要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

イチ力ハチ力

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第七章 悠久

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「なんだ……これは……」

 アヤメに向かって全力で踏み込もうとした瞬間に、この場に不釣り合いな程の清涼な風が吹き抜けた。そして風が止んだ瞬間、俺たちの戦意が完全に消されていた・・・・・・

「……『凪』……キョウシロウ……」

 そして、いつの間にかアヤメの身体の傷口は癒されており、全身に付いていた血糊が綺麗になくなっていた。血糊が消え傷も癒えたことで、アヤメの状態は『ブラッディ狂いマッドネス』ではなくなっていた。

「お前ら、完全にこの建物ごと、相手斬り飛ばすつもりだっただろ」

 以前に、王都のテレビ電話みたいな魔道具で見た事のある顔が、呆れた声で話しかけてきた。

「あぁ」
「うん」

「即答するんじゃねぇよ」

 アヤメにキョウシロウと呼ばれたギルドマスターは、派手な羽織に着流しといった姿で、腰には一振りの刀を差していた。

「会うのは初めてだな。確か、ヤナだったな」

 大学生くらいにし見えない黒髪黒目のボサボサの頭をした青年が、やる気のなさそうな半眼で俺を見てきたので、答えを返した。

「あぁ、俺がヤナだ。あんたがギルドマスターの、キョウシロウか」

 俺は、『天』『地』を鞘に戻しながら、相手にも確認を取った。

「そうだ。お前が来るのを楽しみにしていたんだが、いきなり建物ごと吹き飛ばそうとしている最中で、笑わせてもらったぞ」

「それは、仕方ないだろ。そっちギルド本部が、喧嘩売ってきたから買ったまでだよ」

 俺は、ゴンベエを見ながら嗤いながらそう告げた。

「は!? さっきヤナ殿は、これが試験の一部だと知っていたと言っていましたぞ! そもそも、私はゴンベエではない! ゴーンべだ!」

「ほぼ合ってるじゃねぇか!?」

「ニアピンでしたね、マスター」

「いいから、お前らも片付けを手伝え。ゴーンベ室長は、医療部に連絡してそこら中の瀕死体を回復させてやれ」

 キョウシロウがゴーンベに指示を出し、現場の復旧に動き出した。



「呼ばれたから、何かと思えば、また・・これなのね」
「主様は、ギルドを破壊しないと気が済まないんですか?」
「床が陥没してますが、直るのでしょうか?」

「ボロボロぉ」

 俺が、キョウシロウから片付けを手伝うように言われた段階で、仲間パーティ通話チャットで全員を呼んでいた。

 現場の惨状に三人は呆れ顔で俺を見て、ライはあまりのボロボロさに不思議そうな顔をしていた。

 四人もそのまま、瓦礫の撤去や傷ついた冒険者の回復を手伝ってくれたのだ。

「あとは、業者に任せるしかねぇな。御苦労さん」

 キョウシロウが片付けをしていたギルド職員と俺たちに声をかけて、三時間ほどしていた復旧作業を一先ず終わりとした。

「あんたらも、ツレの為に大変だったな。それに、エディスは久し振りだな」

 キョウシロウがアシェリ達に声をかけ、その後エディスに話しかけた。

「えぇ、キョウシロウがギルドマスターになってからは、初めてね」

「知り合いだったのか?」

 俺は、エディスに二人のことを尋ねると、キョウシロウが駆け出しの頃に、少し面倒を見たことがあったらしい。

「あぁ、エディスとガストフ支部長には、随分可愛がられたよ」

 キョウシロウが若干遠い目をした様な気がしたが、エディスを見ると寧ろニコニコとしていたので、そこはそっとしておいた。

「一応種明かしは欲しいんだが、コレ・・もAランクランクアップ試験の一つって事でいいんだよな?」

 俺は、遠い目をしていたキョウシロウに問いかけた。

「まぁ、そうだな。試験って言っても、Aランクアップ試験推薦承認が通った者への、激励と気を引き締めろよっていうものだな」

「あぁ? なんだそりゃ?」

「お前には、常に冷静に対処しろという事を再確認させる為に、態と煽ったわけだ。普通は、本部職員があからさまに煽ってきたら、怪しいと思うからな。Aランク試験に、所属支部長から推薦される様な奴なら、冷静に対処するだろう。要は、常に変化や異常に気付き冷静に対応しろよっていう、これからAランクアップ試験を受ける冒険者へのイタズラめいた応援だ」

「そこで、実際にキレたらどうなるんだ?」

「普通は、この為に依頼していた現役Aランクの冒険者達に袋叩きにあって、本部の外にポイだ。異変にも気付けず、冷静さを欠いた行動をすると、更なる危機に陥って死ぬぞって事を教えてやるっていう優しい助言だな。暴れなくても、暴れても最後にはちゃんと、あの看板を出すんだがな」

 キョウシロウが指さした所に、壁に立てかけられた『大成功!』の看板を見て絶句した。嫌な予感をしながらも考案した奴を聞いてみた。

「そんな事を誰が、考えたんだ?」

「初代ギルドマスターだな」

「因みにどんな人だったんだ?」

「この世界に、初めて召喚された勇者だったそうだ」

「ただのドッキリじゃねぇか! 後世まで真面目に繰り返し行なっている職員と、被害者の冒険者達に謝れ!」

 俺は同じ召喚者として、真面目に初代勇者の教えドッキリを受け継いで実践している職員達に、酷く申し訳無い気持ちで一杯だった。

「まぁ、職員の方も面白がってやっている奴もいるしな。本当は『大成功!』看板を出したところで、試験の緊張をほぐしてやるのが、元々の目的かもしれんな」

 意地悪そうな笑みを、キョウシロウは浮かべていた。

「私の時は、部署を次から次へと回された挙句に、今日の申請時間は終了しましたとか言われそうになったわね」

「たらい回しかよ……それで、エディスはどうしたんだ?」

「勿論、あなたと違って平和的に対処したわよ」

「……何したんだ?」

「『申請時間は、終了です』って言おうとしたから、言い切る前にをガッと掴んで聞いたのよ。『申請は、ここでいいのかしら?』って。そしたら、そこからは行儀良く申請してくれたわよ」

「アイアンクローで脅してやがるじゃねぇか!?それでいいのかよ!」

 俺がギルドマスターに、目を向けるとキョウシロウ頭を抑えていた。

「止めて……」

「は?」

「止めてぇええええええ!」

 キョウシロウがいきなり発狂した様に、叫び出すので驚いているとエディスが、さっと近づきキョウシロウの頭をガッと掴み、耳元に口を寄せて何かを呟くと、キョウシロウは先程の取り乱しっぷりが嘘の様に落ち着いた。しかし、彼の目は死んでいた。

「完全に、トラウマになってるじゃねぇか!? ギルドマスターが新人の頃に、どんな教育したんだよ!?」

「マスターも、差して変わらないと思いますよ?」

「……そんな事ないだろ?」

 俺は、嗤いながらライ以外に目を向けると、三人は完全な臨戦態勢を取った。

「ほら、すぐに鍛錬の準備にはいっただろ? トラウマなんて作る暇ないくらい追い込めば、条件反射の域まで達する」

「お前……鬼畜の域まで、達してやがるのか……」

 何故か、正気に戻ったキョウシロウが俺から離れ、俺を引いた目で見ていた気がするが、きっと気のせいだろう。

「ライ様、これが都合の悪いことは聞こえない事にする、難聴鈍感系ダメ男ですよ」

「うん、わかった」

 ライが着々とヤナビに教育されていく様を見ながら、危機感を募らせているとゴーンベ室長が話しかけてきた。

「改めて、先程は『大成功!』の為とはいえ、数々の暴言申し訳ございませんでした」

「ん? いいぞ、こっちも暴れて色々壊したから、おあいこだろ」

 俺は笑顔で、ゴーンベからの謝罪を受け入れた。


「話を聞いているとどっちかというと、主様に非がある様に思えますが?」

「アシェリ、そこは黙っておいてあげましょう。ヤナ様も、調子にのった事は分かっていたから、誰よりも積極的に作業してましたし」


「……そういえば! アヤメはどこ行ったんだ? 作業は黙々としてたけど、終わったと思ったら見かけないな」

「アイツは、気まぐれだからな。今日ここに来たもの偶々か、ここに来たら面白そうだと感じたからなのかは知らん。アイツがお前に向かっていく気配を感じたから、俺様が態々降りて来たわけだからな」

 どうやら、キョウシロウは最上階のギルドマスター室から、俺とアヤメが戦うことを気配で察知して、この建物が破壊される前に降りて来たらしい。

「そう言うわけだから、本来のAランクアップ試験はゴーンベ室長から詳細は聞いてくれ。それじゃ、ギルドマスター室に戻るぞ」

 キョウシロウは、その場から離れていったが、途中で立ち止まり振り返った。

「今度は、俺ともヤリあおう」

 キョウシロウは、先程までの表情とは打って変わって、完全に獲物を見る獰猛な目をしながら嗤っていた。

「壊しても、文句が出ない所で頼むぞ」

 俺も嗤い返しながら、そう言うとキョウシロウは黙って頷くと、今度は振り返らずに歩いて立ち去っていった。

「アイツも結局、完全に戦闘狂じゃねぇか」

 俺は、そんなキョウシロウが立ち去った方向を見ながら呟いた。

「マスター、何かいい雰囲気出そうとしてますけど、結局戦闘狂と鍛錬狂もどっちも変態脳筋ですからね」

 俺は、ヤナビ声をスルー無視し、意地でも良い雰囲気で突き通した。



 キョウシロウと別れた後、ゴーンベに案内され冒険者功績評価室の一室へと全員で入った。

「改めて、私はこの部署を束ねる室長のゴーンベと申します。今回のヤナ殿のAランクへのランクアップ試験については、私が担当します」

「室長自らが担当するのか?」

「はい、Aランクアップ試験は、『最終試験』となりますからね。室長自ら担当する事になっております」

 俺は、『最終試験』と言う言葉が、気になったものの先にAランクアップ試験の内容を聞く事にした。

「ヤナ殿のAランクアップ試験の内容は……」



 この試験の内容そのものが、俺を導くものだったのだろう


「最深最古迷宮デキスラニアの、最深到達階層の更新です」


 古き友だった者達との、再会とも言える出会いへと
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