200年級ニートが魔王討伐という名目で厄介払いされる話

盈月

文字の大きさ
89 / 165
第四章 亡国編

亡国Ⅷ 朝③〜セイレーン討伐前編

しおりを挟む
 240年前、ケイレス村。長閑な雰囲気の村の広場で、アルエット(3)とデステール(10)は追いかけっこをして遊んでいた。

「あはは、お兄ちゃん!おそいおそーい」
「このやろ……!僕がどれだけ手加減してると思ってるんだ。待てー!アルエット!!」
「お兄ちゃんたら、こっちこっち!!」

 アルエットは村長宅の裏手にある大きな木に登り、デステールを挑発する。

「おい!危ないから木から下りてこい!!母さんにも言われてるだろ!」
「だって下りたらお兄ちゃん捕まえるでしょ!やだよ!!」
「あのなぁ、こっちは本気で……」
「うわぁ」

 デステールが言い終わらぬ前に、アルエットが足を滑らせ木から落下する。

「ちょっ、あのバカ!!」
「うわぁぁぁぁん!お兄ちゃん、怖いよぉぉぉ!!」

 デステールはアルエットを受け止めようと駆け出すが、木とは距離があり間に合いそうにない。

(まずい……ぶつかる!!)

 デステールは思わず顔を背け目を閉じる。アルエットが地面にぶつかるとデステールが思った瞬間、

「全く……危なかったわね。」
「ママ!!」

 一人のセイレーンの女性が羽根を広げアルエットを受け止め抱きかかえた。女性はデステールの元へ進んでからアルエットを地面に下ろすと、デステールの頭をポンポンと撫でる。デステールはそれに反応し目を開く。

「お母さん……」
「こら。木の上は危ないからダメって言ってるでしょう?今は私が間に合ったから良かったけど、まだ飛べないアルエットはあのままだと大怪我だったわよ!」
「ごめんなさい……」
「僕は止めたもん。」
「デステール、お兄ちゃんなんだから貴方がちゃんと止めないとダメなのよ。登ってからじゃなく、登る前に止めないと止めたとは言わないわ。」
「……はい。」
「それじゃ、そろそろお昼ご飯にしましょう!二人とも、しっかり捕まってなさい!」

 そう言うと、デステールの母親――ローズマリー・ケイレスはデステールとアルエットを担ぎ、村長宅にずかずかと連れ込んで行った。
 セイレーンの家は円柱の上に円錐を乗せたような形をしており、円錐のてっぺんから動物の毛を加工した布を被せるように覆い、雨風を凌いでいる。これはもともとケイレス村に定住する前の名残で、住処を転々としていたセイレーンという種族特有の家の作り方であった。ローズマリーの家も同じような作りであり、中央に置かれた机をデステール、アルエット、村長、ローズマリーの四人で囲み昼食をとっていた。

「ママ、パパはまだ帰って来ないの?」
「今回はフォーゲルシュタットまで行ってくるから遅くなるとは言ってたけど、心配ね……。」

 アルエットとデステールの父・エクトルは村で作ったものをほかの街で売る行商を生業としていた。最近はグレニアドールだけでなく人間領の街にまで商売を広げ、村になかなか帰れずにいる。今回も村を出てもう10日ほど経っていた。

「いろんなところで物を売ってくれるのは助かるけれど、あの人、物を売る度に私たちの話をするらしいからお客さんに疎まれていないか心配なのよね……」
「ママ、のろけ」
「の、惚気けてないわよ!もう……アルエットにそんなこと教えたの、どっち?」
「ん」「ワシじゃ」

 デステールが村長を指さし、村長が手をあげる。

「ちょっと、お父さん?アルエットに変なことを教えないでください。」
「仕方がないじゃろう、アルエットが聞いてきたんじゃから、おじいちゃんとして答えないわけにはいかん。」
「母さんも父さんもいっつも寝る前に二人の出会いの話をするだろ?ちょっと前アルエットがどうしても気になったらしくておじいちゃんに聞いたんだよ。そしたらおじいちゃんが変な顔して『それはのう、惚気話と言ってじゃな……』ってアルエットにいろいろ吹き込んでたんだ。」
「ちょ、デステール!お前それは内緒じゃと……」
「お父さん。」
「マ、マリー?顔が怖いんだけど。」
「晩御飯抜きです。」
「そ、そんな……」

 がっくりと項垂れる村長、それを見て大笑いするアルエットとデステール。このときはそんなささやかな幸せに満ちた日常がずっと続くと、デステール達四人は信じて疑っていなかった。


 同時刻、ケイレス村から数キロ離れた地点。数百人程の人間の軍勢が荒れた道を進んでいた。先頭には先日王位を継いだばかりのヴェクトリアの姿もあった。彼女は側近と思しき隣の男に質問する。

「本当に、この先に妖精種ニンフェリムの魔族がいるのだな?」
「ええ、間違いありませんよ。こいつがそう言ってましたんで。」

 側近の男はそう言うと、腰につけた生首を持ち、ポンポンと叩いた。

「そいつは?」
「ケイレスから来た商人ですよ。コイツ、ものを売る度に自分の家族の話をしだすんです。鬱陶しいことこの上ないんですが、よくよく話を聞いてみるとどうもこいつの妻がその妖精種ニンフェリムのようでして。なので詳細を吐かせて殺しました。」
「そうか……なるほど、手を煩わせたな。」
「滅相もない。まもなく到着致しますので、私はこれにて。」

 側近の男はそう言い残し、後方の軍に紛れて行った。ヴェクトリアは前方に見え始めたケイレスを見ながら呟いた。

妖精種ニンフェリム……その血を飲んだ者に永遠の命を授けるという伝承が本当なら、私の夢に大きく近付くことができる。魔族を滅ぼし、人間だけの世界で私が女王として君臨するという夢に……。」

 ヴェクトリアは決意を新たに拳を強く握り締め、馬のスピードを上げ駆け出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~

あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。 彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。 剣も魔法も得意ではない主人公は、 最強のメイドたちに守られながら生きている。 だが彼自身は、 「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。 自分にできることは何か。 この世界で、どう生きていくべきか。 最強の力を持つ者たちと、 何者でもない一人の青年。 その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。 本作は、 圧倒的な安心感のある日常パートと、 必要なときには本格的に描かれる戦い、 そして「守られる側の成長」を軸にした 完結済み長編ファンタジーです。 シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。 最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

処理中です...