要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

イチ力ハチ力

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幕間(第六章〜第七章)

生きる刻

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「あんた、俺の仲間になんねぇか?」

「矮小な人風情が、何の戯言をほざくのだ」

 目の前の小さき男は、笑えない冗談を言っている。

「原初の時代より生きる古代エインシェントドラゴンである我を、己は従えようというのか。身の程を弁えるのだな」

 余りにも馬鹿げた事を言うその男に対し、我は呆れて怒りすら起きない。

「あんたを従えるって? ははは、そんな事出来る訳ないだろう」

 何故かその男は、大笑いしていた。

「何が可笑しいのだ?」

「はは、当たり前だろう。まさか従わせる為に、こんな・・・とこまで来たと思われたとはな。そんな馬鹿な事はしないさ」

「ほう……なら、何しに来たと言うのだ」

 その男は、我を従える気は無いらしい。

「何故、この『天空の塔』の最上階まで来たのだ」

「そんなの決まっているだろう? この塔は、これまでに誰も最上階まで踏破した事が無いらしい。だが、最上階に登ると女神様とやらに会えるらしいとの伝承はある。不思議に思わないか?」

「何がだ」

「誰も踏破していないのに、何故最上階登ると女神に会えるという伝承が残るんだ?」

「ふむ、確かにそうだな。だが、我も此処に女神様を探しに来たが、いなかったぞ?」

 簒奪神ゴドロブと名乗る神を、女神クリエラ様と五人・・の巫女と共に、我は迎え撃った。その結果、女神クリエラ様は簒奪神と相討つ形で、姿を消してしまわれ、巫女達もその際に討ち死にした。残った我は消えた女神クリエラ様を探したが、見つける事が出来なかった。

「そうか……だが、それはもういいんだ。女神の代わりに、あんたに出会えたからな!」

「我が、なんだと言うのだ」

「あんたは、分かっていない! 自分の価値を!」

「あぁ、そういう輩か。ったく、人を素材素材と追いかけまわしよって、鬱陶しい。その煩わしさから逃れる事もあり、ここにおると言うのに。此処でも、駄目であったか」

 我は、原初の竜であるが為に、身体はどこもかしくも、素材として使えば霊薬や神薬と言ったものが出来上がるだろう。その為か、人に狙われることも少なくなかった。それが煩わしくあった為、丁度誰も居なかった、此処に居ついたのだ。幸い、此処まで登ってこれる人は、此れ迄現れなかったのだ。

「あぁ? 誰が素材なんて求めたよ。そんな物はどうでもいい!」

「ん? 違うのか。では、何なのだ、我の価値とは」

 目の前の男にとって、我の価値とは霊薬や神薬元となる素材ではないらしい。

「あんたの価値は、竜でありながら人語を話す事だぁああああ!」

「……何を言っているのだ。確かに、人語を話す竜はもう殆どおらぬだろうが、それが何故に我の価値なのだ」

「デカイ巨竜が、人語を話すんだぞ!? これほどファンタジーな事が、何処にあるというんだ! 剣と魔法に、人語を話す竜! ビバファンタジー!」

「……頭がおかしい方の輩であったか」

「違うわい!」

「確かに人語を話す竜は珍しいかもしれぬが、剣も魔法もこの世界・・・・では当たり前の事だろう」

 当たり前の事に喜ぶこの男を、我は頭がおかしくなった輩だと思ったのだ。

「ふふふ、この世界では普通かも知れんが、俺のいた世界・・・・・・では、剣はもう廃れているしな。何より魔法! こんなものは無い!」

 男は拳を天高く、突き上げて声高らかに吠えていた。

俺のいた世界・・・・・・……だと? この世界の者ではないのか?」

「あぁ、そうだ。俺は、勇者召喚でこの世界にやってきた異世界人の『勇者』だ!」

「異世界人……勇者……」

 此れには、流石に我も驚きを隠せなかった。しかもこの『勇者』は、この世界に初めて召喚された者だと言う。

「世界の壁を越えるなど、神の範疇だぞ……その様な術を、人が行っただと……?」

「確か女神から、ジャイノス王国王家には召喚陣が伝えられていて、クリエラ教の教主にはその発動の為の術が、伝えられていたらしいぞ? ただ、発動するまでにえらい時間がかかるみたいだけどな」

「女神クリエラ様からだと! いつの間に、そんな術を人に伝えておったのだ……まるで、御自身で、もうこの世界を救えない事が、分かっていた様ではないか……」

 我は余りの事に驚愕していると、その勇者はそんな我を笑い飛ばす。

「はっはっは! 俺は今から魔王を倒しに行くんだが、四体いるらしいんだ。仲間になって手伝ってくれよ! それで、俺を背中に乗せて飛んでくれ! 竜騎士ドラグーンだ!」

「我が己を背に乗せて飛ぶだと? 笑えんな。一息吹けば吹き飛びそうな弱い者を、我の背に乗せるわけがなかろう。さっさと去れ」

 勇者の言葉に呆れて怒りすら湧かず、我は地に伏せ目を瞑り眠ろうとした。

「まぁ、そうだよな。やっぱりお互いをもっとよく知るべきだよな」

「喧しいぞ、何をぶつぶつと言っておる……のだ?」

 勇者がぶつぶつと呟いていた為、黙らせようとした瞬間だった。勇者からの威圧に我は思わず立ち上がり、態勢を整えた。

「益々笑えんぞ。我と戦う気か」

「あぁ、勿論だ。相手の事がよく分からん時は、拳を交えるのが一番さ」

 そう言うなり、勇者は剣を腰から外し地に置いた。

「どうして、剣を置くのだ。戦うのだろう?」

「別に殺し合いをする訳じゃない。言っただろ? 拳を交えると」

 男は自らの両手で拳を作り、左拳を我に突き出した。

「やはり、頭がおかしい方の輩か。古代エインシェントドラゴン相手に素手で挑むなど、ただの死にたがりだ」

「はは、そうでもないさ。ステゴロってのが、友情を結ぶのに手っ取り早いのさ!」

 男はそう叫びながら、向かってきた。

「そんなもので、友などできるものか」

 我は、仕方なしにあしらってやろうとした瞬間だった。

「おらよぉお!」

「ぐへらぁ!?」

 払い出した我の尾をくぐり抜け、我の顔の前に飛んできたと思ったら、顔を殴られ身体がフラついた。

「ほらな? 痛ぇだろ。人を舐めてっと、怪我するぞ?」

「くっくっく……はっはっはっは! 良いだろう! 遊びに付き合ってやろう! ただし、我は殺す気で行くがな!」

「ふふふ、そうこなくっちゃな!」

 そして、勇者と我は全力で殴りあったのだ。



「……ぐふ……勇者よ……中々やるでは…ないか……」

「ふっ……お前もな……」

 不思議と本当に何故だか、この勇者の事が少しだけ分かった気がしたのだ。

「此れほどの強さがあれば、まぁ……付いて行ってやらん事もない」

「デレた!? ふふふ、なら共に行こう!」

「背中はまだ、乗せぬぞ」

「ツン!?」

 この時に我は、勇者と共に塔を降りたのだ。



「どうだ、見えるかこの世界が」

「……あぁ……綺麗だな……」

「お主だけが、見ることの出来る景色だ。ここまでの高さは、我しか来れぬ」

「……あぁ……知っているさ……」

「もう逝くのか」

「……あぁ……そうみたいだ……」

「お主と共に、あの時塔を降りてよかった。共にいられる時間が、少なかったのは残念だったがな」

「……はは……人はそんなに…生きれん…」

「そうだな」

 我は、最後にどうしても聞きたかった事を、初めて口にした。

「また……会えるか?」

「……お前が望むなら……また来るさ」

「お前は、我に会いたいと望まんのか?」

「……ふふ……勿論……望む……さ……」

「よかった」

「……それじゃ……またな……」

「あぁ、待っている」

 そして、一陣の風が吹き、我の背から魂が天へと昇っていった。



「たとえ、此れから悠久の刻が経とうとも、我は貴方を・・・待とう」



 その為に我の刻は、永く与えられているのだろう

 再び、巡り会えるその刻を夢見て



 最奥にて護ろう

 貴方の街を

 貴方の仲間を



 我の刻は悠久なのだから
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