要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

第四章 自由な旅路

勇者の中の勇者

「ナンナンダ……アレは……グォ！？　キサマ！」

「僕が言うのも何だけど、余所見はまずいよね？」

　僕は異形の怪物と変身したゲソ魔族が、ヤナの『黒鉄の大巨人アトラス』に驚愕していたので、遠慮なく聖剣で斬りつけた。

「キサマら！　アレをミテ驚かないのか！　アキラカニオカシイだろう！」

「魔族にまで、おかしいと言われるヤナって……まぁ、ヤナ脳筋変態だからね」

　僕は、ゲソに向かって至って冷静に、言葉を返す。

「「そうね……ヤナ脳筋変態だから」」

「ヤナさま……そこまで突き抜けると、もう涙も出ません……」

「いいなぁ、アレにアシェリちゃんとエディスさん乗ってるんだよなぁ、乗りたいなぁ」

　ヤナをどう思っているかは、大体・・みんなも同じだった。

「サッサとキサマラをコロシテ、あのデカイのを壊すダケだ！」

　ゲソはそう叫びながら、真っ先にルイに向かって行こうとした。ゲソに最初会った時は、ギルド職員だと思っていた。その為、こちらのある程度の情報は話してしまっていたので、回復役のルイを真っ先に潰しに行こうとしたのだろう。

「させるかぁ！　『勇者の輝き大注目』！　お前の相手はこっちだぁあ！」

「ぐぅうう！ま……先ずは、オマエカラ死ねぇェエ！」

『勇者の輝き大注目』で、ルイに向かって行こうとしていたゲソの矛先を僕に向けた。

「『勇者の護り味方全員防御増幅』『勇者の鼓舞味方全員攻撃増幅』『勇者の怒り身体能力増幅増強』！」

『勇者』のジョブは、レベルを上げると味方の能力増幅系のスキルを多く覚えた。勇者の輝き大注目で、ゲソの注意を引いた直後に、味方全体への支援スキルを放ち、完全にゲソの標的を僕に固定する。

「ルイ！　全員に自動回復オートヒールを！　アリスは中距離からゲソを、その場に止めるように魔法で弾幕！　シラユキは、アリスの弾幕を避けながら近距離でデカイの頼む！」

「「「任せて！」」」

　これまで、僕たち勇者達は全員で戦う連携の鍛錬を重ねた。折角バランスの良いパーティなのだからと、役割を分担して敵と戦う事にしたのだ。

「天よ地よ　我に仇なす者を　その輝く雷光で　その堅き大地で　愛の抱擁を『天地雷轟穿岩挟ミラクルマジック』！ルルルルル！」

　アリスが『天地雷轟穿岩挟ミラクルマジック』を、特に必要のない・・オリジナル詠唱と掛け声を掛けながら、ゲソに向かって放つ。僕は詠唱が終わる瞬間を見計らい、ゲソから距離をとった。

「グゥオオオオオ！」

　ゲソの頭上に稲妻が降り注ぎ、足元からは隆起する何本もの岩の剣山が身体に突き刺さる。見ているほうが顔を思わず顰める程の、凶悪な魔法をアリスが放った。

「小癪なぁアアアア！」

　ゲソがアリスに向かって口からブレスを放つ予兆が見え、奴が予備動作で一瞬身体が硬直した瞬間を狙って、シラユキがその口に向かって下顎から剣技を放ち顎を上空にカチあげる。

「させるわけないでしょぉお！　『姫騎士の憧れ身体能力増強増幅』『天に昇る剣尖セブンスヘブン』！　逝きなさい！」

　姫騎士の憧れ身体能力増強増幅で懐潜り込んだシラユキが、天に昇る剣尖セブンスヘブンでゲソの顎の下から天空へと突き抜ける突きを放つ。見ていたら、思わず首を抑えてしまった。

「ギャワァアアアア！　ゴゥハァ！」

　ゲソ下から顎をカチあげられ、ブレスを吐こうとした口は同時に下からのシラユキの攻撃で、強制的に閉じられ、ブレスが口の中で暴発していた。

　ゲソは苦しげに腕を振り回し、僕とシラユキを身体から遠ざけた。

「ガフ……流石勇者とイッタトコロカ……だがまだまだダナ！　『瘴気汚染進行身体増強増幅』！　ヌァアアアア！」

「な！？」

　ゲソが『瘴気汚染進行身体増強増幅』と叫ぶと、ゲソの身体からより濃い瘴気が溢れ出し、更に身体の筋肉が膨れ上がった。僕が驚きの声を上げた瞬間、目の前からゲソが消えた・・・。

「どこだ！？　ぐわぁ！」

「きゃぁ！」
「きゃん！」
「こふっ！」

「勇者様方ぁ！」

　僕には、身体強化したらしいゲソの動きが見えなかった。

「くぅ……『聖女の唄エリアハイヒール』！」

　ルイの全体回復魔法で、全員再度傷を癒しゲソと向かい合う。

「フハハハハ！　見えなかったのダロウ？　所詮は、下等なニンゲンなどクズだぁ！」

　ゲソが高笑いしている隙に、再度攻撃防御支援スキルを重ねがけする。僕の支援スキルも、アリスとシラユキも身体増強系スキルを重ねがけする。

「無駄なアガキだと、ワカランのかぁ！　『悪辣な暴力の嵐ストームラッシュ』！」

　僕達に向かって、無数の拳が降り注ぐ。

「まずい！　避けろぉおお！　『勇者の盾ブレイブシールド』！　ぐぅううああああ！」

　降り注いで来る拳の嵐に対して、勇者の盾ブレイブシールドを全員の前に創り出した。盾が拳を抑えている間に、散開しようとした瞬間に、新たな絶望が僕達を襲う。

「ニゲラレテモ面倒だからなぁ？　そこで焼かれてロ『侵食されしダーティ獄炎のヘルフレイム宴パーティー』」

　獄炎が僕達を包み込む。

「「「「ぐぁああああ！」」」」

　あまりの激痛に、このまま僕は全員が焼かれ死ぬのかと、諦めかけたその時だった。彼の声が聞こえてきた。

「『おいおい、羨ましい程にピンチだな。まさかこのまま負けるとか、思ってねぇよな？』」

「『ぐぅう……だって……今の僕じゃ、やっぱり勝てないよ……』」

「『コウヤ、お前"勇者"だろ？』」

　ヤナが、当たり前・・・・の事を聞いてくる。

「『何を当たり前の事を……』」

「『そうなんだよ。当たり前・・・・なんだよ。物語の主人公は"勇者"で、勇者にはピンチがつきもので、仲間のピンチに燃えるんだよ！　おい！　周りを見てみろ！　てめぇの周りに誰がいる！　言ってみろ！　てめぇは誰だ！　今までのお前じゃ勝てない？　ならこの場で勝てるようになれ！　教えろ！　お前は誰だぁあああ！』」

「『僕は……僕は！　勇者コウヤだぁあああ！』」

　僕が心の底から、叫んだ瞬間だった。


【『勇者の覚醒』を取得しました】


　僕の頭の中に、スキル取得のアナウンスが流れた。

「『そうだ。お前は"勇者"コウヤだ。サッサと斬って、こっち・・・のリアルヒーローショーを観戦しに来い』」

　ヤナの声が最後に聞こえ、僕の心に最後の一押しをしてくる。

「『勇者の覚醒』！　みんなは僕が護る！」

　僕の身体から、輝く光が溢れ出る。そして、その光は徐々に力強く周囲を包み始める。

「コウヤ……これは？」

「……護ってくれてるの？」

「凄いよ！　暗くても大丈夫だね！」

「まだまだぁあああ！　『輝けるシャイニング栄光グローリー』！」

　仲間全員身体が強く輝き出し、僕らを包んでいた瘴気の獄炎を吹き飛ばした。

「な……ナンダトォオオオ！？　ナンダソノ、忌々しい女神の気をハナツ光はぁああ！」

　ゲソが何だと聞いてくるので、僕は答えてあげた。

「知らないの？　主人公は仲間のピンチには、必ず新たな力を生み出すものさ」

「戦いの最中に……成長スル……ダト……？」

「お約束テンプレだよね！　みんな僕の肩に掴まって！　いくぞぉおお『心ひとつにユニオン』！」

　僕の身体に他の三人が触れ、そこから全員の力が僕に流れ込んでくる。

「ナンダその力はぁああ！」

「これが勇者主人公の強さだぁあああ！　『聖剣召喚』『ユグドラシル』！」

　僕の手元に、これまで感じたことのない程に力強く輝く剣が召喚された。

「これで終わりだぁああ！　『世界の希望ブレイブソード』！」

　全身の光が聖剣ユグドラシルに収束していき、光輝く剣となりそれを全力で振り下ろした。

「グゥオオオオオ！？　身体が……クズレテシマウ！　ギャァアアア！」

　ゲソは僕が両断した傷口が、輝きだしそこからボロボロと崩れ最後は粉々に砕け散り、風に飛ばされ跡形もなくなった。

「「「コウヤ！　やったぁ！」」」

　三人が僕に抱きついてきた。

「ひゃ！？　ちょっと！」

「「「ん？」」」

　僕は慌てて三人から逃れて、ヤナの方を見た。

　ヤナは、巨大ロボのようなもので瘴気纏いキングクラーケンと掴みあって、徐々に海の方に押し戻していた。

「ヤナ、君のおかげでこっちは勝ったよ」

　僕は、真っ直ぐヤナの戦いヒーローショーを観戦する為に走り出した。