要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

イチ力ハチ力

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第二章 錬磨

その男は屈しない

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 負けられない戦い特盛りの昼飯を制したところでエイダさんに呼ばれ、塔の前の広場に出た。

「午後からは先ず、私がヤナ様に魔法と魔道具の基礎について、指導させて頂きます。よろしくお願い致します」

 丁寧かつ綺麗にエイダさんは、お辞儀をしていた。

「こちらこそ……よろしくお願いします」

「お辛そうですが、アメノとの鍛錬はそんなに大変でしたか?」

「鍛錬はアメノ爺さんにボコボコにされましたが……それより今はこの呪われた腕輪が……大変で……」

「それは豪傑殺しの腕輪……その腕輪を装備してて、よく今もまだ無事ですね。見た目以上に丈夫タフな方なのですね、ヤナ様は」

 腕輪を見て一瞬エイダさんは目を見開き「それにしても、呪いって……アメノはまったく」と呟いていたが、結局呪いに関してはスルー無視するらしい。助けてよエイダさん。

「俺がと言うより、俺のスキルが…何とかしてるみたい……『不撓不屈折れない心』が、豪傑殺しの腕輪の力に耐えさせてくれてる……ような気がする」

「私も聞いた事ないスキルなので、ヤナ様自身で把握して行くしかないですね。それにしても豪傑殺しの腕輪に抗うことが可能とは凄いですね……それなら、アレもいけるかしら……」

 エイダさんが、後半不穏な呟きをしていたが常識人っぽい人に見えるし大丈夫だろうと、この時油断していた事を後で激しく後悔した。

「先ず魔法と魔道具に関して、簡単に御説明致します。魔法も魔道具も魔力を使用するのは同じです。では魔法と魔道具何が違うかと言いますと、魔法は発動者が使用する魔力を自分の意思で操らなければならず、魔道具は魔道具に埋め込まれた魔石に刻まれた魔法陣が発動者の魔力を自動的に消費し発動させる点です」

「……なるほど……だから風呂場でまだ魔力とか全くわからないのに浄化クリーンが使えたのか……あと腕輪が辛いので喋り方が荒くなる……悪い」

「お気遣いなさらず結構です。浄化クリーン等の魔道具は、城内にも多く設置してあるので、分かりやすいかと思われます。魔道具は発動の為の魔力量を使用者が保持していれば、誰が使用しても同じ効果が毎回得られます。それに対して魔法の威力は、本人の制御次第となります」

 魔道具は自動オート、魔法は手動マニュアル操作ってな感じなんだろう。そして魔法を発現させるには、まず魔力を感じないといけないらしい。そんな事出来るのかと思ったが、身体を巡るエネルギーみたいなものと言われ意識すると割とすぐ分かった。

「スキルも魔力をつかっていますので、ヤナ様は今もスキルを発動中ですから分かりやすかったのだと思います」

 呪いの腕輪豪傑殺しの腕輪のおかげというのが、釈然としないが魔力を感じる事が出来たし良しとする。

「次に魔法の属性についてです。属性は火水土風光闇が基本属性として存在します。複合属性として、雷や氷などと言った物もありますが、複合属性を使用するには、かなりの鍛錬と才覚が必要になります。今回は一ヶ月と短い期間ですので、比較的習得が容易で且つ鍛錬次第で火力が出やすい火属性魔法の基礎を鍛錬し『火魔法』というスキル取得を目指しましょう」

「火魔法で構わない……どうしたらいい?」

「先ず『点火イグニッション』を使い指先に火を灯して見ましょう。では、よく私の指先を見ていてください」

 じっとエイダさんの一本立てた人差し指を見ていると、エイダさんが詠唱した。

「我に灯火を『点火イグニッション』!」

「おお! まるで魔法みたいだ!……うん、魔法だった……」

 ワクワクしながら、俺もいざ初魔法だと意気込んでいたものの、その前にエイダさんに聞かないといけない事があった。

「その……詠唱って必要?」

「私は『詠唱省略』のスキルを持っているので、実は簡単な魔法なら詠唱無しで発動できます。今のはお見本だったので、詠唱もしましたが、まだ初心者のヤナ様は詠唱が必要でしょう。何か問題が?」

「……いや、問題はない……ここは異世界ここは異世界! 断じて、俺は中二病ではない! 行くぞ!」

 自分に言い聞かせて詠唱付きの魔法を唱える。

「わ、我に灯火を『点火イグニッション』!」

 詠唱を唱え魔法を発動する言葉キーワードを唱える事で魔法を使えると説明を受けたが、自分自身で使えるかどうかは半信半疑だったのだろう。その為、指先に火が灯った瞬間テンションが上がってしまった。

「うぉお! 火が付いた! なのに指先熱くない! 感動だ! これが……魔法!」

「そう、それが魔法なのです。この指輪を装備するともっと魔法を使うのが上手くなりますよ? 今なら無料でお渡し出来ますが、どうしますか?」

 俺は魔法なんて非科学的な物を使った事で、警戒心よりも感動が上回っており、すぐさまその指輪を受け取った。

「もっと魔法上手くなりたい! しかも無料だと! 是非に! ありがとう! これを指に装備すればいいのか!」

 なんてこの時の俺は、単純だったのだろう。後から思うとこの性悪・・メイドが渡す物に警戒しなかったなどと、なんて馬鹿なことをしたのだろう。

「……うげぇええ! 気持ち……が……悪い……頭痛い……これは……なんだ?」

「それは、魔導師殺しの指輪でございます。その指輪から体内の魔力が垂れ流しの状態になり、すぐに魔力枯渇状態になってしまう代物です。因みに魔力枯渇状態になると今の状態の様に、倦怠感や頭痛等の症状が出て、最後は気絶します」

「なんつぅ物をさらっと渡してくれやがって……さっさと外し……外し……外れない?」

「その指輪は、神官様でないと外せませんよ?」

「あんたもかよ! 鍛錬に呪いの装備とか! ねぇ? 俺嫌われてる!? 何かした!? うげぇええ……頭痛ぇ……ぐぬぬぬ……身体重てぇ……」

「これも鍛錬ですよ、ヤナ様。魔力は限界まで使うと魔力量が増えます。更にこの魔力が非常に少ない状況で魔法を使うことにより、魔法制御即ち消費魔力を抑えることが出来るようになる……かもしれません。なんと、お得なのでしょう。特にヤナ様は魔力量が凡人レベルですからね、これくらいしないとお強くなれませんよ。さぁ、点火イグニッションを唱えましょう。普通は気絶して倒れるでしょうが、きっと不撓不屈折れない心が何とかしてくれますよ……多分。さぁ、鍛錬ですよヤナ様」

「こいつもスパルタ脳筋かよ! チクショウ!……おぇええ……覚えてやがれ絶対あんたも殴ってやる……うげぇええ」

 点火イグニッションを唱えると、物凄い頭痛と共に意識が飛び掛けるがやはり、倒れさせてはくれないらしい。

「ぜぇぜぇ……こうなったら絶対倒れてなんかやるもんか……耐え抜いて、こいつら二人に……目にもの見せてやる……ぐぎぎぎ」

 アメノ爺さんとの組手サンドバックとは違う地獄味わった。ひたすら点火イグニッションを唱えるという何ともはたから見ると地味に地獄な鍛錬を続け、クックルさんが俺を迎えに来たのは、体感時間で約三時間程たったときだった。頭の中にスキル取得のアナウンスが流れた。

【魔力回復を取得しました】
【魔力制御を取得しました】

「もうスキルを取得しちまった……どんだけ地獄モードなんだよ……しかも火魔法のスキルは取得できてないし……」

 スキルを取得できた事の嬉しさよりも、短時間でスキルを取得できたこの状況を嘆いていると、同情の目でクックルさんが俺を見ていた。

「案外、エイダも武闘派だからねぇ。ヤナちゃんやさぐれちゃだめよ!? 癒しが欲しい時は私の所にいらっしゃいね!」

「……その場所が一番の地獄なのでは……?」

「何か言ったかしらん? お仕置き欲しいのかしら?」

「何にも……言って……ません」

 そう何も言えるはずがない。お仕置き本物の地獄は絶対に回避すべきなのだから。

「さて、私は薬草の採取と魔物の討伐に関してだったわね。」

「……俺は何も貰わないし……装備もしないぞ!」

「何も装備なんてさせないわよ……怯えちゃって、可哀想に……本当は、城の外で実際に薬草系の採取や魔物を実際に討伐すると手っ取り早いのだけど、それは出来ないから私とは座学ね」

 なんとクックルさんは、俺に何も装備させないし、身体もつかわないらしい。座学ならまだ楽出来そうで助かった。と、思っていた時もありました。

 なぜか座学だというのに、そのまま塔の前の広場から動かなかった時に気付くべきだった。この人も、見た目通りの脳筋だと。

「ただ話を聞くだけじゃ、時間が勿体無いから、エイダの鍛錬をしながらやりましょう」

「……はい?……結構頭痛くなったりして、聞くのに集中出来ないんだけど……」

 豪傑殺しの腕輪と魔導師殺しの指輪のダブルの効果で、最悪の状態なのだ。

「丁度いいわよ。著しく集中が困難な中で、集中する鍛錬をすると『集中』というスキルが身に付き易いのよ。『集中』を取得出来ると、僅かな変化にも気付けるようになるから、薬草の僅かな種類の見分け方や魔物の弱点や動きにも対応し易くなるわ。『集中』はそのまま鍛錬すればもしかしたら『気配察知』に変わるかもしれないしね」

「でも、中々分かっていてもスキルを取得するような集中なんて……」

「座学の内容を、終わるときにテストするわね。満点じゃなかったら……お仕置きよん」

 最悪のコンディションでありながら、最高の集中力でクックルさんの薬草採取の方法や薬草の種類の見分け方、魔物の種類の違いによる討伐方法を必死に覚えた。恐らくこれまで、生きて来た中で一番の集中にに違いない。

【集中を取得しました】

「俺がんばったよぉおお!」

「チェッ」

 座学の内容は満点でお仕置きは回避出来た。クックルさんの方から舌打ちが聞こえたような気がしたが、聞こえなかった事に記憶を改ざんした。

「毎日こんな感じでいくわね。今日はがんばったから、夕食は特に気合い入れて盛って上げるから楽しみにしててね!」

 そう笑顔で去っていくクックルさんを見送って、ふと気付く。

「夕食はセアラとだったよな?……お構いなしだよな、きっと量とか……残したらお仕置きとかも……絶対あるな」

 結局最後まで負けられない戦い特盛夕食完食必須が、そこにあった。
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