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第六章 偽り
私の主人公
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「誘拐犯ヤナは何処だぁ! 金貨百枚だ! 探せぇえええ!」
深夜というのに西都イスタスでは、俺を探す冒険者達の怒号が、飛び交っていた。
「おうおう、欲に目が眩んだ亡者どもが、えらく騒いでいるな」
「お蔭で、すっかり『誘拐』の名が広まりそうですね。新しい二つ名ですか? 相手が絶世の美女ですから、何となくこの騒動が終わったとして、新しい二つ名が予想できますね」
「やかましいわ! と、強く否定出来ない自分が悲しい……まぁ、冗談はさておきだ。街の地図に屋敷の冒険者以上の数が、表示されているんだが?」
「当然、懸賞金が金貨百枚ですからね。ギルドにいた冒険者なんかも、その話を聞きつければ参戦してくるでしょうね、よっ! この人気者ぉ!」
「はぁ……だよな。まぁ、無視だ無視。神出鬼没を発動しておけば、問題ないだろ」
「おそらく大丈夫でしょう。何せ、上級冒険者は嘘つきの捜索に励んでいる様ですしね」
俺が会った事のある冒険者は、印に名前まで表示出来るようになっている。そして、街中の地図を見ると、屋敷で会ったBランク以上の冒険者の動きは、明らかに俺を捜索している動きではなかった。
「さて、俺たちも嘘つきのお嬢さんを探しますか」
「見つけて、恋仲になりますか?」
「やめろ……タダでさせ、変なフラグが乱立している気がするってのに……」
俺はヤナビの軽口に辟易しながら、地図を再確認する。
「やっぱり、ここだろうな」
「えぇ、街中には嘘つきの印が、消えてますしね。街の外に出た可能性もありますが、先ずはその遮断されたエリアが、怪しさ満点です」
「だな、じゃぁちょっくら行きますか」
俺は、神出鬼没を発動しながら闇へと紛れ、街中で唯一地図が作成出来なかったエリアと移動を開始した。
「あるお方より、理由は分からないが貴様を丁寧に扱う様に言われている。明日の日没までは、生かしといてやるから、感謝するんだな」
魔族であるウカイユ伯爵は、自分よりも上位の存在から指示を受け、キンナリの屋敷からライを攫ってきていた。
「えぇ、ありがとう。冒険者の方々は、ここに気付くでしょうか?」
「あぁ? 気付く訳ないだろう。ここは、空間的に遮断されている上に、見た目は、街の風景と重なっている。あの屋敷にいた冒険者に期待しているのならば、無駄だろう。素通りして気付く者もおらず、このまま明日の日没に、貴様を始末して終いだ」
それを、聞いたライは少し落胆したような表情をしながら、呟く。
「少し、難易度上げすぎたかしら?」
「何か言ったか?」
「いいえ、何でもありません」
「ふっ、精々日没までの命だ。大人しくしているんだな」
そして、ウカイユ伯爵は、ライを連れてきた部屋から出て行った。
一人になったライは、誰に聞かせるわけでもなく呟いた。
「なぁんだぁ、つまぁんないわねぇ。もうちょっと、頑張って欲しいわぁ」
心底詰まらなさそうに、ライは言葉を吐き捨てた。
「ここだな」
「はい、丁度マスターの目の前から、地図が切れています」
「何にも見えないし、感じないが、ここに壁のような物があるって事か」
俺は、ヤナビに地図が作成されなかった境目を教えて貰ったが、実際に地図が切れている事を確認出来なければ、おそらく気付く事さえ難しいだろう。
「空間干渉系のスキルも魔法も、マスターは未だ覚えていませんが、どうしますか?」
確かに俺は、収納魔法や空間温度調節等といった自分の空間を制御する魔法は覚えているが、未だ他人の作り出した空間に干渉出来るような魔法やスキルは覚えていない。
「あぁ、どっかのイケメンなら囚われし令嬢を助けるために、ここで新たな力の覚醒とか起きそうだが、俺は無理だな」
「そもそも、イケメンと違いますしね」
「問題はそこじゃないよね? その辺は俺の心を抉るよ? 泣くよ?」
「すみません、マスター。マジで落ち込まないでください。マスターは、『普通』です。大丈夫ですから、至って何処にでもいる『普通』の顔ですから、落ち込まないでください」
「……うるせいやい! イケメンでもない! 勇者でもない! そんな主人公補正がない俺が、壁にぶつかった時に取る手段は一つ!」
「イケメンは関係ないですけどね」
ヤナビの非情な言葉に、心を抉られながらも気力を振り絞り、腕輪と指輪を外した。
「『明鏡止水』『神殺し』『三重』『天下無双』」
俺は、二振りの『神殺しの刀』をゆっくりと抜き、構えをとった。
「『天』『地』がある今なら、出来そうな気がするんだよな」
「マスター、何が出来そうなんですか?」
俺はヤナビにそう聞かれ、静かに答えた。
「最も硬い物質を斬ったのなら、次は……『何も無いものを斬る』だろ?」
「は?」
「『狂喜乱舞』『極致』『次元断』」
俺は、静かに剣技の名を発しながら、目の前の空間を断ち斬った。
「よし、上手くいったな」
「はい?」
俺の『極致』『次元断』により、空間遮断をしていたと思われる見えない壁を斬り裂き、その開いた隙間から、中へと入った。
「まぁ、火力があれば、大抵何とかなる」
「十分、主人公してますよ、マスターは……」
ヤナビに何故か呆れられたが、今は気分が良いのでスルーした。
「あらぁ? 誰かに、私の空間が斬られたわねぇ」
私は、先程ウカイユが誰も見つけられないだろうと言っていたので落胆していたが、今は少し心が躍っていた。
「囚われの令嬢を助け出してくれる主人公は、何方なのでしょう?」
私は、囚われの令嬢となり、主人公を部屋で、静かに待った。
「さて、中に入ったら予想通りというかお約束というか、入り口は元に戻っちまうし、目の前には鬱陶しい雑魚魔族がわんさかときたもんだ」
俺が斬った空間の裂け目から、内部へと侵入するとすぐに裂け目は閉じていった。更に、何処から湧いてきたのか、雑魚魔族がわんさかと集まって来たのだ。
「「「ゲギャギャギャ! 侵入シャ! 血マツリ!」」」
「あ、名無しっぽいなこいつら。因みにヤナビ、ここの空間にある建物とかってどう思う?そっくりだけど、壊したら外の空間の建物も壊れると思うか?」
「マスターが、分からないものが私に分かるわけないと、思いませんか?」
「……まぁ、一応な。確証が持てないって事は、壊さない方がいいよなぁ」
好き勝手ぶっ壊して外にでたら、外の建物も全壊してましたじゃ洒落にならないので、腕輪と指輪を付け直した。
「まぁ、この程度なら問題ないか」
俺は、全身を黒炎の鎧に身を包み、『天』『地』に獄炎を表面加工を行い、魔族共に対して構えを取る。
「『かかってこいやぁああああ! 雑魚クソヤロウ! 一匹残らず駆除だぁあ!』」
「「「ゲギャギャギャ!」」」
俺は、この空間一杯に届かせるぐらいに大声を張り上げ魔族共を『挑発』した。
「さぁ、これから筋書きは、どうなるのかな?」
「何だ! 何が起きているんだ! この空間に侵入して来ただと!」
ウカイユ伯爵は、突然の侵入者に狼狽えていた。ライに言った事は、実際に自分が思っていたことだったのだ。
「しかも、名無し共が全く相手になっておらんではないか……ん? あいつは……ヤナか!」
ウカイユ伯爵は、『目と耳』により共有されているある男の情報を思い出した。
「あいつが、悪神様に仇をなそうとする男か……確かに強い事は強いが、この空間にどのように干渉して来たというのだ」
ただのゴリ押しで侵入して来たとは、思いもよらないウカイユ伯爵は、考えを巡らし答えを出す。
「恐らく、あのお方と同じ空間系魔法を得意とするのだろう。はっ! 馬鹿め! あの程度で、この空間に侵入してくるとは! あのお方も、既に侵入して来たことは把握している筈だが、我が早々と潰して、あのお方に首を届けてくれる!」
そして、ウカイユ伯爵はヤナの元へと飛んで向かうのであった。
「おっ、誘拐犯のお出ましか?」
雑魚をあらかた叩き斬ったところで、空からもう一体の魔族が、遅れて登場して来たのだ。
「よくぞこの空間に気付き、更には侵入して来たものだ。褒めてやろう。だが、空間系魔法の使い手は、あの方の方が断然上よ!」
「空間系魔法? あの方? 何言ってるんだお前」
俺は、まだ何も聞いていないのにも関わらず、口から聞きたい情報を漏らしてくれた間抜けに、思わず聞き返した。
「は? お前も空間系魔法の使い手なのだろう? それで、この空間に気付き、魔法によって干渉し侵入して来たのではないのか?」
「そんな、高尚な事出来るわけないだろ。単に『何も無い空間を斬った』だけだ」
「十分、それも高尚な事だと思いますよ、マスター」
「何でだよ? 単純に、斬っただけだぞ」
「何だか、相手が気の毒になってきますね……」
俺が、ヤナビの言い分を不思議に思っていると、無視していた魔族がいきなり怒り出した。
「空間を斬っただと! そんな訳があるか! 唯の人間が、ケンシー様と同じ事が出来る訳が無いだろう!」
「へぇ、同じ事が出来る奴が、そっちにも居るのか」
俺は驚きつつも、俺が出来るくらいだから、魔族にも出来る奴がいたって不思議じゃ無いかと、すぐに納得した。
「いやいやマスター、何を納得顔してるんですか。結構それって、やばいじゃないですか」
「大丈夫だろ? 居るっていうのがわかったんだぞ? そして、俺も使えるという事はだ」
俺は、嗤いながらヤナビに答える。
「鍛錬で、対処出来るまで何とかする」
「うわぁ……」
ヤナビがヤナの言葉に、ドン引きしている頃、岩山ではどこかの三人の怯える悲鳴がこだました。
「さて、お前はここで退場するのが、誰かの筋書きなのかな?」
「筋書き? 貴様は、何を言っているのだ?」
「あぁ、知らないのならそれでもいい。どうせ、お前はここで退場だ」
そして、二人が激突した。
「ふふふ、早く助けに来てくれないかしら。私の主人公」
楽しげなライの呟きが、激突する二人の戦闘音に混ざり合い、空間に広がって行くのだった。
深夜というのに西都イスタスでは、俺を探す冒険者達の怒号が、飛び交っていた。
「おうおう、欲に目が眩んだ亡者どもが、えらく騒いでいるな」
「お蔭で、すっかり『誘拐』の名が広まりそうですね。新しい二つ名ですか? 相手が絶世の美女ですから、何となくこの騒動が終わったとして、新しい二つ名が予想できますね」
「やかましいわ! と、強く否定出来ない自分が悲しい……まぁ、冗談はさておきだ。街の地図に屋敷の冒険者以上の数が、表示されているんだが?」
「当然、懸賞金が金貨百枚ですからね。ギルドにいた冒険者なんかも、その話を聞きつければ参戦してくるでしょうね、よっ! この人気者ぉ!」
「はぁ……だよな。まぁ、無視だ無視。神出鬼没を発動しておけば、問題ないだろ」
「おそらく大丈夫でしょう。何せ、上級冒険者は嘘つきの捜索に励んでいる様ですしね」
俺が会った事のある冒険者は、印に名前まで表示出来るようになっている。そして、街中の地図を見ると、屋敷で会ったBランク以上の冒険者の動きは、明らかに俺を捜索している動きではなかった。
「さて、俺たちも嘘つきのお嬢さんを探しますか」
「見つけて、恋仲になりますか?」
「やめろ……タダでさせ、変なフラグが乱立している気がするってのに……」
俺はヤナビの軽口に辟易しながら、地図を再確認する。
「やっぱり、ここだろうな」
「えぇ、街中には嘘つきの印が、消えてますしね。街の外に出た可能性もありますが、先ずはその遮断されたエリアが、怪しさ満点です」
「だな、じゃぁちょっくら行きますか」
俺は、神出鬼没を発動しながら闇へと紛れ、街中で唯一地図が作成出来なかったエリアと移動を開始した。
「あるお方より、理由は分からないが貴様を丁寧に扱う様に言われている。明日の日没までは、生かしといてやるから、感謝するんだな」
魔族であるウカイユ伯爵は、自分よりも上位の存在から指示を受け、キンナリの屋敷からライを攫ってきていた。
「えぇ、ありがとう。冒険者の方々は、ここに気付くでしょうか?」
「あぁ? 気付く訳ないだろう。ここは、空間的に遮断されている上に、見た目は、街の風景と重なっている。あの屋敷にいた冒険者に期待しているのならば、無駄だろう。素通りして気付く者もおらず、このまま明日の日没に、貴様を始末して終いだ」
それを、聞いたライは少し落胆したような表情をしながら、呟く。
「少し、難易度上げすぎたかしら?」
「何か言ったか?」
「いいえ、何でもありません」
「ふっ、精々日没までの命だ。大人しくしているんだな」
そして、ウカイユ伯爵は、ライを連れてきた部屋から出て行った。
一人になったライは、誰に聞かせるわけでもなく呟いた。
「なぁんだぁ、つまぁんないわねぇ。もうちょっと、頑張って欲しいわぁ」
心底詰まらなさそうに、ライは言葉を吐き捨てた。
「ここだな」
「はい、丁度マスターの目の前から、地図が切れています」
「何にも見えないし、感じないが、ここに壁のような物があるって事か」
俺は、ヤナビに地図が作成されなかった境目を教えて貰ったが、実際に地図が切れている事を確認出来なければ、おそらく気付く事さえ難しいだろう。
「空間干渉系のスキルも魔法も、マスターは未だ覚えていませんが、どうしますか?」
確かに俺は、収納魔法や空間温度調節等といった自分の空間を制御する魔法は覚えているが、未だ他人の作り出した空間に干渉出来るような魔法やスキルは覚えていない。
「あぁ、どっかのイケメンなら囚われし令嬢を助けるために、ここで新たな力の覚醒とか起きそうだが、俺は無理だな」
「そもそも、イケメンと違いますしね」
「問題はそこじゃないよね? その辺は俺の心を抉るよ? 泣くよ?」
「すみません、マスター。マジで落ち込まないでください。マスターは、『普通』です。大丈夫ですから、至って何処にでもいる『普通』の顔ですから、落ち込まないでください」
「……うるせいやい! イケメンでもない! 勇者でもない! そんな主人公補正がない俺が、壁にぶつかった時に取る手段は一つ!」
「イケメンは関係ないですけどね」
ヤナビの非情な言葉に、心を抉られながらも気力を振り絞り、腕輪と指輪を外した。
「『明鏡止水』『神殺し』『三重』『天下無双』」
俺は、二振りの『神殺しの刀』をゆっくりと抜き、構えをとった。
「『天』『地』がある今なら、出来そうな気がするんだよな」
「マスター、何が出来そうなんですか?」
俺はヤナビにそう聞かれ、静かに答えた。
「最も硬い物質を斬ったのなら、次は……『何も無いものを斬る』だろ?」
「は?」
「『狂喜乱舞』『極致』『次元断』」
俺は、静かに剣技の名を発しながら、目の前の空間を断ち斬った。
「よし、上手くいったな」
「はい?」
俺の『極致』『次元断』により、空間遮断をしていたと思われる見えない壁を斬り裂き、その開いた隙間から、中へと入った。
「まぁ、火力があれば、大抵何とかなる」
「十分、主人公してますよ、マスターは……」
ヤナビに何故か呆れられたが、今は気分が良いのでスルーした。
「あらぁ? 誰かに、私の空間が斬られたわねぇ」
私は、先程ウカイユが誰も見つけられないだろうと言っていたので落胆していたが、今は少し心が躍っていた。
「囚われの令嬢を助け出してくれる主人公は、何方なのでしょう?」
私は、囚われの令嬢となり、主人公を部屋で、静かに待った。
「さて、中に入ったら予想通りというかお約束というか、入り口は元に戻っちまうし、目の前には鬱陶しい雑魚魔族がわんさかときたもんだ」
俺が斬った空間の裂け目から、内部へと侵入するとすぐに裂け目は閉じていった。更に、何処から湧いてきたのか、雑魚魔族がわんさかと集まって来たのだ。
「「「ゲギャギャギャ! 侵入シャ! 血マツリ!」」」
「あ、名無しっぽいなこいつら。因みにヤナビ、ここの空間にある建物とかってどう思う?そっくりだけど、壊したら外の空間の建物も壊れると思うか?」
「マスターが、分からないものが私に分かるわけないと、思いませんか?」
「……まぁ、一応な。確証が持てないって事は、壊さない方がいいよなぁ」
好き勝手ぶっ壊して外にでたら、外の建物も全壊してましたじゃ洒落にならないので、腕輪と指輪を付け直した。
「まぁ、この程度なら問題ないか」
俺は、全身を黒炎の鎧に身を包み、『天』『地』に獄炎を表面加工を行い、魔族共に対して構えを取る。
「『かかってこいやぁああああ! 雑魚クソヤロウ! 一匹残らず駆除だぁあ!』」
「「「ゲギャギャギャ!」」」
俺は、この空間一杯に届かせるぐらいに大声を張り上げ魔族共を『挑発』した。
「さぁ、これから筋書きは、どうなるのかな?」
「何だ! 何が起きているんだ! この空間に侵入して来ただと!」
ウカイユ伯爵は、突然の侵入者に狼狽えていた。ライに言った事は、実際に自分が思っていたことだったのだ。
「しかも、名無し共が全く相手になっておらんではないか……ん? あいつは……ヤナか!」
ウカイユ伯爵は、『目と耳』により共有されているある男の情報を思い出した。
「あいつが、悪神様に仇をなそうとする男か……確かに強い事は強いが、この空間にどのように干渉して来たというのだ」
ただのゴリ押しで侵入して来たとは、思いもよらないウカイユ伯爵は、考えを巡らし答えを出す。
「恐らく、あのお方と同じ空間系魔法を得意とするのだろう。はっ! 馬鹿め! あの程度で、この空間に侵入してくるとは! あのお方も、既に侵入して来たことは把握している筈だが、我が早々と潰して、あのお方に首を届けてくれる!」
そして、ウカイユ伯爵はヤナの元へと飛んで向かうのであった。
「おっ、誘拐犯のお出ましか?」
雑魚をあらかた叩き斬ったところで、空からもう一体の魔族が、遅れて登場して来たのだ。
「よくぞこの空間に気付き、更には侵入して来たものだ。褒めてやろう。だが、空間系魔法の使い手は、あの方の方が断然上よ!」
「空間系魔法? あの方? 何言ってるんだお前」
俺は、まだ何も聞いていないのにも関わらず、口から聞きたい情報を漏らしてくれた間抜けに、思わず聞き返した。
「は? お前も空間系魔法の使い手なのだろう? それで、この空間に気付き、魔法によって干渉し侵入して来たのではないのか?」
「そんな、高尚な事出来るわけないだろ。単に『何も無い空間を斬った』だけだ」
「十分、それも高尚な事だと思いますよ、マスター」
「何でだよ? 単純に、斬っただけだぞ」
「何だか、相手が気の毒になってきますね……」
俺が、ヤナビの言い分を不思議に思っていると、無視していた魔族がいきなり怒り出した。
「空間を斬っただと! そんな訳があるか! 唯の人間が、ケンシー様と同じ事が出来る訳が無いだろう!」
「へぇ、同じ事が出来る奴が、そっちにも居るのか」
俺は驚きつつも、俺が出来るくらいだから、魔族にも出来る奴がいたって不思議じゃ無いかと、すぐに納得した。
「いやいやマスター、何を納得顔してるんですか。結構それって、やばいじゃないですか」
「大丈夫だろ? 居るっていうのがわかったんだぞ? そして、俺も使えるという事はだ」
俺は、嗤いながらヤナビに答える。
「鍛錬で、対処出来るまで何とかする」
「うわぁ……」
ヤナビがヤナの言葉に、ドン引きしている頃、岩山ではどこかの三人の怯える悲鳴がこだました。
「さて、お前はここで退場するのが、誰かの筋書きなのかな?」
「筋書き? 貴様は、何を言っているのだ?」
「あぁ、知らないのならそれでもいい。どうせ、お前はここで退場だ」
そして、二人が激突した。
「ふふふ、早く助けに来てくれないかしら。私の主人公」
楽しげなライの呟きが、激突する二人の戦闘音に混ざり合い、空間に広がって行くのだった。
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