要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

イチ力ハチ力

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第六章 偽り

奪う男

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「何あれぇ? 突然、鬱陶しい感じになったけどぉ?」

 あの男が、突然大声で喚き出し、ちょっと関わりたくないと思わせる鬱陶しさが、こちらにも伝わってきた。

「でも……ケンちゃんが、まるで相手になってないなぁ」

 明らかに鬱陶しい感じになったあの男は、それまでと違いケンちゃんを完全に圧倒していた。

「このままだと、不味い感じぃ?」

 私は、二人を見ながら呟いた。



「グハハハ! これ程マデとは! オマエはドレダケ上がアルノダ! 楽しいぞぉおお!」

「ふっ、俺は天井知らずの青空市場! 雨風凌げる場もなしだ!」

「マスター、全く意味が分かりません。そろそろ一分経ちますよ?」

 ヤナびんがこのマックスフィーバータイムの終わりを告げて来る。

「残念だが、仕方なし! 始まりがあると言う事は、必ず終わりも来るという事。これぞ……」

「ウザスター! さっさと終わらせてよ! 強制解除シャットダウンしますよ!」

「ふぅ、ヤナびんは短気だなぁ。しょうがない、終わらせるか」

 俺は、一度ケンシーから距離を取り『天』『地』を構える。

「ドウシタぁ! まだまだオレはヤレるぞぉお!」

「楽しい時間にも、必ず終わりが来るものさ……『狂喜乱舞ヤナ流二刀剣術』『極致』『天が堕ちるが如し斬撃圧迫天井落し』」

 俺が放つ無数の飛ぶ斬撃が、ケーシーの頭上から頭上から一斉に降り注ぐ。

「グゥウウウ! ヌォアアアアア!」

 瘴気狂いケーシーの雄叫びが響くが、それを俺の斬撃が覆い被せ、咆哮をかき消して行く。

「そう、まるで天より空が落ちてくかのように。正に、空が愛で落ちて……」

「『強制解除シャットダウン』!」

 ヤナビ・・・による強制解除シャットダウンによって、俺が発動していたスキルが強制的に解除された。常時発動型は一瞬発動が止まるが、次の瞬間には再度発動し始める。しかし、大きな隙になるのは間違いない為、よっぽどの・・・・・時以外はしたくない方法だ。

「お帰りなさいマスター、後で身体を創って貰えますか?」

「ぐぅ……やはり、六倍の反動がきつい……因みに何故?」

上司マスターから受けたストレスを、上司マスターに物理的にぶつけて解消したいからです。いいですよね、マスター私の上司?」

「……さぁ、ケーシーはどうなったかな?」

 俺は、放った全ての斬撃がケーシーを押し潰した場所に、誰かさんの気配が増えたのを感知していた。

「元々、そういう筋書きシナリオだったのか? まるで、魔族と恋に落ちたご令嬢って感じの場面だな」

 俺は、ボロボロになり地に倒れ伏しているケーシーを庇うように、俺に立ち塞がるライに向かって尋ねた。

「……本当ならぁ、あなたが私に恋をする筋書きシナリオだったんだけどねぇ」

「そいつを、助けるのか?」

「まぁねぇ、流石にケンちゃんぐらいになるとぉ、中々生まれないからぁ」

 何やら魔族の事を、詳しく知っているようなライの口ぶりに再度尋ねた。

「ライは、魔族なのか?」

「んぅ、そうかなぁ? まぁ、似たようなものかなぁ」

 そう答えるなり、ライは指を鳴らすと身体が淡く光りだし、姿が変わった。

「その身体は……」

 俺が、ライの姿をみて絶句していると、ヤナビも呟く。

「正に女王様ですね、マスター。エロカッコイイって奴です」

 確かに、その通りなのだが、当然スルー無視した。

「そこじゃねぇよ……何故『悪神の聖痕』がライについているんだ……」

 俺は、黄金色だったライの髪が、燃えるような紅蓮の赤髪に変わり、見た目も女王様ルックに変身したライの太腿を見ながら呟いた。

「あらぁ、そんな目線で見られちゃうと、感じちゃいそうねぇ」

「ぬかせ……何故、巫女がそっち側にいるんだ」

「そんなの、決まってるでしょぉ?」

 ライは、俺に向かって言葉を吐きだす。

「いつかの私が、絶望に負けたからよぉ」

「絶望に負けた……」

 俺は、ライの言った言葉を、思わず口に出した。

「そう、前の私、前の前の私、前の前の前の私、生きている限り世界から拒絶を受けた私達。魔族に殺され、人に殺され、誰も私を助ける事もなく、永遠と続く絶望の結末。逆に聞きたいわ、何故それで絶望に染まらないと? 何故、魂が壊れないと?」

 ライは、気怠そうな話方ではなく、しっかりとした口調で、俺に向かって言葉を吐き出した。

「そして、壊れた私の魂は瘴気を受け入れ、悪神の手に渡った。そこで何故私が、世界から拒絶されていたのかも知った」

「全て悪神が仕組んだ事だと、知っているのか! それなのに、何故そっち側なんだ!」

 俺は、堪らずライに大声で問い詰めた。

「言ったでしょ? 私の魂は、もう壊れている。瘴気を受け入れているって。もう、どうでもいいの。この世界が滅びようと、どうせ詰んでる世界なんて興味がない」

「どうでもいいと言うわりには、そいつを助けたじゃないか」

 俺はライの空間遮断によって、瀕死ではありながらも生きながらえている、ケンシーを指差した。

「勇者の邪魔は、多い方がさっさと世界が滅びるから。貴方に倒されたんじゃ、困るしね」

 俺は、ライの言葉を聞きながら、隙を見てライに『神火の清めアブルーション』で聖痕を浄化しようと考えていた。

「何をしようとしているか知らないけど、今の・・あなたに私は倒せないし、コレケンシーを回収する邪魔も出来ない」

 ライは、恐らくここからケンシーを連れて、去るつもりなのだろう。俺はその前に、ライに再び尋ねた。

「あんたは、『恋』がしてみたくてこっちの世界へと来たんだったな?」

 俺がそう問いかけると、ライは一瞬止まり、俺を見ながら再び気怠そうな口調で口を開いた。

「そうねぇ、勇者の書いた本を読んだら、何だか恋って楽しそうだったものぉ」

「そうだな、恋物語は楽しいよな。だが、物語と現実は違うぞ。物語を現実でなぞろうとした所で恋はできない」

「んぅ、そうなんだぁ。でも、元々暇潰しだったし、別に出来ないならいいけどねぇ」

 ライは、口ではそう言いながら、ほんの少しだけ寂しそうな顔をした。

「本当に、それで良いのか? わざわざ恋をしにこっちまでやってきて、面倒な誘拐だの暗殺だのを起こしたんだろ?」

「だって、恋なんて出来ないんでしょう?」

「そうだなぁ、甘い恋は出来ないかも知れないが、もしかしたら他の恋なら出来るかも知れないぞ?」

「他の恋?」

「あぁ、もっと激しく情熱的で、危険な恋だ」

 俺は、不敵に嗤いながらライに近づいて行く。

「へぇ、本当は違うけどぉ、そんな恋もあるのねぇ」

 ライは、少し興味を持ったように呟いた。

「あぁ、恋にも色んな恋があるんだよ」

「その激しくて情熱的で、危険な恋ってどうやってするのぉ?」

 俺はライの目の前まで、歩いて近づいた。

「その恋物語はな、男に囲われ酷い扱いを受けている一人の女を、別の男が奪い去ってしまうんだよ」

「それは、随分強引ねぇ。でも、そんな事したら、囲っていた男が起こるんじゃないのぉ?」

「それはそうだろうな。だが、奪っていった男は、どんな危機死地に陥っても、その奪った女の手を離さない。どんな絶望的な状況になろうとも、その男は倒れない。必ず女を守るんだ」

「中々素敵そうねぇ。でも、そんな恋はどうしたら出来るのぉ?」

「こうするんだよ」

 俺は、目の前にいたライを強く抱きしめた。

「え?」

「悪神のクソヤロウから、俺がライを奪ってやる」

 そして、ライを抱き締めながら、俺は神から女を奪う言葉を唱える。

「『神火の清めアブルーション』」



 ここからは、俺が筋書きシナリオを書かせてもらおう

 神から、女を奪う男の物語を
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