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第四章 自由な旅路
黒鉄の大巨人
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「あっちは、勝ったみたいだな。流石勇者って所かな」
俺は、『黒鉄の大巨人』内部の操縦席から呟く。
「ヤナ君……貴方もしかして……」
エディスさんが、何やら思っているようだが、今はスルーする。
「そんな事より、今度はこっちの怪獣大決戦に集中しないとな」
「主人様? 集中と言いましても、私達は何をすればいいのでしょうか?」
俺と同じくアシェリとエディスさんも、操縦席に乗って座っているのだ。
「気分が乗ってきたら『やぁぁああぁ!』とか『くらぇえええ!』とか叫ぶんだ!」
「要するに、やる事無いわけですね……」
「何の為に、ここに拉致ったのよ……」
二人は、何故か文句を言っている。
「そんなのノリに決まってるだろうが!」
「エディス様、これ終わったら二人で主様を潰しませんか?」
「アシェリさん奇遇ですね。私も、そう言おうとした所ですよ」
後ろの二人から不穏な呟きが聞こえ、戦闘終了即離脱を決意した瞬間だった。
「それにしても、これからこの瘴気纏いキングクラーケンと、どうやって戦うんですか?」
「大分浜辺に近い所まで、押してきたが、ここはまだ街に近いからな。こうするんだよ!」
黒鉄の大巨人は巨大イカを掴み上げ、思いっきり海の方へと放り投げた。
「「はぁああああ!?」」
巨大瘴気纏いキングクラーケンが空を舞った様子を見ていた冒険者達は、その様子に驚愕し硬直した。
「クラーケンて、空を飛んだな……」
「あぁ……飛ぶんだな」
勇者達も走りながら、瘴気纏いキングクラーケンが宙を舞ったのを見ていた。
「背負い?」
「一本?」
「肩車?」
「イカって本当に飛ぶんだねぇ」
「もう、私達あれぐらいじゃ驚かなくなっている事に、涙が出そうです……」
しかし、空飛ぶイカを追いかける様にポージングしながら空を飛ぶ、黒鉄の大巨人をみて、勇者達は叫ぶ。
「「「お前も飛ぶんか!?」」」
「当たり前だよね!」
「どうやってこの事、団長に報告したらいいか私わかんない……ぐす」
「あああ主様ぁああ! 飛んでるぅうう!」
「ヤァアアナァアア! 降ろしてぇえええ!」
「さぁ、ここなら誰もいないだろう。ネミアさんの気配も、ここにはないから大丈夫だ!」
俺は、投げ飛ばした巨大イカ怪獣を追いかけて機体を浮上させて、宙を飛んで追いかけた。そして、相手のホームである海で戦いを挑んだのだ。
「くっ! ここは海! 相手の得意な場所だ! 油断するなよ! みんな!」
「もう殴っていい?」
「もうちょっと、我慢しましょう?」
案の定、巨大イカ怪獣は海中に隠しておいた足を機体に絡みつけ締め上げてきた。
「主様! ミシミシいっています!」
更に巨大イカ怪獣は、巨大な水弾をここぞとばかりに浴びせて来る。
「ヤナ君! 全弾被弾してるわ!」
「慌てるな! これくらいで俺たちの『黒鉄の大巨人』は負けやしない! エディス隊員! 目の前にあるボタンを押すんだ!」
「誰が隊員よ……それにいつの間に、こんなボタン出てきたの? まぁ、押せばいいのね。はいはい」
エディス隊員がポチッとなと、目の前のボタンを押すと黒鉄の大巨人が動き出す。
「エディス隊員ヨリ攻撃命令アリ。承認サレマシタ。『部分的』『形状変化』『神火の飛翔拳』『対象:瘴気纏いキングクラーケン』『待機』準備ガトトノイマシタ。再度ボタンヲ押シテクダサイ」
「な!? こいつ喋るの!?」
「エディス様……あれ」
アシェリ隊員が、エディス隊員に俺を見る様に目配せする。
「自分で!? バカなの!?」
「うるせぇ! 未だそこまで出来ないんだよ! 次は絶対喋れる様にしてやる! ハヤクボタンヲ押シテクダサイ」
「次は絶対乗らない! 押せばいいんでしょ!」
エディス隊員の気合の乗った良い掛け声の元で、ボタンが再度押された。
「『待機』『解除』!『神火の飛翔拳』ファイヤァアアアア!」
巨大イカ怪獣に向けて真直ぐ伸ばしていた腕から、発射音を轟かせながら拳が飛んでいく。
そして、解き放たれた神火の飛翔拳は、巨大イカ怪獣を飛び回りながらタコ殴りにする。
「イカなのに、タコ殴りとはこれ如何に……くっくっく」
「主様が変な顔で笑ってます……」
「アレは見てはダメよ」
「ゲゾォオオオオオ!」
そして最後に、ダブルアッパーカットで空中へかち上げた。
「今だ! アシェリ隊員! ボタンを押すんだ!」
「はいはい」
若干アシェリ隊員のやる気のなさが気になったが、これから教育していけば問題ないはずだ。
「『部分的』『形状変化』『神火光線砲』『待機』! アシェリ!」
「はいはい、ポチッと」
「『待機』『解除』!『神火光線砲』ファイヤァアアアア!」
黒鉄の大巨人の胸から、勝利のV字に輝く神火の光線が、宙に舞う巨大イカ怪獣に直撃した。
「グゲゾォオオオオオ!」
神火に燃やされながら、海面に叩きつけられた巨大イカ怪獣に俺はいよいよ止めを刺すべく、操縦席前に用意してある人ひとりが動けるスペースに、席から立ち上がり移動する。
俺は頭の上で腕を伸ばし手をあわせる。黒鉄の大巨人も、俺の動きに連動してポーズをとる。
「『部分的』『形状変化』『神火の黒鉄剣』!」
頭の上で、両腕が巨大な黒剣に形状変化した。更には刀身に神火を神々しく纏っている。
俺は、ゆっくり円形に両腕を回す。勿論気分はアレだ。
「トドメだぁああ! 『円月黒鉄覇王斬』!」
俺は黒鉄の大巨人と一心同体と成り、巨大イカ怪獣に神火の黒鉄剣を振り下ろした。
「グゥオオオ……ゲッゲ……ゲソォオオオオ!」
俺はゆっくり後ろに倒れる巨大イカ怪獣に、背を向け佇む。
そして巨大イカ怪獣は後ろに倒れ、同時に大爆発と共に神火の炎が巨大な火柱を上げ、巨大なイカを丸焼きにした。
「ふっ……正義は必ず勝づぁあああああ! ぎゃぁああああ! 頭がぁあああ!」
決め台詞を言い終わる寸前に背後からエディスさんが、両手の拳でこめかみをギリギリと潰して来る。
「やめ! 止めでぇででで! アシェリ助け……なんで俺の『烈風』と『涼風』を持って……なんでエディスさんに一本渡す……ノォオオオオオオ! げぶし! がは! やめ! ぎゃぁああ!」
戦闘中にちゃんと台詞が外にも聞こえる様に、生活魔法の『拡声器』で機体の外に今も俺の声を届けている。
「なんで勝ったのに、ヤナの悲鳴が聞こえてくるんだろ?」
「何となく想像できるわね」
「アシェリちゃんとエディスさんに、何も言わずにアレやってたんでしょきっと」
「ヤナ君! 私も乗りたいよぉお!」
「そして最後にヤナ様の悲鳴が、戦場に響き渡った……と、もうこれで団長への報告でいいや」
俺が丸焼きにした瘴気纏いキングクラーケンを鞄に回収し、それを見た再度エディスさんから再び、理不尽に天国と地獄ヘッドロックをかまされた。
今回の防衛戦で、瘴気纏いキングクラーケンは明らかに俺がみんなの前で討伐したので、素材や討伐報酬は俺が貰っていいらしい。アシェリは俺の奴隷という事と、エディスさんは別にギルドから特別手当が出るそうで、報酬受け取りは俺だけとなったのだ。
取り敢えず、魔物の残党狩りに勇者一行や俺達も参戦し、街に入り込んだ魔物を全て狩り終わった時には、夜になっていた。
領主のドルフィ伯爵や住民は、浜辺と反対側に避難しており、全員無事だった。浜近辺の建物が倒壊していたが、アレだけの魔物の大群に対して、それだけの被害だったのはむしろ奇跡的らしい。
広場で行わた街を上げての大宴会で、エドリック支部長に連れられてドルフィ伯爵と会った時に、アライがいない事に気付いて尋ねると、王都以外のギルド支部に指定クエストを受けてもらうべく、色々移動している最中らしい。
ギルドの支部同士は魔道具による通信が存在するらしく、今回の防衛戦及び瘴気纏いキングクラーケン、魔族の討伐は各支部に情報が伝わっている。
そういった連絡網はあくまでギルドの物であり、領主といえども利用出来ないらしく、仕方がないのでアライが直接交渉向かったという事だ。おかげで、腕利きのアライさえも街にいない状況が出来上がったという訳だ。
「本来、今回の様な状況では、国とも協力体制を敷く為、ギルドの通信を使って応援要請をするんだが……おそらくゲッソ副支部長が、支部長代理の権限でそうさせなかったのだろう」
エドリック支部長は忌々しいという顔で、そう呟いた。黒幕気取りのゲソ魔族によって、色々情報が錯綜し、虚偽の報告もされていたらしい。
ゲッソは元々Bランクの冒険者だったが、数年前のクエストで傷を負った際に冒険者を引退してギルド職員になったらしい。
そんな冒険者時代から魔族だったとは中々考えられない為、どこかのタイミングで魔族に取って代わられたと思われるが、真相は正に闇の中だ。
その後も、『黒鉄の大巨人』についても聞かれたが、魔法だと答えた。納得してなさそうな顔をしていたが、俺が嗤いながら二人に囁いた。
「自分の手の内を教える訳が、ないだろう?」
若干二人が後ずさった気がしたが、気のせいだろう。気の所為だよな?
そして、ドルフィ伯爵とエドリック支部長と別れ、勇者一行と合流しこれからの予定を聞いた後、アシェリとエディスさんと宿に戻った。
既に夜も大分更けていた為か、眠いと言って抱っこをアシェリがせがんできたので、抱っこして帰っていると、宿に着いた時には既に俺の腕の中で、アシェリは寝息を立てていた。俺の部屋に運び、ベッドに寝かせる。
「ふふ、本当に子供だな」
「そうですね。可愛らしい寝顔で寝ちゃってますね」
エディスさんは自然な微笑みでアシェリを見ていた。
「なぁ、エディスさんて何で、ワザと乱暴な言葉遣いや変に丁寧な喋り方をするんだ?」
俺は、この時初めて酒を飲んだせいで、酔っていたのだろう。
普段なら聞かない余計な事を、本人に聞いてしまった。
「あら? そんな事を聞くなんて、らしくないですね」
エディスさんは、じっと俺を見て答える。
「まぁ、そうだ……な。悪い忘れてくれ、初めて酒を飲んだせいで酔ったみたいだ。ついな」
「つい、なんですか?」
「寂しそうな、それでいて何かに諦めているような目をエディスさんが、よくしているのは知っていたが……今そんな目をしていなかったら、つい調子にのっただけさ」
エディスさんは、いつもの目に戻って俺に告げる。
「そうですね……もし……もし、ヤナ君がその理由を知ったら、あたしと、一緒に旅した事を怒るかもしれないよ?」
「は? 何を言って……」
俺が、そんな事は無いと否定しようとするが、そのタイミングで呼出が入った。
「悪い、呼出がきたみたいだ」
それを聞くとエディスさんは、すっと立ち上がり部屋を出ていくために、扉を開けた。
「おやすみ、ヤナ君」
俺が答える前に、エディスさんは自分の部屋へと戻っていった。
「おやすみ、エディスさん」
俺は一人呟き、かかってきた呼出にでる。
「『ヤナだ。こんな時間に何の用だ、アメノ爺さん』」
そして、俺はアメノ爺さんからもたらされる知らせを聞いて、次の日に全く海の街を堪能する事なく、早々と王都に向かって馬車を走らせる事になった。
"早く……みんな……逃げ……て……"
俺は、『黒鉄の大巨人』内部の操縦席から呟く。
「ヤナ君……貴方もしかして……」
エディスさんが、何やら思っているようだが、今はスルーする。
「そんな事より、今度はこっちの怪獣大決戦に集中しないとな」
「主人様? 集中と言いましても、私達は何をすればいいのでしょうか?」
俺と同じくアシェリとエディスさんも、操縦席に乗って座っているのだ。
「気分が乗ってきたら『やぁぁああぁ!』とか『くらぇえええ!』とか叫ぶんだ!」
「要するに、やる事無いわけですね……」
「何の為に、ここに拉致ったのよ……」
二人は、何故か文句を言っている。
「そんなのノリに決まってるだろうが!」
「エディス様、これ終わったら二人で主様を潰しませんか?」
「アシェリさん奇遇ですね。私も、そう言おうとした所ですよ」
後ろの二人から不穏な呟きが聞こえ、戦闘終了即離脱を決意した瞬間だった。
「それにしても、これからこの瘴気纏いキングクラーケンと、どうやって戦うんですか?」
「大分浜辺に近い所まで、押してきたが、ここはまだ街に近いからな。こうするんだよ!」
黒鉄の大巨人は巨大イカを掴み上げ、思いっきり海の方へと放り投げた。
「「はぁああああ!?」」
巨大瘴気纏いキングクラーケンが空を舞った様子を見ていた冒険者達は、その様子に驚愕し硬直した。
「クラーケンて、空を飛んだな……」
「あぁ……飛ぶんだな」
勇者達も走りながら、瘴気纏いキングクラーケンが宙を舞ったのを見ていた。
「背負い?」
「一本?」
「肩車?」
「イカって本当に飛ぶんだねぇ」
「もう、私達あれぐらいじゃ驚かなくなっている事に、涙が出そうです……」
しかし、空飛ぶイカを追いかける様にポージングしながら空を飛ぶ、黒鉄の大巨人をみて、勇者達は叫ぶ。
「「「お前も飛ぶんか!?」」」
「当たり前だよね!」
「どうやってこの事、団長に報告したらいいか私わかんない……ぐす」
「あああ主様ぁああ! 飛んでるぅうう!」
「ヤァアアナァアア! 降ろしてぇえええ!」
「さぁ、ここなら誰もいないだろう。ネミアさんの気配も、ここにはないから大丈夫だ!」
俺は、投げ飛ばした巨大イカ怪獣を追いかけて機体を浮上させて、宙を飛んで追いかけた。そして、相手のホームである海で戦いを挑んだのだ。
「くっ! ここは海! 相手の得意な場所だ! 油断するなよ! みんな!」
「もう殴っていい?」
「もうちょっと、我慢しましょう?」
案の定、巨大イカ怪獣は海中に隠しておいた足を機体に絡みつけ締め上げてきた。
「主様! ミシミシいっています!」
更に巨大イカ怪獣は、巨大な水弾をここぞとばかりに浴びせて来る。
「ヤナ君! 全弾被弾してるわ!」
「慌てるな! これくらいで俺たちの『黒鉄の大巨人』は負けやしない! エディス隊員! 目の前にあるボタンを押すんだ!」
「誰が隊員よ……それにいつの間に、こんなボタン出てきたの? まぁ、押せばいいのね。はいはい」
エディス隊員がポチッとなと、目の前のボタンを押すと黒鉄の大巨人が動き出す。
「エディス隊員ヨリ攻撃命令アリ。承認サレマシタ。『部分的』『形状変化』『神火の飛翔拳』『対象:瘴気纏いキングクラーケン』『待機』準備ガトトノイマシタ。再度ボタンヲ押シテクダサイ」
「な!? こいつ喋るの!?」
「エディス様……あれ」
アシェリ隊員が、エディス隊員に俺を見る様に目配せする。
「自分で!? バカなの!?」
「うるせぇ! 未だそこまで出来ないんだよ! 次は絶対喋れる様にしてやる! ハヤクボタンヲ押シテクダサイ」
「次は絶対乗らない! 押せばいいんでしょ!」
エディス隊員の気合の乗った良い掛け声の元で、ボタンが再度押された。
「『待機』『解除』!『神火の飛翔拳』ファイヤァアアアア!」
巨大イカ怪獣に向けて真直ぐ伸ばしていた腕から、発射音を轟かせながら拳が飛んでいく。
そして、解き放たれた神火の飛翔拳は、巨大イカ怪獣を飛び回りながらタコ殴りにする。
「イカなのに、タコ殴りとはこれ如何に……くっくっく」
「主様が変な顔で笑ってます……」
「アレは見てはダメよ」
「ゲゾォオオオオオ!」
そして最後に、ダブルアッパーカットで空中へかち上げた。
「今だ! アシェリ隊員! ボタンを押すんだ!」
「はいはい」
若干アシェリ隊員のやる気のなさが気になったが、これから教育していけば問題ないはずだ。
「『部分的』『形状変化』『神火光線砲』『待機』! アシェリ!」
「はいはい、ポチッと」
「『待機』『解除』!『神火光線砲』ファイヤァアアアア!」
黒鉄の大巨人の胸から、勝利のV字に輝く神火の光線が、宙に舞う巨大イカ怪獣に直撃した。
「グゲゾォオオオオオ!」
神火に燃やされながら、海面に叩きつけられた巨大イカ怪獣に俺はいよいよ止めを刺すべく、操縦席前に用意してある人ひとりが動けるスペースに、席から立ち上がり移動する。
俺は頭の上で腕を伸ばし手をあわせる。黒鉄の大巨人も、俺の動きに連動してポーズをとる。
「『部分的』『形状変化』『神火の黒鉄剣』!」
頭の上で、両腕が巨大な黒剣に形状変化した。更には刀身に神火を神々しく纏っている。
俺は、ゆっくり円形に両腕を回す。勿論気分はアレだ。
「トドメだぁああ! 『円月黒鉄覇王斬』!」
俺は黒鉄の大巨人と一心同体と成り、巨大イカ怪獣に神火の黒鉄剣を振り下ろした。
「グゥオオオ……ゲッゲ……ゲソォオオオオ!」
俺はゆっくり後ろに倒れる巨大イカ怪獣に、背を向け佇む。
そして巨大イカ怪獣は後ろに倒れ、同時に大爆発と共に神火の炎が巨大な火柱を上げ、巨大なイカを丸焼きにした。
「ふっ……正義は必ず勝づぁあああああ! ぎゃぁああああ! 頭がぁあああ!」
決め台詞を言い終わる寸前に背後からエディスさんが、両手の拳でこめかみをギリギリと潰して来る。
「やめ! 止めでぇででで! アシェリ助け……なんで俺の『烈風』と『涼風』を持って……なんでエディスさんに一本渡す……ノォオオオオオオ! げぶし! がは! やめ! ぎゃぁああ!」
戦闘中にちゃんと台詞が外にも聞こえる様に、生活魔法の『拡声器』で機体の外に今も俺の声を届けている。
「なんで勝ったのに、ヤナの悲鳴が聞こえてくるんだろ?」
「何となく想像できるわね」
「アシェリちゃんとエディスさんに、何も言わずにアレやってたんでしょきっと」
「ヤナ君! 私も乗りたいよぉお!」
「そして最後にヤナ様の悲鳴が、戦場に響き渡った……と、もうこれで団長への報告でいいや」
俺が丸焼きにした瘴気纏いキングクラーケンを鞄に回収し、それを見た再度エディスさんから再び、理不尽に天国と地獄ヘッドロックをかまされた。
今回の防衛戦で、瘴気纏いキングクラーケンは明らかに俺がみんなの前で討伐したので、素材や討伐報酬は俺が貰っていいらしい。アシェリは俺の奴隷という事と、エディスさんは別にギルドから特別手当が出るそうで、報酬受け取りは俺だけとなったのだ。
取り敢えず、魔物の残党狩りに勇者一行や俺達も参戦し、街に入り込んだ魔物を全て狩り終わった時には、夜になっていた。
領主のドルフィ伯爵や住民は、浜辺と反対側に避難しており、全員無事だった。浜近辺の建物が倒壊していたが、アレだけの魔物の大群に対して、それだけの被害だったのはむしろ奇跡的らしい。
広場で行わた街を上げての大宴会で、エドリック支部長に連れられてドルフィ伯爵と会った時に、アライがいない事に気付いて尋ねると、王都以外のギルド支部に指定クエストを受けてもらうべく、色々移動している最中らしい。
ギルドの支部同士は魔道具による通信が存在するらしく、今回の防衛戦及び瘴気纏いキングクラーケン、魔族の討伐は各支部に情報が伝わっている。
そういった連絡網はあくまでギルドの物であり、領主といえども利用出来ないらしく、仕方がないのでアライが直接交渉向かったという事だ。おかげで、腕利きのアライさえも街にいない状況が出来上がったという訳だ。
「本来、今回の様な状況では、国とも協力体制を敷く為、ギルドの通信を使って応援要請をするんだが……おそらくゲッソ副支部長が、支部長代理の権限でそうさせなかったのだろう」
エドリック支部長は忌々しいという顔で、そう呟いた。黒幕気取りのゲソ魔族によって、色々情報が錯綜し、虚偽の報告もされていたらしい。
ゲッソは元々Bランクの冒険者だったが、数年前のクエストで傷を負った際に冒険者を引退してギルド職員になったらしい。
そんな冒険者時代から魔族だったとは中々考えられない為、どこかのタイミングで魔族に取って代わられたと思われるが、真相は正に闇の中だ。
その後も、『黒鉄の大巨人』についても聞かれたが、魔法だと答えた。納得してなさそうな顔をしていたが、俺が嗤いながら二人に囁いた。
「自分の手の内を教える訳が、ないだろう?」
若干二人が後ずさった気がしたが、気のせいだろう。気の所為だよな?
そして、ドルフィ伯爵とエドリック支部長と別れ、勇者一行と合流しこれからの予定を聞いた後、アシェリとエディスさんと宿に戻った。
既に夜も大分更けていた為か、眠いと言って抱っこをアシェリがせがんできたので、抱っこして帰っていると、宿に着いた時には既に俺の腕の中で、アシェリは寝息を立てていた。俺の部屋に運び、ベッドに寝かせる。
「ふふ、本当に子供だな」
「そうですね。可愛らしい寝顔で寝ちゃってますね」
エディスさんは自然な微笑みでアシェリを見ていた。
「なぁ、エディスさんて何で、ワザと乱暴な言葉遣いや変に丁寧な喋り方をするんだ?」
俺は、この時初めて酒を飲んだせいで、酔っていたのだろう。
普段なら聞かない余計な事を、本人に聞いてしまった。
「あら? そんな事を聞くなんて、らしくないですね」
エディスさんは、じっと俺を見て答える。
「まぁ、そうだ……な。悪い忘れてくれ、初めて酒を飲んだせいで酔ったみたいだ。ついな」
「つい、なんですか?」
「寂しそうな、それでいて何かに諦めているような目をエディスさんが、よくしているのは知っていたが……今そんな目をしていなかったら、つい調子にのっただけさ」
エディスさんは、いつもの目に戻って俺に告げる。
「そうですね……もし……もし、ヤナ君がその理由を知ったら、あたしと、一緒に旅した事を怒るかもしれないよ?」
「は? 何を言って……」
俺が、そんな事は無いと否定しようとするが、そのタイミングで呼出が入った。
「悪い、呼出がきたみたいだ」
それを聞くとエディスさんは、すっと立ち上がり部屋を出ていくために、扉を開けた。
「おやすみ、ヤナ君」
俺が答える前に、エディスさんは自分の部屋へと戻っていった。
「おやすみ、エディスさん」
俺は一人呟き、かかってきた呼出にでる。
「『ヤナだ。こんな時間に何の用だ、アメノ爺さん』」
そして、俺はアメノ爺さんからもたらされる知らせを聞いて、次の日に全く海の街を堪能する事なく、早々と王都に向かって馬車を走らせる事になった。
"早く……みんな……逃げ……て……"
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なるべく読みやすいようには致しますが。
・この物語には短編の1が存在します。出来れば其方を読んで頂き、作風が大丈夫でしたら此方へ来ていただければ幸いです。
勿論、此方だけでも読むに当たっての不都合は御座いません。
・所々挿し絵画像が入ります。
大丈夫でしたらそのままお進みください。
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