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第六章 偽り
師匠
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鍛治師の村から北都まで走り、その後は北都ノスティから王都までと、行きと同じように神火の馬車で、道中鍛錬をしながらゆっくりと王都までの帰路を楽しんだ。
「無理無理……もう無理」
「限界超えてます……無理無理」
「これ以上は……壊れちゃいます……」
最終的に、王都に着く頃には、全員の神火の肉体改造器具と 神火の重石帯の負荷を、最初の十倍程にして見たのだ。
「……確かに……十倍は……無理しすぎた……かも?」
「「「かも?……じゃない…」」」
全員で、息も切れ切れなりながら、王都の宿屋に到着した。
「あら、あんた達随分久しぶりな気がするね」
「皆さん! おかえりにゃさい!」
「……癒されるぅううう」
俺は久しぶりに、全く邪気にも欲望にも染まっていないリアンちゃんの眼差しに、途轍もなく癒された。まさに精神高位回復魔法である。
「どうしたんだい? まるで、魔物に食われそうになって逃げてきた冒険者が、宿に辿り着いた見たいな顔してるけど」
女将さんが、正に見てきたような例えをしてくる。
「概ね、正解ね」
「大体、あってますね」
「しっかり食われる約束は、してきましたけどね」
女将さんが、呆れた目線を向けてくるが、俺がリアンちゃんで癒されるのに必死で、そんな目線は気づかないったら気づかない。
「部屋はいつも通りでいいね? 夕食は、どうするんだい?」
「久しぶりに、親父さんの飯を食べたいな。全員分を頼むよ」
王都に着いたのは夕方だった為、まだ食事はとっていなかった。
「明日からは、どうするの?」
食事をしながら、エディスが明日からの予定を聞いてくる。
「取り敢えず、朝飯を食べた後に、ここのギルドに帰ってきた事の報告と、今回俺がもらった分の氷雪竜とそのモドキ共の解体と査定の依頼だな。その後は、防具屋にいって俺の新しい装備の受け取りかな」
「主様の防具に、瘴気纏いキングクラーケンの素材がどう生きてくるのか、楽しみですね」
「あぁ、そうだな。どう生かしてくるのか見当もつかないがな」
大鬼と岩熊に大王烏賊が、どうやってコラボするのか、楽しみだ。
「ヤナ様、私は少し城に行ってきても良いですか? 旅の報告に行きたいと思っていまして」
「城か……勇者達も、今まだ確か城にいるんだったな……よし! 俺も行くぞ」
「何か勇者様達に、用事でもあるんですか?」
俺は、少し深刻な顔をして、言葉を吐き出す。
「コウヤに……色々聞きたいことがある!」
「マスター……そんなに力強く言っても、格好悪いですよ」
俺は、同郷の唯一の同志であるコウヤに、女子との距離感とか付き合い方とか、参考程度に聞いておこうと思ったのだ。あいつは元の世界でもモテてたしな……クソッタレ。
「主様の顔が、何故か憤怒に表情になってますが?」
「マスター、醜いですよ。男の嫉妬は」
こればっかりは、仕方なかろう。
そして次の日、いつも通りに日の出前のランニングからの朝食をすませ、先ずはギルドへと向かった。
王都支部ギルドの中に入ると、何故かいつも以上に冒険者からの視線を感じた。疑問を抱きながら、取り敢えず担当のラビナの列に並んでいると、順番が来る前にガストフ支部長に声をかけられた。
「おぉ! ヤナか! 戻ったのか!」
「あぁ、昨日の夕方にな」
「そうか! 今回も大活躍だったらしいな『女狂いの黒き野獣』」
俺は、ガストフ支部長の言葉に耳を疑った。
「おい……なんだ? その『女狂いの黒き野獣』ってのは……」
「あ? お前の事だろ? 今年の闘剣大会の優勝者は、大会後に模擬戦を行い、観衆の目の前で五人の女をボコボコに蹂躙した挙句に、その全員と『契約』したらしいじゃないか」
「正確に、伝わっているわね」
「全く訂正する箇所が、ありません」
「逆に正確に伝わりすぎて、不思議なくらいですね」
「………」
俺が、その事に絶句していると、こちらを見ていたラビナと目が合った。
「ひぃ!? 私は、食べても美味しくありませんよ!? 勘弁してください!?」
「まさか……おい、『契約』ってのは、普通どういう意味でとられるんだ?」
ラビナの反応に、そうであってくれるなと願いながらガストフ支部長に尋ねた。
「男と女が『契約』してると言えば、普通はそう言う事だと思うだろうな」
「……てことはだ、既に五人もの『契約者』を持っている俺は……」
「正に『女狂いの黒き野獣』の二つ名に、嘘偽り無しって感じだな」
「嘘偽りしかねぇわぁああああ!」
俺は、雪崩式に増えていく不本意な二つ名に、打ちひしがれながら、ギルド倉庫へとガストフ支部長と向かった。アシェリ達は、自分のクエストを探すように指示を出しておいた。
「これが、霊峰の最奥に住んでいた氷雪竜か……意外と貧相だな」
「あぁ、最初は結構威厳があって、これぞ最奥の番人って感じだったんだがな。体表の氷を砕いて、その後に更に氷の下の雪の体表が剥がれ落ちたら、こんな感じになった。むしろこっちのモドキの方がそれっぽいな」
一緒に鞄から出したモドキどもを指差して、そんな事を口にする。
「確かにな。それで、どうする? 解体は請け負うが、素材は持ち帰りか? 出来れば、幾ばくかはギルドに売ってほしんだが」
「そうだな……氷雪竜に関しては、解体後は貰っていく。モドキ達は、半分はギルドに売却でいいか?」
「あぁ、モドキ共は元々氷雪竜の体表で出来ているからな、素材貴重な上に半分でもかなりの量だ。それで、十分助かる。金は、振り込んでおくぞ」
討伐の査定と素材解体をガストフ支部長に依頼して、一旦受付へと戻った。
「何か良さげなクエストでも、あったのか?」
俺は、何やら三人とラビナが受付カウンターで集まり、相談している様子を見ながら声をかけた。
「「「ひゃう!」」」
「な、なんだよ? 別に、気配を消して近づいてなんかないぞ? 驚きすぎだろ」
俺が声をかけると全員が、驚いた声を出すので、俺まで驚いてしまった。
「あなた……なんでもないわ」
「主様、問題は何も起きていません」
「ヤナ様は、何も心配しなくて良いんです」
「何でもないわりに、えらく目が泳いでいるが?」
三人に若干の怪しさを感じつつ、ガストフ支部長に依頼した竜たちの解体は、まだまだ時間がかかるため、次の用事である防具屋へと向かった。
「おーい! 親父! いるかぁ!」
「目の前にいるだろうが! 大声をいちいちだすな!」
「お約束だろうが、そうカリカリするなって」
「五月蝿いわ。ったく、中々王都に帰ってこんから、のたれ死んだかとおもったが、元気そうだな『女狂いの黒き野獣』」
「な!? どこでそれを!」
俺は、防具屋の親父にまで、その名を言われた事に驚愕していると、親父は笑っていた。
「ガハハ、人の話なんてものは、面白い事程早く伝わるからな。まぁ、世間に疎い俺が知っているくらいだ。もう、大体の皆が知っているだろう」
「そんな……宿屋の女将さんは、そんな事言ってなかったぞ……」
「主様……気付いていなかったんですか? 女将さん、笑いを堪えて震えていましたよ」
「ごふぅ!」
俺が、そんな女将さんの気遣いにショックを受けている間に、親父は奥から頼んでいた装備をもってきた。
「見た目は、ほとんど変わっていない様だが、何か変わったのか?」
手渡された装備は、瘴気纏個体オーガの皮で作られたライダースーツのような見た目に、要所要所にロックベアの外皮が付けられ、以前の姿と変わった様には見えなかった。
「見た目は変わっとらんが、キングクラーケンの一番外側の透明な薄皮素材を、全体に貼り付けてある。これで、これまでよりも魔法耐性がかなり上がっているだろう。それとお前さんは、キングクラーケンの特性を知っているか?」
「あ? キングクラーケンって言えば、確か再生能力が高いんだったか?」
「主様、そうなのですか?」
「あぁ、本来ならな。まぁ、俺が討伐した時は、再生なぞさせる前に斬り倒してやったから、分からんかっただろうけどな」
俺が、アシェリにそう説明すると、親父が話を続けた。
「その上、こいつは瘴気纏い個体だからな。試して見たが、素材になっても高い再生能力が失われなかった。特にその特性が顕著だった足の繊維を特殊加工で、装備全体に組み込んである。相当無茶しても、一日ほど放っておけばまた再生するだろう」
「おぉ、それは助かるな! その特殊加工だが、全員の今の装備に出来るか?」
「あぁ、まだまだ素材自体もあるからな、装備を預かれば夕方くらいには渡せるだろう」
「それなら、俺以外の装備も頼む」
俺は、防具がある自動再生すると聞いて、ウキウキしていた。
「あなた、再生するのは有難いけど、そんなに嬉しそうなの?」
「ん? 嬉しくて当たり前だろ?」
俺は、エディスに嗤いながら答えた。
「ヤナ様? 何故、嗤っているのですか?」
「ふふふ、だってな? 防具ごと斬っても、治る訳だろ? 思いっきり、鍛錬が出来るじゃないか」
「「「……」」」
「あぁ楽しみだ。そろそろ加減して斬ったり、峰打ちでするのも緊張感が薄れてきたしな。丁度いい、全員の防具が再生可能になったら、次からは遠慮なく斬りつけよう。そうだ、怪我もこれまでよりも、大きな怪我になる筈だから、高級回復薬も買い込まないとな」
俺が、鍛錬に向けて、準備するものを色々考えていると、親父が三人に何故か謝っていた。
「……何か、すまんな……」
「「「……」」」
俺は、上機嫌で親父に追加分の処置の金も多めに払い、防具屋を後にした。後ろから付いてくる三人は何故か、沈んでいるように見えたが、気のせいだろう。
「さてと、昼飯前に城の用事も済ませちまうか」
俺達は、セアラの旅の報告とコウヤにリア充の心得を聞きに城へと向った。
「勇者達がいると思うんだが、ヤナが会いに来たと伝えてくれるか?」
俺は門番の衛兵に勇者への面会を頼んだ。セアラは、同じく衛兵にアメノ爺さんとエイダさんの面会を申し入れていた。
少し待つと、門が開き中へと通された。門から入った所に、セアラの侍女だったアン&アニーさんが待っており、俺たちを案内してくれた。
そして、案内された部屋へと入ると、勇者三人とアメノ爺さんとエイダさんが待っていた。
「あれ? コウヤは?」
「コウヤは、今ちょっとエルミアと会っている所よ」
アリスが、呆れたという顔でそう答えた。
「流石、リア充勇者め……師匠と呼ぶに相応しい」
俺が、師匠に早くその辺の事を伝授して貰いたいと考えていると、シラユキとルイが、アシェリ達に話しかけていた。
「ヤナ君、どうかしたの?」
「コウヤ君を師匠って呼ぶって、頭がついに取れちゃった?」
すると、セアラが報告も兼ねて勇者三人とアメノ爺さんとエイダさんに、勇者が村から出発した後の事を話した。
「あんた、何やってんの?」
「ヤナ君……ちょっとそれは……」
「ヤナ君、飢えた猛獣の如きだね!」
「まぁ、あんまり驚きはせんのぉ」
「想定の範囲内ですね」
「……さぁ! コウヤは、まだかな? 早く来てくれ! 頼む!」
俺が、周りからの目線に耐えかねてそう叫ぶと、丁度部屋の扉が開き、コウヤとエルミアが談笑しながら入ってきた。
「コウヤ! 爆発しろ!」
「いきなり何!?」
「うるせぇ! それでもって、リア充の極意を教えてください!」
「意味が全くわかんないからね!?」
「やかましい! 取り敢えず男の話だ! こっちこい!」
俺はコウヤの肩を掴み、部屋をでた。
「男の話?……コウヤ様、大丈夫かしら?」
側にいたエルミアの小さな呟きは、勢いよく扉が閉まる音で、かき消されたのだった。
「男同志、仲良くしようぜぇ?」
「なになになに!? 何なのぉおお!?」
勇者コウヤの叫びが、城の廊下をこだましたのだった。
「無理無理……もう無理」
「限界超えてます……無理無理」
「これ以上は……壊れちゃいます……」
最終的に、王都に着く頃には、全員の神火の肉体改造器具と 神火の重石帯の負荷を、最初の十倍程にして見たのだ。
「……確かに……十倍は……無理しすぎた……かも?」
「「「かも?……じゃない…」」」
全員で、息も切れ切れなりながら、王都の宿屋に到着した。
「あら、あんた達随分久しぶりな気がするね」
「皆さん! おかえりにゃさい!」
「……癒されるぅううう」
俺は久しぶりに、全く邪気にも欲望にも染まっていないリアンちゃんの眼差しに、途轍もなく癒された。まさに精神高位回復魔法である。
「どうしたんだい? まるで、魔物に食われそうになって逃げてきた冒険者が、宿に辿り着いた見たいな顔してるけど」
女将さんが、正に見てきたような例えをしてくる。
「概ね、正解ね」
「大体、あってますね」
「しっかり食われる約束は、してきましたけどね」
女将さんが、呆れた目線を向けてくるが、俺がリアンちゃんで癒されるのに必死で、そんな目線は気づかないったら気づかない。
「部屋はいつも通りでいいね? 夕食は、どうするんだい?」
「久しぶりに、親父さんの飯を食べたいな。全員分を頼むよ」
王都に着いたのは夕方だった為、まだ食事はとっていなかった。
「明日からは、どうするの?」
食事をしながら、エディスが明日からの予定を聞いてくる。
「取り敢えず、朝飯を食べた後に、ここのギルドに帰ってきた事の報告と、今回俺がもらった分の氷雪竜とそのモドキ共の解体と査定の依頼だな。その後は、防具屋にいって俺の新しい装備の受け取りかな」
「主様の防具に、瘴気纏いキングクラーケンの素材がどう生きてくるのか、楽しみですね」
「あぁ、そうだな。どう生かしてくるのか見当もつかないがな」
大鬼と岩熊に大王烏賊が、どうやってコラボするのか、楽しみだ。
「ヤナ様、私は少し城に行ってきても良いですか? 旅の報告に行きたいと思っていまして」
「城か……勇者達も、今まだ確か城にいるんだったな……よし! 俺も行くぞ」
「何か勇者様達に、用事でもあるんですか?」
俺は、少し深刻な顔をして、言葉を吐き出す。
「コウヤに……色々聞きたいことがある!」
「マスター……そんなに力強く言っても、格好悪いですよ」
俺は、同郷の唯一の同志であるコウヤに、女子との距離感とか付き合い方とか、参考程度に聞いておこうと思ったのだ。あいつは元の世界でもモテてたしな……クソッタレ。
「主様の顔が、何故か憤怒に表情になってますが?」
「マスター、醜いですよ。男の嫉妬は」
こればっかりは、仕方なかろう。
そして次の日、いつも通りに日の出前のランニングからの朝食をすませ、先ずはギルドへと向かった。
王都支部ギルドの中に入ると、何故かいつも以上に冒険者からの視線を感じた。疑問を抱きながら、取り敢えず担当のラビナの列に並んでいると、順番が来る前にガストフ支部長に声をかけられた。
「おぉ! ヤナか! 戻ったのか!」
「あぁ、昨日の夕方にな」
「そうか! 今回も大活躍だったらしいな『女狂いの黒き野獣』」
俺は、ガストフ支部長の言葉に耳を疑った。
「おい……なんだ? その『女狂いの黒き野獣』ってのは……」
「あ? お前の事だろ? 今年の闘剣大会の優勝者は、大会後に模擬戦を行い、観衆の目の前で五人の女をボコボコに蹂躙した挙句に、その全員と『契約』したらしいじゃないか」
「正確に、伝わっているわね」
「全く訂正する箇所が、ありません」
「逆に正確に伝わりすぎて、不思議なくらいですね」
「………」
俺が、その事に絶句していると、こちらを見ていたラビナと目が合った。
「ひぃ!? 私は、食べても美味しくありませんよ!? 勘弁してください!?」
「まさか……おい、『契約』ってのは、普通どういう意味でとられるんだ?」
ラビナの反応に、そうであってくれるなと願いながらガストフ支部長に尋ねた。
「男と女が『契約』してると言えば、普通はそう言う事だと思うだろうな」
「……てことはだ、既に五人もの『契約者』を持っている俺は……」
「正に『女狂いの黒き野獣』の二つ名に、嘘偽り無しって感じだな」
「嘘偽りしかねぇわぁああああ!」
俺は、雪崩式に増えていく不本意な二つ名に、打ちひしがれながら、ギルド倉庫へとガストフ支部長と向かった。アシェリ達は、自分のクエストを探すように指示を出しておいた。
「これが、霊峰の最奥に住んでいた氷雪竜か……意外と貧相だな」
「あぁ、最初は結構威厳があって、これぞ最奥の番人って感じだったんだがな。体表の氷を砕いて、その後に更に氷の下の雪の体表が剥がれ落ちたら、こんな感じになった。むしろこっちのモドキの方がそれっぽいな」
一緒に鞄から出したモドキどもを指差して、そんな事を口にする。
「確かにな。それで、どうする? 解体は請け負うが、素材は持ち帰りか? 出来れば、幾ばくかはギルドに売ってほしんだが」
「そうだな……氷雪竜に関しては、解体後は貰っていく。モドキ達は、半分はギルドに売却でいいか?」
「あぁ、モドキ共は元々氷雪竜の体表で出来ているからな、素材貴重な上に半分でもかなりの量だ。それで、十分助かる。金は、振り込んでおくぞ」
討伐の査定と素材解体をガストフ支部長に依頼して、一旦受付へと戻った。
「何か良さげなクエストでも、あったのか?」
俺は、何やら三人とラビナが受付カウンターで集まり、相談している様子を見ながら声をかけた。
「「「ひゃう!」」」
「な、なんだよ? 別に、気配を消して近づいてなんかないぞ? 驚きすぎだろ」
俺が声をかけると全員が、驚いた声を出すので、俺まで驚いてしまった。
「あなた……なんでもないわ」
「主様、問題は何も起きていません」
「ヤナ様は、何も心配しなくて良いんです」
「何でもないわりに、えらく目が泳いでいるが?」
三人に若干の怪しさを感じつつ、ガストフ支部長に依頼した竜たちの解体は、まだまだ時間がかかるため、次の用事である防具屋へと向かった。
「おーい! 親父! いるかぁ!」
「目の前にいるだろうが! 大声をいちいちだすな!」
「お約束だろうが、そうカリカリするなって」
「五月蝿いわ。ったく、中々王都に帰ってこんから、のたれ死んだかとおもったが、元気そうだな『女狂いの黒き野獣』」
「な!? どこでそれを!」
俺は、防具屋の親父にまで、その名を言われた事に驚愕していると、親父は笑っていた。
「ガハハ、人の話なんてものは、面白い事程早く伝わるからな。まぁ、世間に疎い俺が知っているくらいだ。もう、大体の皆が知っているだろう」
「そんな……宿屋の女将さんは、そんな事言ってなかったぞ……」
「主様……気付いていなかったんですか? 女将さん、笑いを堪えて震えていましたよ」
「ごふぅ!」
俺が、そんな女将さんの気遣いにショックを受けている間に、親父は奥から頼んでいた装備をもってきた。
「見た目は、ほとんど変わっていない様だが、何か変わったのか?」
手渡された装備は、瘴気纏個体オーガの皮で作られたライダースーツのような見た目に、要所要所にロックベアの外皮が付けられ、以前の姿と変わった様には見えなかった。
「見た目は変わっとらんが、キングクラーケンの一番外側の透明な薄皮素材を、全体に貼り付けてある。これで、これまでよりも魔法耐性がかなり上がっているだろう。それとお前さんは、キングクラーケンの特性を知っているか?」
「あ? キングクラーケンって言えば、確か再生能力が高いんだったか?」
「主様、そうなのですか?」
「あぁ、本来ならな。まぁ、俺が討伐した時は、再生なぞさせる前に斬り倒してやったから、分からんかっただろうけどな」
俺が、アシェリにそう説明すると、親父が話を続けた。
「その上、こいつは瘴気纏い個体だからな。試して見たが、素材になっても高い再生能力が失われなかった。特にその特性が顕著だった足の繊維を特殊加工で、装備全体に組み込んである。相当無茶しても、一日ほど放っておけばまた再生するだろう」
「おぉ、それは助かるな! その特殊加工だが、全員の今の装備に出来るか?」
「あぁ、まだまだ素材自体もあるからな、装備を預かれば夕方くらいには渡せるだろう」
「それなら、俺以外の装備も頼む」
俺は、防具がある自動再生すると聞いて、ウキウキしていた。
「あなた、再生するのは有難いけど、そんなに嬉しそうなの?」
「ん? 嬉しくて当たり前だろ?」
俺は、エディスに嗤いながら答えた。
「ヤナ様? 何故、嗤っているのですか?」
「ふふふ、だってな? 防具ごと斬っても、治る訳だろ? 思いっきり、鍛錬が出来るじゃないか」
「「「……」」」
「あぁ楽しみだ。そろそろ加減して斬ったり、峰打ちでするのも緊張感が薄れてきたしな。丁度いい、全員の防具が再生可能になったら、次からは遠慮なく斬りつけよう。そうだ、怪我もこれまでよりも、大きな怪我になる筈だから、高級回復薬も買い込まないとな」
俺が、鍛錬に向けて、準備するものを色々考えていると、親父が三人に何故か謝っていた。
「……何か、すまんな……」
「「「……」」」
俺は、上機嫌で親父に追加分の処置の金も多めに払い、防具屋を後にした。後ろから付いてくる三人は何故か、沈んでいるように見えたが、気のせいだろう。
「さてと、昼飯前に城の用事も済ませちまうか」
俺達は、セアラの旅の報告とコウヤにリア充の心得を聞きに城へと向った。
「勇者達がいると思うんだが、ヤナが会いに来たと伝えてくれるか?」
俺は門番の衛兵に勇者への面会を頼んだ。セアラは、同じく衛兵にアメノ爺さんとエイダさんの面会を申し入れていた。
少し待つと、門が開き中へと通された。門から入った所に、セアラの侍女だったアン&アニーさんが待っており、俺たちを案内してくれた。
そして、案内された部屋へと入ると、勇者三人とアメノ爺さんとエイダさんが待っていた。
「あれ? コウヤは?」
「コウヤは、今ちょっとエルミアと会っている所よ」
アリスが、呆れたという顔でそう答えた。
「流石、リア充勇者め……師匠と呼ぶに相応しい」
俺が、師匠に早くその辺の事を伝授して貰いたいと考えていると、シラユキとルイが、アシェリ達に話しかけていた。
「ヤナ君、どうかしたの?」
「コウヤ君を師匠って呼ぶって、頭がついに取れちゃった?」
すると、セアラが報告も兼ねて勇者三人とアメノ爺さんとエイダさんに、勇者が村から出発した後の事を話した。
「あんた、何やってんの?」
「ヤナ君……ちょっとそれは……」
「ヤナ君、飢えた猛獣の如きだね!」
「まぁ、あんまり驚きはせんのぉ」
「想定の範囲内ですね」
「……さぁ! コウヤは、まだかな? 早く来てくれ! 頼む!」
俺が、周りからの目線に耐えかねてそう叫ぶと、丁度部屋の扉が開き、コウヤとエルミアが談笑しながら入ってきた。
「コウヤ! 爆発しろ!」
「いきなり何!?」
「うるせぇ! それでもって、リア充の極意を教えてください!」
「意味が全くわかんないからね!?」
「やかましい! 取り敢えず男の話だ! こっちこい!」
俺はコウヤの肩を掴み、部屋をでた。
「男の話?……コウヤ様、大丈夫かしら?」
側にいたエルミアの小さな呟きは、勢いよく扉が閉まる音で、かき消されたのだった。
「男同志、仲良くしようぜぇ?」
「なになになに!? 何なのぉおお!?」
勇者コウヤの叫びが、城の廊下をこだましたのだった。
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・このお話はロベルトの一人称で進行していきますので、セリフよりト書きと言う名のロベルトの呟きと、突っ込みだけで進行します。文字がびっしりなので、スカスカな文字列を期待している方は、回れ右を推奨します。
なるべく読みやすいようには致しますが。
・この物語には短編の1が存在します。出来れば其方を読んで頂き、作風が大丈夫でしたら此方へ来ていただければ幸いです。
勿論、此方だけでも読むに当たっての不都合は御座いません。
・所々挿し絵画像が入ります。
大丈夫でしたらそのままお進みください。
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