要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

イチ力ハチ力

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第七章 悠久

時間だよ

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「そもそも、その迷宮案内人ってのは、何なんだ?」

 俺とコウヤは話を切り上げ、喜んでいるアリスの元へと近づき『迷宮案内人』が何なのか尋ねた。

「ヤナ様、勇者様方の今回迷宮に潜る目的は、端的に言えばレベル上げです。その為に必要なのが、迷宮内の知識なのです」

 勇者達の従者騎士であるミレアさんが、喜んでいるアリスの代わりに説明をしてくれた。

「要は、効率良くレベル上げが出来そうな、階層や場所を知りたいって事か?」

「そう言う事ですね。勇者様も私もこの迷宮デキスラニアの最新の情報を持っていませんし、何より今の勇者様達にどれくらいの階層が程よいのかわかりません。しかし、恐らくかなり深層まで行く事になるでしょう。そうなると、迷宮に詳しく緊急の脱出の際に転移が使える術師が欲しかったのです」

「勇者達のここでの目的が、単純にレベル上げだとすればそうなるわな。だが、あいつシェンラって、案内出来るほど迷宮に詳しい上に、転移なんて出来るのか?」

 俺は、シェンラがそんな事が出来るのかと思いながら目を向けると、それはもう大いに調子に乗っていた。


「ふははは! 任せるのじゃ! 妾よりも迷宮に詳しい者は、迷宮のにはおらんのじゃ!」

「よ! シェンラちゃん! 流石!」
「シェンラちゃん! のじゃ! のじゃ!」


 アリスとルイに、シェンラは完全に乗せられていた。

 俺は、その様子を苦笑しながら見ていたシラユキの元へと近づき、事情を聞いてみた。

「何がどうなって、こうなったんだ?」

「あぁ、ヤナ君。シェンラちゃんと話しているうちに、私達すぐに仲良くなったの。それで話の中でアリスが、迷宮に詳しくて転移が使える人を探してるんだみたいな事を言ったのよ」

 どうやら、勇者達が迷宮案内人を探している事を聞いたシェンラが、自信満々で言い放ったらしい。


『ほほう、妾よりも迷宮のことをよく知り、転移も可能な者などにはおらぬのじゃ!』


「それを聞いたアリスとルイが、あんな感じでノリノリで持ち上げるもんだから、そのままシェンラちゃんが、『引き受けたのじゃ!』ってな感じで、この状況よ」

「……『引き受けたのじゃ!』って今、真似する必要あったか?」

「……」

「実は『のじゃ!』って、言ってみたかったり?」

「……シェンラちゃん、ありがとう!」

 シラユキは、大声でありがとうと叫びながら、シェンラの元へと駆け出した。

「耳まで赤くしながら、何してんだか……」

「むしろ何故マスターに、美少女の照れながらの『のじゃ!』が刺さらないのか、そっちの方が不思議です」

「あほか、刺さらない訳がないだろ」

 俺は苦笑しながら、小声でヤナビに答えた。

「そうだったんですか? その割に、神出鬼没隠蔽/隠密/偽装も使わずにポーカーフェイスでしたね、暇さえあれば、美女に見惚れるチョロターには珍しく」

「チョロターって何だよ……同じクラスの同級生に面と向かって照れたりしたら、恥ずかしいだろ?」

「……すみません、マスターの恥じらいの基準が理解できません」

「ふっ、まだまだスキルには難しい話だったか」

 ヤナビの修行不足をまだまだ感じながら、シェンラのドヤ顔を眺めているとアシェリ達が俺近くに近づいてきた。



「あなた、どうするの?」

「どうするって?」

「シェンラちゃん、勇者様達に預けるの?」

「預けるも何も、あいつはただの居候だからな。ちゃんと食い扶持を持てて良かったじゃないか」

 俺は、グータラと家でゴロゴロしている居候が、やっとやる気を出して働く光景を幻視した。そして生温かい目で、満足そうに高笑いしているシェンラを見ていた。

「それでは、主様は勇者様のように迷宮案内人を探されるのですか?」

「ん? 俺らは別にレベル上げをする訳じゃないから、必要ないだろ」

「でも、転移があると、もしもの時に離脱が出来ますよ?」

「もしもの時って、どんな時だとおもう?」

 俺は嗤いながら、アシェリに尋ねた。

「……それは勿論、強敵や罠などで危機に瀕した時とか……」

「うむ、危機な……それは、悲しい事なのか? それとも嬉しい事なのか?」

「……う…嬉しいです」

「だよな? もう一度聞くが、俺達に転移術師は必要か?」

「……必要ありません」

 俺はアシェリの答えを聞き、笑顔で頷いた。

「ライ様、今のをパワハラというのですよ」

「うん、ヤナが悪い顔してたね」

 ライが俺のすぐ横で、ヤナビから誤解を招くような事を教わっていた。

「ヤナ様、そしたらこれから早速迷宮へと行かれますか?」

「そうだなぁ、勇者様と別に一緒に行動する訳じゃないし、念のためもう少し食料なんかを買い込んで、昼から潜るか」

 俺はセアラにそう告げると、コウヤの所へ歩いて近づいた。



「コウヤ、俺達は昼まで迷宮に潜る準備をしたら、その後迷宮に挑戦するつもりだ」

「そうなんだね。そう言えば聞いてなかったけど、ヤナは何で迷宮に潜るの?」

「ん? 言ってなかったか、ここの迷宮の二百階層を突破して、Aランク冒険者になるためかな。Aランクへのランクアップ試験が、ここの迷宮の最深到達階層の更新なんだよ」

「え!? ヤナってAランク冒険者なの!?」

「だから、今回の試験で受かればな。まぁ、勿論受かるつもりだがな」

 俺は、そう嗤いながら答える。

「でも、二百階層なんて凄い時間かかるんじゃない? 行くのもそうだけど、帰るのも。いいの? シェンラちゃんは、ヤナの仲間じゃないの?」

「のじゃロリは、昨日空から降ってきた居候だよ。だから、気にするな。それにお前らこそ、レベル上げ何だから、迷宮に詳しい転移術師がいた方が良いだろう」

「まぁ、そうなんだけどね……でも、結局僕たちも自分で言うのも何だけど、結構強くなっているからレベル上げする所は結構深くなると思うんだよね」

 コウヤは、少し自信ありげに胸を張って俺を見た。その姿は、完全に褒めて褒めてとねだる犬のようで、きっとアシェリの様に尻尾があれば、ブンブンと振り回しているであろう姿を、幻視する程だ。

「くっ! 俺に、男の頭を撫でる趣味はない! 静まれ俺の右腕!」

「何してんの? そんな中二みたいな事して」

 俺が、思わずコウヤの頭を撫でようとしていた右腕を必死に沈めていると、コウヤに半眼で見られた。

「マスター……ここは異世界……自由なんですよ?」

「うるせぇ! そんな自由は求めていない!」

「だから、何の話をしてるのさ」

 俺が、悶絶しているとコウヤが少し考える素振りを見せた後に、提案をしてきた。

「ねぇ、一緒に迷宮内で行動しない?」

「あぁ? 言っとくが、俺達は結構・・急ぐぞ?」

「いいよ、どうせ僕達も時間はそんなにかけたくないしね。それに、久し振りに一緒に『冒険』したいじゃない? 同じ仲間・・なんだし」

 俺は、コウヤが『仲間』という部分を強調した事に、苦笑しながら考えた。

「だが、この人数が一度に行動するってのも、迷宮内だと厳しいしなぁ」

 俺達は五人組、勇者達はシェンラを加えると六人となる。全員で一緒に行こうと思うと、計十一人にもなってしまい、流石に迷宮内で共闘するという訳にも行かないだろう。

「なら、俺とシェンラは鬼をやって……ライは怖がるし回復職として後方で……それにルイがいれば、首さえ繋がってりゃ何とかなるだろうし……」

「えっと……ヤナ? 物凄い怖い呟きが聞こえてくるんだけど?」

 俺は、コウヤ達のレベル上げ鍛錬をしながら、更には迅速に深い階層へと移動方法に考えを巡らせた。そして、ライとルイがいるのであれば、無茶も出来るなと少しワクワクしてきた。

「ヤナ?……ひぃ!?」

「コウヤ、どうした? そんなに、俺から後ずさって、まるで怖がっているみたいだぞ?」

「マスター、怖がっているみたい・・・ではなくて、マスターの嗤い顔に怖がっているんだと思いますよ?」

 そんなことは無い筈だ。こんなに楽しそうな事を考えている俺の顔は、まさにライのごとく純粋な笑顔な筈だ。

 そして、俺は全員を一度その場に集め、コウヤから俺に是非・・一緒に鍛錬・・がしたいと申し出があり、それを了承したと伝えた。


「………僕は、悪くない……」
「今、あいつ鍛錬・・って言ってなかった?」
「レベル上げの事を言ってるのよね?」
「鍛錬……ヤナ君の言う鍛錬はレベル上げとは違う気がする……」


 珍しく、ルイまで若干引いている顔をしているが、城で散々鍛錬した中だからな、きっと武者震いというやつだろ。


「あぁ……ついに勇者様達にまで、鍛錬をこの人はする気なのね」
「心の癒しを気をつけないと……」
「ふふふ、仲間ですね」

「勇者のお姉ちゃん達も、泣いちゃう?」


 俺は、全員を見回しながら、ゆっくりと口を開いた。

「さぁ、勇者合同鍛錬だ」

「お主、相当悪い顔をしておるの」

 シェンラが呆れるような声で、俺を見ながら呟いた。

「ふふふ、シェンラも手伝って貰うがな」

「ふむ、なんじゃ? 面白いことなら手伝ってやらん事もないのじゃ。だが、妾は迷宮案内人という仕事があるからの、それでも良ければじゃがな!」

 シェンラは、居候と言われるのがいやらしく、迷宮案内人という仕事が出来ることに、絶壁な正面を思いっきり張って自慢気にしていた。

「迷宮案内人って何するか、詳しく知っているか?」

「ん? まだ聞いておらぬが、迷宮の事を教えたらいいのじゃろ?」

「そんなんだよ、だからな……」

「ふむ……ほほう……変わった所を通りたいのだな……」

 俺は、皆から少し離れて、小声でシェンラと打ち合わせをした。



 そして、昼過ぎまで一緒に買出しやら準備を進め、昼飯を食べた後に迷宮の入り口で再び集合した。

「全員、迷宮カードは用意してあるな」

 俺が、引率の先生ばりに準備を確認すると全員から、返事が返ってきた。

「それでは、本日今この瞬間より、迷宮内勇者合同鍛錬を開始する!」

「「「はぁい」」」

「返事が小さい! そんなことじゃ死ぬぞ!」

 俺が気合をいれると勇者達から「え!? 死ぬの!?」という声が、聞こえた気がしたが気のせいだろう。


「さぁ、楽しい楽しい鍛錬の時間だよ」


 当代の召喚者と巫女が全員揃い踏み、最深最古迷宮へと向かうのであった。



『はい? 道を教えろ? もぉ……すぐ調子に乗るんだから、シェンラは』

 そして、最奥では誰かの呆れるような声が、静かに広がるのであった。
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