21 / 165
第二章 錬磨
瘴気纏い
しおりを挟む
「……結局朝まで、危険察知や気配感知系のスキルを発動しっぱなしだったのかい?」
「ふぁああ……眠い……そうですね。途中居眠りしてる間に火が消えて、スライムに窒息させられそうになるわ、慌てて火魔法使ったら今度はそれにアサシンアウルだけじゃなく、フォレストウルフまで集まって来やがって……また俺が居眠りするのを、木の陰から狙われて……」
結局疲れもあって、途中居眠りしてしまった所で魔物に襲われ、その騒ぎに誘われた魔物が更に集まりだす死のスパイラルだった。結果として、明け方まで集まってきた魔物とのにらめっこが続いたが、日が昇り始めふと気抜いた瞬間眠気に意識が持ってかれ、意識が落ちてしまった。
待ってましたと言わんばかりに、フォレストウルフとアサシンアウルが襲ってきたが、意識がなかったのにも関わらず気配に気付き、意識が戻り攻撃を躱す事が出来た。そしてそのまま魔物が一斉にかかってきた為、その際に魔物に対して初めて二刀による剣戟で迎え撃った。自然と死角からの攻撃にも反応する事が出来る様になっており、同時に襲いかかってきたフォレストウルフ四匹とアサシンアウル三匹を無傷で切り捨てる事が出来たのだ。
生活魔法の『自己診断』により確認してみると、『死神の囁き』が『死神の慟哭』に能力進化していたらしい。寝てた時かな?
これで寝ている時や無意識や死角からの攻撃を、俺の意識が無くても自動で感知出来る様になったらしい。気づく事ができれば『生への渇望』で躱す事が出来る為、生存率が大分高まっているのじゃないだろうかと思っていた。
「結果だけ見れば、暗闇の中の戦闘訓練だと思えば、得るものは多かったかな」
「ケイル団長……夜の森にいきなり一人放り出されるのが、訓練でしょうか?」
「深く考えてはダメだ……昨日の仕打ちを訓練と割り切った時点で、ヤナ殿は……手遅れだ」
二人から憐憫の目を向けられている事をスルーしながら、近くの木の木陰に横に寝転んだ。
「流石に眠いので、俺は一眠りしてから森に向かうわ」
「あぁ、それでいい。まずは勇者殿達も森の浅い所で鍛錬してもらう予定だからな。ヤナ殿も後で合流出来るだろう」
そして俺は勇者達を見送り、木陰で眠りについた。
俺は、ふと何かの気配を感じて目を覚ました。
「ん……ふぁ~腹減った。結構寝ちまったのかな?」
空を見上げると日が真上に来ていた。周りを見回すと長閑な田舎の風景があった。畑仕事をしている者や、走り回っている子供達の声。それを木陰から静かに眺めていた。
(俺は、本当にこの世界で生きていくのだろうか……)
「ん? なんだ?」
死神の慟哭を感じ、辺りを見回す。だが村の中には、異変がある様に感じられない。「外か?」と村の外へ出て様子を伺う。死神の慟哭を感じる方向をじっと見つめていると、土煙りと共に何かが近づいてくるのがわかった。その時、村の物見櫓から叫びが聞こえた。
「魔物だ! 魔物の群れだ! 冒険者さん達を呼んでこい!」
「おっ、冒険者やっぱりいたんだ。村の防衛依頼かな?」
村が騒がしくなってきている中、村の中から三人の冒険者らしき男達が出てきた。
「おいおいおい! なんだありゃ! ゴブリンとオークの群れか!?」
「あれみろ! フォレストウルフとアサシンアウルも何であんなに!」
「おい! あんなのが襲ってくるなんて聞いてねぇぞ!」
何事かと棍棒をもった村の男衆に聞いてみると、どうやらこの辺はかなり穏やかだったらしく、普段も魔物の襲来はほとんどないらしい。収穫時期に稀に、森から数匹のゴブリンがやってくる程度らしく、その時期だけ冒険者を雇うらしい。そのため、この依頼を受ける冒険者は駆け出し程度の者が大体これまでも受けているらしく、今回もそうだったらしい。
「村の護衛を受けてくれたのじゃろう!? お願いじゃ! 村を守ってくだされ!」
「アホか! 受けた時はホーンラビットか、精々ゴブリンが数匹だと聞いて来たんだぞ! あんな群れは依頼外だ!」
「そんな!? 金なら依頼料より多く出すからお願いじゃ! 今襲われたら村の者は生きていけんのじゃ!」
恐らく依頼した村長さんが必死にすがっていたが、冒険者達は既に逃げる準備をしていた。俺は、その冒険者と村長さんの所に歩いて行った。
「話は違っても、村の防衛依頼を受けたんだろ? 依頼を破るのか?」
「あん? なんだお前は? 関係ねぇ奴は引っ込んでろ! おら! お前らさっさと逃げるぞ! あんたらも早く逃げるんだな!」
「そんな! お待ちください!」
三人の冒険者は、魔物群れとは反対方向へ駆け出していってしまった。村長さんは、そこに四つん這いになってしまっていた。俺は、横にいた村人にさっき冒険者は依頼破棄として、何かペナルティとかないのかと聞いてみた。
「依頼破棄の罰はないだろうなぁ。流石に、あの群れは依頼内容と違いすぎるしな。あれは、追加依頼しないと駄目だろうさ。実際ここは逃げるべきだろうな、村の者以外はさ」
「村の者は、逃げないのか?」
「村の者は、ここに全ての生きる財産があるからな。畑や家畜なんかがな。しかも、今は収穫時期だ。ここで村がつぶされたら、結局生きていけないからな」
よく見ると鍬やら棍棒やら持っている男衆も目には絶望の色が濃かった。
「もしかしたら、森に鍛錬に出かけていたケイン騎士団長様達が異変に気付き、こちらに戻って来てくれるかもしれんしな。俺らは、取り敢えずは女子供を逃すまでの時間稼ぎだな、ははは」
あと数分で辿りつきそうなところまで魔物が迫ってきており、勇者達はこの時点で帰ってきていないということは、気づかない場所で訓練しているのだろう。俺は、村長さんの所に歩いて行った。
「村長さん? であってるかな? もし、あの群れの防衛依頼だったら依頼料はいくら?」
「ん? あぁワシが村長じゃあってるが……あんたも、早く逃げなされ。見た所冒険者の様じゃが、その装備の様子じゃ、あんた駆け出しじゃろ」
「ん? まぁ冒険者にもまだ登録してないから、通りすがりの旅人ってとこかな? それで、あれの防衛依頼ならいくらなんだ?」
「冒険者にもなっていないならはよ逃げればええのに、えらい落ち着いとるの、お主。はぁ……そうさの、金貨十枚枚で冒険者十人程かの」
「そっか、ならその依頼を俺が今から直接村長さんから受ける。いいか?」
村長さんが惚けた顔でこっちを見ていたが、呆れた様に答えた。
「そうさの、もしあれを防いでくれたなら、お主に依頼料金貨十枚だすわい」
「よし依頼成立だな! 初依頼だ、気合いいれるぜ! おいおい? そんな諦めた目なんかするなよ、俺が何とかしてみせるさ! あんなぐらいな……爺ぃと性悪メイドに比べたら、へでもないわあぁああああ!」
俺は、向かってくる魔物の群れに向かって駆け出した。
「本当に一人で行きよったぞ。そんなに急いで死ににいかんでもよかろうに」
そんな呆れる様な村長の声が、かすかに耳に届いていたが、俺は口元が釣り上がるのを抑える事が出来なかった。
「フハハハ! こんな明るい真昼間に、のこのこ出て来やがって! 『十指』『火球』からのぉ『形状変化』『片手剣』! 森と違って火事を心配しなくていいからな! でりゃぁあああ!」
これまで俺は鍛錬時に、エイダさんの魔法の弾幕を相殺できずに被弾していた。俺の火魔法では、エイダさんの焔魔法には打ち勝てないと考えて、どうにかできないかと考えていた時に、自分の刀でエイダさんの火球系の魔法を切り捨てる事が出来ていたことを思い出した。試しに発動し待機したまま、火球を何とか剣ぽく出来ないかと、グニグニと火の形を変えるように『能工巧匠』の発動を強く意識しながら試行錯誤していると、新しいスキルを取得出来たのだ。
【能工巧匠が形状変化を獲得しました】
スキル取得時の恒例のアナウンスを聞いた後に再度、火の形を変えようとしたら、見事に剣の形に変えられたのだ。しかも、どういう作用が働いているか分からないが、唯の火球より『片手剣』の形にした方が、威力や魔法強度が上がり、エイダさんの焔豪球まで、斬り捨てることが出来た。
エイダさん曰く、魔法に対しての固定概念がある此方の人間は、そもそも魔法の形状を変えようという考えをしない為、かなり驚いたそうだ。その後意地になったエイダさんに獄炎魔法まで使われて、散々な目にあったのだが……
火球片手剣を、挨拶代わりに飛んでるアサシンアウルの群れに向けて解き放つ。そして、すぐさまフォレストウルフに対しても同じく魔法を放つ。
「『十指』『火球』『形状変化』『片手剣』! 俺の横を抜けられると思うなよ、犬っころがぁ!」
放った火球片手剣は『能工巧匠』の『自動操縦』に丸投げする。「突く」「斬る」の単純操作しか出来ないが十分だった。万が一討ち漏らしたら『死神の慟哭』で分かるだろうし、そうなったら遠距離からの討伐手段もまだある為、大丈夫だろうということで、アサシンアウルとフォレストウルフに少し遅れてきていたゴブリンとオークの群れに俺自身が立ち塞がった。
「あとは、あれを俺が斬れるかどうかだな。人に見た目が近い亜人種の魔物か…ビビるな! 躊躇うな! うぉおおおお!」
「ゲギャギャギャ!」
そして、迫ってきたゴブリンを僅かに震える腕で斬り捨てた。
「……ちっ……やっぱり人型魔物は少しくるものがあるな……まぁあれか、慣れだな慣れ。おらぁ! こっち来いやぁ! てめぇらは、俺の糧になれ!」
「ゲギャギャギャ!?」
両手に持つ二刀の大太刀で、ゴブリンを切り捨てる。その場にとどまると数で押しつぶされる為、疾風迅雷で切り捨てながら囲まれないように移動し、駆けながらゴブリン達を斬り捨てる。するとゴブリン達が怯んだのか、逃げ出そうとしている奴らの気配を感じた。
「おいおい、どこ行くんだよ『逃げるんじゃねぇ!かかってこいやぁ!』」
大声で『挑発』した結果、逃げようとしていたゴブリンと、ゴブリンの群れの後ろから来ていたオーク達にも『挑発』が聞こえたらしく、俺に注意が向いた。
「『おい豚肉共ぉ! 早くてめぇらの、霜降り肉寄越せやぁ! 勘違いするなよ? 俺がてめぇらを狩りに来たんだ!』」
「ブヒヒャバァ!」
今度は完全にオークの群れに『挑発』が行き届いたらしく、怒り狂った様子のオーク達が俺目掛けて突進してきた。
「来い来い来い来い! 『一騎当千』! 俺が疲れると思うなよ? 全員纏めてかかってこいやぁ!」
そして戦場は更に激しさを増して行くのであった。
その様子を見ていた村人達は、呆然としていた。まだ冒険者になっていないという流れの旅人による魔物の蹂躙を、戸惑いながらも目に焼きつけていた。もしかしたら、このまま村は助かるかもしれないと村人が思い始めた矢先に、災厄は訪れた。
「おい……ありゃなんだ?……オーガ?」
「いや待て待て! オーガがあんなにでかい筈ねぇだろ! それに……ありゃ『瘴気纏い』だ!」
「あんなのスーネリア騎士国の騎士達が、集団で相手するレベルだぞ……なんだってあんなもんがここに……」
瘴気を纏いし大型のオーガに、それを見た者の心は一瞬で折られてしまっていた。ただ一人、一番近くでそれを見ていた男を除いて。
死神の慟哭によって、後方の村人達の気配が絶望に染まっているのをヤナは感じ取っていた。たった今、魔物の群れを最後の一匹まで殲滅したのにも関わらず、村人達から気に食わない『絶望』の気配が一気に増していたことを気付いてしまった。
「てめぇのせいか……てめぇがいると俺の怒りが収まらねんだよ! 『おいそこの木偶の坊! てめえよりデカイ男がここにいるぞ! 踏み潰されたくなければさっさとしっぱ巻いて逃げな!』」
「グラァアアアアアアア!」
デカブツが、俺の『挑発』にかかりドカドカと迫ってくる。
「ヤナ殿! そいつはダメだ! 逃げてくれ!」
声が聞こえた方を見るとデカブツから少しだけ離れた所に、ボロボロになった勇者達とケイル騎士団長とミレア団員の四人がいた。そしてその四人からも俺の大嫌いな気配を感じた。
「ったくどいつもこいつも……俺はお前らが大っ嫌いだ!」
そして俺は、目の前に迫る災厄に立ち塞がった。
「ふぁああ……眠い……そうですね。途中居眠りしてる間に火が消えて、スライムに窒息させられそうになるわ、慌てて火魔法使ったら今度はそれにアサシンアウルだけじゃなく、フォレストウルフまで集まって来やがって……また俺が居眠りするのを、木の陰から狙われて……」
結局疲れもあって、途中居眠りしてしまった所で魔物に襲われ、その騒ぎに誘われた魔物が更に集まりだす死のスパイラルだった。結果として、明け方まで集まってきた魔物とのにらめっこが続いたが、日が昇り始めふと気抜いた瞬間眠気に意識が持ってかれ、意識が落ちてしまった。
待ってましたと言わんばかりに、フォレストウルフとアサシンアウルが襲ってきたが、意識がなかったのにも関わらず気配に気付き、意識が戻り攻撃を躱す事が出来た。そしてそのまま魔物が一斉にかかってきた為、その際に魔物に対して初めて二刀による剣戟で迎え撃った。自然と死角からの攻撃にも反応する事が出来る様になっており、同時に襲いかかってきたフォレストウルフ四匹とアサシンアウル三匹を無傷で切り捨てる事が出来たのだ。
生活魔法の『自己診断』により確認してみると、『死神の囁き』が『死神の慟哭』に能力進化していたらしい。寝てた時かな?
これで寝ている時や無意識や死角からの攻撃を、俺の意識が無くても自動で感知出来る様になったらしい。気づく事ができれば『生への渇望』で躱す事が出来る為、生存率が大分高まっているのじゃないだろうかと思っていた。
「結果だけ見れば、暗闇の中の戦闘訓練だと思えば、得るものは多かったかな」
「ケイル団長……夜の森にいきなり一人放り出されるのが、訓練でしょうか?」
「深く考えてはダメだ……昨日の仕打ちを訓練と割り切った時点で、ヤナ殿は……手遅れだ」
二人から憐憫の目を向けられている事をスルーしながら、近くの木の木陰に横に寝転んだ。
「流石に眠いので、俺は一眠りしてから森に向かうわ」
「あぁ、それでいい。まずは勇者殿達も森の浅い所で鍛錬してもらう予定だからな。ヤナ殿も後で合流出来るだろう」
そして俺は勇者達を見送り、木陰で眠りについた。
俺は、ふと何かの気配を感じて目を覚ました。
「ん……ふぁ~腹減った。結構寝ちまったのかな?」
空を見上げると日が真上に来ていた。周りを見回すと長閑な田舎の風景があった。畑仕事をしている者や、走り回っている子供達の声。それを木陰から静かに眺めていた。
(俺は、本当にこの世界で生きていくのだろうか……)
「ん? なんだ?」
死神の慟哭を感じ、辺りを見回す。だが村の中には、異変がある様に感じられない。「外か?」と村の外へ出て様子を伺う。死神の慟哭を感じる方向をじっと見つめていると、土煙りと共に何かが近づいてくるのがわかった。その時、村の物見櫓から叫びが聞こえた。
「魔物だ! 魔物の群れだ! 冒険者さん達を呼んでこい!」
「おっ、冒険者やっぱりいたんだ。村の防衛依頼かな?」
村が騒がしくなってきている中、村の中から三人の冒険者らしき男達が出てきた。
「おいおいおい! なんだありゃ! ゴブリンとオークの群れか!?」
「あれみろ! フォレストウルフとアサシンアウルも何であんなに!」
「おい! あんなのが襲ってくるなんて聞いてねぇぞ!」
何事かと棍棒をもった村の男衆に聞いてみると、どうやらこの辺はかなり穏やかだったらしく、普段も魔物の襲来はほとんどないらしい。収穫時期に稀に、森から数匹のゴブリンがやってくる程度らしく、その時期だけ冒険者を雇うらしい。そのため、この依頼を受ける冒険者は駆け出し程度の者が大体これまでも受けているらしく、今回もそうだったらしい。
「村の護衛を受けてくれたのじゃろう!? お願いじゃ! 村を守ってくだされ!」
「アホか! 受けた時はホーンラビットか、精々ゴブリンが数匹だと聞いて来たんだぞ! あんな群れは依頼外だ!」
「そんな!? 金なら依頼料より多く出すからお願いじゃ! 今襲われたら村の者は生きていけんのじゃ!」
恐らく依頼した村長さんが必死にすがっていたが、冒険者達は既に逃げる準備をしていた。俺は、その冒険者と村長さんの所に歩いて行った。
「話は違っても、村の防衛依頼を受けたんだろ? 依頼を破るのか?」
「あん? なんだお前は? 関係ねぇ奴は引っ込んでろ! おら! お前らさっさと逃げるぞ! あんたらも早く逃げるんだな!」
「そんな! お待ちください!」
三人の冒険者は、魔物群れとは反対方向へ駆け出していってしまった。村長さんは、そこに四つん這いになってしまっていた。俺は、横にいた村人にさっき冒険者は依頼破棄として、何かペナルティとかないのかと聞いてみた。
「依頼破棄の罰はないだろうなぁ。流石に、あの群れは依頼内容と違いすぎるしな。あれは、追加依頼しないと駄目だろうさ。実際ここは逃げるべきだろうな、村の者以外はさ」
「村の者は、逃げないのか?」
「村の者は、ここに全ての生きる財産があるからな。畑や家畜なんかがな。しかも、今は収穫時期だ。ここで村がつぶされたら、結局生きていけないからな」
よく見ると鍬やら棍棒やら持っている男衆も目には絶望の色が濃かった。
「もしかしたら、森に鍛錬に出かけていたケイン騎士団長様達が異変に気付き、こちらに戻って来てくれるかもしれんしな。俺らは、取り敢えずは女子供を逃すまでの時間稼ぎだな、ははは」
あと数分で辿りつきそうなところまで魔物が迫ってきており、勇者達はこの時点で帰ってきていないということは、気づかない場所で訓練しているのだろう。俺は、村長さんの所に歩いて行った。
「村長さん? であってるかな? もし、あの群れの防衛依頼だったら依頼料はいくら?」
「ん? あぁワシが村長じゃあってるが……あんたも、早く逃げなされ。見た所冒険者の様じゃが、その装備の様子じゃ、あんた駆け出しじゃろ」
「ん? まぁ冒険者にもまだ登録してないから、通りすがりの旅人ってとこかな? それで、あれの防衛依頼ならいくらなんだ?」
「冒険者にもなっていないならはよ逃げればええのに、えらい落ち着いとるの、お主。はぁ……そうさの、金貨十枚枚で冒険者十人程かの」
「そっか、ならその依頼を俺が今から直接村長さんから受ける。いいか?」
村長さんが惚けた顔でこっちを見ていたが、呆れた様に答えた。
「そうさの、もしあれを防いでくれたなら、お主に依頼料金貨十枚だすわい」
「よし依頼成立だな! 初依頼だ、気合いいれるぜ! おいおい? そんな諦めた目なんかするなよ、俺が何とかしてみせるさ! あんなぐらいな……爺ぃと性悪メイドに比べたら、へでもないわあぁああああ!」
俺は、向かってくる魔物の群れに向かって駆け出した。
「本当に一人で行きよったぞ。そんなに急いで死ににいかんでもよかろうに」
そんな呆れる様な村長の声が、かすかに耳に届いていたが、俺は口元が釣り上がるのを抑える事が出来なかった。
「フハハハ! こんな明るい真昼間に、のこのこ出て来やがって! 『十指』『火球』からのぉ『形状変化』『片手剣』! 森と違って火事を心配しなくていいからな! でりゃぁあああ!」
これまで俺は鍛錬時に、エイダさんの魔法の弾幕を相殺できずに被弾していた。俺の火魔法では、エイダさんの焔魔法には打ち勝てないと考えて、どうにかできないかと考えていた時に、自分の刀でエイダさんの火球系の魔法を切り捨てる事が出来ていたことを思い出した。試しに発動し待機したまま、火球を何とか剣ぽく出来ないかと、グニグニと火の形を変えるように『能工巧匠』の発動を強く意識しながら試行錯誤していると、新しいスキルを取得出来たのだ。
【能工巧匠が形状変化を獲得しました】
スキル取得時の恒例のアナウンスを聞いた後に再度、火の形を変えようとしたら、見事に剣の形に変えられたのだ。しかも、どういう作用が働いているか分からないが、唯の火球より『片手剣』の形にした方が、威力や魔法強度が上がり、エイダさんの焔豪球まで、斬り捨てることが出来た。
エイダさん曰く、魔法に対しての固定概念がある此方の人間は、そもそも魔法の形状を変えようという考えをしない為、かなり驚いたそうだ。その後意地になったエイダさんに獄炎魔法まで使われて、散々な目にあったのだが……
火球片手剣を、挨拶代わりに飛んでるアサシンアウルの群れに向けて解き放つ。そして、すぐさまフォレストウルフに対しても同じく魔法を放つ。
「『十指』『火球』『形状変化』『片手剣』! 俺の横を抜けられると思うなよ、犬っころがぁ!」
放った火球片手剣は『能工巧匠』の『自動操縦』に丸投げする。「突く」「斬る」の単純操作しか出来ないが十分だった。万が一討ち漏らしたら『死神の慟哭』で分かるだろうし、そうなったら遠距離からの討伐手段もまだある為、大丈夫だろうということで、アサシンアウルとフォレストウルフに少し遅れてきていたゴブリンとオークの群れに俺自身が立ち塞がった。
「あとは、あれを俺が斬れるかどうかだな。人に見た目が近い亜人種の魔物か…ビビるな! 躊躇うな! うぉおおおお!」
「ゲギャギャギャ!」
そして、迫ってきたゴブリンを僅かに震える腕で斬り捨てた。
「……ちっ……やっぱり人型魔物は少しくるものがあるな……まぁあれか、慣れだな慣れ。おらぁ! こっち来いやぁ! てめぇらは、俺の糧になれ!」
「ゲギャギャギャ!?」
両手に持つ二刀の大太刀で、ゴブリンを切り捨てる。その場にとどまると数で押しつぶされる為、疾風迅雷で切り捨てながら囲まれないように移動し、駆けながらゴブリン達を斬り捨てる。するとゴブリン達が怯んだのか、逃げ出そうとしている奴らの気配を感じた。
「おいおい、どこ行くんだよ『逃げるんじゃねぇ!かかってこいやぁ!』」
大声で『挑発』した結果、逃げようとしていたゴブリンと、ゴブリンの群れの後ろから来ていたオーク達にも『挑発』が聞こえたらしく、俺に注意が向いた。
「『おい豚肉共ぉ! 早くてめぇらの、霜降り肉寄越せやぁ! 勘違いするなよ? 俺がてめぇらを狩りに来たんだ!』」
「ブヒヒャバァ!」
今度は完全にオークの群れに『挑発』が行き届いたらしく、怒り狂った様子のオーク達が俺目掛けて突進してきた。
「来い来い来い来い! 『一騎当千』! 俺が疲れると思うなよ? 全員纏めてかかってこいやぁ!」
そして戦場は更に激しさを増して行くのであった。
その様子を見ていた村人達は、呆然としていた。まだ冒険者になっていないという流れの旅人による魔物の蹂躙を、戸惑いながらも目に焼きつけていた。もしかしたら、このまま村は助かるかもしれないと村人が思い始めた矢先に、災厄は訪れた。
「おい……ありゃなんだ?……オーガ?」
「いや待て待て! オーガがあんなにでかい筈ねぇだろ! それに……ありゃ『瘴気纏い』だ!」
「あんなのスーネリア騎士国の騎士達が、集団で相手するレベルだぞ……なんだってあんなもんがここに……」
瘴気を纏いし大型のオーガに、それを見た者の心は一瞬で折られてしまっていた。ただ一人、一番近くでそれを見ていた男を除いて。
死神の慟哭によって、後方の村人達の気配が絶望に染まっているのをヤナは感じ取っていた。たった今、魔物の群れを最後の一匹まで殲滅したのにも関わらず、村人達から気に食わない『絶望』の気配が一気に増していたことを気付いてしまった。
「てめぇのせいか……てめぇがいると俺の怒りが収まらねんだよ! 『おいそこの木偶の坊! てめえよりデカイ男がここにいるぞ! 踏み潰されたくなければさっさとしっぱ巻いて逃げな!』」
「グラァアアアアアアア!」
デカブツが、俺の『挑発』にかかりドカドカと迫ってくる。
「ヤナ殿! そいつはダメだ! 逃げてくれ!」
声が聞こえた方を見るとデカブツから少しだけ離れた所に、ボロボロになった勇者達とケイル騎士団長とミレア団員の四人がいた。そしてその四人からも俺の大嫌いな気配を感じた。
「ったくどいつもこいつも……俺はお前らが大っ嫌いだ!」
そして俺は、目の前に迫る災厄に立ち塞がった。
0
あなたにおすすめの小説
白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!
ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。
ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!?
「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」
理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。
これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
喪女だった私が異世界転生した途端に地味枠を脱却して逆転恋愛
タマ マコト
ファンタジー
喪女として誰にも選ばれない人生を終えた佐倉真凛は、異世界の伯爵家三女リーナとして転生する。
しかしそこでも彼女は、美しい姉妹に埋もれた「地味枠」の令嬢だった。
前世の経験から派手さを捨て、魔法地雷や罠といったトラップ魔法を選んだリーナは、目立たず確実に力を磨いていく。
魔法学園で騎士カイにその才能を見抜かれたことで、彼女の止まっていた人生は静かに動き出す。
異世界の花嫁?お断りします。
momo6
恋愛
三十路を過ぎたOL 椿(つばき)は帰宅後、地震に見舞われる。気付いたら異世界にいた。
そこで出逢った王子に求婚を申し込まれましたけど、
知らない人と結婚なんてお断りです。
貞操の危機を感じ、逃げ出した先に居たのは妖精王ですって?
甘ったるい愛を囁いてもダメです。
異世界に来たなら、この世界を楽しむのが先です!!
恋愛よりも衣食住。これが大事です!
お金が無くては生活出来ません!働いて稼いで、美味しい物を食べるんです(๑>◡<๑)
・・・えっ?全部ある?
働かなくてもいい?
ーーー惑わされません!甘い誘惑には罠が付き物です!
*****
目に止めていただき、ありがとうございます(〃ω〃)
未熟な所もありますが 楽しんで頂けたから幸いです。
魔法属性が遺伝する異世界で、人間なのに、何故か魔族のみ保有する闇属性だったので魔王サイドに付きたいと思います
町島航太
ファンタジー
異常なお人好しである高校生雨宮良太は、見ず知らずの少女を通り魔から守り、死んでしまう。
善行と幸運がまるで釣り合っていない事を哀れんだ転生の女神ダネスは、彼を丁度平和な魔法の世界へと転生させる。
しかし、転生したと同時に魔王軍が復活。更に、良太自身も転生した家系的にも、人間的にもあり得ない闇の魔法属性を持って生まれてしまうのだった。
存在を疎んだ父に地下牢に入れられ、虐げられる毎日。そんな日常を壊してくれたのは、まさかの新魔王の幹部だった。
薬師だからってポイ捨てされました!2 ~俺って実は付与も出来るんだよね~
黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト=グリモワール=シルベスタは偉大な師匠(神様)とその脇侍の教えを胸に自領を治める為の経済学を学ぶ為に隣国に留学。逸れを終えて国(自領)に戻ろうとした所、異世界の『勇者召喚』に巻き込まれ、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。
『異世界勇者巻き込まれ召喚』から数年、帰る事違わず、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。
勇者?そんな物ロベルトには関係無い。
魔王が居るようだが、倒されているのかいないのか、解らずとも世界はあいも変わらず巡っている。
とんでもなく普通じゃないお師匠様とその脇侍に薬師の業と、魔術とその他諸々とを仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。
はてさて一体どうなるの?
と、言う話のパート2、ここに開幕!
【ご注意】
・このお話はロベルトの一人称で進行していきますので、セリフよりト書きと言う名のロベルトの呟きと、突っ込みだけで進行します。文字がびっしりなので、スカスカな文字列を期待している方は、回れ右を推奨します。
なるべく読みやすいようには致しますが。
・この物語には短編の1が存在します。出来れば其方を読んで頂き、作風が大丈夫でしたら此方へ来ていただければ幸いです。
勿論、此方だけでも読むに当たっての不都合は御座いません。
・所々挿し絵画像が入ります。
大丈夫でしたらそのままお進みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる