要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

イチ力ハチ力

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第七章 悠久

怪物

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「なに!? アレ何ぃいい!?」

 私は、鬼に追われていた。

「アリス! もっと早く走るんだ! でないとぐぎゃあ!」

「コウヤ!」

 コウヤは、後ろから鬼が投擲してくる金棒に直撃し、倒れていた。

「あんたの犠牲は、無駄にしないわ! アレを食い止めて! 今のうちに、シラユキも行くわよ!」

「え!? あっ、そうね! コウヤ君、時間稼いでね!」

「二人とも酷い! ぎゃぁあ!」

「悪い子はいねぇがぁ」

「コウヤ……頑張って!」

 私はコウヤにエールを送り、ひたすら鬼から逃げるべく駆けるのであった。



 私達勇者は、鍛治師の村から王宮に戻り、その後レベル上げの為に迷宮都市国家デキスへと向かった。迷宮でレベルを上げたら、最後にドワーフの国へと行くらしい。

 特にデキス迷宮都市に向かう道中は、大きなトラブルもなく西都を抜けデキスへと辿り着いた。

 迷宮都市国家デキスには、この世界の最深最古迷宮デキスラニアがあると、ミレアさんから説明があり、そこで私達勇者は、レベル上げを行うそうだ。

 デキスへと向かう道中の馬車の中で、私は窓の外を眺めていた。

「はぁ……いつまで続くんだろ」

 そして私は、他の四人に聞こえないように小さく呟いた。



 私は、この世界に突然連れてこられ、更に魔王を倒さないと帰れないと告げられた時、心が殆ど折れていた。

 しかし幸運にも、同級生が他にも四人いた。その為、みんなの前でいつも作ってるキャラを演じる事で、なんとか持たせていた。


 私は、何時でも強気でへこたれない、負けないアリスだから


 それに、一緒にこの世界に来たヤナは、魔王を倒しても一人だけ元の世界に帰れないと言われていた。そして、彼はそれを笑って受け入れていた。


 私は、何故そんな状況で、あんなに強くなれるのかわからなかった。


 彼は、城でも『召喚されし勇者』では無いと言うことで、私達とは別場所で過ごしていた。この世界で生き残る為に、彼も城にいる間、鍛錬をしていたそうだ。ルイも途中で、彼と一緒に鍛えて貰っていた。

 ルイは、その期間本当に楽しそうだった。

 ルイは、城にいる時に中々レベルが上がらなかったのもあったけど、それ以上にきっと彼と一緒に頑張れると言うのが嬉しかったのだろう。

 ルイは、その時に彼のレベルについても言っていた。彼のレベルは私達に比べて上がるのが遅いらしい。しかも、かなりの無茶をしないと、レベルが上がらないという事だった。


 私は、彼と同じ状況だったら、絶対に人の喜びに自分が笑顔になれるなんて出来ない。


 彼が、私達と一緒に初めて訪れた迷宮を破壊した際に、入り口が閉じて出てこなかった時は、涙が止まらなかった。

 彼が無事に迷宮から脱出した時は、本当に格好良かった・・・・・・

 何でも無いように、泣いていた私達の元へと歩いてくる彼の姿は、私に勇気をくれた。

 照れ隠しに酷く当たってしまったけど、それは仕方ないと思う。私は喜んで、抱きつきに行くようなキャラ・・・じゃない。

 それでもつい城へと戻る際に、ヤナが引く馬車の窓から、馬車を必死に引く彼を見ながらそっと呟いてしまった。


『本当に…心配したんだからね…このバカ…』


 窓からの風で、私の涙は飛んで行った。そしてきっと私の呟きも、彼には届かず風が遠くへ飛ばして行っただろう。


 名前のせいかわからないが、私はよく色んな所へ迷い込んでしまう。

 最たる例が、今回の召喚だろう。

 ついに異世界にまで、迷いこんでしまった。

 子供の頃からあまりにも迷子になるので、家族で出かけた時は、目立つ目標を最初に教えられ、迷ったらそれを目指すように教わった。そして、毎回必死に探してくれる両親を心配させまいと、迷っている間は決して弱気な所は見せないようにした。


 私は、大丈夫だよ

 でもね、本当は早く迎えに来て欲しいの

 怖くて怖くて泣きそうなの

 でも、私は強い子だから大丈夫

 心配しないで、ちゃんと泣かずに待ってるから



「はぁはぁ、もうヤナの奴、調子に乗りすぎ! リアルであんなのに追われたら、怖すぎるわよ!」

 ヤナが鬼に変身・・し、迷宮の下層を目指しながら、後ろから『鬼ごっこ悪い子はいねがぁ』をされたのだ。

 合同訓練を始める前に、ヤナとシェンラちゃんの二人が、何やらコソコソと話をしながらルートを決めていた。

「途中で、完全モンスターハウスみたいな部屋とか、ワザとでしょアレ……」

 後ろからヤナに追われ、遅れるとヤナが鬼の金棒で襲ってきた。その上、モンスターハウスとしか言いようが無い迷宮ダンジョン魔物モンスターの巣みたいな部屋に追い込まれた。ヤナと迷宮ダンジョン魔物モンスターの両方から襲われた。

「一番凶悪なのは、ヤナハゲなんだけどね」

 私は苦笑しながら、周りが静かなことに違和感を感じた。



「あれ? シラユキは? それにコウヤの悲鳴が、いつの間にか聞こえない」

 私は、迷宮の罠を必死に避けながら、ヤナからシラユキと一緒に逃げていただった。

 周囲を見てみると、さっきまでの喧騒が嘘のように静まり返っていた。

「良い予感はしないわね……また、迷ったちゃった?」

 私は、最早『迷子』のスキルで持っているかのような状況に、落胆していた。

 どうしようかと考えていると、不意に背中が寒くなり、咄嗟に気配を隠し、寒気がする方とは反対側の通路の影に身を隠した。

「なによ……アレ……」

 私の目には、阿修羅にように何本も腕があり、それぞれに武器をもった全身鎧の魔物が写っていた。

 私は、姿を見た瞬間に全身がガタガタを震えだした。

「……嘘でしょ?……なによここ……まだ十階ぐらいまでしか潜ってないのに……」

 私は、あの阿修羅魔物を見た瞬間、自分が殺されるイメージしか湧いてこなかった。

 コウヤ達がいたら、きっとそうでもなかったかも知れない。

「一人じゃ無理だよ……怖いよぉ……ここは何処なの……」

 私は必死に周りの気配を探りながら、自分の気配を隠しながら手に持つ杖を構えていた。

「誰か……お願い……」



 ここは異世界

 迷子センターも

 目印もない

 最深最古の迷宮の中

 誰にも聞こえる筈がないのに

 私は呟かずにはいられなかった



 俺は、取り敢えず投擲した黒炎の金棒鬼の金棒に当たり、転がったコウヤをボコボコにしてから、再びシラユキとアリスを追いかけようと気配を探った。しかし、シラユキしか気配を感じる事が出来なかった。

「おいおい、アイツこんなに気配を消すの上手いのか? 全く分からんぞ」

 俺が、アリスの気配立ちを感心していると、シラユキが一人・・戻ってきた。

「どうした? 休憩したいのか?」

「ううん、ねぇ、アリス知らない? 一緒に走ってたのに、突然気配が消えたんだけど」

「は? あいつの気配を消すのが、上手いだけじゃないのか?」

「確かに上手なんだけど、流石に隣で走ってていきなり見失うほどじゃないわよ?」

 シラユキの言葉を聞いて、取り敢えずシェンラに呼出コールして、一旦鍛錬を取りやめ、お互いの班の一番近い部屋に集合した。

 俺とシェンラは鬼役となり、いつもと違う刺激を与えたかったので、アシェリ達はシェンラに任せ、俺は勇者達を追回しながら鍛錬をしていた悪い子はいねがぁのだ。ライとルイ、ミレアさんは回復要員として、お互いの鬼役の後ろを走ってついてきてもらっていた。

 因みにシェンラも通信魔法の友達個人登録をしており、鍛錬中もコンタクトを取れるようにしておいた。

「別に全員集めなくとも、お主がアリスに呼出コールしたら済むことじゃろ」

「単に気配を消してただけだったら、見つからなくて呼出コールしたら、俺が負けたみたいだろ?」

「……子供か!」

「うるせぇ! ロリに、子供って言われたくないわ!」

 俺がシェンラと騒いでいると、アシェリが話しかけてきた。

「主様、わたしでも周囲にアリス様の気配は感じません」

 気配を探ることが得意なアシェリも、訝しげな表情をしていた。

「ヤナビ、このフロアも地図作成マッピング終わってるか?」

 迷宮に入ると同時に火鼠ファイアマウスを使い、迷宮の地図を作成マッピングを任せておいたのだ。

「はい、次の十階層のボス部屋まで隅から隅まで作成済みです、マスター。しかし、何処にもアリス様のマークは表示されていません」

「は? 何処にも?」

「はい、何処にもいません」

 俺は、ヤナビの返答に少し考えた後、言葉を吐き出した。

「はぁ、これで隠れてただけだったら、へこむなぁ」

「どこまで負けず嫌いなのじゃ、お主は……」

 シェンラの言葉をスルー無視してアリスに『呼出コール』した。



 私が周囲の気配に気を張っていると、不意に頭の中に、私を呼ぶ声がした。

「なに!?……これは確かヤナの……『もしもし?』」

 私は、ヤナからの呼出コールにでた。

「『ヤナだ、アリス、お前はどこの不思議の国に、迷い込んだんだよ』」

 ヤナの軽口が頭の中に聞こえ、不思議と私の心は軽くなったのを感じた。

「『ちょっとウサギを追いかけたら、逸れちゃったのよ。早く、迎えに来なさいよ』」

 私は、いつも通りに強気でヤナの軽口に言い返した。



 本当は、怖くて怖くて泣きそうだったのに

 膝も震えていたのに

 必死に我慢してそう答えた



「『……そうか、なら心配ないな。通話を繋げておけ、すぐに・・・迎えに行ってやるからな』」

「『期待しないで、待っててあげるわ』

 私がそう答えると、ヤナは少し笑ってから、話し合うからちょっと待ってろと言うと、声が若干遠くなった感じがしたが、みんなの声も小さいが聞こえてきた。


 私は一人静かに、涙を流した。

 ヤナは鈍感だけど、変に鋭い。

 ヤナは、きっと私の声が震えている事に気付いたのだろう。

 私は、気付いて貰えた・・・事に気が緩んだのか、まだ通話がヤナと繋がっていることを忘れて呟いていた。


「『……怖いよ……』」


「『必ず見つける。絶対に迎えに行ってやるから、安心しろ』」


 私の呟きに、すぐさまヤナが力強く言葉を返してくれた。

「『……ヤナ……約束してくれる?』」

「『あぁ、約束する。不思議の国へと迷い込んだアリスを、ジャバウォックが迎えに行ってやるよ』」

 私はヤナの言葉に少し笑ってから、答えた。

「『なんで、怪物が迎えに来るのよ』」

「『俺より怖くて強い怪物ジャバウォックなんざ、この世界にはいないぞ?』」

「『ふふ……ならお願いね? 怪物ジャバウォックさん』」

「『任せろ。すべて蹴散らして、迎えに行ってやる』」



 アリスは待つ

 ジャバウォックが来てくれるのを
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