要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

イチ力ハチ力

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第六章 偽り

邪魔者

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 屋敷の裏口の護衛についてから暫くすると、完全に日が暮れ、辺りを闇が覆っていた。

そこ・・だけが、何度やっても侵入出来ないんだな?」

「はい、マスター。屋敷内のどの部屋に置いても、火鼠ファイアマウスは侵入でき、地図の作成マッピングが完了しましたが、あの部屋・・のみ侵入不可でした」

 屋敷内に放った火鼠ファイアマウス達による屋敷の中の調査は、ある部屋を残して完了した。

「ライの部屋か……」

「私の部屋が、どうかしたのですか?」

「!?」

 俺は急に背後から、声をかけられた事に戦慄しながらも、裏口の扉を開けているライお嬢様・・・・・に対して、出来るだけ落ち着きながら声をかける。

「こんな裏口に何のご用でしょうか? もう闇が広がり、いつ予告状を出した者が襲ってくるかもわかりません。屋敷の中に、すぐにお戻りください」

「ヤナ様……でしたよね? そんな畏まった話し方はしないで下さい。私は一介の商人の娘に過ぎません。皆様のような上級冒険者の方にそんな話し方をされては、恐縮してしまいます」

 ライは、少し困った顔をしながら、そう俺に告げてくる。

「そうか、わかった。ここは、屋敷の外だ。早く屋敷の中に入り、護衛に護って貰え。それに、護衛の冒険者はどうした?」

「ふふ、護衛の方がずっと近くにいると、息が詰まって疲れてしまって……少し、一人のなりたいとお願い・・・したら、皆さん快く承諾してくれました」

「……そうか、だがここは屋敷の内でも最も暗い場所だ。早く戻るんだな」

「そうですね。もう少し、ヤナ様とお話がしたかったですが……そんな怖い刀を二本も向けられたら、帰るしかありませんね」

「あぁ? 刀?」

 俺は、一瞬ライの言っている事が、理解できなかった。

「それでは、是非とも私を護ってください。よろしくお願いいたします」

 ライは、俺に向かって優雅に一礼し微笑みかけると、屋敷の中へと戻っていった。

「マスター……気づいていなかったんですか?『天』『地』を構えていた・・・・・ことに」

「あぁ……ライに言われるまで、構えている事に気付かなかった……」

 何より驚いたのは、声をかけられるまで、裏口が開く音もライが後ろに立った気配も、何も感じなかった事だ。

ライ嘘付き……か…」

 いつの間にか、背中と手の平に汗をかいている事に気付き、一度深く呼吸をしながら、俺は屋敷を見ながら呟いたのだった。



「ヤナ……ね……」

 私は、あの男が最初に私を見た時に、魅惑チャーム抵抗レジストした事が気になり、今度は直接会いに行ったのだ。

 屋敷の裏口の外側で、屋敷の外を警戒していたあの男の後ろへ気配を遮断・・して近くと、あの男が私の部屋の事を呟いたので、思わず声をかけてしまった。

 しかも、声をかけるとすぐさま距離を取り、恐ろしい程の力を放つ二振りの刀を構えていた。

 明らかにあの刀は異常だ。そんな刀を二振りも持つあの男は、何者だと言うのか。

「他の子達なら、知っているかしらね。こういう時は、『目と耳』の情報を共有出来ないのは不便ね」

 私は、少しあの男を気に留めながらも、あの程度・・・・なら問題ないと判断し、思考の外へと追いやった。



「ヤナビ、そろそろ日が変わる頃か?」

「はい、マスター。あと五分程で日が変わります」

「屋敷の内の地図マップは、このまま常時サングラス画面に表示させておいてくれ」

 屋敷内の地図を視覚の端に隠しながら、裏口の前で外を警戒していたその時だった。

「マスター! 不明アンノウンマーカーが、屋敷正面の門に現れました!」

「あぁ、分かっている! 正面に向かうぞ!」

 俺とヤナビが、屋敷の地図マップに現れた不明アンノウンマーカーに向かうべく裏口扉を開けて、屋敷の中を素通りしようとした時だった。

「ぐっ! なんだ! 扉が開かんぞ!」

「マスター、扉どころではありません! 屋敷の地図マップが、切り離されました! この空間自体が遮断されたと予測されます!」

「どうなっているんだ!」

 俺とヤナビが、遮断された空間の境目の壁を調べ始めて数分が経とうとした時に、再び元の空間に戻された。



「マスター! 屋敷の内の地図マップが、再度表示されました! 再び空間が元に戻ったようです!」

「くそ! 正面に向かうぞ!」

 既に不明アンノウンマーカーは、屋敷内から消えていたが、大量の冒険者のが動かなくなっていた。すぐさま、俺は屋敷の正面へと駆け出した。

 そして、屋敷の正面玄関から飛び出すと、屋敷の中にいたAランクの冒険者も含めて地面に倒れ伏していた。

「おいおい、どうなってんだこりゃ?」

 俺が、その様子に困惑していると、片隅で尻餅をついている屋敷の主であるキンナリと執事セバスを見つけ、駆け寄った。

「一体、何があったんだ!」

「ライが……ライが、賊に連れ去られた……」

 キンナリが、放心した様子でそれだけを繰り返すように、何度も呟いていた。

 要領を得ない為、執事セバスにどういう事だと尋ねた。

「まず賊は、正面に集まっていたCランク以下の冒険者を軒並み蹴散らし、そのまま敷地内へと侵入してきました。騒ぎを聞きつけた屋敷内にいた上級冒険者の方々が屋敷の外へと飛び出し、一斉に攻撃を仕掛けましたが、一瞬にして返り討ちに遭ってしまいました」

「一瞬で? Aランクもいたのに、連携すればそこそこ対応出来そうなものだが」

「連携も何もなく、ただただ一斉に攻撃しかしておりませんでしたので、躱されすぐさま制圧されてしまった様でした」

 その執事セバスの言葉に違和感を感じながらも、話を聞き続ける。

「そして、ちょうど全員が叩き伏せられた時に、あそこのバルコニーにライお嬢様が現れたのです。そして、そのまま賊に……」

「は? ちょっと待て! ライがここからよく見える・・・・・バルコニーに、出てきただと? 何故そんなことをしたんだ!」

「それは、私にも分かりかねますが、恐らく冒険者の皆様方が叩き伏せられた時に、場が静まり帰りましたので、ライお嬢様は冒険者の方々が勝利したと思い、バルコニーへと出てきてしまったのではないでしょうか?」

 自分が狙われていることが分かっているのに、容易にそんな場所に出てくる訳がないだろうと思うが、取り敢えず話を最後まで聞き終えた。そして、冒険者の様子を見に行こうとした時に、放心していたキンナリが俺に向かって叫び声を上げた。

「おい! 貴様ぁ! お前だけ賊が来た時に、いなかったがどこにいたのだ!」

「俺はその時、裏口で何者かによる妨害を受けて、身動きがとれなかったんだよ」

「ほほう、何者かだと? もしやお前、あの賊の仲間ではないのか?」

「はぁ? 何でそうなるんだよ……」

 俺が馬鹿らしいと言わんばかりに、ため息を吐きながらそう呟くが、キンナリは尚も正気を失った様な目で言葉吐き出し続ける。

「貴様は、裏で賊と繋がり、この屋敷の警護の情報等を渡しておったのだろう! ライが攫われてから、ここへと駆けつけてきたのが、動かぬ証拠ではないか!」

「いやいやいや、まったく証拠になってないだろそれ」

 俺が呆れる様に、呟くも何故か・・・執事セバスまでもが、キンナリの言葉に同意する。

「確かに旦那様、おっしゃる通りです。この男が駆けつけてきたのは、正に賊が去っていった瞬間でした!」

「おいおいおい……」

 すると、賊に叩きのめされてきた冒険者達までもが、起き上がった途端に、俺への追求を始めた。

「おい! 貴様! 護衛に癖に、どこにいたのだ!」

「だから、自分の持ち場にいたが、どっかの誰かに邪魔されて、ここにすぐに来れなかったんだよ。それにお前ら、賊に叩きのめされた癖に、やけに元気がいいな」

「五月蝿い! 今丁度、キンナリ様達との会話が聞こえたが、正に言う通りにお前は、賊の仲間にしか思えん!」

「いやいやいや、何故にそうなるんだ」

 何故か俺が犯人の仲間とされそうになりながらも、冒険者達の目を見ると、キンナリと同様にして正気を失っている様に見えた。

 すると、キンナリが突然大声を出し、冒険者達に餌をまいた。

「賊は去り際にこう言っていた! 『この娘を助けたければ、探すのだな! 猶予は明日の日没だ。それを過ぎれば、分かっているだろう?』と、明日の日没までにライを助けだした者に、恋仲となる事を許可しよう!」

「「「おぉおお!」」」

「明らかに、おかしいだろ。その賊が言ってること」

 俺の呆れる様な呟きは、冒険者の狂乱する叫び声にかき消された。

「そしてだ、このヤナという冒険者を打ち取った者に金貨百枚を討伐報酬として支払う! 憎き賊の仲間だ! 生死を問わずだ!」

「はぁ!?」

「「「おぉおおお!」」」

 俺が、驚きの声を上げると同時に、冒険者の雄叫びが聞こえ、すぐさま俺に襲いかかろうとしてきた為、送風ファンで砂埃巻き上げ、その隙に神出鬼没隠蔽/隠密/偽装で気配を消し、その場を取り敢えず脱出した。



「どうなってんだ? つまらん筋書きシナリオで、茶番を見せられているみたいだな」

「しかもマスターは、その茶番にさえお邪魔らしいですね」

「あぁ、どうしても俺にこの筋書きシナリオを、邪魔して欲しくないらしい」

 俺とヤナビはキンナリの屋敷から街中へと逃れ、今は建物の屋根の上で街中の地図マップを確認しながら、様子を伺っていた。

「どうしますか? マスター」

「ほほう、それを聞くか?」

 俺は、嗤いながらヤナビに聞き返す。

「一応確認を……する必要なさそうですね」

「当たり前だ。茶番だろうと何だろうと、俺に『邪魔者』という役を当てたのであれば、その役回りを果たそうじゃないか」

 俺は、街の地図の中でも、把握できなかったエリアを確認する。



「誰が明日の日没まで待つかよ。そんな助けるのにギリギリのタイミングで、現れたりしねぇからな? 今から堂々と、殴りこみをかけてやる」

 俺は、空間遮断されているエリアの方向を見ながら、不敵に嗤う。



「さぁ、今からお迎えにあがりますよ? ライお嬢様嘘つきさん

 そして、俺は街の闇の中へと紛れ込んだ。
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