要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

イチ力ハチ力

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第六章 偽り

宿命か運命か

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「か……は……くそが……」

「マスター! 早く応急処置ファーストエイドを! それに傷口に瘴気が!」

 俺は肩口からバッサリと、ケンシーの瘴気纏いの剣戟で斬られていた。幸い切られる寸前に、生への渇望致命傷回避が働き、身体を捻って即死は免れた。

「アホか……そんな事させてくれる雰囲気じゃ……ねぇみたいだぞ?」

「グルアァアア! もっと俺を楽しマセロ!」

 ケンシーは姿こそ変わっていないものの、瘴気が身体から溢れ出し、常軌を逸した目を俺に向けていた。

「まだ……黒スーツを白スーツに切り替えチェンジしていた分……マシだったが……どうするかな……」

 護衛用のボディガードコスプレ衣装を用意された時に、一先ず色も丁度良かったので、形状変化デフォルマシオンで獄炎魔法の黒スーツを創って装着していた。

 それを屋敷の外でケンシーと対峙し、『天』『地』に神火を表面加工オーバーコートする際に、黒炎の黒スーツボディガードから神火の白スーツナンバーワン切り替えチェンジしていた。

「マスター! 指名数ナンバーワンの証である白スーツが、消えてしまいます!」

「……結構余裕だな……ヤナビ…」

 ヤナビの軽口に苦笑し、若干心の余裕を取り戻しながら、目の前の脅威にどう立ち向かうかを考えていた。

 しかし、目の前の瘴気狂いケンシーは、そんな優しい相手ではなかった。

「ごはぁ!」

「グハハ! どうした? もうオワリかぁ!」

 向かってきた瘴気狂いケンシーに蹴り飛ばされ、地面を転がされた。

「がはっ……舐めるなよ……起死回生窮地:能力倍増ぇえええ!」

 俺は起死回生窮地:能力倍増を、最大にして発動をかけた。

「グハハハ! それでコソダ! それでコソ! オレの敵に相応しい!」

「うるせぇよ……こっから俺は……時間が経てば経つほど……強くなるぞ?」

「望むトコロ! お前こそ、先に死ぬんじゃナイゾ!」

 そう叫びながら向かってきた瘴気狂いケンシーを、俺は『天』『地』を鞘に納めて・・・迎え討つ。

「『狂喜乱舞ヤナ流二刀剣術』『極致』『次元断』『刻飛ばし』」

 瘴気狂いケンシーに向かって、二刀による俺の今の・・最速の居合に『次元断』を合わせて放った。

「グルアァアア!」

 次の瞬間、瘴気狂いケンシーの咆哮と共に、奴の左腕が・・・宙を舞った。

「ちっ……今のを捌くかよ…」

 俺は奴の首を狙ったが、実際に飛んだのは左腕だった。恐らく、誘拐魔族が言っていた様に、同じく次元を斬れる剣戟で迎え撃ったんだろう。

「クハハハハ! 今のは、正直死んだとオモッタゾ!」

「思うだけじゃなく……死んでおけよ……ごふっ」

 俺は、『天』『地』を支えに何とか身体を起こしているのが、やっとだった。

「グハハハハ! さぁ、シヌマデ斬りあおう!」

 左腕が斬り飛ぼうが、構わず向かってくる瘴気狂いケンシーに再び迎え撃とうとした時だった。

「ぐぅあああ!」

「マスター! 傷口の瘴気が広がっています!」

 斬られた傷口に纏わり付いていた瘴気が広がり、傷口から体内まで侵入しようとしてくる痛みに、俺は意識が飛びそうになりながら必死に耐えた。

「やば……い……痛みで……身体が……」

「マスターぁああ!」

 そして、瘴気狂いケンシーの斬撃が俺の首を捉える。



「させないわ! 『神聖なる空間ホーリースペース』!」

「ヌグアァアア! 誰だ! 邪魔をスル奴はァアアアア!」

 俺の首を捉えようとしていた瘴気狂いケンシーの斬撃ごと、俺とライ・・を囲む空間に弾かれた。

「これ……は……」

「今は、考えるのは後回しに! じっとしていてください! この『神聖なる空間ホーリースペース』中にいれば、瘴気の拡散が抑えられ、傷口も回復致します!」

 ライにそう言われ、傷口を見てみると、確かに瘴気の拡散が止まっており、同時に傷口が塞がっていく。

「これは、ルイのセイント魔法とも違う?」

「これは『神聖ホーリー魔法』と呼ばれる魔法です」

 ライが、ホッとした様な・・顔で、俺に説明した。

「一応聞くが、何故此処にいるんだ? 皆と一緒に避難しなかったのか?」

 俺は、闘いが始まる頃にはライの気配を見失った為、恐らく何処かにいるとは思いつつも、先ずは目の前に脅威に集中したのだ。

「言わなければ、わかりませんか?……貴方が、心配だったからです」

 ライは、瞳から一筋の涙を流しながら、そう俺に告げた。

「……そうか、それはありがとうな」

 俺は、ライに素っ気なくそう言うなり立ち上がり、身体を神火の清めアブルーションで瘴気を浄化し、再度身体強化を掛け直した。そして今度は、白スーツナンバーワンではなく『神火のセイクリッドアーマー』で身を包み、『天』『地』にも神火魔法で表面加工オーバーコートし直した。

「あぁ、その神々しいお姿はまさに、英雄と呼ぶに相応しいですね」

 ライは、俺の姿を見るなり、そう呟いていた。

「そんな大層なもんじゃ、ないさっと!」

「きゃ!?」

 俺は、咄嗟に『天』『地』を鞘に納め、ライを抱きかかえて斬撃・・から回避した。

「『神聖なる空間ホーリーエリア』が……」

 ライが、俺に抱きかかえながら呟く。

「奴も次元を斬れるからな、来るぞ!」

 俺は、ライを抱えたまま再度飛んできた次元を断つ斬撃を交わしながら、『神聖なる空間ホーリーエリア』から外へと飛び出した。

「ヤナ様!」

 ライが俺に向かって、呼び掛けてきた。

「相手は瘴気によって冷静な判断が出来ない様子です。此処でこのまま闘っていては、今度は街に被害が拡大します。今なら、簡単な誘いで街の外まで誘い出せましょう。街の北側は大きな岩山があるだけの荒野です。あそこなら、誰もいないでしょうし、大丈夫でしょう」

 淀みなく言葉を続けるライを見ながら、小さく呟く。

「それが次の筋書きシナリオか」

「何か?」

「いや、何でもない。わかった、北の岩山の方だな……『おい! 戦闘バカ! もう少し遊んでやるからついて来い!』」

「グハハ! 何処まででも、オマエニ付いて行ってヤロウ!」

「そんなストーカーはいらないんだが……もうこんだけボコボコなら尚更、地面に穴が空いてもいいよな?」

「えぇ、構いません」

 俺は、全力で地面を踏み込み北へと跳躍した。

 全く、その事に驚かないライを抱きかかえながら、北へと跳んだのだった。



「アシェリ、正面からブレスが来る!」

「任せてください! 『ごめんなさい衝撃反射障壁』!」

「グルギャァアアア!」

「お二人共! 仕留めにかかりましょう! 『輝夜の刻プリンセスタイム』『完全獣化フルビースト』『月狼フェンリル』……ウオォオオオオオン!」

 アシェリ達は、特殊効能薬草採取の為に、岩山の頂上で岩石竜と闘っていた。岩石竜は、上位種に熔岩竜が位置しているものの、十分脅威になる竜であった。

岩竜雑魚の様には、行かせてくれないみたいだな! あたいも本気出すよ! 『世界樹のユグドラシル加護プロテクト』『魔力変換金剛力』『威力貫通』『気高き闘神アテナ』!

「ふふふ、私も守るだけじゃないんですよ?……『鬼狂い殲滅姫』」

 セアラも日頃の鍛錬において、障壁だけでなく戦闘力についても研鑽を重ね、新しいスキルをヤナに内緒で・・・取得していた。

「ツブス! タタク! スリツブス! ヤナヤナヤナヤナサマァアア!!」

 鬼の金棒を掲げ、虚ろな目で岩石竜を見るアシェリには、既に岩石竜がある男にしか見えていない

「ギャワ!?」

「「うわぁ……」」

 二人の仲間にドン引きされ、更には特に威圧もしていないのに、岩石竜を怯えさせるアシェリを筆頭に、三人はトドメのラッシュを仕掛けた。

「グルギャァアアア!」

 そして、岩石竜の断末魔と共に、戦闘は終了した。

「アシェリ! 早く人形態に戻って一緒にセアラを抑えて! 岩石竜の素材も目当ての薬草も、セアラに叩きつぶされる!」

「フフフ! アハハハハハハ!」

「グルルウ……セアラ! 正気に戻るのよ! それは様ではないわ!」

 エディスと大人アシェリ輝夜モードの二人にセアラは羽交締めにされ、叩き潰そうとしている岩石竜の死骸がヤナではないことを、根気よく伝えられた。そして、十数分後にやっとセアラは正気へと戻った。

「ふぅ、無事に特殊効能薬草の周りに縄張りを持っていた岩石竜を、討伐できましたね!」

「「………」」

 二人はどっと疲れながらも、ヤナに同情を禁じ得なかった。

 そして、岩石竜の死骸を回収したあと、近辺を捜索しているとエディスが声を上げた。

「あったわ! これが『特殊効能薬草リンゼイツ草』よ!」

 エディスはリンゼイツ草を引き抜き、二人に見せた。

「「これが……」」

 三人は、リンゼイツ草を見て頬を赤く染めながらも、リンゼイツ草を凝視していた。

「取りすぎないように気をつけながら、採取するわよ!」

「「はい!」」

 そして、ある程度は岩山に残しながら、無事に特殊効能薬草リンゼイツ草を採取した瞬間だった。

「これは!? 主様と……魔族!?」

 三人の中で一番気配感知に秀でているアシェリが、街から岩山に近づく巨大な気配を感知した。

「お二人共! 岩山と街の間に荒野に、おそらく全力を・・・出している主様と、その主様に匹敵する力を感じる魔族が降り立ちました!」

 二人はアシェリの声を聞いて、荒野の方向に気配感知を集中する。

「本当だわ。あの人の全力と同じくらいだなんて」

「早く駆けつけましょう!」

 三人は、岩山を全力で下山し始めた。



『救われた者』と『救われなかった者』が『救おうとする者』の元へと引き寄せられる



 宿命か

 運命か


 歯車は噛み合い

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