要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

イチ力ハチ力

文字の大きさ
116 / 165
第六章 偽り

暴走

しおりを挟む
「ヤナ様、そろそろこの辺りなら大丈夫かと」

 ライが、西都と北にある岩山との間に広がる荒野へと着いた所で、俺に話しかけてきた。

「わかった。すぐにあいつもここに着くから、ライは離れていろ」

 俺が、ライに向かってそう伝えると、ライは悲痛な顔をしながら訴える。

「嫌です! また先ほどのように、ヤナ様が傷つく所は見ていられません! 私も一緒に戦います!」

 俺は、流石にその様子を見て深く息を吐いた。

「はぁ……まさかと思うけど、俺が気付いていないと、思っている訳じゃないよな?」

「え?」

 ライが驚いたような顔をするので、更にため息がでた。

「え? じゃねぇよ……ったく、あんたが何者かは知らんし、何がしたいかわからんが、その下手くそな演技やめたらどうだ?」

「下手……くそ?」

「屋敷の連中や冒険者には、魅了チャーム系のスキルか魔法か効いたみたいだが、俺には効かなかったからな」

 ライは、驚きの表情を見せていたが、その表情を今更見せる事に、俺は逆に驚いた。

「おいおい、マジで俺が気付いていないと思ってたのか? さっきの足を固めたのだって、あんただろ。誘拐の時に空間隔離していたアレもあんただろ。あんたの部屋が、空間隔離されている感じと一緒だったしな」

 俺がそこまで言うと、ライは口調が変わった。

「そうなんだぁ、つまんないなぁ」

「あんた、一体何者だ? 瘴気は感じないが、魔族とつるんでるんだろ?」

 俺は誘拐犯の言動から、ライが魔族側だと予想しているが、どうにも瘴気を感じないうえに、先ほどの『神聖魔法』を魔族が使えるとは思えなかった。

「んぅ、別にもうばれちゃったしぃ教えてあげてもいいけどぉ、その前にこっちも教えて欲しいのぉ」

「何をだ?」

 ライは、じっと俺を見つめらがら問いかけて来た。

「何故、嘘をついていると知っていて今も此処にいるのぉ? 別に、私をもう助けなくてもいいわよぉ?」

 ライが、俺にそう聞いてくるが、答えは決まっていた。

「俺の性分だ、仕方ない」

「性分?」

「あぁ、あんたからは何も感じない。感情を殺す訳でも、偽る訳でも、隠す訳でもない。本当に、何も感じない」

「えぇ、そうよぉ。私は、何も思うことなんてないものぉ」

「だがな、何故かあんたから嘆きが聞こえるんだよ」

「は?」

「俺はな、そんな女を放っておけない性分なのさ」

 俺は、まっすぐライの目を見ながら、そう告げた。

「何を言って……」

「オレを楽しマセロォオオ!」

 その時、ライの言葉を遮り瘴気狂いケンシーが、此処に降り立ち、そのままの勢いで襲いかかってきた。

「やかましいわ! 精々俺のレベル上げの餌になりやがれ!」

「うぉおおお!」
「ウォオオオ!」

 再度、闇を思わせる瘴気を纏う魔族と、対照的に神々しい神の火を纏いし召喚者が、お互いに嗤いながら激突した。



「私が……嘆く?」

 私は白と黒の戦いの余波を避けるように、少し離れた所へ移動した。

 二人の戦いを眺めながら、あの男に言われたことが頭から離れずに、その事にどんどん支配されていく。

「嘆いてなんか……いない!」

 私は、あの男が言っていた様に、もう何ないのだ。

 前の・・私が絶望に負け、魂が絶望に染まり悪神の元へと捉えられ、目覚めた時にはこの身体だった。

 転生後に、悪神にこれまでの・・・・・私を見せられても、巫女の真実について聞かされても、全く私は動じることはなかった。


 動じる訳がないのだ

 私の心は

 私の魂は

 既に壊れてしまっている


 この世界が、既に詰んでいたとしてもどうでもよかった。

 人間の世界にやってきたのは、ただの暇つぶし。

 適当に誰かを魅了チャームして、本の物語をなぞって遊ぼうとしただけ。

 あの男にも、特に興味は湧かなかった。

 ただ、今の一言はどうしても聞き流せなかった。

 初めて私は、あの男に苛立ちを覚えた。



「ぐっ! 片腕の癖にどんだけバカちからだ!」

 俺は、瘴気狂いケンシーが持つ巨大な大剣に薙ぎ払われながら、悪態を吐く。

「オマエもそんな小さな剣で、よくオレのを受け止めるものだな!」

「うるせぇ! 剣はデカさじゃねぇよ!」

 俺は『天』『地』の二振りの『神殺しの刀』で、ケンシーの巨大な大剣を弾き返しながら、叫び返す。

「マスター、猥談ですか?」

「やかましいわ! シリアスにしてるのに、場を緩ますな!」

 俺はヤナビの軽口で、気負いすぎない様に気持ちを落ち着かせながら、ケンシーとの戦闘を続けた。

「マスター、完全に力が拮抗してしまってますね」

「あぁ、悔しいが起死回生窮地:能力倍増を全力で発動しないと、決定打は今の俺では難しいらしい」

 先ほどは、瀕死になるほどの傷を負っている状態で、起死回生窮地:能力倍増を発動し、奴の片腕を飛ばした。逆に回復した今は、その時の力まで出せていないという事だった。

「グハハ! 楽しいナァ!」

「うるせぇ! お前は、さっきからそればっかりじゃねぇか!」

 だが、このまま続けていても埒があかない上に、若干背後に不穏な気配を感じる。

「マスターは、直球ど真ん中しか投げれませんからね。イラつく人もいるでしょう」

「そうかもな」

 俺は、ライの気配を背後に常に感じながら、そう呟いた。

「後ろがいらん事をまた・・する前に、覚悟を俺も決めるか」

「マスター?」

 俺は、このままではそのうち挟み討ちに発展しそうな状況な為、そうなる前に勝負に出ることにした。

「ヤナビ、『暴走』したら頼むぞ?」

「マスター、まさかアレを?」

「おい! ケンシー! もっと『強い』俺と楽しまないか?」

 俺が激しく斬り合うケンシーに、呼びかける。

「ホホウ、更にウエがあるのか?」

 ケンシーは俺の言葉に、動きを止める。

「あぁ、飛びっきりだ」

「フフ……フハハハハハハ! いいだろう! 待って欲しいんダロウ? いいぞ?早くシロォオオ!」

「流石、戦闘狂某戦闘民族だ。そう言ってくれると思ったぜ」

 俺は精神を集中させる。

「マスター、私と『接続』をして下さい。一分です。それ以上は、私が強制解除シャットダウンさせますからね?」

「あぁ、頼む」

「帰って来てくださいよ……マスター」

 俺は、ヤナビの言葉を胸に刻み混み、スキルを口にする。

「『明鏡止水精神統一』『双子ツイン』『三重トリプル』『神殺し限界超越』『天下身体能力/魔力無双増幅増強』」

 発動する魔法やスキルを倍にする『双子ツイン』で『三重トリプル』を倍掛けしたのだ。結果、『三重トリプル』の倍掛けで『六倍重ね掛け』を行った。

 西都へ来る途中の鍛錬中に、起きた事故・・の事を思い出しながら、俺は今も身体を巡る高揚感に抗いながら……ケンシーに嗤いかけた。

「ふははははは! これだよ! この感じが最高だぁああああ! 待たせたなベイビー!」

「あぁ……完全に目がイッちゃってますね、マスター……」

「ひゃっはぁあああああ! ヤナびん! 時化た声出してんじゃぁないよぉおおおん!」

 最高な俺を、ケンシーが見ていた。

「熱い視線をくれちゃってぇ! あぁ、俺の熱いパッションをユーが受け止めるのかぁあい?」

「……まぁ、どんなのでもイイカ……グハハ! さぁ、俺を楽しませぐぼはぁ!」

「やかましいわ! 俺以外喋るな! はひゃはははは!」

 俺のツッコミを受けたケンシーが、大袈裟に吹き飛んだ。

「おいおいぃいい! 職人すぐるだろう! ツッコミでどんだけ、転がってんだ? ひゃははは!」

「はぁ……マジでウザい、このマスター」



 俺は、西都から来る途中の鍛錬で、ものは試しにと『六倍』『天下身体能力/魔力無双増幅増強』を行った。

 そして俺はその時に、全くスキルを制御出来なかったのだが、こんな最高にハイに成れる事を知ったのだ。

「単に、制御出来ずに暴走しているだけですよ、マスター」

「ヤナびん言うねぇ! きびすぃいいい!」

「あぁ、ウザい! スキルをウザがらせるなんて、世界初ですよマスターが!」

「オンリィイワァアアアン!」

「早よ、一分経って……割と本気で、このマスター辛い……」

 ヤナびんから最高の賛辞を貰ったところで、ケンシーが再び向かってきた。

「オマエ! サイッコォオオオだぁあああ!」

「だよねぇええええ!」

「一分持たないかもしれない……スキルなのに……心折れそう…」



 ヤナビの、これまでに聞いた事のないような悲痛な呟きが、二人の咆哮にかけされたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

喪女だった私が異世界転生した途端に地味枠を脱却して逆転恋愛

タマ マコト
ファンタジー
喪女として誰にも選ばれない人生を終えた佐倉真凛は、異世界の伯爵家三女リーナとして転生する。 しかしそこでも彼女は、美しい姉妹に埋もれた「地味枠」の令嬢だった。 前世の経験から派手さを捨て、魔法地雷や罠といったトラップ魔法を選んだリーナは、目立たず確実に力を磨いていく。 魔法学園で騎士カイにその才能を見抜かれたことで、彼女の止まっていた人生は静かに動き出す。

異世界の花嫁?お断りします。

momo6
恋愛
三十路を過ぎたOL 椿(つばき)は帰宅後、地震に見舞われる。気付いたら異世界にいた。 そこで出逢った王子に求婚を申し込まれましたけど、 知らない人と結婚なんてお断りです。 貞操の危機を感じ、逃げ出した先に居たのは妖精王ですって? 甘ったるい愛を囁いてもダメです。 異世界に来たなら、この世界を楽しむのが先です!! 恋愛よりも衣食住。これが大事です! お金が無くては生活出来ません!働いて稼いで、美味しい物を食べるんです(๑>◡<๑) ・・・えっ?全部ある? 働かなくてもいい? ーーー惑わされません!甘い誘惑には罠が付き物です! ***** 目に止めていただき、ありがとうございます(〃ω〃) 未熟な所もありますが 楽しんで頂けたから幸いです。

魔法属性が遺伝する異世界で、人間なのに、何故か魔族のみ保有する闇属性だったので魔王サイドに付きたいと思います

町島航太
ファンタジー
 異常なお人好しである高校生雨宮良太は、見ず知らずの少女を通り魔から守り、死んでしまう。  善行と幸運がまるで釣り合っていない事を哀れんだ転生の女神ダネスは、彼を丁度平和な魔法の世界へと転生させる。  しかし、転生したと同時に魔王軍が復活。更に、良太自身も転生した家系的にも、人間的にもあり得ない闇の魔法属性を持って生まれてしまうのだった。  存在を疎んだ父に地下牢に入れられ、虐げられる毎日。そんな日常を壊してくれたのは、まさかの新魔王の幹部だった。

薬師だからってポイ捨てされました!2 ~俺って実は付与も出来るんだよね~

黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト=グリモワール=シルベスタは偉大な師匠(神様)とその脇侍の教えを胸に自領を治める為の経済学を学ぶ為に隣国に留学。逸れを終えて国(自領)に戻ろうとした所、異世界の『勇者召喚』に巻き込まれ、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。 『異世界勇者巻き込まれ召喚』から数年、帰る事違わず、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。 勇者?そんな物ロベルトには関係無い。 魔王が居るようだが、倒されているのかいないのか、解らずとも世界はあいも変わらず巡っている。 とんでもなく普通じゃないお師匠様とその脇侍に薬師の業と、魔術とその他諸々とを仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。 はてさて一体どうなるの? と、言う話のパート2、ここに開幕! 【ご注意】 ・このお話はロベルトの一人称で進行していきますので、セリフよりト書きと言う名のロベルトの呟きと、突っ込みだけで進行します。文字がびっしりなので、スカスカな文字列を期待している方は、回れ右を推奨します。 なるべく読みやすいようには致しますが。 ・この物語には短編の1が存在します。出来れば其方を読んで頂き、作風が大丈夫でしたら此方へ来ていただければ幸いです。 勿論、此方だけでも読むに当たっての不都合は御座いません。 ・所々挿し絵画像が入ります。 大丈夫でしたらそのままお進みください。

処理中です...