200年級ニートが魔王討伐という名目で厄介払いされる話

盈月

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第四章 亡国編

亡国ⅩⅩⅤ 夜③〜縁導く白き眼

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 デミスとアドネリアの会話から数時間後、疲れて眠ってしまっていたアドネリアが目を覚ました。

「おお、起こしてしまったか。」

 日付けも変わろうかとしている真夜中、草木も眠りに落ちた頃合だというのに、アドネリア達のいたテントでは数人の正教兵達が慌ただしくデミスに報告をしていた。

「いえ、そのような事は……何か異変でも起きたのでしょうか?」
「先ほど見張りの兵から報告があった。何者かがここに近付いてきておる、と。」
「なっ……まさか、追手ですか!?」
「いや、反応があったのは進行方向……つまり、アタラクシア側からだ。敵ではないと信じたいが……万一の可能性もある。だから今対策を講じておったのだ。」

 デミスはそういうと、再び正教兵達の方へ向き中断していた議論を再開した。アドネリアはその反応が何者なのか少し考え、一つの可能性を閃いた。

「まさか……教皇聖下!」
「いかがした?」
「よろしければ、私にその反応とやらを拝見させていただけませんか?私の"体質"の能力なら、人物の特定に至れるかもしれません。」
「そうか!そなたの白い眼なら……」

 この世界の住人はごくまれに特異体質を持って生まれてくる。広い意味では妖精種ニンフェリムも特異体質ではあるが、魔族にしか発現しない妖精種ニンフェリムとは違いこの特異体質は人間やエルフなどにも発現することがある。アドネリア・フォーゲルもその先天的な特異体質の持ち主であり、彼女の場合その特異性は瞳に現れた。真っ白な宝石のように美しい瞳は、魔力を視覚情報として読み取る能力を持っている。

「私の眼で魔力を視れば、外見がどのようであってもその人の本質を見定めることができます。どうか……」
「何故断る理由がある!行くぞ、アドネリア王女殿下。」

 デミスはアドネリアをテントから連れ出した。兵達のほとんどが寝静まる野営地を突っ切って、デミス達は見張りの兵士の元へと辿り着いた。

「きょ、教皇聖下……!それにアドネリア殿下まで……」
「よい」

 慌てて姿勢を正し敬礼を取ろうとする見張り兵をデミスは手で制しながら、本題に入る。

「報告にあった反応とは、どれのことだ?」
「は、はい!あれです!」

 見張り兵が指をさすと、そこには小さくゆらゆらと揺れる光源があった。

「なるほど……確かに少しずつだが、こちらに近付いて来ているようにも見える。それではアドネリア殿下、お願いしてもよろしいかな?」
「分かりました、それでは。」

 アドネリアは魔力を瞳に集中させ、目を凝らして小さな光源を見つめる。

「魔力の種類から……あそこには四人。人間3、おそらくエルフが1。あの火の玉のような魔法は……エルフによるものです……もっと視れば情報は増えますが、少なくとも現時点の情報でも敵対するような存在には見えません。」
「……もっと詳しく見て貰えるか?」
「分かりました……そうですね、エルフの少年が三人の人間をおぶっています。三人……いえ、四人全員が尋常ではない大怪我を負っています。エルフの少年もこのまま魔法を使い続けると持たないと思います。」
「そうか。これは、我々が駆けつけて治療すべきだろうか……?」
「そうした方がよろしいでしょう……それに、三人の人間のうち一人は貴方達と同じ教会の人間のようですし……!?!?」

 光源を見つめていたアドネリアが突如血相を変え、荒い呼吸を始める。デミスが駆け寄り、

「大丈夫か?」

 と身を案ずるが、アドネリアは涙を零しながらデミスの手を力強く握り締め懇願する。

「お願いします……!すぐにあそこに行って治療を……!!」
「アドネリア殿下、いったい……」
「あそこにいるのは、姉上様……アルエット様達です!!!」
「!!!!」

 アドネリアが告げる事実に、その場にいる者全てが耳を疑った。しかしデミスはすぐにアドネリアの言葉に従い、すぐに号令をかけた。

「見張りを一人だけ置いていく。他の者はワシに着いてこい!!」

 光源に向けて駆け出すデミスとアドネリア。正教兵達は戸惑いながらもデミスの号令ならばと二人を追いかけた。
 デミス達がガステイル達の元へ辿り着くのには五分とかからなかった。三人を背負い光源となる炎魔法を灯しながらゆっくりと進んでいたガステイルは、突如現れた大男に気力だけで威嚇をした。

「だ……誰だ!!」
「安心しろ……敵ではない。アタラクシアの王国正教の部隊だ。」
「ア……アタラクシア……。そうか、アムリスの仲間か……。聖魔法が使える……は、はは、なんとかなりそうだぞ、おい……。」
「総員、四人の回復にかかれ!」
「お、俺は後でいい……エルフだから、まだなんとかもつ。それより、殿下を……首をやられてる、い、いつ死んでもおかしくねえ……」

 正教兵はガステイルから三人分の身体を受け取ると、文字通り肩の荷が下りたガステイルは安心しきった表情でドサリとその場に倒れた。アドネリアは慌ててガステイルに駆け寄った。

「大丈夫ですか!?」
「あ、ああ。意識はまだある……」
「よ、良かった……」
「しかし、何故お前たちがここにいる?つい先日グレニアドールに入ったと管轄の者から報告があったはずだが。」
「い、いろいろあって、フォーゲルシュタット王城で魔族四天王のデステールって奴と戦ってたんです。全員……まるで歯が立たずに、こんなボロボロにされちまったんですが。」
「なるほど……だが、それならなぜお前たちはアタラクシアの方から歩いてきたのだ?」
「……魔王が乱入して来やがった。魔王がデステールに俺たちにトドメを刺せと命令したが、奴は魔王を裏切り……お、俺たちを殺さずにどこかへと飛ばした。意識が残っているのは俺だけだったから、なんとかどこかの町で皆を治療しなきゃと……み、道も分からずひたすらただ歩いていたってだけだ……。」
「……分かった。今はゆっくり休んでてくれ。」
「ああ……そうさせてもらう……。」

 ガステイルはそう言って、ゆっくり目を閉じた。その目から涙が一筋、真っ直ぐ地面へと落ちた。
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