え、私料理できないんだけど。 ──詰みじゃん。 と思ったら、追放された料理人に拾われました。 素材しか買えない転移JK 追放された料理人 完成品ゼロ 便利アイテムなし あるのは、調味料。 焼くだけなのに泣く。 塩で革命。 ソースで敗北。 そしてなぜかペンギンもいる。 今日も異世界で、 調味料無双しちゃいます!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...