要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

イチ力ハチ力

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第二章 錬磨

冒険は終わらない

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「ルイ……あの数の魔法が、同時に放たれたとして……防ぐ術はあるか?」

「わぁ……綺麗だねぇ……まるで星空が落ちてくるみたいだよ……」

「気をしっかり持て! 諦めるな!」

 そして、時は昼食まで遡る……




「ヤナ君? こんなに食べるの?」

「あぁ……身体を鍛えるには、食わないと行けないらしくてな……てか、なんでルイは普通の量なんだ?」

 そんな事を言っていると、クックルさんが厨房から顔を出した。

「女の子がそんなに食べたら、体型管理が大変じゃない! もう、乙女は大変なのよ!」

 乙女は身体を作りより体型管理かよと俺が理不尽を感じていると、横でルイが固まっていた。

「凄腕の殺し屋の様な顔と、一子相伝の暗殺拳を継承しそうな身体から放たれる魅惑の美声……何というギャップ萌え! 凄いよヤナ君!」

「……俺はそんなルイの感性に戦慄しているよ……」

 昼食事にエイダさんとの鍛錬もルイと合同の為、昼食も一緒に食べながらステータスもどうなったか確認してみることにした。

「「ステータスオープン」」

 --------------------------
 ヤナ・フトウ

 17歳

 状態:
 豪傑殺しの腕輪(発動)
 魔導師殺しの腕輪(発動)

 ジョブ:
 冒険者Lv.1

 称号:
 召喚を要求した者

 スキル:
 不撓不屈折れない心
 心堅石穿火事場の馬鹿力
 言語/文字理解
 身体強化(中)
 魔力回復(中)
 魔力制御(中)
 痛覚耐性(中)
 集中
 危険気配
 火魔法駆け出し
 --------------------------

 痛覚耐性が(小)から(中)にスキル効果が上昇していた。あれだけ斬られて寧ろ上がっていなかったらキレる。アメノ爺さんの『桜吹雪舞い散る剣戟』を堪えている時に取得のした心堅石穿火事場の馬鹿力も新たに表記されていた。『危険気配』は……ずっと命の危険を感じてた為だと思い、若干あの斬り狂い爺ぃにイラついた。

「レベルは上がらなかったか……まぁ新しいスキルも取得出来たし贅沢言えないか」

「レベル上がってる! ヤナ君! 私二つも上がったよ!」

「おぉ! よかったな!……あれだけ殺意をぶつけられながらの戦闘訓練と、回復魔法ヒールも使いまくってたからな……俺、何回死んだんだろ……回復魔法ヒールして貰わなかったら……」

 遠い目をしていると、ルイが励ましてきた。

「大丈夫だよ! もっと追い込まれて死にそうになれば、ヤナ君もきっとレベル上がるよ! どんだけボロボロの雑巾の様になっても……私があなたを死なせないわ!」

「ドヤ顔で決めセリフっぽく言ってるけど……全く心に響かないからな? 斬られて回復して斬られて回復しての繰り返しって、拷問か!」

「午後もレベル上がるといいなぁ……沢山回復ヒールしたいなぁ……チラッ」

「鬼か!?」

 そしてエイダさんから声を掛けられ、俺たちは鍛錬の為に広場へ出て行った。



「お二人共午前中は頑張ったそうですね。レベルはどうなりましたか?」

 ルイは二つ上がったことと、俺は上がらなかった事を伝えた。俺新しいスキルについては取得出来た事も伝えた。

「ルイ様は、二つも短時間で上がって良かったですね。回復ヒールの回数や騎士団の訓練場では味わうことの出来ない緊迫感が良かったのでしょうね。ヤナ様は……まだ『冒険』してないという事でしょうかね……そうですか、まだ温いですか……」

「はっ!? 待て待て! めっちゃ真剣で、俺がっつりと斬られたからね! 危うく腕とか飛ぶとかだったからね! あれ以上とかアホか!?」

「でもレベルは上がらなかった……それが全てを物語っているのでは? ルイ様の回復魔法ヒールは炭化した部位は修復出来ますか?」

「レベルも上がったし出来ると思う・・よ! 任せて!」

「おい!『思う・・』って事は分かんないんだろ! しかもあんたも何でその答えで『なら大丈夫ですね』みたいな顔しちゃってんの!?」

「ルイ様は魔法障壁系の鍛錬も出来るようにご自身・・・は防御して下さいませ。先ずは・・・火魔法駆け出しで行きますが、魔力は多めに込めますので油断すると障壁突破してしまいますよ」

「はい! 先ずは、自分をしっかり護ります!」

「無視か!? 俺は護って貰えないの!?」

「ヤナ殿が護られて、どうするんですか。私は、ヤナ様が護衛するルイ様を抹殺せんとする闇堕ちした魔術師の設定で行きますので、私の魔法の発動を止めないと意地でも最後はルイ様の障壁ぶち抜いてみせますので、早めに私を止めてルイ様をお救い下さい」

「はう! 今回もお姫様ポジション! ヤナ君! 私を助けて!」

「寧ろ俺を助けろ! ちくしょう!……時にエイダさん? 俺が腕輪と指輪装備してるの、勿論考慮してくれますよね?」

「………何も聞こえないですね」

「あんたも、絶対殴ってやる!」

「ふふふ、その意気ですよ」

 俺が心からの叫びを放つと、エイダさんはふわっと浮き上がり俺たちと距離を取った。「何あれ! 俺も飛びたい!」と思っていたら、エイダさんの顔が次第に嗤いだした。

「さて、久しぶりに楽しくなりそうです。ヤナ様は、私の魔法を剣戟と魔法で打ち消すか回避によって、私に接近し発動を邪魔して魔法を止めてください。ルイ様はご自身を魔法障壁で守りながら飛ばす回復魔法ヒールアローがあれば、それでヤナ様を回復し補助して下さい。それでは行きますよ。フハハハハ! お前達は此処で朽ち果てるのだ!」

「ノリノリかよ! その笑顔が怖いわ!……俺が闇堕ちメイドなんぞに倒されるか! 悪の栄えた試しなし! かかってこいやぁ!」

「……ヤナ君もノリノリだね……好きなんだね正義の味方ヒーロー…」

「我は求む  星空の煌めきよりも無数に  氷を水に返す焔の真球『多重同時発動ハンドレッド』『焔豪球フレイムスフィア』! さぁ灰になっておしまい!」

 ここで刻は冒頭への場面となる……



「ルイ?……あの数が同時に放たれたとして……防ぐ術はあるか?」

「わぁ綺麗だねぇ……まるで星空が落ちてくるみたいだよ……」

「気をしっかり持て! 諦めるな!」

「はっ!? 一方向だけなら『聖なるセイント障壁シールド』で行けると思う! けど……全方向だと『聖なるセイント領域フィールド』でないと無理かな? まだ一人分の領域しか発動できないんだけどね……」

「……やっぱり相殺しながら突っ込んで、術の発動を止めるしか……ないか……ルイは『聖なるセイント領域フィールド』で身を護り耐えてくれ……あの人、見た目と違って脳筋だからな? 込める魔力をケチるなよ?……それに、あれ絶対火魔法駆け出しレベルの魔法じゃねぇだろ……」

「わかったよ! メイドと脳筋のギャップ萌えだね!」

「あれで萌えるお前が凄いよ……来るぞ!」

「『聖なるセイント領域フィールド』! ヤナ君! いってらっしゃい!」

「我求む対となる灯火の集まりよ『双子ツイン』『火球ファイアボール』『待機ホールド』! ヤナ! いっきまぁああす! うぉりゃあああ!」

 この一週間の魔法の鍛錬によって、魔法制御のスキル効果が(小)から(中)に上がったことにより、魔法を二つ同時に発動出来る『双子ツイン』と発動した魔法を任意の場所に留めることができる『待機ホールド』の魔技を使える様になった。

 百個程の焔豪球フレイムスフィアを掻い潜ってエイダさんまで辿り着く為に、二刀による剣戟で焔豪球フレイムスフィアを斬り落としながら、首の後ろと心臓の前に火球ファイアボールを『待機ホールド』させ致命傷を防止しながら、文字通り火の雨の中に突っ込んだ。

「うぉおおお! シィッ! セァ!……ぐっ……一発一発の火球が重い……ぐはっ! くそ! 待機ホールドの火球が被弾しちまった!」

 俺の二刀流の腕ではまだエイダさんの操る焔豪球フレイムスフィアを捉えきれず、幾つも被弾していたが、急所を護っていた待機ホールドの火球が斬り落とし損ねた焔豪球フレイムスフィアで吹き飛ばされてしまった。

「やばい! 早く詠唱を……『我求む対とな』っぐぉおお! 詠唱の時間が取れな……押し切られ…ぐぁあああ!」

「ヤナ君!今回復を」
「あら其方も余裕は無いですよ?」

 俺に殺到した残りの焔豪球フレイムスフィアの内三割ほどがルイに集中した。

「きゃあああ!」

「ルイ!」
「ヤナ様は、もっと余裕は無いですね」

 未だ空中に残っていた全ての焔豪球フレイムスフィアが俺に向けて、殺到してきた。

「くっそ! 避けないと……ぐう!……火球ファイアボールを詠唱する暇も……ぐがががが!」

 二刀で捌ききれずに被弾し、かなりダメージが蓄積してきた。回復ヒールを期待しルイをチラ見すると『聖なるセイント領域フィールド』に加えて『聖なるセイント障壁シールド』で一番苛酷な正面からの焔豪球フレイムスフィアを受け止めていた。焔自体は防いでいても衝撃は届くらしく、じりじりと押され後退していた。更に幾つかの焔豪球フレイムスフィアは『聖なるセイント障壁シールド』を回り込み背後からルイに直撃し衝撃により体勢を崩しに掛かられていた。

(やばいな……ルイもジリ貧か……やっぱり、俺が突破して発動止めないとヤバイな)

「そらそらそらそら、まだまだ焔豪球フレイムスフィアのおかわりありますよ。もう諦めますか? 倒れますか? フハハハ!」

「うぉおお! 舐めるなぁ! 『心堅石穿火事場の馬鹿力』! もっと早く! もっと速く! もっと疾く! 諦めるかぁ!」

【『詠唱省略』を取得しました】
【『敏捷』を取得しました】
【『危険回避』を取得しました】

 立て続けに頭の中にアナウンスが流れ、同時に『心堅石穿火事場の馬鹿力』の効果か、ボロボロの身体に力が漲る。

「『双子ツイン』『火球ファイアボール』『待機ホールド』からの……『双子ツイン』『火球ファイアボール』『待機ホールド』! いくぞ! でりゃああ!」

『疾風』を発動し、豪傑殺しの腕輪の効果発動中でも、十分駆ける速度が上昇し、『危険回避』により被弾する攻撃にを躱す。最短距離でエイダさんとの距離を一気に詰める為、進路上の避けると時間をロスをする焔豪球フレイムスフィアに関しては、詠唱を省略した複数の火球ファイアボールで誘爆し、その爆発の中を突っ切った。

「わるもんにヒーローが倒される訳ねぇだろぉおおお! 抜けた! 届けぇ!

「疾い!? くっ! 『焔豪城壁フレイムウォール』!」

 焔の雨を抜けてエイダさんへの剣戟を食らわせてやる所で、詠唱無しで焔豪城壁フレイムウォールを発動された。焔の壁に剣戟が遮られてしまった。

「ふぅ……剣戟は防がれちまったが……『多重同時発動ハンドレッド』『焔豪球フレイムスフィア』の発動は止まったな……」

「ええ。流石に『多重同時発動ハンドレッド』『焔豪球フレイムスフィア』と『焔豪城壁フレイムウォール』は同時に発動は出来ませんので、守りに入らせて貰いました。お見事です」

「ルイ! 大丈夫か!?」

「ふぅ……何とか持ち堪えたよぉ、疲れたぁって! ヤナ君が丸焦げ! 早く回復!」

 かなり強引に最短距離で突っ切ったので、急所以外の所はかなり被弾して焦げていた。

「新しいスキルも、今の攻防で覚えた様ですね」

「あぁ何とか使えそうだ……」

「当然使いこなす為に、まだまだ続けますよね?」

「そうだな……回復ヒールもして貰ったし、今の感じでスキルの感覚を掴みたいな……今ぐらいのが、丁度良い感じのスキルの鍛錬になりそうだ」

「私も今ぐらいなら、障壁は持ちそうだし、あとは体勢を崩さないように気をつける様にしなくちゃ!」

「……誰が今と同じだと? クリア出来た課題など何の『冒険』にもなりませんよね?……私はルイ様の障壁破れなかったですし……当然レベル上げますよ? 上げていいですよね? えぇ上げますとも!」

「ただの負けず嫌いじゃねぇか!?」

「さぁ行きますよ? 久しぶりの『獄炎魔法』ですから、ワクワクしますね……絶対障壁ぶち破ります……」

「えぇ!? 寧ろ私の障壁狙い!? 助けてヤナ君!」

「獄炎魔法って!? アホか! 炭にする気か!?」

「さぁ、貴方達の『冒険』は、まだ終わりませんよ?」

「「あんたが言うなぁああ! ぎゃあああ!!」」

 こうしてクックルが呼びに来た時には、まるで炭の様に黒焦げになっている元は人だった者が只々立っていたのだった。
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