要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

イチ力ハチ力

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第一章 幕開け

召喚を要求した者

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「ちょっ!? ちょっと待って!」

 お姫様っぽい人の「魔王倒して勇者様」発言を聞いて、俺と一緒にここに来た奴が慌てて声を上げていた。

「……なんでしょう? 勇者様」

「まずその勇者様ってのを、ちょっと待ってよ。いきなり魔王やら勇者やら言われてもわけがわからないから。ちょっと待って」

 そう言って情けない顔をしながら、勇者君はこちらを向いた。

「とりあえず待ってもらったけど、どうしよう? 痛っ!? 何で叩くんだよ有栖!」

「夢じゃ……なかったか」

「有栖ちゃん……そういう時は、つねるんだよ?」

「塁……ツッコむところそこじゃないから……まず僕の頭をなぜ叩くのかってとこだよ……」

「まぁ、輝石だしそんなもんだろ」

「富東! 君も居たんだ!」

「さっきからいたんだが……あと、もう一人こっちにもいるぞ。えっと……」

柊 白雪ヒイラギシラユキです……今日転校して来ました」

 少し、緊張気味に柊さんは答えていた。

「柊さん、こいつら一応紹介しておくと、この残念イケメンが輝石 洸夜キセキ コウヤ。そっちのメガネの天然女子が御楽 塁ミラク ルイ。反対側の背が高い良い意味でスレンダーな女子が州田 有栖スタ アリスだな。お前ら3人は同じクラスだったよな? 俺はこいつらと一年のとき同じクラスだったんで、一応知っているんだ」

 俺が柊さんに説明してる最中に聞こえる雑音は「残念ってなんだよ!?」「矢那君、流石わかってるね! 天然だよこの自慢の胸は!」「何がいい意味よ! 塁うるさいモグわよ!」「ひぃ!」全てスルー無視だ。

「まぁとりあえず、お互い少しでも知ってる人間がいてよかったな。実際、これは結構テンパる状況だったしな」

 ひとまず知り合いがいたことで、少し落ち着いてきたところを見計らって、再度さっきの女性が話しかけてきた。

「……そろそろよろしいでしょうか? 皆様、突然この世界に召喚され混乱されていると思いますので、私の方からご説明させて頂きます」

 この世界は俺らが住んでいた世界ではなく、リンカークルという世界であり所謂異世界なのだと言う。

 俺たちをこの世界に連れてきた勇者召喚という術は、遥か昔にこの世界を創造した女神が人族に伝えたらしい。

 その勇者召喚をおこなったこの国はジャイノス王国というらしく、目の前の女性はこの国の第一王女セアラ・ジャイノスという正真正銘のお姫様だった。

 俺らが召喚された理由は、「魔王」と呼ばれる存在が復活し世界を瘴気で汚染しようとしている為、そいつを倒して瘴気の侵食を止めて欲しいということだった。

 そこまで聞いて、輝石が顔をしかめながら質問した。

「基本的なことを聞きたいんだけど、それって拒否できるの? 魔王倒せってやつ。あとちゃんと元の世界に帰れるの?」

「魔王討伐を拒否できるかどうかなのですが、元の世界にお戻りになりたいということであれば、どのみち拒否は出来ないということになります」

「どういうこと?」

「世界を覆う瘴気を取り除かないと、送還術によって元の世界に帰って頂くことができないのです」

「「「えっ?」」」

 俺達が、その答えに呆然と固まっているとセアラ王女は説明を続けた。

「勇者召喚は、百年程大地より魔力を魔法陣に蓄積し、その膨大な魔力を用いてこの世界より上位世界に住む方をこちらの世界に肉体ごとお越し頂く術です。そして勇者様は召喚術によって世界の壁を越える際に膨大な魔力を得ているはずですが、送還術はその力を使用することで元の世界に勇者様を送り帰す術と伝えられています」

「それなら!……それなら今すぐにでも、その私たちにあるっていう力をつかって帰れるんじゃないの!?」

 洲田が、そうであってくれと言わんばかりに叫ぶ。

「本来はそうなのですが……瘴気がそれを阻むのです。召喚は上位の世界にこちらの世界から『呼びかけ』、そして下位の世界に『落ちて』頂く術。その世界を『下る』力は凄まじく、瘴気の壁を超える事が出来ると考えられております」

 王女は一呼吸置いて、口を開いた。

「そして、送還術は、その召喚の際に作られた世界を繋ぐ道をそのまま戻って頂くことで、元いた世界の召喚された際の時間と場所に戻るそうです。ですが……瘴気がその道を塞いでしまうのです。上位の世界に『上る』際に、瘴気の壁を超えるだけの力は『下り』と違い、生み出す事はできません」

「そんな……」

 洲田がそれを聞いて、その場に腰を落としてへたり込んでしまい、それを見た御楽が優しく抱きしめている。

 一瞬の静けさがあったところで、俺が話を引き継いだ。

「さっき魔王が『復活』したと言っていたけど、これまでもこんなことが繰り返されているのか?」

「はい。いつの頃からか分かりませんが、古い時代に四体の魔王が現れ、瘴気をこの世界に広め始めたと伝わっております。その際に女神様から勇者召喚及び送還術が、人族に伝えられたとされております。その時、召喚された勇者様によって魔王は討伐されたのですが、約百年後に復活してしまいました。その際にまずこの世界の英雄達が戦いを挑みましたが力及ばず、結局最後に勇者召喚に頼り魔王を再度討伐しました。しかし、また約百年の後に魔王は復活しました。結局魔王は倒しても百年で復活を繰り返し、その度に勇者召喚もまた繰り返されているのです」

「毎回召喚された勇者は、魔王に勝てているのか?」

「……いえ、必ずしもそうではありません。勇者召喚で召喚される勇者様の人数はばらつきがあるのです。中にはお一人ということもありました。魔王は四体おります。全てを倒しきれず志半ばにということもあります。」

「勇者が負けた場合どうなるんだ?」

「次の勇者召喚が行えるまで、瘴気による世界の侵食が広がっていきます。瘴気に汚染された魔物は力が増し凶暴さが増します。その間も、この世界の英雄も魔王討伐に向かいますが、勇者抜きに魔王が討伐された記録は……ありません。魔王が倒されるまで、世界の瘴気の侵食は止まりません。その為、これまでに多くの国が滅びました。人族の国はここジャイノス王国、スーネリア騎士国、迷宮都市国家デキスのみとなっております」

「魔王を復活しないように倒す方法はないのか? それに勇者が勝った時は瘴気に既に侵食されている場所はどうなるんだ?」

「復活させずに完全に倒す方法があるのか分かっておりません。魔王が倒れると世界の境界を塞ぐ瘴気は消失しますが、既に侵食された大地は浄化されません」

(この世界って既に詰んでないか? 魔王に勝っても現状維持で、負けたら侵食が広がるって……)

 少し考え込んでいるときに、少し落ち着きを取り戻した輝石が口を開いた。

「話が脱線してるよ富東。結局元の世界に帰る方法は一つで、それは魔王を倒すしかないということだよね?」

「はい、その通りです」

「でも、僕らがいた世界は魔物なんてものはいない世界だったし、住んでいた国も平和な国だったから戦いなんて、全く知らないよ?」

「これまでの勇者様も例外なく魔物はいなかった世界からの召喚だったそうです。文献によれば全ての召喚者は『チキュウ』というところから召喚された様です」

「え! そうなの!?」

(地球人拉致られ過ぎだろ…)

「これまで召喚された勇者様は、召喚された時には既に非常に強力な『ジョブ』を取得しておりました。そのため鍛錬を重ねていくにつれ、この世界の戦士とは隔絶した強さを得ることが出来、最後には多くの勇者が魔王討伐に成功したと伝えられております」

「ジョブ?」

「この世界の人間は、ジョブというものを取得することで戦う力や高い技術を得ています。戦う為の代表的なジョブでいえば、戦士や剣士、魔法士、癒士などでしょうか。ジョブを得ることで、ジョブに応じたスキルを得ることが出来ます。そして先程申し上げた様に、召喚された勇者様の多くは非常に強力なジョブを既に得ている場合が殆どなのです。また『召喚されし勇者』という称号も勇者召喚の際に得ている筈です。この『勇者』の称号は女神様からの御加護の証だとされております」

(ジョブにスキルって…本当にゲームみたいだな。鍛錬して強くなるってことは、ゲームでいうとこのレベル上げみたいもんだろうか?)

「本当に私たちはその『召喚されし勇者』なの? 本当にその強いジョブを持ってるの?」

 まだ少し強張った顔で洲田が尋ねた。

「こちらのプレートを持ちながら『ステータスオープン』と唱えてください。そのプレートにご自身の情報が映し出されます。写っている情報は、ご自身が許可しなければ、他人からは見ることが出来ません」

 セアラ王女の後ろに控えていたメイドさんみたいな格好をした女性が、手の平サイズの透明なプレートを俺たちに配った。

(はは……完全にゲームだな。それに本当に一人じゃなくてよかった、流石に高二にもなって人前で『ステータスオープン』はないよなぁ……)

「「「「「ステータスオープン」」」」」

 取り敢えず俺たちは言われるがままに、ステータスオープンと唱え自分のプレートを確認した。すぐさまプレートが淡く光出し、画面に文字が浮き出てきた。

 -------------------------------------
 ヤナ・フトウ 

 17歳

 状態:
 正常

 ジョブ:
 冒険者Lv.1

 称号: 
 召喚を要求した者

 スキル:
 不撓不屈折れない心
 言語/文字理解(発動)
 -------------------------------------

 そして俺のプレートに、『勇者』の文字は無かった。
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