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第四章 亡国編
亡国Ⅷ 朝③〜セイレーン討伐前編
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240年前、ケイレス村。長閑な雰囲気の村の広場で、アルエット(3)とデステール(10)は追いかけっこをして遊んでいた。
「あはは、お兄ちゃん!おそいおそーい」
「このやろ……!僕がどれだけ手加減してると思ってるんだ。待てー!アルエット!!」
「お兄ちゃんたら、こっちこっち!!」
アルエットは村長宅の裏手にある大きな木に登り、デステールを挑発する。
「おい!危ないから木から下りてこい!!母さんにも言われてるだろ!」
「だって下りたらお兄ちゃん捕まえるでしょ!やだよ!!」
「あのなぁ、こっちは本気で……」
「うわぁ」
デステールが言い終わらぬ前に、アルエットが足を滑らせ木から落下する。
「ちょっ、あのバカ!!」
「うわぁぁぁぁん!お兄ちゃん、怖いよぉぉぉ!!」
デステールはアルエットを受け止めようと駆け出すが、木とは距離があり間に合いそうにない。
(まずい……ぶつかる!!)
デステールは思わず顔を背け目を閉じる。アルエットが地面にぶつかるとデステールが思った瞬間、
「全く……危なかったわね。」
「ママ!!」
一人のセイレーンの女性が羽根を広げアルエットを受け止め抱きかかえた。女性はデステールの元へ進んでからアルエットを地面に下ろすと、デステールの頭をポンポンと撫でる。デステールはそれに反応し目を開く。
「お母さん……」
「こら。木の上は危ないからダメって言ってるでしょう?今は私が間に合ったから良かったけど、まだ飛べないアルエットはあのままだと大怪我だったわよ!」
「ごめんなさい……」
「僕は止めたもん。」
「デステール、お兄ちゃんなんだから貴方がちゃんと止めないとダメなのよ。登ってからじゃなく、登る前に止めないと止めたとは言わないわ。」
「……はい。」
「それじゃ、そろそろお昼ご飯にしましょう!二人とも、しっかり捕まってなさい!」
そう言うと、デステールの母親――ローズマリー・ケイレスはデステールとアルエットを担ぎ、村長宅にずかずかと連れ込んで行った。
セイレーンの家は円柱の上に円錐を乗せたような形をしており、円錐のてっぺんから動物の毛を加工した布を被せるように覆い、雨風を凌いでいる。これはもともとケイレス村に定住する前の名残で、住処を転々としていたセイレーンという種族特有の家の作り方であった。ローズマリーの家も同じような作りであり、中央に置かれた机をデステール、アルエット、村長、ローズマリーの四人で囲み昼食をとっていた。
「ママ、パパはまだ帰って来ないの?」
「今回はフォーゲルシュタットまで行ってくるから遅くなるとは言ってたけど、心配ね……。」
アルエットとデステールの父・エクトルは村で作ったものをほかの街で売る行商を生業としていた。最近はグレニアドールだけでなく人間領の街にまで商売を広げ、村になかなか帰れずにいる。今回も村を出てもう10日ほど経っていた。
「いろんなところで物を売ってくれるのは助かるけれど、あの人、物を売る度に私たちの話をするらしいからお客さんに疎まれていないか心配なのよね……」
「ママ、のろけ」
「の、惚気けてないわよ!もう……アルエットにそんなこと教えたの、どっち?」
「ん」「ワシじゃ」
デステールが村長を指さし、村長が手をあげる。
「ちょっと、お父さん?アルエットに変なことを教えないでください。」
「仕方がないじゃろう、アルエットが聞いてきたんじゃから、おじいちゃんとして答えないわけにはいかん。」
「母さんも父さんもいっつも寝る前に二人の出会いの話をするだろ?ちょっと前アルエットがどうしても気になったらしくておじいちゃんに聞いたんだよ。そしたらおじいちゃんが変な顔して『それはのう、惚気話と言ってじゃな……』ってアルエットにいろいろ吹き込んでたんだ。」
「ちょ、デステール!お前それは内緒じゃと……」
「お父さん。」
「マ、マリー?顔が怖いんだけど。」
「晩御飯抜きです。」
「そ、そんな……」
がっくりと項垂れる村長、それを見て大笑いするアルエットとデステール。このときはそんなささやかな幸せに満ちた日常がずっと続くと、デステール達四人は信じて疑っていなかった。
同時刻、ケイレス村から数キロ離れた地点。数百人程の人間の軍勢が荒れた道を進んでいた。先頭には先日王位を継いだばかりのヴェクトリアの姿もあった。彼女は側近と思しき隣の男に質問する。
「本当に、この先に妖精種の魔族がいるのだな?」
「ええ、間違いありませんよ。こいつがそう言ってましたんで。」
側近の男はそう言うと、腰につけた生首を持ち、ポンポンと叩いた。
「そいつは?」
「ケイレスから来た商人ですよ。コイツ、ものを売る度に自分の家族の話をしだすんです。鬱陶しいことこの上ないんですが、よくよく話を聞いてみるとどうもこいつの妻がその妖精種のようでして。なので詳細を吐かせて殺しました。」
「そうか……なるほど、手を煩わせたな。」
「滅相もない。まもなく到着致しますので、私はこれにて。」
側近の男はそう言い残し、後方の軍に紛れて行った。ヴェクトリアは前方に見え始めたケイレスを見ながら呟いた。
「妖精種……その血を飲んだ者に永遠の命を授けるという伝承が本当なら、私の夢に大きく近付くことができる。魔族を滅ぼし、人間だけの世界で私が女王として君臨するという夢に……。」
ヴェクトリアは決意を新たに拳を強く握り締め、馬のスピードを上げ駆け出した。
「あはは、お兄ちゃん!おそいおそーい」
「このやろ……!僕がどれだけ手加減してると思ってるんだ。待てー!アルエット!!」
「お兄ちゃんたら、こっちこっち!!」
アルエットは村長宅の裏手にある大きな木に登り、デステールを挑発する。
「おい!危ないから木から下りてこい!!母さんにも言われてるだろ!」
「だって下りたらお兄ちゃん捕まえるでしょ!やだよ!!」
「あのなぁ、こっちは本気で……」
「うわぁ」
デステールが言い終わらぬ前に、アルエットが足を滑らせ木から落下する。
「ちょっ、あのバカ!!」
「うわぁぁぁぁん!お兄ちゃん、怖いよぉぉぉ!!」
デステールはアルエットを受け止めようと駆け出すが、木とは距離があり間に合いそうにない。
(まずい……ぶつかる!!)
デステールは思わず顔を背け目を閉じる。アルエットが地面にぶつかるとデステールが思った瞬間、
「全く……危なかったわね。」
「ママ!!」
一人のセイレーンの女性が羽根を広げアルエットを受け止め抱きかかえた。女性はデステールの元へ進んでからアルエットを地面に下ろすと、デステールの頭をポンポンと撫でる。デステールはそれに反応し目を開く。
「お母さん……」
「こら。木の上は危ないからダメって言ってるでしょう?今は私が間に合ったから良かったけど、まだ飛べないアルエットはあのままだと大怪我だったわよ!」
「ごめんなさい……」
「僕は止めたもん。」
「デステール、お兄ちゃんなんだから貴方がちゃんと止めないとダメなのよ。登ってからじゃなく、登る前に止めないと止めたとは言わないわ。」
「……はい。」
「それじゃ、そろそろお昼ご飯にしましょう!二人とも、しっかり捕まってなさい!」
そう言うと、デステールの母親――ローズマリー・ケイレスはデステールとアルエットを担ぎ、村長宅にずかずかと連れ込んで行った。
セイレーンの家は円柱の上に円錐を乗せたような形をしており、円錐のてっぺんから動物の毛を加工した布を被せるように覆い、雨風を凌いでいる。これはもともとケイレス村に定住する前の名残で、住処を転々としていたセイレーンという種族特有の家の作り方であった。ローズマリーの家も同じような作りであり、中央に置かれた机をデステール、アルエット、村長、ローズマリーの四人で囲み昼食をとっていた。
「ママ、パパはまだ帰って来ないの?」
「今回はフォーゲルシュタットまで行ってくるから遅くなるとは言ってたけど、心配ね……。」
アルエットとデステールの父・エクトルは村で作ったものをほかの街で売る行商を生業としていた。最近はグレニアドールだけでなく人間領の街にまで商売を広げ、村になかなか帰れずにいる。今回も村を出てもう10日ほど経っていた。
「いろんなところで物を売ってくれるのは助かるけれど、あの人、物を売る度に私たちの話をするらしいからお客さんに疎まれていないか心配なのよね……」
「ママ、のろけ」
「の、惚気けてないわよ!もう……アルエットにそんなこと教えたの、どっち?」
「ん」「ワシじゃ」
デステールが村長を指さし、村長が手をあげる。
「ちょっと、お父さん?アルエットに変なことを教えないでください。」
「仕方がないじゃろう、アルエットが聞いてきたんじゃから、おじいちゃんとして答えないわけにはいかん。」
「母さんも父さんもいっつも寝る前に二人の出会いの話をするだろ?ちょっと前アルエットがどうしても気になったらしくておじいちゃんに聞いたんだよ。そしたらおじいちゃんが変な顔して『それはのう、惚気話と言ってじゃな……』ってアルエットにいろいろ吹き込んでたんだ。」
「ちょ、デステール!お前それは内緒じゃと……」
「お父さん。」
「マ、マリー?顔が怖いんだけど。」
「晩御飯抜きです。」
「そ、そんな……」
がっくりと項垂れる村長、それを見て大笑いするアルエットとデステール。このときはそんなささやかな幸せに満ちた日常がずっと続くと、デステール達四人は信じて疑っていなかった。
同時刻、ケイレス村から数キロ離れた地点。数百人程の人間の軍勢が荒れた道を進んでいた。先頭には先日王位を継いだばかりのヴェクトリアの姿もあった。彼女は側近と思しき隣の男に質問する。
「本当に、この先に妖精種の魔族がいるのだな?」
「ええ、間違いありませんよ。こいつがそう言ってましたんで。」
側近の男はそう言うと、腰につけた生首を持ち、ポンポンと叩いた。
「そいつは?」
「ケイレスから来た商人ですよ。コイツ、ものを売る度に自分の家族の話をしだすんです。鬱陶しいことこの上ないんですが、よくよく話を聞いてみるとどうもこいつの妻がその妖精種のようでして。なので詳細を吐かせて殺しました。」
「そうか……なるほど、手を煩わせたな。」
「滅相もない。まもなく到着致しますので、私はこれにて。」
側近の男はそう言い残し、後方の軍に紛れて行った。ヴェクトリアは前方に見え始めたケイレスを見ながら呟いた。
「妖精種……その血を飲んだ者に永遠の命を授けるという伝承が本当なら、私の夢に大きく近付くことができる。魔族を滅ぼし、人間だけの世界で私が女王として君臨するという夢に……。」
ヴェクトリアは決意を新たに拳を強く握り締め、馬のスピードを上げ駆け出した。
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