要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

イチ力ハチ力

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第七章 悠久

アッチの話

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「おはよう、ライ」

「……ふぁ……おはよ、ヤナ」

 俺は、再度眠ったライが起きるまで、椅子に座って同じく寝ていた。そして、ライが起きる少し前に目がさめると、屋敷内の地図マップを確認した。そして、アシェリ達が既に朝のランニングから屋敷に戻り、客間にいる事を確認した所で、ライも眠そうな顔をしながら目を覚ましたのだ。

 俺はライに、部屋で少し待つように言ってから部屋を出ると、使用人の女性を呼びライが起きた事を伝えた。使用人の女性は、着替えの用意をすると言いながら歩いて行ったので、再度部屋へと戻り、ライにその事を伝えた。

「着替えが終わるまで、部屋の外にいるから、そんな不安そうな顔をしなくても大丈夫だ」

「一緒にいてくれないの?」

「あぁ、女の人が着替えをする時は、男の人は外に出なくちゃいけないんだよ」

「へぇえええ、そうなんですねぇえええ。まさかマスターから、そんな言葉が聞けるとは」

「……兎に角だ、部屋のすぐ外で待っているからな」

「うん、わかった」

 丁度使用人の女性がノックをして入ってきたので、入れ替わりに俺は外へと出た。

「さてと……腹減ったな……」

「……マスター……」

 ライが出てきたら、先ず朝飯を食べようと決意した。



「おはよう。あなた、ライちゃん・・・
「主様、ライちゃん・・・、おはようございます」
「ヤナ様、ライちゃん・・・、おはようございます」


 ライと共に朝飯を食べた後、アシェリ達の元へと連れて行った。三人には、昨日ライを寝室で寝かせた後に、念話で今のライの状況を説明しておいた。荒野から帰る馬車の中でも軽く話はしていたので、見た目は立派な淑女のライに対して、三人は子供を相手にするような優しい笑顔で朝の挨拶をしていた。

「あぁ、おはよう」

「おはよ」

 ライは、少し俺の後ろに隠れながらも、きちんと三人に挨拶を返していた。

「昨日は、悪神との事で頭いっぱいでしたので、気づきませんでしたが……何処かで会った・・・ような気がしますね」

 セアラが、そんな気付かなくても良い・・ような事を、ライをまじまじと見ながら呟く。

「確かにそう言われてみれば、どっかで見たことあるような気がするわね」

「そうですね、よく見ると誰かに似ているような気がしてきましたね」

 セアラの呟きを聞いたアシェリとエディスまでもが、ライをじっと見ている。

「……ほらほら、あんまり見てやるなって。ライが怯えるだろ、ほらほら、そんな偶然なんてないから、見ない見ない」

「「「怪しい」」」

「それは勿論、皆さん知っているはずですよ。ねぇ、マスター?」

 おそらくヤナビが身体を得ていたら、間違いなくニヤニヤと俺を見ているに違いない。

「……はっ! この気配は! キンナリとセバスが来るぞ!」

「「「怪しい」」」

 三人からの半眼の目線をスルー無視し、部屋の扉に目線を向けた。


「おぉ、二人とも起きたかね。おはよう」
「ヤナ、ライ様、おはようございます」


 二人が来た為、再度ライの今後について話し合うことにした。



「昨日アシェリ達には、要点しか話していなかったから再度確認するが、キンナリは俺たちの支援をしてくれる事になった。自らの危険も顧みず、共に悪神と戦う仲間だ。改めてよろしく頼む」

「「「よろしくお願いします」」」

 三人は、揃ったように頭を下げていた。

「此れは、貴方の為では無く、自分自身の物語を続ける為です。むしろこちらこそ、よろしくお願い致すところです」

 キンナリ頭を俺たちに下げると、セバスも同じく頭を下げた。

「実際として、ヤナ殿や巫女殿方を支援することを知っているのは、私とセバスという事になります。此れからは、セバスは屋敷を離れ、各地で情報収集をさせます」

 セバスは再度深くお辞儀をしたが、その雰囲気は既に執事のそれではなかった。

「この世界の爺さんは、動ける爺さんばっかだな……」

「セバスは、我が商会の元々諜報部総元締めでしたからな。引退して今は、私の護衛も兼ねて執事をさせておりますが、まだまだその筋でも働けるでしょう」

「そうであれば、遠慮無く頼みたいのは、『女神の居所』についてだ」

「悪神の居場所では無く?」

 キンナリが不思議そうな顔をしているので、話を続けた。

「あぁ、どうせ悪神なんてのは、魔王城に行かなきゃどうにもならんだろ。ただ、悪神は俺の前に現れたと言うのに、女神様ってのが何処にいるのか聞いたことがない。勇者召喚の時だって、誰とも会わずにいきなりこの世界だったからな」

 俺は、勇者召喚でシラユキに付いて召喚された時を思い出したが、所謂神との遭遇的なものは全くなかった。

「「は?」」

「ん? だから、女神の居場所をだな……」

「今、ヤナ殿は勇者召喚の時にと……仰いましたか?」

「あぁ、そうだが?」

「確認ですが、ヤナ殿は勇者様なのですか?」

 キンナリが恐る恐るといった感じで聞いてくるので、笑いながら答えた。

「ははは、そんな訳ないだろう。俺は勇者ではないよ」

「はっはっは、流石にそうですな。異世界からきた勇者様が、こんな所にいる訳が……」

「異世界からの召喚者なだけだよ」

 俺がそう言うと、キンナリから笑顔が消え固まった。セバスを見ると共に固まっていた。

「一体どうしたん……」

「「はぁああああ!?」」

「うお! いきなり大声出すな! ライが怯えてるだろうが!」

 いきなりキンナリとセバスが大声を出したので、隣に座っていたライがビクッと覚えて俺の腕を掴んだ。

「驚くに決まっているでしょう! 異世界からの召喚者という事は『女神様の使徒』ではないですか!」

「あぁ、城でもセアラ・・・に言われたしな。そうだよな?」

「えぇ、ヤナ様の様な異世界からの召喚者は、全て女神様の使徒です」

 俺がセアラ・・・に向かって確認すると、キンナリが信じられないものを見た様な顔でセアラを見た。

「セアラ……様? え? いやいやいや、まさか? え? セアラ王女?」

 キンナリは驚きの余り混乱し、セバスは顎が外れんばかりに口を広げ絶句している。

「あぁ、今はセラと名乗って、俺の侍女としてお忍びだ。くれぐれも内緒な?」

「「はぁああああ!?」」

 いきなりキンナリは立ち上がり席を立つと、セバスと共にセアラと俺の前で片膝をついた。

「女神様の使徒であるヤナ様に、此れまで数々の御無礼を大変失礼致しました! そして、セアラ王女様! 王族の方がいらしていたというのに、何も構いもせずに何という御無礼を!」

「いいからいいから、そういうの。俺はそう言うの面倒だし、セアラに至っては、王女だと周りにバレると俺と旅が出来なくなるかも知れんしな。そうなると……セアラが暴れるから、やめてくれ……」

「「王女が暴れる?」」

 キンナリとセバスが思わずセアラを見ると、既にセアラの手には鬼の金棒が握られ、二人に嗤いかけていた。

「フフフ、言っちゃダメですよ?」

「「……はひぃ!」」

「王女が庶民を、脅すなよ……」

「もう仲間ですから、いいんです」

「いやいや、どう言う理屈だよ……」

 俺は、若干呆れながらも、『仲間は遠慮しない相手』という理解で、自分を納得させた。

 そんな様子を見ていたキンナリは、感心するように口を開いた。

「流石、ヤナ様ですな。王女、エルフ、獣人と契約をしながらも、美女と名高い女騎士ディアナと刀工カヤミとも契約しているとは、余程ヤナ様はお元気・・・なのですな、はっはっは」

「「「それ・・は、これからです!」」」

「ハモるな! ん? これから?」

 俺は、三人に呆れながら、何故か背中に寒気を感じていると、キンナリが再び口を開いた。

「よくよく考えると、そんな豪気な方に、娘となったライを契約させたのですな」

 キンナリは、少し目を瞑り考えた後に、口を開いた。

「せめて、精神的に大人になってからでお願いします!」

「うるせぇ! なんの話だ!」

アッチ・・・の話でございます」

「やかましいわ! いくら身体が大人でも、子供にそんな事するわけないだろ!」

「え?」

 キンナリは明らさまに不思議そうな顔をしながら、アシェリを見た。

「してねぇよ!?」

「これから?」

「どんだけ鬼畜だと思ってやがるの!?」

 俺とキンナリが騒いでいると、ライがボソッと聞いてきた。

「アッチの話ってナニ?」

「「……」」

 ライの純真な目で見られた俺とキンナリは、揃って黙った。

「ライだけ・・は、真っ当に育って欲しい……」

 俺は、力なく呟いた。



 俺の切なる願いが、届く事はあるのだろうか?
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