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第六章 決戦編
決戦Ⅲ 露払い
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アルエット一行を乗せた馬車が鬱蒼とした森を抜け、開けた平地に出る。進行方向の先に魔王城を見つけたアルエットは御者に止めるよう促す。
「ありがとう、ここまででいいわ。」
御者にそう言って馬車から降りるアルエット。ルーグとアムリスもアルエットに続く。御者は手綱を繰り来た道を戻って行った。アムリスは馬車を見送り軽く会釈をする。
「いよいよですね……あれが魔王城、ですか。」
「そうね。」
ルーグとアルエットは前方の地平線に聳える仰々しい城を精悍な眼差しで見つめる。
「すみません、お待たせしました。」
馬車が見えなくなるまで頭を下げていたアムリスがアルエット達に合流する。アルエットはにこりと微笑んでアムリスを迎え、魔王城へと歩みを進めていく。
魔王城まであと数百メートルまで迫ったアルエット一行。定期的に襲いかかってくる魔族を撃退しながら、アルエットは首を傾げていた。アルエットの違和感に気付いたルーグは魔族を片付けてアルエットに駆け寄った。
「アルエット様!どうかしたんですか?」
「……正面の敵が続いているわ。それに戦闘のスパンも短くなっている。」
「つまり、魔王に気付かれているってことですか?」
「そうかも……だけど、あれを見てちょうだい。」
アルエットがそう言って前方へ指をさす。ルーグがその先を見ると、手負いの魔物たちが怯えた様子でこちらへと向かってきていた。
「なっ……あれは!一体どういうことなんですか!?」
「分からないわ……さっきから魔王城からの敵よりも後ろの森からの敵の方が強いから妙だと思ったのよ。そしたら……正面からの敵はほぼ全て手負いの魔族でね。魔王城で何かが起きているのは確かだけど、それが何かまでは分からない……。」
アルエットは苦虫を噛み潰したような目で魔族を見つめ、迎撃態勢を整える。ルーグも困惑しながら剣を構え突撃しようとした瞬間、
「ま、待ってくれ!!アタシ達は貴女と戦うつもりはないわ!」
他の魔族を掻き分けながら一人の女魔族が倒れ込みアルエットに懇願する。女魔族の身体には無数の切り傷が刻まれ、額から流れる血が彼女の右目を塗りつぶしていた。すんでのところでルーグの足と剣が止まり、アルエットがルーグを腕で制しながら女魔族に向き合う。
「アルエット様、危険です。」
「大丈夫。ねぇ貴女……戦うつもりはないってどういうことかしら?」
「ベイルでいいわ……私たちは逃げてきただけ。お、お願い……私たちを見逃して、助けて……。」
「ベイル、魔王城から逃げて来たって、あそこで一体何が起きているの!?教えてちょうだい。」
「デステール様が……」
「なんだって!!」
唐突に出てきたデステールの名に、アルエットは思わず声をあげ魔王城を睨めつける。
「デステール様は今朝、正面から城内に侵入し出会った魔族を片っ端から斬っていきました……ほとんどの魔族はそれで死に、なんとか致命傷を免れた私たちは散り散りになりながら魔王城から逃げ出したんです。」
「お兄ちゃんが、魔王城にいるの……?」
「て……敵同士とはいえ、恥を忍んでお願いする。こ、このまま、見逃してはくれないか……?」
「アルエット様、どうしますか?」
ルーグは剣を構えたままアルエットに尋ねる。アルエットは黙ったままベイルを見下ろし、やがて困り顔ではぁとため息をつくと、ベイル達手負いの魔族を無視し通り過ぎた。
「何してるのよ二人とも、モタモタしてると置いていくわよ。」
「わっ、ちょっと待ってくださいよ!アルエット様!」
「……これからバケモノと戦わなきゃならんのに、無駄な体力なんて使ってられないわ。」
「あ、ありがとう……!この恩は決して……ハッ!」
涙を流しながら頭を下げていたベイルは何かを思い出したかのように手を口に当て、俯きもじもじと恥ずかしそうな態度をしている。
「あの……もう一つ、できれば話を聞いて貰えないだろうか?」
「今更一つも二つも変わらないわよ。まあ、手短にね。」
「す、すまない!……もし、魔王城に行くまでに青い肌をした大きな鬼の男を見つけたら、『ベイルは外にいる、お前も早く逃げて郊外の森まで来い』と伝えて欲しいんだ。そいつの名はブルーと言う……厚かましいのは分かっているが、何百年一緒に過ごした大事な連れ合いなんだ。」
何百年一緒、という言葉がアルエットの心に引っかかる。モヤモヤと渦巻く心中をアルエットは頭を掻き回すことで無理やり鎮め、ベイルに言い放った。
「ああもう!魔王を倒すついでに会えたら言っとくわよ!!それでいいわね?」
「ああ……すまない」
ベイルは膝をつきアルエットに頭を下げている。アルエットはそれを振り払うように踵を返し、
「時間を使いすぎたわ。行くよ……アムリス、ルーグ。」
「了解です!」「はいよ。」
そう言って一行は魔王城へと駆け出した。
魔王城から約50メートルほど離れた地点、距離が近付くにつれ遥かに増大する物々しい威圧感に、アルエットは息を呑みながら魔王城を見上げていた。ベイルと別れてからというもの、魔王城から逃げ出す魔族とは全く遭遇しなかった。魔王城から全員逃げ出せたのか……はたまた、全員死んだのか。その真相を知るよりも早く、魔王城の扉がバタンと開いた。
「助けてくれぇ!!!」
3mはあろうかという大男が転がりながら魔王城を飛び出した。這いずりながら進む男にアルエットは思わず駆け寄り、腕を自分の首に回しながら肩を貸すように支え立ち上がる。全身の青い肌を真っ赤に染める流血のせいで少し戸惑うも、アルエットは男に向かって尋ねる。
「貴方が、ブルーかしら?」
「な、なんで俺の名前を……いやとにかく、誰でもいい!助けてくれ、死にたくないんだ!!」
「話はベイルから聞いてる。彼女は郊外の森へと向かったわ!貴方も早く逃げ出しなさいって……」
「そ、そうかアイツの……へ、へへっ、助かっ……」
ブルーがホッとした様子でアルエットを見つめ微笑んだ瞬間、彼の右半身だけがぼとりと崩れ落ちた。
「え……」
命の灯火が目の前で消えた衝撃のあまり、ブルーの体を支えた腕から力が抜ける。残っていた左半身も重力に抵抗することなく、ドチャリと地面に叩きつけられた。ルーグとアムリスはブルーの遺体に目を釘付けにされ、言葉を失っている。アルエットはふつふつと湧き上がる激情を拳ですり潰しながら後方へと振り返り、城門の前に立っている男を睨みつけていた。
「……何をしているの?デステール。」
「露払い……ってとこかな。もうあらかた終わったけど、疲れたねぇ。」
悪びれる様子もなくあっけらかんと言い放つデステール。ジューデスに吹く強風が彼のマントをバタバタとたなびかせていた。
「ありがとう、ここまででいいわ。」
御者にそう言って馬車から降りるアルエット。ルーグとアムリスもアルエットに続く。御者は手綱を繰り来た道を戻って行った。アムリスは馬車を見送り軽く会釈をする。
「いよいよですね……あれが魔王城、ですか。」
「そうね。」
ルーグとアルエットは前方の地平線に聳える仰々しい城を精悍な眼差しで見つめる。
「すみません、お待たせしました。」
馬車が見えなくなるまで頭を下げていたアムリスがアルエット達に合流する。アルエットはにこりと微笑んでアムリスを迎え、魔王城へと歩みを進めていく。
魔王城まであと数百メートルまで迫ったアルエット一行。定期的に襲いかかってくる魔族を撃退しながら、アルエットは首を傾げていた。アルエットの違和感に気付いたルーグは魔族を片付けてアルエットに駆け寄った。
「アルエット様!どうかしたんですか?」
「……正面の敵が続いているわ。それに戦闘のスパンも短くなっている。」
「つまり、魔王に気付かれているってことですか?」
「そうかも……だけど、あれを見てちょうだい。」
アルエットがそう言って前方へ指をさす。ルーグがその先を見ると、手負いの魔物たちが怯えた様子でこちらへと向かってきていた。
「なっ……あれは!一体どういうことなんですか!?」
「分からないわ……さっきから魔王城からの敵よりも後ろの森からの敵の方が強いから妙だと思ったのよ。そしたら……正面からの敵はほぼ全て手負いの魔族でね。魔王城で何かが起きているのは確かだけど、それが何かまでは分からない……。」
アルエットは苦虫を噛み潰したような目で魔族を見つめ、迎撃態勢を整える。ルーグも困惑しながら剣を構え突撃しようとした瞬間、
「ま、待ってくれ!!アタシ達は貴女と戦うつもりはないわ!」
他の魔族を掻き分けながら一人の女魔族が倒れ込みアルエットに懇願する。女魔族の身体には無数の切り傷が刻まれ、額から流れる血が彼女の右目を塗りつぶしていた。すんでのところでルーグの足と剣が止まり、アルエットがルーグを腕で制しながら女魔族に向き合う。
「アルエット様、危険です。」
「大丈夫。ねぇ貴女……戦うつもりはないってどういうことかしら?」
「ベイルでいいわ……私たちは逃げてきただけ。お、お願い……私たちを見逃して、助けて……。」
「ベイル、魔王城から逃げて来たって、あそこで一体何が起きているの!?教えてちょうだい。」
「デステール様が……」
「なんだって!!」
唐突に出てきたデステールの名に、アルエットは思わず声をあげ魔王城を睨めつける。
「デステール様は今朝、正面から城内に侵入し出会った魔族を片っ端から斬っていきました……ほとんどの魔族はそれで死に、なんとか致命傷を免れた私たちは散り散りになりながら魔王城から逃げ出したんです。」
「お兄ちゃんが、魔王城にいるの……?」
「て……敵同士とはいえ、恥を忍んでお願いする。こ、このまま、見逃してはくれないか……?」
「アルエット様、どうしますか?」
ルーグは剣を構えたままアルエットに尋ねる。アルエットは黙ったままベイルを見下ろし、やがて困り顔ではぁとため息をつくと、ベイル達手負いの魔族を無視し通り過ぎた。
「何してるのよ二人とも、モタモタしてると置いていくわよ。」
「わっ、ちょっと待ってくださいよ!アルエット様!」
「……これからバケモノと戦わなきゃならんのに、無駄な体力なんて使ってられないわ。」
「あ、ありがとう……!この恩は決して……ハッ!」
涙を流しながら頭を下げていたベイルは何かを思い出したかのように手を口に当て、俯きもじもじと恥ずかしそうな態度をしている。
「あの……もう一つ、できれば話を聞いて貰えないだろうか?」
「今更一つも二つも変わらないわよ。まあ、手短にね。」
「す、すまない!……もし、魔王城に行くまでに青い肌をした大きな鬼の男を見つけたら、『ベイルは外にいる、お前も早く逃げて郊外の森まで来い』と伝えて欲しいんだ。そいつの名はブルーと言う……厚かましいのは分かっているが、何百年一緒に過ごした大事な連れ合いなんだ。」
何百年一緒、という言葉がアルエットの心に引っかかる。モヤモヤと渦巻く心中をアルエットは頭を掻き回すことで無理やり鎮め、ベイルに言い放った。
「ああもう!魔王を倒すついでに会えたら言っとくわよ!!それでいいわね?」
「ああ……すまない」
ベイルは膝をつきアルエットに頭を下げている。アルエットはそれを振り払うように踵を返し、
「時間を使いすぎたわ。行くよ……アムリス、ルーグ。」
「了解です!」「はいよ。」
そう言って一行は魔王城へと駆け出した。
魔王城から約50メートルほど離れた地点、距離が近付くにつれ遥かに増大する物々しい威圧感に、アルエットは息を呑みながら魔王城を見上げていた。ベイルと別れてからというもの、魔王城から逃げ出す魔族とは全く遭遇しなかった。魔王城から全員逃げ出せたのか……はたまた、全員死んだのか。その真相を知るよりも早く、魔王城の扉がバタンと開いた。
「助けてくれぇ!!!」
3mはあろうかという大男が転がりながら魔王城を飛び出した。這いずりながら進む男にアルエットは思わず駆け寄り、腕を自分の首に回しながら肩を貸すように支え立ち上がる。全身の青い肌を真っ赤に染める流血のせいで少し戸惑うも、アルエットは男に向かって尋ねる。
「貴方が、ブルーかしら?」
「な、なんで俺の名前を……いやとにかく、誰でもいい!助けてくれ、死にたくないんだ!!」
「話はベイルから聞いてる。彼女は郊外の森へと向かったわ!貴方も早く逃げ出しなさいって……」
「そ、そうかアイツの……へ、へへっ、助かっ……」
ブルーがホッとした様子でアルエットを見つめ微笑んだ瞬間、彼の右半身だけがぼとりと崩れ落ちた。
「え……」
命の灯火が目の前で消えた衝撃のあまり、ブルーの体を支えた腕から力が抜ける。残っていた左半身も重力に抵抗することなく、ドチャリと地面に叩きつけられた。ルーグとアムリスはブルーの遺体に目を釘付けにされ、言葉を失っている。アルエットはふつふつと湧き上がる激情を拳ですり潰しながら後方へと振り返り、城門の前に立っている男を睨みつけていた。
「……何をしているの?デステール。」
「露払い……ってとこかな。もうあらかた終わったけど、疲れたねぇ。」
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