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第二章 錬磨
二本は浪漫
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アメノ爺さんが、俺を置いて塔に戻っていった後も、俺はゆっくりではあるが塔の前の広場をぐるりと周回していた。側から見ると、水中ウォーキングするぐらいの速さなのではなかろうかという速度で走っていたが、物凄い必死だ。
意地でも倒れるものかと、身体を襲う激烈な重さに反発する様に一歩一歩進んでいると、やっと朝飯の時間になったのかアメノ爺さんが呼びに来た。すでに日は、完全に登っていた。
「ほほう、結局押し潰される事なく歩き続けおったか」
「そらそうだ……こんな腕輪に……何ぞに負けてたまるかよ……ぐぎぎ……走り続けたぞ、フハハハ!……ぐはっ!」
「分かった分かった、よく走り続けたのぉ。腕輪に負かされるのをそこまで嫌がるとは、ヤナ殿は相当な負けず嫌いじゃのぉ。では、朝飯の準備が出来たでの食べに行くかの」
アメノ爺さんについて行こうと動き出した所で、突然頭の中に声が響いた。
【『身体強化』を取得しました】
いきなり頭に声が響いた。しかし何事かと考えている間にも、すたすたと歩いていくアメノ爺さんの後ろを追いかける為に、全力で走っているうちに、さっきの頭の中に聞こえたアナウンスの様な声の事を忘れてしまった。
食堂には、塔の外を警護する兵の人達も何人も食事をしていた。俺の姿を見て、憐れみの目線を向けている気がしたが、全力でスルーした。
食事は配膳口のところに並んで、その日の食事を貰うのだが、これがまた辛かった。
「あらぁヤナちゃんおはよん! 朝から頑張ってたわねぇん! 強くなるには、運動した後の食事をモリモリ食べなきゃね!」
朝からクックルさんの見た目とキャラのギャップに既に胸焼けしながら、物理的に「えっ? 朝飯だよね?」という料理の量が俺のお盆に乗せられる。
「御残ししたら、お仕置きよ!」
ここにこそ、負けられない戦いがあった…。
何とか席まで大盛りの朝食を持って行き、負けられない戦いをしていると、周りを見ると同じく負けられない戦いをしている同志を見つけた。お互いの目が合い、この時名前も知らない相手との固い絆を確認した。
「ふぉっふぉっふぉっ。若い兵は特にしっかり食べて身体を大きくせねばならぬからのしっかり食べるのじゃぞ。食べ終わったら、ヤナ殿は外でまた鍛錬じゃてな。儂は先にいっておるでの。ご馳走様」
朝食は確かに大盛りで一見厳しそうに見えたが、食べて見ると驚くほど旨かった。肉も柔らかく、言われなければ魔物とは全く思えなかった。
「ぐぬぉお……この腕輪さえ外せれば……もっと食事を楽し……めたのに……あの爺ぃ……俺を金髪の戦士にでも……するつもりかよ」
何とか腕輪の力と戦いながら、負けられない戦いを終えて、あの若い兵士とお互いの健闘を讃えた後、アメノ爺さんが待つ塔の前の広場に出た。
「ふぉっふぉっふぉっ、お仕置きは受けなくて済んだ様だの。結構結構」
「何だかんだと……旨かったしな……それに何でお仕置きされて……無いと……ぐぬぬ……わかったんだ……?」
「お仕置きされた若い兵士の顔にはのぉ……クックルの唇の痕が付いておるでの……何処についておるかわ……聞かぬ方が良いじゃろ」
絶対に俺は負けないと、固く心に誓ったのだった。
「どうじゃ、身体は少しは慣れたかの?」
「いや……全く……辛いまま……」
何とか会話をしているが、言葉遣いまで気を使う余裕はなくなっていた。それをアメノ爺さんに伝えると、良い良いと笑っていた。
「冒険者ギルドは荒くれ者が多く集まる所じゃてな。それぐらいの態度ぐらいが丁度ええわい。それにヤナ殿は女神様の使徒様じゃからの。言葉遣いぐらい気にしなくていいわい。年上を敬ってくれるのは嬉しいが、正直な所としては王より身分としては上であると言って良いからの」
「そうか……なら、すまないけどこのままで……よろしく……で、スキル……のことを教えてくれ」
「ではまず、今のステータスの確認からじゃな。このプレートに自身のステータスを映して確認してみなされ」
「ステータス……オープン!」
-------------------------------------
ヤナ・フトウ
17歳
状態:
豪傑殺しの腕輪【発動】
ジョブ:
冒険者Lv.1
称号:
召喚を要求した者
スキル:
不撓不屈【発動】
言語/文字理解【発動】
身体強化(小)【発動】
-------------------------------------
召喚直後に見たステータスプレートと、俺の記憶が確かなら少し変わっていた。
「召喚直後に見たとき……には……不撓不屈と言うスキルは発動して……いなかった。あと新しく身体強化(小)が……表記されて、しかも発動してる」
「ふむ。それだけの負荷をかけられながら倒れないのは、その『不撓不屈』というスキルが発動しておる為かもしれんの。それに、早くも新しいスキルを覚えおったか。早速、腕輪の効果があったみたいだの」
この鍛錬の腕輪は、正式には豪傑殺しの腕輪と言うらしく、豪傑でもこの腕輪を装備すると身体にかかる負荷に耐えられずに地に倒れ臥すというのが名前の由来らしい。俺みたいな一般人がそんな負荷を掛けられたら、立っていられる訳がない為、考えられるのは『不撓不屈』が何かしてくれているのだろう。
「スキルの使い方はの、誰かから説明してもらう訳ではないのじゃ。自ら理解を深めて行かなければ、十全に使いこなせないのじゃよ。そして新しいスキルの身に着け方じゃが、スキルはジョブのレベルを上げると自動的に得るものと、鍛錬によって得るものがあるのじゃ」
新しくステータスプレートに表記されていた『身体強化(小)』は鍛錬によって取得したらしい。なにせ俺のジョブはまだ冒険者Lv.1だからね!
「朝飯食いに行く途中で頭の中に……『身体強化』を取得しましたって声が聞こえたんだが……それのこと……か?」
「そうじゃの。本来自己鍛錬によるスキルの取得は、相当な鍛錬を積まねば取得が困難なのじゃが、豪傑殺しの腕輪に対抗していること自体が相当な鍛錬じゃての」
「いきなり……相当な鍛錬レベルの事をさせるなよ……でも『身体強化(小)』発動してるのに……全く楽にならんのだけど……?」
「そら、そうじゃろう。何せ豪傑殺しの腕輪は、装備している者『現時点』の能力に合わせて負荷をかけて来よるからのぉ。身体強化した分、負荷も上がっておるし、鍛えられた筋力分だけやはり上乗せで負荷を増えるからの」
つまり、この腕輪をつけている限り、筋力が増えても『身体強化』をしても楽になる事はないと言うことらしい。
「力つけた分だけ負荷もまた増えるんじゃ……いくら豪傑でもこれつけてりゃいつかは倒れるわな……」
「儂がつけておる鍛錬の腕輪は、ちゃんと負荷が調節できるんだがのぉ。豪傑殺しの腕輪はのぉ……御察しの通りで、耐えたら耐えただけ、負荷が増え続けるのぉ。まぁその分耐えたら耐えただけ身体強化のスキルや、それをつけた状態で動けば素の身体の能力値も増えるで良かろうて」
身体強化のスキルを使用しても、元となる素の身体の能力値が低いとあまり意味が無いらしい。豪傑殺しの腕輪に関してなんだか言いくるめられた気がしないでもなかったが、実際スキルを取得出来たし良しとした。
「しかし、大分腕輪をつけていても普通に喋れるようになってきたのぉ。辛いのは変わらんじゃろうに」
「……意地と根性だ」
「ふぉっふぉっふぉっ、若くていいのぉ」
和かに笑っているアメノ爺さんに、腕輪を外したら絶対殴ってやると再び固く誓っていると、アメノ爺さんが幾つか武器を俺の目の前に置いた。刀やら槍、弓、大剣等の他にも使い方がよく分からない物もあった。
「一ヶ月しかないからのぉ、武器もあれやこれやと手を出すわけにもいかぬしの。先ずはヤナ殿の感性で良いから、この中から一番性に合いそうな物を直感で選びなされ」
一通り手に取ったりしてみた結果、大太刀を選んだ。俺の直感がこいつだと言っている。単純に大太刀ってカッコいいじゃん! と思ったわけでは無いったら無い。ホントダヨ?
「ふむ大太刀かの。儂の得物でもあるし、教える方としては助かるの。儂は二刀扱うが、どうするかの?」
「一本の太刀も使ったことないのに……いきなり二本なんて大丈夫なのか?」
「ヤナ殿の世界がどのように鍛錬するか知らんのでなんとも言えがの、こちらの世界はスキルを覚えることこそが大事なのじゃ。スキルを取得できれば、格段に武器の扱いが上達するでの。そしてスキルは対象の行為を鍛錬しないと取得できんのじゃよ。よって二刀を扱っている状態でないと『二刀流』は取得出来んのじゃ」
「……二刀流……なんて浪漫な響きだ……」
「何か言ったかの?」
「いや! なんでもない……二刀でいく」
俺は右手に大太刀を、左手にも大太刀を持った。腕輪の所為で俺の表情は常に苦しそうな顔をしているが、この時ばかりは自然にニヤけてしまった。俺がニヤニヤしていると、アメノ爺さんが何故か両手に大太刀を持ち、切っ先を正面で交差させた状態で俺の前で構えていた。
「……何をするつもり……だ?」
「武器も決まったし、戦い方も決まったしの。あとは、実践のみじゃろ?」
「はい?……基本とか型とかは?」
「ヤナ殿は、別に剣術家になる訳じゃなかろう? 冒険者としての強さが、これから必要なのじゃしの」
「冒険者としての……強さ?」
「冒険者で大事なことは、先ずは生き抜くことじゃ。まぁ儂の弟子になり剣術家になるなら別じゃが、ヤナ殿は我流でええじゃろ。まぁ、儂と闘い続ければ、『二刀流』のスキルも取得し易いじゃろ。豪傑殺しの腕輪と同じでの、スキルは自分を過酷な状況に追い込みながら鍛錬をすると、早く取得しやすいでの」
「………」
「安心せい、最初は峰打ちじゃ。では、いくぞい!」
「そんなもん殴られたら、峰打ちでも十分死ねるわ! ぐべぇ! ぐぎゃ!」
そして、昼まで峰打ちで殴られ続けた。
「……腕輪も付けた……ままだったのに……絶対……あの爺ぃ……ぶん殴る……」
昼食が出来たということで、アメノ爺さんの鍛錬は終わり、食堂に向かった。
そしてまた、負けられない戦いが始まった。
意地でも倒れるものかと、身体を襲う激烈な重さに反発する様に一歩一歩進んでいると、やっと朝飯の時間になったのかアメノ爺さんが呼びに来た。すでに日は、完全に登っていた。
「ほほう、結局押し潰される事なく歩き続けおったか」
「そらそうだ……こんな腕輪に……何ぞに負けてたまるかよ……ぐぎぎ……走り続けたぞ、フハハハ!……ぐはっ!」
「分かった分かった、よく走り続けたのぉ。腕輪に負かされるのをそこまで嫌がるとは、ヤナ殿は相当な負けず嫌いじゃのぉ。では、朝飯の準備が出来たでの食べに行くかの」
アメノ爺さんについて行こうと動き出した所で、突然頭の中に声が響いた。
【『身体強化』を取得しました】
いきなり頭に声が響いた。しかし何事かと考えている間にも、すたすたと歩いていくアメノ爺さんの後ろを追いかける為に、全力で走っているうちに、さっきの頭の中に聞こえたアナウンスの様な声の事を忘れてしまった。
食堂には、塔の外を警護する兵の人達も何人も食事をしていた。俺の姿を見て、憐れみの目線を向けている気がしたが、全力でスルーした。
食事は配膳口のところに並んで、その日の食事を貰うのだが、これがまた辛かった。
「あらぁヤナちゃんおはよん! 朝から頑張ってたわねぇん! 強くなるには、運動した後の食事をモリモリ食べなきゃね!」
朝からクックルさんの見た目とキャラのギャップに既に胸焼けしながら、物理的に「えっ? 朝飯だよね?」という料理の量が俺のお盆に乗せられる。
「御残ししたら、お仕置きよ!」
ここにこそ、負けられない戦いがあった…。
何とか席まで大盛りの朝食を持って行き、負けられない戦いをしていると、周りを見ると同じく負けられない戦いをしている同志を見つけた。お互いの目が合い、この時名前も知らない相手との固い絆を確認した。
「ふぉっふぉっふぉっ。若い兵は特にしっかり食べて身体を大きくせねばならぬからのしっかり食べるのじゃぞ。食べ終わったら、ヤナ殿は外でまた鍛錬じゃてな。儂は先にいっておるでの。ご馳走様」
朝食は確かに大盛りで一見厳しそうに見えたが、食べて見ると驚くほど旨かった。肉も柔らかく、言われなければ魔物とは全く思えなかった。
「ぐぬぉお……この腕輪さえ外せれば……もっと食事を楽し……めたのに……あの爺ぃ……俺を金髪の戦士にでも……するつもりかよ」
何とか腕輪の力と戦いながら、負けられない戦いを終えて、あの若い兵士とお互いの健闘を讃えた後、アメノ爺さんが待つ塔の前の広場に出た。
「ふぉっふぉっふぉっ、お仕置きは受けなくて済んだ様だの。結構結構」
「何だかんだと……旨かったしな……それに何でお仕置きされて……無いと……ぐぬぬ……わかったんだ……?」
「お仕置きされた若い兵士の顔にはのぉ……クックルの唇の痕が付いておるでの……何処についておるかわ……聞かぬ方が良いじゃろ」
絶対に俺は負けないと、固く心に誓ったのだった。
「どうじゃ、身体は少しは慣れたかの?」
「いや……全く……辛いまま……」
何とか会話をしているが、言葉遣いまで気を使う余裕はなくなっていた。それをアメノ爺さんに伝えると、良い良いと笑っていた。
「冒険者ギルドは荒くれ者が多く集まる所じゃてな。それぐらいの態度ぐらいが丁度ええわい。それにヤナ殿は女神様の使徒様じゃからの。言葉遣いぐらい気にしなくていいわい。年上を敬ってくれるのは嬉しいが、正直な所としては王より身分としては上であると言って良いからの」
「そうか……なら、すまないけどこのままで……よろしく……で、スキル……のことを教えてくれ」
「ではまず、今のステータスの確認からじゃな。このプレートに自身のステータスを映して確認してみなされ」
「ステータス……オープン!」
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ヤナ・フトウ
17歳
状態:
豪傑殺しの腕輪【発動】
ジョブ:
冒険者Lv.1
称号:
召喚を要求した者
スキル:
不撓不屈【発動】
言語/文字理解【発動】
身体強化(小)【発動】
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召喚直後に見たステータスプレートと、俺の記憶が確かなら少し変わっていた。
「召喚直後に見たとき……には……不撓不屈と言うスキルは発動して……いなかった。あと新しく身体強化(小)が……表記されて、しかも発動してる」
「ふむ。それだけの負荷をかけられながら倒れないのは、その『不撓不屈』というスキルが発動しておる為かもしれんの。それに、早くも新しいスキルを覚えおったか。早速、腕輪の効果があったみたいだの」
この鍛錬の腕輪は、正式には豪傑殺しの腕輪と言うらしく、豪傑でもこの腕輪を装備すると身体にかかる負荷に耐えられずに地に倒れ臥すというのが名前の由来らしい。俺みたいな一般人がそんな負荷を掛けられたら、立っていられる訳がない為、考えられるのは『不撓不屈』が何かしてくれているのだろう。
「スキルの使い方はの、誰かから説明してもらう訳ではないのじゃ。自ら理解を深めて行かなければ、十全に使いこなせないのじゃよ。そして新しいスキルの身に着け方じゃが、スキルはジョブのレベルを上げると自動的に得るものと、鍛錬によって得るものがあるのじゃ」
新しくステータスプレートに表記されていた『身体強化(小)』は鍛錬によって取得したらしい。なにせ俺のジョブはまだ冒険者Lv.1だからね!
「朝飯食いに行く途中で頭の中に……『身体強化』を取得しましたって声が聞こえたんだが……それのこと……か?」
「そうじゃの。本来自己鍛錬によるスキルの取得は、相当な鍛錬を積まねば取得が困難なのじゃが、豪傑殺しの腕輪に対抗していること自体が相当な鍛錬じゃての」
「いきなり……相当な鍛錬レベルの事をさせるなよ……でも『身体強化(小)』発動してるのに……全く楽にならんのだけど……?」
「そら、そうじゃろう。何せ豪傑殺しの腕輪は、装備している者『現時点』の能力に合わせて負荷をかけて来よるからのぉ。身体強化した分、負荷も上がっておるし、鍛えられた筋力分だけやはり上乗せで負荷を増えるからの」
つまり、この腕輪をつけている限り、筋力が増えても『身体強化』をしても楽になる事はないと言うことらしい。
「力つけた分だけ負荷もまた増えるんじゃ……いくら豪傑でもこれつけてりゃいつかは倒れるわな……」
「儂がつけておる鍛錬の腕輪は、ちゃんと負荷が調節できるんだがのぉ。豪傑殺しの腕輪はのぉ……御察しの通りで、耐えたら耐えただけ、負荷が増え続けるのぉ。まぁその分耐えたら耐えただけ身体強化のスキルや、それをつけた状態で動けば素の身体の能力値も増えるで良かろうて」
身体強化のスキルを使用しても、元となる素の身体の能力値が低いとあまり意味が無いらしい。豪傑殺しの腕輪に関してなんだか言いくるめられた気がしないでもなかったが、実際スキルを取得出来たし良しとした。
「しかし、大分腕輪をつけていても普通に喋れるようになってきたのぉ。辛いのは変わらんじゃろうに」
「……意地と根性だ」
「ふぉっふぉっふぉっ、若くていいのぉ」
和かに笑っているアメノ爺さんに、腕輪を外したら絶対殴ってやると再び固く誓っていると、アメノ爺さんが幾つか武器を俺の目の前に置いた。刀やら槍、弓、大剣等の他にも使い方がよく分からない物もあった。
「一ヶ月しかないからのぉ、武器もあれやこれやと手を出すわけにもいかぬしの。先ずはヤナ殿の感性で良いから、この中から一番性に合いそうな物を直感で選びなされ」
一通り手に取ったりしてみた結果、大太刀を選んだ。俺の直感がこいつだと言っている。単純に大太刀ってカッコいいじゃん! と思ったわけでは無いったら無い。ホントダヨ?
「ふむ大太刀かの。儂の得物でもあるし、教える方としては助かるの。儂は二刀扱うが、どうするかの?」
「一本の太刀も使ったことないのに……いきなり二本なんて大丈夫なのか?」
「ヤナ殿の世界がどのように鍛錬するか知らんのでなんとも言えがの、こちらの世界はスキルを覚えることこそが大事なのじゃ。スキルを取得できれば、格段に武器の扱いが上達するでの。そしてスキルは対象の行為を鍛錬しないと取得できんのじゃよ。よって二刀を扱っている状態でないと『二刀流』は取得出来んのじゃ」
「……二刀流……なんて浪漫な響きだ……」
「何か言ったかの?」
「いや! なんでもない……二刀でいく」
俺は右手に大太刀を、左手にも大太刀を持った。腕輪の所為で俺の表情は常に苦しそうな顔をしているが、この時ばかりは自然にニヤけてしまった。俺がニヤニヤしていると、アメノ爺さんが何故か両手に大太刀を持ち、切っ先を正面で交差させた状態で俺の前で構えていた。
「……何をするつもり……だ?」
「武器も決まったし、戦い方も決まったしの。あとは、実践のみじゃろ?」
「はい?……基本とか型とかは?」
「ヤナ殿は、別に剣術家になる訳じゃなかろう? 冒険者としての強さが、これから必要なのじゃしの」
「冒険者としての……強さ?」
「冒険者で大事なことは、先ずは生き抜くことじゃ。まぁ儂の弟子になり剣術家になるなら別じゃが、ヤナ殿は我流でええじゃろ。まぁ、儂と闘い続ければ、『二刀流』のスキルも取得し易いじゃろ。豪傑殺しの腕輪と同じでの、スキルは自分を過酷な状況に追い込みながら鍛錬をすると、早く取得しやすいでの」
「………」
「安心せい、最初は峰打ちじゃ。では、いくぞい!」
「そんなもん殴られたら、峰打ちでも十分死ねるわ! ぐべぇ! ぐぎゃ!」
そして、昼まで峰打ちで殴られ続けた。
「……腕輪も付けた……ままだったのに……絶対……あの爺ぃ……ぶん殴る……」
昼食が出来たということで、アメノ爺さんの鍛錬は終わり、食堂に向かった。
そしてまた、負けられない戦いが始まった。
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