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第五章 刀と竜
舞台と登場人物
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伯爵令嬢のマイナに何故か、漆黒の騎士だとバレてしまったが、特にその後に姉の方に絡まれなかったので、恐らく黙っていてくれたのだろう。あの子は、やっぱり常識人に違いないと確信した瞬間だった。
「マスター……ビビりすぎです。嘘ついて二股かけた上に、バレそうだからと逃げている人みたいですよ」
「うるさい……」
北都ノスティのギルド支部では、特に絡まれること無く到着の報告が出来た。そしてアメノ爺さんが言っていた鍛治師の村であるトンカン村までの道程も、簡単に調べることが出来た。
「あなた……」
「主様……」
「ヤナ様……」
「ん?どうし……た……嘘だろ……?」
三人があまりにも同情的な声で俺を呼ぶので、何事かと思い三人が見ているクエストボードを見て、俺は絶句した。
・・・・・・・・・・・
『依頼主:ロイド伯爵家ヴァレリー』
・『漆黒の騎士』目撃情報求む
・『漆黒の騎士』生け捕り求む
・『漆黒の騎士』様、連絡お待ちしております
・『漆黒の騎士』詳細はこちら(全身イラスト掲示)
・『漆黒の騎士』討伐依頼
・・・・・・・・・・・
「あなた、ここでも詰んでるわね」
「ひぃい!? あの人たち、アホなの!? 最後の『討伐』って何!?」
「一応、注意書きで『生きた状態で、伯爵家に引き渡すこと』て書いてありますよ、主様よかったですね」
「問題は、そこじゃねぇ!?」
「確か、ヤナ様の世界の言葉で『口は災いの元』という言葉がありましたよね?」
「こふ……正論が突き刺さる……」
俺が漆黒の騎士関連の伯爵家から出されているクエストを見ながら、必死に絶望に抗っていると後ろから冒険者に声をかけられた。
「にいちゃん、『漆黒の騎士クエスト』は初心者にはちと厳しぞ?」
「『漆黒の騎士クエスト』……だと……?」
「あぁ、今はその関連クエストが多いからな。一括りにそう呼ばれているのさ」
俺が再度悶絶しているため、セアラがその冒険者に質問をしていた。
「何故、初心者には厳しいのですか?」
「あぁ、以前に王都の方から来てた五人組の冒険者の情報だとな。漆黒の騎士は、ある冒険者だと噂されているらしいが……」
曰く、漆黒の騎士は『黒炎の狂犬』である
曰く、漆黒の騎士は『深淵の暴力狂い』である
曰く、漆黒の騎士は、『暗闇の紳士』である
曰く、漆黒の騎士は、『全てを破壊する者』である
「な? こんな二つ名ばかり持っているヤツなんざ、絶対に碌な奴じゃねぇだろ。ハッハッハ! まぁ、報酬は良いし、伯爵様の覚えも良くなるから、人気があるから受けている奴は多いがな。まぁ、初心者はまず地道に頑張りな」
そう言って、俺の肩を叩くとその冒険者は離れていった。
「なんて、親切な冒険者なんだ……それに引き換え、王都から来てた五人組の冒険者だと……頭までウメテヤル」
俺が、決意を固くしていると、三人が後ろで呟く。
「どっちも、どっちよね?」
「どっちも、子供ですね」
「思ってたより、ヤナ様って子供だったんですね」
元の世界にいる弟や妹から度々向けられた事がある目線を、三人から向けられた。どんな目線なのかは、俺には分からない。
「マスター、『変態の中の変態』とも呼ばれていると、情報提供したらどうでしょう?」
「……俺の事が、嫌いなの?……」
「マスターの望みを、叶えているのですが?」
「「「変態……」」」
「嘘だぁあああ!」
俺は、安息の地を目指して駆け出した。
宿屋に着いて、部屋をとる時に三人は同じ部屋が良いと言われたので、その様にしてもらった。その際に何故か、ヤナビを借りたいと言うので渡した。神火の式神で身体を作っていないので、話ぐらいしか出来ないと言ったのだが、それでも良いらしい。
「マスターに勝つための、勉強会です」
との事らしく、その熱心さに心を打たれながら、自分の部屋のベッドで一人横になった。
「……マジで、どうしよう……」
ヤナの珍しい弱気な声での呟きが、一人部屋に静かに響いた。
次の日の朝、いつも通り全員で街の中をランニングして、朝食をとった後、俺は昨日の夜に考えていた事を三人に伝えた。
「取り敢えず、鍛治師の村に早く出発しよう!」
「「「うわぁ……」」」
三人に半眼で、呆れられた様な表情をされたが、スルーだ。
「……馬車で一日くらいの距離だから、走ればいいだろう。鍛錬器具に慣れてきた様に見えるから、『神火の肉体改造器具』の締め付けを強くして、『神火の重石帯』の数を増やすからな」
三人に口々に『変態』『鬼ぃ』『締めつけが強く……』と呟いていたが、全部スルーだ。
そして、俺たちは朝食を食べた後に、街の北門から鍛治師の集まるトンカン村に向けて走り出したのだった。
北都ノスティを出発して、昼を過ぎた頃の事だった。
「あれは……馬車が襲われてる?」
この世界は、本当に何処にでも危険が付きまとう。街と村を繋ぐ街道であっても、盗賊は獲物と見るや襲ってくる。
「あなた、どうするの?」
「ん? 進行方向だしな。何より俺は、あいつらが大嫌いだ」
「ふふふ、殺しはナシよね?」
「あぁ、死ななきゃいい」
「マスター、ここはしっかりと恐怖を与えて、心を折ってしまっては如何でしょう? そう、ダークヒーローの様に!」
「ダークヒーロー……そうだな!」
俺は、ヤナビの提案にのって、しっかりと変身した。
「え? 主様?」
「ダークヒーローか……うん……格好いい」
「おらぁ! 死にたくなきゃ、金目のものと女を置いていくんだなぁ! ぎゃはははは!」
「やめてくれ! 金は置いていくし、商品も置いていく! だから、その二人だけは!」
「うるせぇ! 恨むなら、そこでぶっ倒れてる、弱ぇ護衛達を恨むんだなぁ! おら、連れていけぇ! 今夜は、お楽しみだぁ!」
「あなたぁ!」
「お父さん!」
そして、十人程の盗賊が金と商品を自分たちの馬へと運ぼうとしていた。更に、盗賊リーダーらしき男が、商人の娘とその母親を連れて行こうとしていた。
「よし! お前ら、残った奴らは殺しとけ!」
「「「へい!」」」
「そんな!?」
商人の男の顔はみるみるうちに絶望へと、変わろうとしていた。
「ぎゃぁ!」
「ぐぷぺ!」
「潰されげぷ!」
突然、盗賊の手下どもの悲鳴が、現場に響き渡る。
「なんだ!? 何が起こっている!?」
盗賊リーダーが、焦り叫ぶ。
"カツーン"
"カツーン"
"カツーン"
手下どもの悲鳴が鳴り止み、現場に静寂が訪れた直後、不自然に足音が響き渡る。
「さぁ、悪党よ。お仕置きの時間だ」
「な……何なんだ!? お前は、誰だ!」
「誰でもいいだろう? 我輩の視界の中に、貴様らが居た。ただそれだけで、十分であろう?」
そして、俺はバッと両手を左右に広げる。
すると、俺の背後から自動操縦で操っている『黒炎の張り扇』を、出現させた。
「なん……だ……それは……待て! こっちには人質が……いない!?」
「さぁ、ここから北都まで走れば半日だが、お前たちは如何かな?」
「何を言って……げぺら!?」
思いっきり黒炎の張り扇で、北都ノスティの方へ盗賊をぶっ飛ばした。
そして、其処彼処でスパーンと言う音と悲鳴がこだまする。
「さぁ、北都まで走れ走れ! 休めると思うな! 横道に逃げられると思うな! 気絶しても、失神しても、衛兵までどつきまわして、走らせるからなぁあああ!」
「「「「ぎゃぁあああ!」」」」
そして、盗賊団は自分の足でしっかりと、自首しに向かったのだ。
「フハハハハ! 身も心もしっかりと、鍛錬し直すんだな!」
「「「えげつない……」」」
俺が高笑いしていると、商人の一家が此方へ歩いてきていた。奥さんと娘さんは、アシェリが既に保護しており、旦那さんの元へと引き合わせていたのだ。
「あの、貴方様は……」
「フフフ、名乗る程の者では……」
「貴方様は……間違いない! 『漆黒の騎士』様ですね! ありがとうございました! いやぁ、街中に出回っている手配書と瓜ふたつですな!」
「あ……あぁああああああ!」
「マスター……本当に、そこまでするとは……私の予想を上回る鳥頭なんですね……」
「ヤナ様……アメノとエイダに頭打たれ過ぎたのでしょうか……私は大丈夫……ですよね?」
「「あなた……」」
そして、俺は明日へ向って走り出したのだ。
その日の夕暮れ刻に、私は北都ノスティに到着した。
「ディアナ、只今王都の救援より帰還致しました」
「うむ、ご苦労だった。報告は、明日にでも聞こう。疲れているだろう、今日はゆっくり休め」
「承知致しました! 御配慮、感謝いたします!」
ロイド伯爵様から、今日のお勤めを免除され部屋を出て行こうとすると、思い出したように一声かけられた。
「あぁ、そうだった。ヴァレリーが、お前が帰ってきたら、一度部屋に来て欲しいそうだ。仕事の話ではないと言っていたが、悪いが寄ってやってくれるか」
「ヴァレリー様が……承知致しました! 必ずや寄って行きます!」
「元気が良いのはいいんだが、もう少し肩の力を抜けんのか?」
「承知致しました!」
「……はぁ、もういい、早くヴァレリーに会ってやってくれ」
「失礼いたします!」
私は、伯爵様の部屋をでて、ヴァレリー様のお部屋と向かった。
「ヴァレリーです! 只今戻りました! お呼びでしょうか!」
「お入りなさい」
私は、ヴァレリー様のお部屋へと入った。中にはヴァレリー様とマイナ様もいた。
「ディアナおかえりなさい」
「ディアナおかえりぃ」
「お二人ともお変わりなさそうで、安心致しました」
私が、二人の姿に安心しているとヴァレリー様が、ゆっくりと話だした。
「ディアナ、落ち着いてよく聞くのよ」
「はい、何でしょうか?」
私は、ヴァレリー様に早くお伝えしたい事があったが、ぐっと我慢して静かに待つ。
「今日の夕暮れ、貴方が帰ってくる少し前に、トンカン村から帰ってきた商人の家族がいたの。その家族は、途中盗賊に襲われ、雇っていた冒険者も倒されて絶対絶命だったらしいの」
「そうですか、あの辺りも盗賊が出ますからね……」
「するとね……黒い全身鎧の者に、助けられたらしいわ」
「な!? まさか?」
私は、その事を聞いて思わず立ち上がってしまった。
「落ち着いて! そしてね、その方は名乗りもせずにトンカン村の方に、物凄い速さで駆けていったらしいの」
「トンカン村……鍛治師の村ですね」
「ええ、そして丁度もう直ぐ『闘剣大会』が行われるのよ」
「そういえば、そろそろその様な時期……はっ! まさか!」
「そうよ! そうなのよ! 伯爵家はいつも見に行くじゃない! そこで、私に名案が……」
私は、ヴァレリー様の名案を聞き、心が躍った。
きっと、まだ私と彼の方には『見えない糸』が繋がっていると確信したからだ。
そして、ディアナは王都での出来事を、二人に報告すると、ヴァレリーは『これは運命ね!』と大騒ぎしながら、ディアナと盛り上がった。
二人の年上の女性を見ながら、マイナはそっと呟いた。
「また、逢いに行くみたいだよ、召喚者のお兄ちゃん」
かくして、『見えない糸』に導かれる様に、鍛治師の村トンカンへとこの物語の登場人物が手繰り寄せられる。
「オォオオオオオオオン!」
「もう少しだ。もう少しで、全てを破壊し、人共に絶望を届けられる。アヒャヒャヒャ!」
望まれない登場人物も
「確かヤナ君も、刀を直すか作りに行くって言ったわね」
数奇な縁で繋がる登場人物も
舞台は、竜と神鉄が眠る霊峰の麓
幕開けの刻は迫る
「マスター……ビビりすぎです。嘘ついて二股かけた上に、バレそうだからと逃げている人みたいですよ」
「うるさい……」
北都ノスティのギルド支部では、特に絡まれること無く到着の報告が出来た。そしてアメノ爺さんが言っていた鍛治師の村であるトンカン村までの道程も、簡単に調べることが出来た。
「あなた……」
「主様……」
「ヤナ様……」
「ん?どうし……た……嘘だろ……?」
三人があまりにも同情的な声で俺を呼ぶので、何事かと思い三人が見ているクエストボードを見て、俺は絶句した。
・・・・・・・・・・・
『依頼主:ロイド伯爵家ヴァレリー』
・『漆黒の騎士』目撃情報求む
・『漆黒の騎士』生け捕り求む
・『漆黒の騎士』様、連絡お待ちしております
・『漆黒の騎士』詳細はこちら(全身イラスト掲示)
・『漆黒の騎士』討伐依頼
・・・・・・・・・・・
「あなた、ここでも詰んでるわね」
「ひぃい!? あの人たち、アホなの!? 最後の『討伐』って何!?」
「一応、注意書きで『生きた状態で、伯爵家に引き渡すこと』て書いてありますよ、主様よかったですね」
「問題は、そこじゃねぇ!?」
「確か、ヤナ様の世界の言葉で『口は災いの元』という言葉がありましたよね?」
「こふ……正論が突き刺さる……」
俺が漆黒の騎士関連の伯爵家から出されているクエストを見ながら、必死に絶望に抗っていると後ろから冒険者に声をかけられた。
「にいちゃん、『漆黒の騎士クエスト』は初心者にはちと厳しぞ?」
「『漆黒の騎士クエスト』……だと……?」
「あぁ、今はその関連クエストが多いからな。一括りにそう呼ばれているのさ」
俺が再度悶絶しているため、セアラがその冒険者に質問をしていた。
「何故、初心者には厳しいのですか?」
「あぁ、以前に王都の方から来てた五人組の冒険者の情報だとな。漆黒の騎士は、ある冒険者だと噂されているらしいが……」
曰く、漆黒の騎士は『黒炎の狂犬』である
曰く、漆黒の騎士は『深淵の暴力狂い』である
曰く、漆黒の騎士は、『暗闇の紳士』である
曰く、漆黒の騎士は、『全てを破壊する者』である
「な? こんな二つ名ばかり持っているヤツなんざ、絶対に碌な奴じゃねぇだろ。ハッハッハ! まぁ、報酬は良いし、伯爵様の覚えも良くなるから、人気があるから受けている奴は多いがな。まぁ、初心者はまず地道に頑張りな」
そう言って、俺の肩を叩くとその冒険者は離れていった。
「なんて、親切な冒険者なんだ……それに引き換え、王都から来てた五人組の冒険者だと……頭までウメテヤル」
俺が、決意を固くしていると、三人が後ろで呟く。
「どっちも、どっちよね?」
「どっちも、子供ですね」
「思ってたより、ヤナ様って子供だったんですね」
元の世界にいる弟や妹から度々向けられた事がある目線を、三人から向けられた。どんな目線なのかは、俺には分からない。
「マスター、『変態の中の変態』とも呼ばれていると、情報提供したらどうでしょう?」
「……俺の事が、嫌いなの?……」
「マスターの望みを、叶えているのですが?」
「「「変態……」」」
「嘘だぁあああ!」
俺は、安息の地を目指して駆け出した。
宿屋に着いて、部屋をとる時に三人は同じ部屋が良いと言われたので、その様にしてもらった。その際に何故か、ヤナビを借りたいと言うので渡した。神火の式神で身体を作っていないので、話ぐらいしか出来ないと言ったのだが、それでも良いらしい。
「マスターに勝つための、勉強会です」
との事らしく、その熱心さに心を打たれながら、自分の部屋のベッドで一人横になった。
「……マジで、どうしよう……」
ヤナの珍しい弱気な声での呟きが、一人部屋に静かに響いた。
次の日の朝、いつも通り全員で街の中をランニングして、朝食をとった後、俺は昨日の夜に考えていた事を三人に伝えた。
「取り敢えず、鍛治師の村に早く出発しよう!」
「「「うわぁ……」」」
三人に半眼で、呆れられた様な表情をされたが、スルーだ。
「……馬車で一日くらいの距離だから、走ればいいだろう。鍛錬器具に慣れてきた様に見えるから、『神火の肉体改造器具』の締め付けを強くして、『神火の重石帯』の数を増やすからな」
三人に口々に『変態』『鬼ぃ』『締めつけが強く……』と呟いていたが、全部スルーだ。
そして、俺たちは朝食を食べた後に、街の北門から鍛治師の集まるトンカン村に向けて走り出したのだった。
北都ノスティを出発して、昼を過ぎた頃の事だった。
「あれは……馬車が襲われてる?」
この世界は、本当に何処にでも危険が付きまとう。街と村を繋ぐ街道であっても、盗賊は獲物と見るや襲ってくる。
「あなた、どうするの?」
「ん? 進行方向だしな。何より俺は、あいつらが大嫌いだ」
「ふふふ、殺しはナシよね?」
「あぁ、死ななきゃいい」
「マスター、ここはしっかりと恐怖を与えて、心を折ってしまっては如何でしょう? そう、ダークヒーローの様に!」
「ダークヒーロー……そうだな!」
俺は、ヤナビの提案にのって、しっかりと変身した。
「え? 主様?」
「ダークヒーローか……うん……格好いい」
「おらぁ! 死にたくなきゃ、金目のものと女を置いていくんだなぁ! ぎゃはははは!」
「やめてくれ! 金は置いていくし、商品も置いていく! だから、その二人だけは!」
「うるせぇ! 恨むなら、そこでぶっ倒れてる、弱ぇ護衛達を恨むんだなぁ! おら、連れていけぇ! 今夜は、お楽しみだぁ!」
「あなたぁ!」
「お父さん!」
そして、十人程の盗賊が金と商品を自分たちの馬へと運ぼうとしていた。更に、盗賊リーダーらしき男が、商人の娘とその母親を連れて行こうとしていた。
「よし! お前ら、残った奴らは殺しとけ!」
「「「へい!」」」
「そんな!?」
商人の男の顔はみるみるうちに絶望へと、変わろうとしていた。
「ぎゃぁ!」
「ぐぷぺ!」
「潰されげぷ!」
突然、盗賊の手下どもの悲鳴が、現場に響き渡る。
「なんだ!? 何が起こっている!?」
盗賊リーダーが、焦り叫ぶ。
"カツーン"
"カツーン"
"カツーン"
手下どもの悲鳴が鳴り止み、現場に静寂が訪れた直後、不自然に足音が響き渡る。
「さぁ、悪党よ。お仕置きの時間だ」
「な……何なんだ!? お前は、誰だ!」
「誰でもいいだろう? 我輩の視界の中に、貴様らが居た。ただそれだけで、十分であろう?」
そして、俺はバッと両手を左右に広げる。
すると、俺の背後から自動操縦で操っている『黒炎の張り扇』を、出現させた。
「なん……だ……それは……待て! こっちには人質が……いない!?」
「さぁ、ここから北都まで走れば半日だが、お前たちは如何かな?」
「何を言って……げぺら!?」
思いっきり黒炎の張り扇で、北都ノスティの方へ盗賊をぶっ飛ばした。
そして、其処彼処でスパーンと言う音と悲鳴がこだまする。
「さぁ、北都まで走れ走れ! 休めると思うな! 横道に逃げられると思うな! 気絶しても、失神しても、衛兵までどつきまわして、走らせるからなぁあああ!」
「「「「ぎゃぁあああ!」」」」
そして、盗賊団は自分の足でしっかりと、自首しに向かったのだ。
「フハハハハ! 身も心もしっかりと、鍛錬し直すんだな!」
「「「えげつない……」」」
俺が高笑いしていると、商人の一家が此方へ歩いてきていた。奥さんと娘さんは、アシェリが既に保護しており、旦那さんの元へと引き合わせていたのだ。
「あの、貴方様は……」
「フフフ、名乗る程の者では……」
「貴方様は……間違いない! 『漆黒の騎士』様ですね! ありがとうございました! いやぁ、街中に出回っている手配書と瓜ふたつですな!」
「あ……あぁああああああ!」
「マスター……本当に、そこまでするとは……私の予想を上回る鳥頭なんですね……」
「ヤナ様……アメノとエイダに頭打たれ過ぎたのでしょうか……私は大丈夫……ですよね?」
「「あなた……」」
そして、俺は明日へ向って走り出したのだ。
その日の夕暮れ刻に、私は北都ノスティに到着した。
「ディアナ、只今王都の救援より帰還致しました」
「うむ、ご苦労だった。報告は、明日にでも聞こう。疲れているだろう、今日はゆっくり休め」
「承知致しました! 御配慮、感謝いたします!」
ロイド伯爵様から、今日のお勤めを免除され部屋を出て行こうとすると、思い出したように一声かけられた。
「あぁ、そうだった。ヴァレリーが、お前が帰ってきたら、一度部屋に来て欲しいそうだ。仕事の話ではないと言っていたが、悪いが寄ってやってくれるか」
「ヴァレリー様が……承知致しました! 必ずや寄って行きます!」
「元気が良いのはいいんだが、もう少し肩の力を抜けんのか?」
「承知致しました!」
「……はぁ、もういい、早くヴァレリーに会ってやってくれ」
「失礼いたします!」
私は、伯爵様の部屋をでて、ヴァレリー様のお部屋と向かった。
「ヴァレリーです! 只今戻りました! お呼びでしょうか!」
「お入りなさい」
私は、ヴァレリー様のお部屋へと入った。中にはヴァレリー様とマイナ様もいた。
「ディアナおかえりなさい」
「ディアナおかえりぃ」
「お二人ともお変わりなさそうで、安心致しました」
私が、二人の姿に安心しているとヴァレリー様が、ゆっくりと話だした。
「ディアナ、落ち着いてよく聞くのよ」
「はい、何でしょうか?」
私は、ヴァレリー様に早くお伝えしたい事があったが、ぐっと我慢して静かに待つ。
「今日の夕暮れ、貴方が帰ってくる少し前に、トンカン村から帰ってきた商人の家族がいたの。その家族は、途中盗賊に襲われ、雇っていた冒険者も倒されて絶対絶命だったらしいの」
「そうですか、あの辺りも盗賊が出ますからね……」
「するとね……黒い全身鎧の者に、助けられたらしいわ」
「な!? まさか?」
私は、その事を聞いて思わず立ち上がってしまった。
「落ち着いて! そしてね、その方は名乗りもせずにトンカン村の方に、物凄い速さで駆けていったらしいの」
「トンカン村……鍛治師の村ですね」
「ええ、そして丁度もう直ぐ『闘剣大会』が行われるのよ」
「そういえば、そろそろその様な時期……はっ! まさか!」
「そうよ! そうなのよ! 伯爵家はいつも見に行くじゃない! そこで、私に名案が……」
私は、ヴァレリー様の名案を聞き、心が躍った。
きっと、まだ私と彼の方には『見えない糸』が繋がっていると確信したからだ。
そして、ディアナは王都での出来事を、二人に報告すると、ヴァレリーは『これは運命ね!』と大騒ぎしながら、ディアナと盛り上がった。
二人の年上の女性を見ながら、マイナはそっと呟いた。
「また、逢いに行くみたいだよ、召喚者のお兄ちゃん」
かくして、『見えない糸』に導かれる様に、鍛治師の村トンカンへとこの物語の登場人物が手繰り寄せられる。
「オォオオオオオオオン!」
「もう少しだ。もう少しで、全てを破壊し、人共に絶望を届けられる。アヒャヒャヒャ!」
望まれない登場人物も
「確かヤナ君も、刀を直すか作りに行くって言ったわね」
数奇な縁で繋がる登場人物も
舞台は、竜と神鉄が眠る霊峰の麓
幕開けの刻は迫る
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はてさて一体どうなるの?
と、言う話のパート2、ここに開幕!
【ご注意】
・このお話はロベルトの一人称で進行していきますので、セリフよりト書きと言う名のロベルトの呟きと、突っ込みだけで進行します。文字がびっしりなので、スカスカな文字列を期待している方は、回れ右を推奨します。
なるべく読みやすいようには致しますが。
・この物語には短編の1が存在します。出来れば其方を読んで頂き、作風が大丈夫でしたら此方へ来ていただければ幸いです。
勿論、此方だけでも読むに当たっての不都合は御座いません。
・所々挿し絵画像が入ります。
大丈夫でしたらそのままお進みください。
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