要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

イチ力ハチ力

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第七章 悠久

アイツ

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「何故に俺は、いきなり喧嘩を売られているんだ?」

 総合受付で、三階の冒険者功績査定部へ向かうように言われ来てみると、カウンターの受付職員が俺の担当者を呼び出してくれた。

 神経質そうな中年の痩せている男性が、自分の席から立ち上がり、カウンターに来るなり暴言を吐いて来たのだ。

「事実だろ? 最初は『魔物の大氾濫スタンピードの単独鎮圧』なんて言うバカみたいな捏ち上げで推薦して来やがって。あそこ王都支部は、完全に初心者ルーキーの街だってのに、そこで登録したてぐらいのガキが、そんな事できるわけないだろ」

 その男は名乗りもせずに、捲し立てるように何やら俺を馬鹿にしたいらしい。

「挙句に果てに、『霊峰に於いて氷雪竜討伐』だと? ガストフ支部長から審査申請があり、調べたら確かに討伐は事実だったが、お前と一緒に討伐したのが『西の守護騎士』ディアナと『刀工』カヤミじゃないか。しかも、二人ともお前と『契約』したらしいな。それで、どうせおこぼれ頂戴したんだろ? そんな功績をよく支部長に報告して、推薦してもらったな。この、『貢がせヒモ』男が恥を知れ」

 その目の前に男は、言いたい事を全部言い終えたらしく、俺に向かってドヤ顔で蔑むような目を向けてきていた。

 そして、『貢がせヒモ』の言葉で他の職員もクスクスと嘲笑していた。当然、笑った奴は全部把握した。

「あなたは『予想外イレギュラー』のエディス様ですよね?」

 その男は、俺から目線を外し、エディスに向けていた。

 そして、俺は神出鬼没隠蔽/隠密/偽装で気配を消しながら、静かに準備を・・・始める。

「えぇ、そうよ。よくわかったわね」

「それはもう、エルフの美しきAランク冒険者が引退から復帰したとなれば、一大事ですからね」

 その男は、見るからにゴマをするような声色で、エディスに話しかけていた。

「あなたもこんなインチキ男と一緒にいると、仲間だと思われるのでやめた方がいいと思いますよ?」

「大丈夫よ。この人は、本物だから」

 エディスがそう言うと、その男は見るからに残念そうな目で俺を見ていた。

「本物ですか? このガキがねぇ。それに報告で聞いている特徴から察するに、『ジャイアント狂わせキリング』のアシェリさんと『血の雨ブラッディレイン』のセラさんですね?」

 今度はアシェリとセアラに、その男は目を向けた。

「「はい」」

「アシェリさんは獣人奴隷だとか。それでいてDランクは素晴らしいですね。しかしきっと、手柄を主に取られているので、未だCランク試験を受けさせて貰えないのでしょうね、可哀想に。セラさんは、卑怯な手で借金をこの男に負わされ、侍女としてこき使われているのでしょう。全く酷い男だ」

 そして、最後にライを見た。

「……なに?」

 ライは見られた事で警戒し、俺の後ろに隠れた。

「おやおや、そこまで他の男を避けるように、躾けているとはそう言う事・・・・・に関しては、『本物』なんですね、クックック」

 その男が下卑た笑いをライに向け笑った後に、再度俺に目を向けて口を開いた。

「元Sランク冒険者のガストフ支部長の顔を何度も潰す訳にも行かんから、今回は申請の受理してやる。どうせ、落ちるんだからもう帰ったらどうだ? その方が、痛くないし恥をかかなくてすむぞ? ハッハッハ」

 他の職員でも既に今度は普通に笑ってる者も更に増えた。当然、全員覚えた。


「アシェリ、セラ、ライ、いざとなったらこの人を止めるわよ」
「はい、本部が吹き飛ぶ前に止めましょう」
「私が潰したかった所ですが……止める方が良さそうですね」

「ヤナ、やり過ぎちゃダメだよ?」


 俺は、心配そうに見るライの頭を優しく撫でながら、声をだした。

「大丈夫だ、安心しろ。キッチリやりきる・・・・。全員離れて手を出すなよ? これは俺の喧嘩だ」


「「「ダメだこりゃ」」」

「あちゃぁ」


 四人はそう言うなり、俺から離れていった。

「お前は、下がらないのか? 他の四人は下がった……ぞ? 何を笑って……ひぃ!?」

 俺は、口が避けるかと思うほどに、三日月に口を開き嗤う。

「ふふふ、あんた他も俺の通り名知っているか?

「……他の……通り名?……」

 俺は、少しずつじわじわと威圧と殺気を、笑いやがった全員にかけていく。

 目の前の男は徐々に額に大粒の脂汗をかき出し、後ろの机に座っている他の職員達は呻き声を出し始める。

「あぁ、別に俺がつけてくれと言ったわけじゃないんだがな」

 俺は、その男に教えてやった。



 曰く、『黒炎のブラック狂犬マッドドッグ

 曰く、『深淵のアビス暴力狂いバーサーカー

 曰く、『暗闇ダーク紳士ジェントルマン

 曰く、『全てを破壊する者デストロイヤー



 曰く、『漆黒の騎士《ジェットブラック》』である



「『透明化インビジブル』『解除リリース』」

 俺は、目の前の男が俺から目を離している隙に、神出鬼没隠蔽/隠密/偽装によって魔法の発動を隠しながら、形状変化デフォルマシオンで『黒炎のヘルフレイム全身鎧プレートアーマー』を創っていた。そして、同時に『透明化インビジブル』で隠蔽していたのだ。

 そして、男の目の前で『透明化インビジブル』を解除リリースし、ギルド本部に『漆黒の騎士ジェットブラック』が降臨した。

「さぁ、誰が『貢がれヒモ』だって?」

「ぐぅううう……や……やめろ……こんな事をしたら……すぐに誰か来るぞ……」

 俺は、仮面の下で嗤う。既に俺の威圧と殺気を受け、この男以外は机に泡を吹きながら失神している。

「フハハ、我輩が何をしたと言うのかな? 何も・・していないが?」

 俺は、更に威圧と殺気を増す。

「ぐぎゃぁ!……やめ……て……くれ……お願い……だ」

 男は失神こそしていないが、カウンターの向こう側で地面に這いつくばっていた。

 俺は、この男の目が怒りに燃えている事がわかっていたが、威圧と殺気を解いてやった。

「はぁはぁ……俺を誰だと思ってやがる……こんな事をして、タダで済むと思うなよ!」

「だから、何にもしておらんだろうが。勝手に地べたにお前が這いつくばっていいただけだと思うが? クックック、何故か・・・無様に『貢がれヒモ』に許しを請うていたが、そんな情けない男がどうするというのだ? ん? ん?」


「いつもより、あの人も粘着質ね」
「満足な二つ名がつかない事に、主様は地味に悩んでましたから」
「ネチネチも……あり?」

「ヤナ、いじわる」

 後ろの呟きは全てスルー無視だ。


「貴様ぁあああ! こうするんだよぉおお!」

 未だに名前の知らない男は、髪を振り乱しながらカウンターに寄りかかりながら立ち上がり、カウンターの下に手を伸ばした。

 次の瞬間に、建物全体に警報が鳴り響く。

「ゴンベエ、これは?」

 俺は、名無しの権兵衛に警報の事を尋ねた。

「誰がゴンベエだ! 俺の名は……」

 男がやっと名乗ろうとした所で、冒険者達がこのフロアに駆け上がって来た。

「ギルド本部を襲うとは、気でも狂ったか!」
「おい! 見たことあるぞ! こいつ『女狂いの黒き野獣好色漢』だぞ!」
「確か『変態中の変態キングオブ変態』だったよな?」

「ブチッ」

「いま、あの人自分・・で『ブチッ』て言ったわね」
「態々主様がさっき敢えて・・・言わなかった二つ名を、言われたからでしょうね」
「全員建物の外に出ますよぉ」

「「「「はぁい」」」」

 セアラの号令で、四人は一階に降りていき建物の外へと向かった。

「こいつは、襲撃犯の『貢がれヒモ』のヤナだ! 袋叩きにして、本部の外に捨て置けぇええ! 討伐した冒険者には、評価を特別にくれてやるぞ!」

 ゴンベエが半狂乱になりながら、そう叫び声を上げた。

「「「おぉ!」」」

『評価』の言葉に、冒険者達が雄叫びをあげ、どんどんフロアに集まってくる。

「フハハハハハハ! 欲に踊らされよって、そんなお前達に丁度良い相手を用意してやろう」

「何言って……」

 俺と反対側の冒険者側へと逃げていたゴンベエが、何やら再度叫び出そうとしていたので、それを遮るように、俺は唱える。

「『明鏡止水精神統一』『三重トリプル』『十指テンフィンガー』『獄炎ヘルフレイムの柱ピラー』『形状変化デフォルマシオン』『黒炎のヘルフレイム自動人形達オートマタ』」

 そして、創り出した一体にサングラスヤナビをかけて、ヤナビを『集線ハブ』にして、残り二十九体の『黒炎のヘルフレイム自動人形達オートマタ』と『接続コネクト』する。

 ヤナビが、『黒炎のヘルフレイム自動人形達オートマタ』を、今回は漆黒の美少女メイドへと創り変える。

「今回ばかりは、良い仕事をしたと褒めざるおえんな、ヤナビよ」

「お褒めに預かり光栄です、陛下」

 ヤナビもノリノリで、片膝を俺に向けてつく。

 そして俺の横にヤナビが立ち、その両サイドを手にを持つ無表情な美少女メイドが並ぶ。

「さぁ、お仕置きの時間だ」

「何なりと御命令を」

殲滅せよ殺さず心を折れ

 俺の命令を聞いた三十体の『漆黒のお仕置き人トラウマ製造機』は、一斉に口が避けんばかりの狂気に満ちた嗤い顔を冒険者に向ける。

「「ひぃいいいい!?」」

「「「「アハハハハハハハハ!!!」」」」

 少女の嗤う声が一斉にフロアにこだまし、現場は狂気に支配された。



『緊急事態発生! 緊急事態発生! 現在、三階中央フロアにて本部襲撃犯と交戦中! 至急増援要請! 冒険者功績査定部室長権限にて、緊急クエスト発行! Aランク試験受験中・・・のヤナを止めてくれぇええええ!』

 本部ギルド全階にゴンベエの悲痛な叫びで、放送が流れた。

 当然、本部ギルドマスター室にも放送は流れてくる。

「はっはっはっ! あいつ面白すぎだろう! とびっきりの脳筋変態だな!」

 本部ギルドマスターのキョウシロウは、放送を聞き大笑いしていたが、ある気配が暴れているヤナに近づいていくのを察知して、真剣な顔になった。

「おいおい、彼奴ヤナは厄介者を引き寄せるのか? アイツとヤリ始めたら本部が吹っ飛ぶぞ………ったく、しょうがねぇなぁ」

 そして、キョウシロウは本部ギルドマスター室を出て、騒乱の中心部へと向かったのだった。



「陛下! このまま世界征服でしょうか?」

「グハハハハ! それも良いな! ガッハッハッハ!」

 ヤナとヤナビは、未だノリノリだったが、次の瞬間嗤うのを止めた。

「……何か、来るぞ……ヤナビ達は、アイツ・・・以外を相手しろ」

「承知しました。マスター、お気をつけて」

 そして、三階中央フロアが一瞬にして、死地へと変わった。
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