要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

イチ力ハチ力

文字の大きさ
48 / 165
第三章 冒険者

飼い主に似る

しおりを挟む
「『瘴気で覆われたその男達だが、まだ腕輪か何か装備しているか?』」

 俺は、瘴気纏い盗賊頭の時と同じなのか、アシェリに瘴気が濃く発生している装備が無いかを尋ねた。

「『ありますね。三人とも、腕に瘴気が滲み出ている腕輪を装着しています』」

「『そうか、なら先ずその腕輪を腕ごとで良いから斬り落とせ。それで戻らなければ、此方も覚悟を決めなきゃならんな……その場合、俺が行くまで逃げ回れ。トドメ・・・は俺がさす』」

「『……先ずは、腕の斬り落としを試してみます』」

 通信魔法チャットを通して、伝わってくるアシェリの強い覚悟を含んだ声を俺は聞いて、更に飛ぶ・・速度を速めた。

(子供に殺しなんてさせるかよ…)

「もっと……もっと速く早く疾くだぁあああ!」

 俺は、限界を超えて空を駆けた。



「ご主人様とのお別れは済んだカァ、犬っころぉ? 今から俺らが、お前のご主人様ダァ! ケツでも振って、命乞いでもしろぉお!」

 は、その言葉を聞いて思わず嗤ってしまった。

「何が可笑しいノダ! 恐怖で気でも触れたか? ギャハハ!」

「ごめんなさい。なんだか可笑しくって。何でさっきまで、貴方達如きに萎縮して諦めてしまったのでしょう? 私は主様に拾われてからこれまで、もっと暴力的で狂い猛々しく……そして優しい殺気と威圧を、この身に受けていたのに」

「何を言って……」

 私は立ち上がり、吹き飛ばされた冒険者達へと瞬時に駆け寄った・・・・・

「なっ! あいつただの奴隷じゃないのカ!」

 私は『駿足』を使用し、あの三人から一気に距離をとっていた。

「よかった。まだ生きてる。気絶しているだけみたい」

「おいおい! そんな雑魚どもほっといて、俺たちと楽しもうゼェ!」

 私は三人向かい顔を向ける。

「そうですね。お待たせして申し訳ございません。それでは遊びましょう?」

 私は三人に嗤いかけながら、スキルを発動する。

「『輝夜の刻プリンセスタイム』」

 私は身体に貯めていた月光の力を、解放した。身体が、元々の姿へと形を変えていく。子供の身体で付けていた装備は、月狼の巫女の装束へと置き換わる。そして眼帯を外し、瞳を三人に晒した。

「お前……何なんだ一体!」

 悪神の聖痕が浮き出た左眼を見開き、三人を見つめる。

「何だって良いでしょう? さぁ、殿方達あぁそびぃましょぉ」

 巫女装束に両手にナイフを二本手に取り、牙を見せながら嗤ってみせる。

「ひぃ!? 何だってんダァ! 野郎共やっちまうぞ!」

「「へい坊チャン!」」

 私に向かって、取り巻き二人が向かって走り出す。先程まで速いと感じた奴らに動きも、今は・・止まって見える。

「『輝夜の願い身体増強増幅』『月光のムーンライトダンス』」

「「ギヤァアアアアア! 目がぁああああ! 腕があぁああああああ!」」

 月光のムーンライトダンスにより、全身より輝かしい光を向かってきた二人の取り巻きに照射し、その光の中を一直線に駆け一気に全身を斬りつけながら、腕輪を装備していた方の腕を斬り落とした。

 そして、切り落とされと腕についていた腕輪を、踏みつけ叩き壊した。

「ゲス! ゴス! 身体が戻っちまっタだと!?」

「あら? おにいさんお二人はもう、身体も萎んでカッコ悪くなってしまいましたねぇ。私の知ってる『お鬼ぃさん』と違って、弱くて情けないですね。ふふふ」

「馬鹿にするなぁあああ! 貴様の首を、あのクズ冒険者に叩きつけてやるわぁああ!」

「それは無理でしょうね……『輝夜の歌幻惑幻覚魔法』」



 私は歌った

 闘える喜びを

 悪意に立ち向かう事が出来る喜びを

 への想いを



「「「うふふふ、さぁおにいさぁあああん、あぁああそびぃましょオオオオ」」」

「なんだ……これは……奴隷が増えて……ひぃ!? 寄るなぁあ! くるなぁああああ!」

 私の歌は、聴いたものを狂わせる。

 狂り狂りと狂いだす。

「そろそろもう寝なさい『闇夜のダークネス散歩ウォーク』」

「暗いおぉお! くるなぁあああ! ぎゃああああ!」

 私から闇が噴き出しザコスを包み込み、幻影と共に斬りかかり、取り巻きと同じように全身を斬りつけながら、腕を斬り落とした。そして、瘴気の腕輪を踏み壊した。

「はぁはぁ……やっぱり月が出てないのに……溜めてた月光だけでは……きついわね」

 そして私の目からは、瘴気が滲み出てきていた。

 ザコスが隔離結界を発動していたらしく、四方を囲んでいた薄い膜が消えていき、空からが私を月光が照らしていた。

「それに、この姿だと……やっぱり聖痕の力が抑えきれない……早く戻らないと……」

 私は両親と旅をしている時、『悪神の聖痕』の力を抑える為に『輝夜の時戻りバックタイム』で、十六歳だった私の身体を、子供の頃の身体に成るまで時間を戻した。そのお蔭で身体に付いていた聖痕の状態を、聖痕の力を抑えることが出来ていた。

 しかし、『輝夜の刻プリンセスタイム』で本来の姿に一時的でも戻ると、聖痕も同じく成長してしまう。

 私が『月への帰還リターン』で、再び十歳の身体へと戻そうとした時だった。すぐ耳元で、粘りつくような気持ちの悪い声が聞こえた。

「勿体ないぞ? そんな良い女が、クソガキに戻るなんてなぁ」

「がはっ!?」

 そして私は、いきなり背後から背中を蹴り飛ばされた。

「おいおい、人間の貴族って奴は偉いんじゃないのかよ? 偉いって事は強いって事じゃないのかぁ? 弱いなぁお前」

 ザコスが彼奴を見て叫ぶ。

「お……おい! お前はラオライン! 早く俺を助けぐぎゃぁあああ!?」

 彼奴は、容赦なく三人を瘴気の炎で焼き殺した。

「はぁ、貴族ってのは偉い人間だって聞いてたから、俺達も・・・遊びに公爵だの伯爵だの付けてたんだが……偉いってのは強いって事じゃないのか?」

「ぜぇぜぇ……お前が、ザコス達に瘴気の腕輪を渡したの……?」

「ん? あぁ、欲望、嫉妬、恨み何か持ってる奴は、良く瘴気が馴染むからなぁ」

「クズめ……」

 私は、ラオラインと呼ばれた彼奴を睨みつける。

「ほぉ、せっかくもう少しで絶望に染まるってとこまで、調教してやったのに、目から絶望の色が見えないなぁ」

「もう私は、お前達に絶望する事はないわ。それにお前は、何でそんなに服がボロボロなの? そんな情けない格好で格好つけないでくれる? 笑えるわよ?」

「うるさぁあああい! お前の次は彼奴だ!……くっくっく、強気だなぁ。あの冒険者を大分信頼してるようだなぁ? 何だ惚れたか? あぁ? 獣が人に惚れるとは傑作だぁ! ハァアハッハッハ!」

「ふふふ、お前は何を言っているのでしょう?」

「何を笑っている。あの男の様な、その薄気味悪い笑い方をやめろぉ!」

「私は、ヤナ様の奴隷。信頼? 惚れた? 彼は私のご主人様よ? もう私は野良の狼じゃないわ。狂い舞うご主人様に付いて、狂い踊る飼い狼。命すらもうご主人様のもの。ご主人様の命令はただ一つ。『嗤いながら戦え』よ」

 そして私は最高の嗤い顔で・・・ラオラインを見る。

「知ってる? 飼われた狼は、飼い主に似るのよ? 『完全獣化フルビースト』『月狼フェンリル』」

 私の身体を月光が包み込む。魔力と月光が混ざり合い、私の身体を巨大な狼に変えていく。

「ウォオオオオオオン!」

 私は月に吠える。

「は! 今度は逃げねぇのかよ! サクッと狩って、ご主人様に毛皮を届けてやらぁ!」

 とうさま、かあさま、一族の仇を目の前にして、あの喉元を喰いちぎる為にガチガチと私は牙を鳴らす。



 嘗て私は絶望していた

 自分の弱さに『絶望』していた

 戦わず逃げる事に『絶望』していた

 戦士の誇りを失う事に『絶望』していた



 嘗て私は月に願いを掛けた。

『絶望』に抗う勇気をください

 この眼に打ち勝つ力を下さい


 そしては私の願いを叶えてくれた


 もう私は絶望なぞしていない
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

喪女だった私が異世界転生した途端に地味枠を脱却して逆転恋愛

タマ マコト
ファンタジー
喪女として誰にも選ばれない人生を終えた佐倉真凛は、異世界の伯爵家三女リーナとして転生する。 しかしそこでも彼女は、美しい姉妹に埋もれた「地味枠」の令嬢だった。 前世の経験から派手さを捨て、魔法地雷や罠といったトラップ魔法を選んだリーナは、目立たず確実に力を磨いていく。 魔法学園で騎士カイにその才能を見抜かれたことで、彼女の止まっていた人生は静かに動き出す。

異世界の花嫁?お断りします。

momo6
恋愛
三十路を過ぎたOL 椿(つばき)は帰宅後、地震に見舞われる。気付いたら異世界にいた。 そこで出逢った王子に求婚を申し込まれましたけど、 知らない人と結婚なんてお断りです。 貞操の危機を感じ、逃げ出した先に居たのは妖精王ですって? 甘ったるい愛を囁いてもダメです。 異世界に来たなら、この世界を楽しむのが先です!! 恋愛よりも衣食住。これが大事です! お金が無くては生活出来ません!働いて稼いで、美味しい物を食べるんです(๑>◡<๑) ・・・えっ?全部ある? 働かなくてもいい? ーーー惑わされません!甘い誘惑には罠が付き物です! ***** 目に止めていただき、ありがとうございます(〃ω〃) 未熟な所もありますが 楽しんで頂けたから幸いです。

魔法属性が遺伝する異世界で、人間なのに、何故か魔族のみ保有する闇属性だったので魔王サイドに付きたいと思います

町島航太
ファンタジー
 異常なお人好しである高校生雨宮良太は、見ず知らずの少女を通り魔から守り、死んでしまう。  善行と幸運がまるで釣り合っていない事を哀れんだ転生の女神ダネスは、彼を丁度平和な魔法の世界へと転生させる。  しかし、転生したと同時に魔王軍が復活。更に、良太自身も転生した家系的にも、人間的にもあり得ない闇の魔法属性を持って生まれてしまうのだった。  存在を疎んだ父に地下牢に入れられ、虐げられる毎日。そんな日常を壊してくれたのは、まさかの新魔王の幹部だった。

薬師だからってポイ捨てされました!2 ~俺って実は付与も出来るんだよね~

黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト=グリモワール=シルベスタは偉大な師匠(神様)とその脇侍の教えを胸に自領を治める為の経済学を学ぶ為に隣国に留学。逸れを終えて国(自領)に戻ろうとした所、異世界の『勇者召喚』に巻き込まれ、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。 『異世界勇者巻き込まれ召喚』から数年、帰る事違わず、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。 勇者?そんな物ロベルトには関係無い。 魔王が居るようだが、倒されているのかいないのか、解らずとも世界はあいも変わらず巡っている。 とんでもなく普通じゃないお師匠様とその脇侍に薬師の業と、魔術とその他諸々とを仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。 はてさて一体どうなるの? と、言う話のパート2、ここに開幕! 【ご注意】 ・このお話はロベルトの一人称で進行していきますので、セリフよりト書きと言う名のロベルトの呟きと、突っ込みだけで進行します。文字がびっしりなので、スカスカな文字列を期待している方は、回れ右を推奨します。 なるべく読みやすいようには致しますが。 ・この物語には短編の1が存在します。出来れば其方を読んで頂き、作風が大丈夫でしたら此方へ来ていただければ幸いです。 勿論、此方だけでも読むに当たっての不都合は御座いません。 ・所々挿し絵画像が入ります。 大丈夫でしたらそのままお進みください。

処理中です...