要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

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第二章 錬磨

瘴気纏い

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「……結局朝まで、危険察知や気配感知系のスキルを発動しっぱなしだったのかい?」

「ふぁああ……眠い……そうですね。途中居眠りしてる間に火が消えて、スライムに窒息させられそうになるわ、慌てて火魔法使ったら今度はそれにアサシンアウルだけじゃなく、フォレストウルフまで集まって来やがって……また俺が居眠りするのを、木の陰から狙われて……」

 結局疲れもあって、途中居眠りしてしまった所で魔物に襲われ、その騒ぎに誘われた魔物が更に集まりだす死のスパイラルだった。結果として、明け方まで集まってきた魔物とのにらめっこが続いたが、日が昇り始めふと気抜いた瞬間眠気に意識が持ってかれ、意識が落ちてしまった。

 待ってましたと言わんばかりに、フォレストウルフとアサシンアウルが襲ってきたが、意識がなかったのにも関わらず気配に気付き、意識が戻り攻撃を躱す事が出来た。そしてそのまま魔物が一斉にかかってきた為、その際に魔物に対して初めて二刀による剣戟で迎え撃った。自然と死角からの攻撃にも反応する事が出来る様になっており、同時に襲いかかってきたフォレストウルフ四匹とアサシンアウル三匹を無傷で切り捨てる事が出来たのだ。

 生活魔法快適便利の『自己診断ステータスオープン』により確認してみると、『死神の囁き危険/気配感知』が『死神の危険/気配慟哭自動感知』に能力進化していたらしい。寝てた時かな?

 これで寝ている時や無意識や死角からの攻撃を、俺の意識が無くても自動で感知出来る様になったらしい。気づく事ができれば『生への渇望致命傷回避』で躱す事が出来る為、生存率が大分高まっているのじゃないだろうかと思っていた。

「結果だけ見れば、暗闇の中の戦闘訓練だと思えば、得るものは多かったかな」

「ケイル団長……夜の森にいきなり一人放り出されるのが、訓練でしょうか?」
「深く考えてはダメだ……昨日の仕打ちを訓練と割り切った時点で、ヤナ殿は……手遅れだ」

 二人から憐憫の目を向けられている事をスルー無視しながら、近くの木の木陰に横に寝転んだ。

「流石に眠いので、俺は一眠りしてから森に向かうわ」

「あぁ、それでいい。まずは勇者殿達も森の浅い所で鍛錬してもらう予定だからな。ヤナ殿も後で合流出来るだろう」

 そして俺は勇者達を見送り、木陰で眠りについた。



 俺は、ふと何かの気配を感じて目を覚ました。

「ん……ふぁ~腹減った。結構寝ちまったのかな?」

 空を見上げると日が真上に来ていた。周りを見回すと長閑な田舎の風景があった。畑仕事をしている者や、走り回っている子供達の声。それを木陰から静かに眺めていた。

(俺は、本当にこの世界で生きていくのだろうか……)

「ん? なんだ?」

 死神の危険/気配慟哭自動感知を感じ、辺りを見回す。だが村の中には、異変がある様に感じられない。「外か?」と村の外へ出て様子を伺う。死神の危険/気配慟哭自動感知を感じる方向をじっと見つめていると、土煙りと共に何かが近づいてくるのがわかった。その時、村の物見櫓から叫びが聞こえた。

「魔物だ! 魔物の群れだ! 冒険者さん達を呼んでこい!」

「おっ、冒険者やっぱりいたんだ。村の防衛依頼かな?」

 村が騒がしくなってきている中、村の中から三人の冒険者らしき男達が出てきた。

「おいおいおい! なんだありゃ! ゴブリンとオークの群れか!?」
「あれみろ! フォレストウルフとアサシンアウルも何であんなに!」
「おい! あんなのが襲ってくるなんて聞いてねぇぞ!」

 何事かと棍棒をもった村の男衆に聞いてみると、どうやらこの辺はかなり穏やかだったらしく、普段も魔物の襲来はほとんどないらしい。収穫時期に稀に、森から数匹のゴブリンがやってくる程度らしく、その時期だけ冒険者を雇うらしい。そのため、この依頼を受ける冒険者は駆け出し程度の者が大体これまでも受けているらしく、今回もそうだったらしい。

「村の護衛を受けてくれたのじゃろう!? お願いじゃ! 村を守ってくだされ!」

「アホか! 受けた時はホーンラビットか、精々ゴブリンが数匹だと聞いて来たんだぞ! あんな群れは依頼外だ!」

「そんな!? 金なら依頼料より多く出すからお願いじゃ! 今襲われたら村の者は生きていけんのじゃ!」

 恐らく依頼した村長さんが必死にすがっていたが、冒険者達は既に逃げる準備をしていた。俺は、その冒険者と村長さんの所に歩いて行った。

「話は違っても、村の防衛依頼を受けたんだろ? 依頼を破るのか?」

「あん? なんだお前は? 関係ねぇ奴は引っ込んでろ! おら! お前らさっさと逃げるぞ! あんたらも早く逃げるんだな!」

「そんな! お待ちください!」

 三人の冒険者は、魔物群れとは反対方向へ駆け出していってしまった。村長さんは、そこに四つん這いになってしまっていた。俺は、横にいた村人にさっき冒険者は依頼破棄として、何かペナルティとかないのかと聞いてみた。

「依頼破棄の罰はないだろうなぁ。流石に、あの群れは依頼内容と違いすぎるしな。あれは、追加依頼しないと駄目だろうさ。実際ここは逃げるべきだろうな、村の者以外はさ」

「村の者は、逃げないのか?」

「村の者は、ここに全ての生きる財産があるからな。畑や家畜なんかがな。しかも、今は収穫時期だ。ここで村がつぶされたら、結局生きていけないからな」

 よく見ると鍬やら棍棒やら持っている男衆も目には絶望の色が濃かった。

「もしかしたら、森に鍛錬に出かけていたケイン騎士団長様達が異変に気付き、こちらに戻って来てくれるかもしれんしな。俺らは、取り敢えずは女子供を逃すまでの時間稼ぎだな、ははは」

 あと数分で辿りつきそうなところまで魔物が迫ってきており、勇者達はこの時点で帰ってきていないということは、気づかない場所で訓練しているのだろう。俺は、村長さんの所に歩いて行った。

「村長さん? であってるかな? もし、あの群れの防衛依頼だったら依頼料はいくら?」

「ん? あぁワシが村長じゃあってるが……あんたも、早く逃げなされ。見た所冒険者の様じゃが、その装備の様子じゃ、あんた駆け出しじゃろ」

「ん? まぁ冒険者にもまだ登録してないから、通りすがりの旅人ってとこかな? それで、あれの防衛依頼ならいくらなんだ?」

「冒険者にもなっていないならはよ逃げればええのに、えらい落ち着いとるの、お主。はぁ……そうさの、金貨十枚枚で冒険者十人程かの」

「そっか、ならその依頼を俺が今から直接村長さんから受ける。いいか?」

 村長さんが惚けた顔でこっちを見ていたが、呆れた様に答えた。

「そうさの、もしあれを防いでくれたなら、お主に依頼料金貨十枚だすわい」

「よし依頼成立だな! 初依頼だ、気合いいれるぜ! おいおい? そんな諦めた目なんかするなよ、俺が何とかしてみせるさ! あんなぐらいな……爺ぃと性悪メイドに比べたら、へでもないわあぁああああ!」

 俺は、向かってくる魔物の群れに向かって駆け出した。

「本当に一人で行きよったぞ。そんなに急いで死ににいかんでもよかろうに」

 そんな呆れる様な村長の声が、かすかに耳に届いていたが、俺は口元が釣り上がるのを抑える事が出来なかった。



「フハハハ! こんな明るい真昼間に、のこのこ出て来やがって! 『十指テンフィンガー』『火球ファイアボール』からのぉ『形状変化デフォルマシオン』『片手剣ショートソード』! 森と違って火事を心配しなくていいからな! でりゃぁあああ!」

 これまで俺は鍛錬時に、エイダさんの魔法の弾幕を相殺できずに被弾していた。俺の火魔法では、エイダさんの焔魔法には打ち勝てないと考えて、どうにかできないかと考えていた時に、自分の刀でエイダさんの火球ファイアボール系の魔法を切り捨てる事が出来ていたことを思い出した。試しに発動し待機ホールドしたまま、火球ファイアボールを何とか剣ぽく出来ないかと、グニグニと火の形を変えるように『能工魔法制御巧匠詠唱省略』の発動を強く意識しながら試行錯誤していると、新しいスキルを取得出来たのだ。


能工魔法制御巧匠詠唱省略形状変化デフォルマシオンを獲得しました】


 スキル取得時の恒例のアナウンスを聞いた後に再度、火の形を変えようとしたら、見事に剣の形に変えられたのだ。しかも、どういう作用が働いているか分からないが、唯の火球ファイアボールより『片手剣ショートソード』の形にした方が、威力や魔法強度が上がり、エイダさんの焔豪球フレイムスフィアまで、斬り捨てることが出来た。

 エイダさん曰く、魔法に対しての固定概念がある此方の人間は、そもそも魔法の形状を変えようという考えをしない為、かなり驚いたそうだ。その後意地になったエイダさんに獄炎魔法まで使われて、散々な目にあったのだが……

 火球ファイアボール片手剣ショートソードを、挨拶代わりに飛んでるアサシンアウルの群れに向けて解き放つ。そして、すぐさまフォレストウルフに対しても同じく魔法を放つ。

「『十指テンフィンガー』『火球ファイアボール』『形状変化デフォルマシオン』『片手剣ショートソード』! 俺の横を抜けられると思うなよ、犬っころがぁ!」

 放った火球ファイアボール片手剣ショートソードは『能工魔法制御巧匠詠唱省略』の『自動操縦オートパイロット』に丸投げする。「突く」「斬る」の単純操作しか出来ないが十分だった。万が一討ち漏らしたら『死神の危険/気配慟哭自動感知』で分かるだろうし、そうなったら遠距離からの討伐手段もまだある為、大丈夫だろうということで、アサシンアウルとフォレストウルフに少し遅れてきていたゴブリンとオークの群れに俺自身が立ち塞がった。

「あとは、あれを俺が斬れるかどうかだな。人に見た目が近い亜人種の魔物か…ビビるな! 躊躇うな! うぉおおおお!」

「ゲギャギャギャ!」

 そして、迫ってきたゴブリンを僅かに震える腕で斬り捨てた。

「……ちっ……やっぱり人型魔物は少しくる・・ものがあるな……まぁあれか、慣れだな慣れ。おらぁ! こっち来いやぁ! てめぇらは、俺の糧になれ!」

「ゲギャギャギャ!?」

 両手に持つ二刀の大太刀で、ゴブリンを切り捨てる。その場にとどまると数で押しつぶされる為、疾風迅雷早く速く疾くで切り捨てながら囲まれないように移動し、駆けながらゴブリン達を斬り捨てる。するとゴブリン達が怯んだのか、逃げ出そうとしている奴らの気配を感じた。

「おいおい、どこ行くんだよ『逃げるんじゃねぇ!かかってこいやぁ!』」

 大声で『挑発逃がさねぇぞ?』した結果、逃げようとしていたゴブリンと、ゴブリンの群れの後ろから来ていたオーク達にも『挑発こっちだこっち』が聞こえたらしく、俺に注意が向いた。

「『おい豚肉共ぉ! 早くてめぇらの、霜降り肉寄越せやぁ! 勘違いするなよ? 俺がてめぇらを狩りに来たんだ!』」

「ブヒヒャバァ!」

 今度は完全にオークの群れに『挑発肉寄越せ』が行き届いたらしく、怒り狂った様子のオーク達が俺目掛けて突進してきた。

「来い来い来い来い! 『一騎身体/魔力当千回復/増強』! 俺が疲れると思うなよ? 全員纏めてかかってこいやぁ!」

 そして戦場は更に激しさを増して行くのであった。



 その様子を見ていた村人達は、呆然としていた。まだ冒険者になっていないという流れの旅人による魔物の蹂躙を、戸惑いながらも目に焼きつけていた。もしかしたら、このまま村は助かるかもしれないと村人が思い始めた矢先に、災厄は訪れた。

「おい……ありゃなんだ?……オーガ?」
「いや待て待て! オーガがあんなにでかい筈ねぇだろ! それに……ありゃ『瘴気纏い』だ!」
「あんなのスーネリア騎士国の騎士達が、集団で相手するレベルだぞ……なんだってあんなもんがここに……」

 瘴気を纏いし大型のオーガに、それを見た者の心は一瞬で折られてしまっていた。ただ一人、一番近くでそれ・・を見ていた男を除いて。

 死神の危険/気配慟哭自動感知によって、後方の村人達の気配が絶望に染まっているのをヤナは感じ取っていた。たった今、魔物の群れを最後の一匹まで殲滅したのにも関わらず、村人達から気に食わない『絶望』の気配が一気に増していたことを気付いてしまった。

「てめぇのせいか……てめぇがいると俺の怒りが収まらねんだよ! 『おいそこの木偶の坊! てめえよりデカイ男がここにいるぞ! 踏み潰されたくなければさっさとしっぱ巻いて逃げな!』」

「グラァアアアアアアア!」

 デカブツ瘴気纏いオーガが、俺の『挑発』にかかりドカドカと迫ってくる。

「ヤナ殿! そいつはダメだ! 逃げてくれ!」

 声が聞こえた方を見るとデカブツ瘴気纏いオーガから少しだけ離れた所に、ボロボロになった勇者達とケイル騎士団長とミレア団員の四人・・がいた。そしてその四人からも俺の大嫌いな気配絶望を感じた。

「ったくどいつもこいつも……俺はお前ら絶望が大っ嫌いだ!」

 そして俺は、目の前に迫る災厄絶望に立ち塞がった。
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