要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

イチ力ハチ力

文字の大きさ
129 / 165
第七章 悠久

生きる時間

しおりを挟む
「おぉ、これはまた……凄いな」

 俺は、デカく丈夫そうな門を潜り抜け、目の前に広がる街の景色に、驚いていた。

「私は前に、Aランクのランクアップ試験を受けに来た事があるから知ってたけど、やっぱり変わらないわね」

 エディスが割と冷静に呟いていたが、デキス迷宮都市国家に来た事がない俺やアシェリとセアラは、ジャイノス王国内との人種の多さの違いに驚いていた。

「主様、人族と獣人族は分かりますが、あのヒゲの人はどんな方々なのでしょうか?」

「おそらくドワーフ族の筈だ。彼らは背が低く、立派なヒゲを持つおっさん・・・・のような厳つい顔だった筈だ」

 ドワーフ族は、肩に身体の大きさに似合わない程の、大きい斧を担いでいた。

「確か、ドワーフ族は鍛冶師でありながらも、強靭な身体で斧を主に扱う種族だと聞いています」

 セアラがそう説明していると、エディスもその言葉に同意していた。

「そうね、彼らと現役だった頃に何度かパーティも組んだ事があったけど、鍛冶と戦闘の両方が出来るのは心強かったわね。装備が壊れても、素材さえあれば修理もその場で出来たしね」

「なるほどな、それは確かに心強いな」

 俺はドワーフ族の有能さに感心していると、ある事に気付いた。

「人族、獣人族、ドワーフ族は普通に見かけるが、エルフ族は見かけないな」

 俺が、そう呟くとエディスが苦笑しながら答えてくれた。

「エルフ族は、まず先ずもって『隠れ里』から外に出る者が少ないから……それに、その希少さ故に狙われる事も多いから、表には中々出てこないわ」

「狙われる?」

「えぇ、大体は奴隷商人の関係者ね。私は、初めからガストフ支部長と出会って、そのままパーティにいたから、そういう輩は流石に寄ってこなかったけどね。もしかしたら、裏で追っ払ってくれてたのかもしれないわね」

「あぁ、そう言うことか。あのおっさんなら、そうかもな」

 俺は、あの面倒見のよいおっさんを思い出し、笑っていた。

「そう言う面倒ごとを嫌うエルフ族は、大抵戦闘時以外は自分の姿を魔法で偽っているわね。まぁでも、戦闘になると余程の魔法の使い手でないと、偽装魔法が解けちゃうけどね」

 普通・・は、偽装魔法をしながら戦闘は難しいらしい。

「余程の使い手か……」

「どうしたの?」

「ん? いや、何でもない」

 俺は、あの人はエルフなんじゃないかと思っていたが、そうだったら何だという事に気付いて、考えるのをやめた。

「しかし、やけに建物が頑丈そうな作りをしているな」

「そうですね、ちょっとやそっとで壊れなさそうですね」

 俺とアシェリが建物を見上げていると、セアラがその事について説明してくれた。

「迷宮都市国家デキスは、この世界における最深最古迷宮である『デキスラニア』周りに出来た都市国家です。その街づくりの考え基本は、魔物の大氾濫スタンピードがもし起きた場合に備える事だったようです」

 もし『最深最古迷宮デキスラニア』が魔物の大氾濫スタンピードを起こした際に、この都市国家内で食い止め、迷宮外に溢れた迷宮魔物ダンジョンモンスターを、この都市に出来るだけ閉じ込めて対処する方針らしい。

「迷宮と共に生きる者達の、責任か……」

 俺は、この街に着いたばかりであったが、この迷宮都市の覚悟を少し感じた気がした。

「ヤナ、今からどこ行くの?」

 俺が少し遠い目をしていると、ライが御構い無しにこれからの事を聞いてきた。

「今から、ギルド本部に行ってAランクへの昇格試験の受付に行かなきゃならんな。ギルドや冒険者については、ヤナビから教わっているだろ?」

「うん、大丈夫」

 ライは、若干ドヤ顔をしていた。

「くっ、純真なドヤ顔とは、こうも眩しいものなのか!」

 俺がライの微笑ましいドヤ顔に悶えていると、後ろから不穏な呟きが聞こえる。

「まるで、私達が純真じゃないみたな言い方ね、絶対盛らなきゃ」
「むしろ、ヤル気が出ました、必ず盛って見せます」
「純真に真っ直ぐに、一服盛る方法を考えます」

 セアラ達には、少なくとも三人だけで料理はさせないとこの時に決意した。そして、何を盛ろうとしているのかは、怖くて聞けなかった。

 そして、門の衛兵にギルド本部の場所を聞いて移動を始めた。



「ヤナビ、念の為に『透明化インビジブル』した火鼠ファイアマウスを放つから、この都市の地図を作成マッピングしといてくれ」

「承知しました、マスター」

 俺は歩きながら、都市の地図を作成マッピングする為の火鼠を創り、ヤナビに『集線ハブ』『接続コネクト』し、都市国家の絶対像を把握する事を任せた。

「碁盤の目か」

 俺は、作成されていくデキス迷宮都市地図マップを見ながら、呟いた。

 その呟きが聞こえたらしく、すぐ隣にいたライが聞いてくる。

「ヤナ、ゴバンノメってなに?」

「こうやって、横と縦の線で綺麗に四角を作るような事を、そうやって言うんだよ」

 俺は、通りの端に移動し、簡単に地面に指で碁盤の目を書いて、ライに説明した。

「聞いた話によると、この四角く区切った道路にも何か仕掛けがあり、|魔物の大氾濫
 《スタンピード》が起きた際には起動するようです」

「なるどねぇ、何となく想像は付くが、色々最初に街を作り、方針を立てた人は凄いな」

 しかも、道にきちんと看板が設置されている為、慣れれば道も分かりやすいだろう。

「慣れるまでは大変なんだが、俺には地図・・があるから、どちらにせよ大丈夫か」

 衛兵に教えられた道を進みながらも、街の地図マップも同時に作成されていく。

「そろそろ、ギルド本部か……おぉ、こりゃまた立派な建物だな」

 目の前に十階建てのビルの様な建物が見えてきた。

 玄関正面には大きく『冒険者ギルド本部』と書かれた看板が設置されていた。

「なんかここだけ、元の世界に戻った様な違和感を感じるな」

 ギルド本部の正面玄関は、所謂ガラスの自動ドアとなっていた。そして、そこから中へと入ると電光掲示板こそないが、雰囲気がどっかの会社のフロントロビーの様だった。

 受付も『総合受付』『討伐クエスト受付』『採取受付』『クエスト依頼受付』等と目的に合わせて、カウンターが分かれていた。

「ここも、前来た時から変わってないわね」

 エディスが周りを眺めながら、そう呟いた。他の三人は、物珍しいらしくきょろきょろと、完全お上りさんのようになっていた。

「知り合いでもいそうか?」

「どうかしらね、私が前来た時はもう、二十ね……あぁ、ごほごほ、結構・・前だから。人とエルフは生きる時間が違うから、会っても分からないかもね」

 若干、年数を誤魔化そうとしたのはご愛嬌だが、その後のエディスの寂しそうな顔が心に重くのしかかる。

「生きる時間……か」

 エディスはエルフ族である為、長寿だ。人の十倍近く生きるらしい。この世界の人族や獣人族は長く生きたとしても百年ぐらいらしい。死ぬ危険が高いので、普通はそこまで生きれないらしいが、それでもやはり生きる時間が異なる。

 そして、ライだ。

 あのクソヤロウ悪神が創った身体だ。あいつが、歳をとるような設計で自分の眷属を創るとは思えない。

 たとえ、悪神から逃げたとしても、俺は永遠には生きられない。

「それまでに、決着ケリをつけないと……か」


「あなた?」
「主様?」
「ヤナ様?」

「ヤナ?」


 四人が其々俺の名を呼びながら、心配そうな顔をしていた。

「何でもないさ。さぁ、本部に着いたら『総合受付に行け』と言われたからな。そっちへ行くぞ」

 俺は、出来うる限りの自然な笑顔で、四人に向けそう言うと『総合受付』へと歩き出した。

「マスター、それ・・は棚上げ出来ませんよ?」

「あぁ、分かっているさ。何とかしないとな」

 俺は、同じく心配そうな声を掛けてきたヤナビに答えると、静かに先頭を歩き出したのだった。



「ヤナ、何か寂しそうな顔だった」

 わたしは、何でもないと言っていたヤナの顔を見たとき、きゅぅっと胸が苦しくなった。

「あの人は、きっと優しい事を考えて、悩んでくれているのよ」

 エディスお姉ちゃんも、ヤナと同じような寂しそうな顔をしていた。

「大丈夫?」

「ふふ、大丈夫よ。私はそこそこ慣れているから……でも、今回はきっと辛いだろうなぁ」

 私は、少し泣きそうになっているエディスお姉ちゃんの手を握ってあげた。

 そして気づくと、私のもう一方の手をアシェリお姉ちゃんが握っていた。エディスお姉ちゃんの反対の手は、セアラお姉ちゃんが握っていた。

「今、私たちは同じ刻を生きています」
「そして、これから先もです」

 アシェリお姉ちゃんとセアラお姉ちゃんが、私達に向かってそう言っていた。

 私はよく意味が分かっていなかったけれど、自然と涙が溢れ出した。

 隣を見るとエディスお姉ちゃんも目に涙を溜めていた。

「二人とも……ありがとうね」

「ありがとう」

 わたしも、二人にエディスお姉ちゃんと同じように返した。

「生きる……時間」

 わたしは、そう小さつぶやきながら、三人と一緒に、ヤナの後ろに付いて行った。



「Bランク冒険者のヤナ様ですね。Aランクへの昇格試験の受付に来られたと言う事で、お間違いありませんか?」

「あぁ、そうだ」

「少々、お待ちください」

 総合受付の職員の女性にここギルド本部へきた理由と要件を伝えると、女性は再度俺に確認を取ってから、電話にしか見えない魔道具を使い誰かと話をしていた。

「ヤナ様、担当の者と確認が取れましたので、三階の冒険者功績査定部で詳細をお聞きしてください」

「分かった、ありがとう」

 俺は、冒険者功績査定部の部屋までの行き方を聞き、そこへ全員で移動した。



「お前が、『貢がせヒモ』ヤナか。チッ、通り名通りに、女を侍らせてやがるな」

「あぁ?」

 そして、いきなり喧嘩を売られたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

喪女だった私が異世界転生した途端に地味枠を脱却して逆転恋愛

タマ マコト
ファンタジー
喪女として誰にも選ばれない人生を終えた佐倉真凛は、異世界の伯爵家三女リーナとして転生する。 しかしそこでも彼女は、美しい姉妹に埋もれた「地味枠」の令嬢だった。 前世の経験から派手さを捨て、魔法地雷や罠といったトラップ魔法を選んだリーナは、目立たず確実に力を磨いていく。 魔法学園で騎士カイにその才能を見抜かれたことで、彼女の止まっていた人生は静かに動き出す。

異世界の花嫁?お断りします。

momo6
恋愛
三十路を過ぎたOL 椿(つばき)は帰宅後、地震に見舞われる。気付いたら異世界にいた。 そこで出逢った王子に求婚を申し込まれましたけど、 知らない人と結婚なんてお断りです。 貞操の危機を感じ、逃げ出した先に居たのは妖精王ですって? 甘ったるい愛を囁いてもダメです。 異世界に来たなら、この世界を楽しむのが先です!! 恋愛よりも衣食住。これが大事です! お金が無くては生活出来ません!働いて稼いで、美味しい物を食べるんです(๑>◡<๑) ・・・えっ?全部ある? 働かなくてもいい? ーーー惑わされません!甘い誘惑には罠が付き物です! ***** 目に止めていただき、ありがとうございます(〃ω〃) 未熟な所もありますが 楽しんで頂けたから幸いです。

魔法属性が遺伝する異世界で、人間なのに、何故か魔族のみ保有する闇属性だったので魔王サイドに付きたいと思います

町島航太
ファンタジー
 異常なお人好しである高校生雨宮良太は、見ず知らずの少女を通り魔から守り、死んでしまう。  善行と幸運がまるで釣り合っていない事を哀れんだ転生の女神ダネスは、彼を丁度平和な魔法の世界へと転生させる。  しかし、転生したと同時に魔王軍が復活。更に、良太自身も転生した家系的にも、人間的にもあり得ない闇の魔法属性を持って生まれてしまうのだった。  存在を疎んだ父に地下牢に入れられ、虐げられる毎日。そんな日常を壊してくれたのは、まさかの新魔王の幹部だった。

薬師だからってポイ捨てされました!2 ~俺って実は付与も出来るんだよね~

黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト=グリモワール=シルベスタは偉大な師匠(神様)とその脇侍の教えを胸に自領を治める為の経済学を学ぶ為に隣国に留学。逸れを終えて国(自領)に戻ろうとした所、異世界の『勇者召喚』に巻き込まれ、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。 『異世界勇者巻き込まれ召喚』から数年、帰る事違わず、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。 勇者?そんな物ロベルトには関係無い。 魔王が居るようだが、倒されているのかいないのか、解らずとも世界はあいも変わらず巡っている。 とんでもなく普通じゃないお師匠様とその脇侍に薬師の業と、魔術とその他諸々とを仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。 はてさて一体どうなるの? と、言う話のパート2、ここに開幕! 【ご注意】 ・このお話はロベルトの一人称で進行していきますので、セリフよりト書きと言う名のロベルトの呟きと、突っ込みだけで進行します。文字がびっしりなので、スカスカな文字列を期待している方は、回れ右を推奨します。 なるべく読みやすいようには致しますが。 ・この物語には短編の1が存在します。出来れば其方を読んで頂き、作風が大丈夫でしたら此方へ来ていただければ幸いです。 勿論、此方だけでも読むに当たっての不都合は御座いません。 ・所々挿し絵画像が入ります。 大丈夫でしたらそのままお進みください。

処理中です...