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第七章 悠久
息吹
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「ぐぅおおおお! 押されるなぁああ! 気合入れろぉおお!」
「のじゃぁあああ!」
「逆に気合が萎えるわ!」
「のじゃ!?」
俺とシェンラは、キリュウと瘴気狂煉獄竜が放った『煉獄瘴気巨巌塊』を、真っ向から受け止めていた。
「ぐぅうう……奴の瘴気と炎は、神火の装備で問題ないが……単純な質量がシンプルに辛いな……うぉおおお!」
全身に神火を形状変化させて全身鎧として纏っている為、俺とシェンラに瘴気と業火は然程効いていない。しかし、瘴気狂煉獄竜がブレスとして吐き出した学校校舎にも匹敵する大きさの岩塊が、ジリジリと俺たちを街へと押していた。
「……ぐぬぅうう……がはっ……くっ、傷が更に深く開き初めよったのじゃ……」
シェンラは、苦悶に満ちた声をあげていた。
「心配するな……俺もさっきから背中の傷が開きまくってる……」
「……心配しかないんじゃが?」
最初に単身でキリュウ達に向かって行った際、戦略的撤退時にシェンラとぶつかり一緒に落下した。シェンラを庇い街の頑強な建物を幾つも貫きながら落下した為、背中に傷を負ったのだった。そして先ほどの戦闘に加え、今の状況がダメ押しとなり、傷が派手に開いて流血していた。
「もう少し……もう少しシェンラが、死にかけたら……いいな」
「……お主は……妾が死にかけようとしているのに……何故そんなに楽しそうに嗤っておるのじゃ……」
俺は、今からの事を考えるとワクワクが止まらなかった。何事も初めての試みというのは、心が高揚するものである。
「初めてって……気分が上がるよな」
「……お主が言うと、色気が全く無い代わりに、狂気を感じるのは何故じゃろうな?」
そして、俺たちは更にその場で耐えていると、不意に上空に更にもう一つの気配を感じた。
「おいおいおい……ぐぅう……マジかよ」
「確かに一つだけとは……ぬぅう……言っていなかったのじゃ」
キリュウと瘴気狂煉獄竜が、もう一つ同じ『煉獄瘴気巨巌塊』を落としてきていた。
「落ちるこコースは……やっぱりそう来るよな! うぉおおおおお!」
「ぐぎぃいいい! 重いぃいいいのじゃぁああ!」
轟音と共に一気に俺たちは、街へと押されて落ちていきそうになった。串団子の様に一個目の『煉獄瘴気巨巌塊』の後ろに二個目の『煉獄瘴気巨巌塊』が連なり、俺たちを押していたのだ。
「ぐぅう! そろそろどうだ! シェンラ! 死にそうか!」
「嬉しそうに言うんじゃないのじゃ!……ぐぎぃいい!……もう……限界なのじゃ……」
「よぉおし! 待ってましたぁああ! 行くぞ! 『接続』『接続対象:シェンラ』! シェンラ『接続許可』だ! 死ぬ前に早よ!」
「古代竜の扱いが雑なのじゃぁああ!」
「いいから早く『接続許可』しろぉおお!」
「『接続許可』なのじゃ!」
シェンラに出した『接続申請』が『許可』された瞬間、アリスの時の様になるかと警戒したが、シェンラから膨大な情報は流れ込んでくる事はなかった。
「ぐっ……これは……」
「どうなのじゃ? 恐らく今のところは、妾の記憶などは流れて行っておらぬと思うのじゃが」
「あぁ……記憶なんかの情報は……大丈夫だ……」
「どうしたのじゃ? 何を泣いているのじゃ?」
「気に……するな……これからが本番だぞ!」
俺は頬を伝う涙をそのままに、次の段階へと移行する。
「さぁ、ヤナビ以外に使うのは初めてだが、上手くいってくれよ」
俺は、『接続』を使用中に限り、発動する事が出来るスキルの名を口にした。
「『同調』『対象:起死回生』」
『同調』は、俺のスキルを『接続』中の相手に使用させる事が出来るスキルだった。ただし、スキルを獲得した際にヤナビで試したが、俺の熟練度が低いのかレベルが低いのか『同調』によって、相手に使用させる事が出来たスキルは単体でのみだった。複数同時に同じスキルを使用する事は出来なかった為、これまでヤナビに最初の一回で効果を確認した時以外は、使用していなかった。
そもそもヤナビは『同調』を使用しなくても、俺のスキルを勝手に使用できた。その為、『形状変化』で身体の形状を変えられるのは厄介だが、それに目を瞑れば、まさにヤナビは俺の分身と言え、『同調』を使う必要がなかった。
その結果、これまで『対象』をヤナビ以外とする事がなかったため、『同調』は完全に"死にスキル"となっていた。
しかし、迷宮でシェンラが誰かと念話らしき行動を取っていたのを思い出し、念話を使いこなしている上に、古代竜なら、精密な『魔力制御』は出来るだろうと確認したら、案の定出来ると答えが帰ってきた。
瘴気狂煉獄竜を操るキリュウを討つ為には、シェンラと俺が、お互いの力を合わさないと無理だと感じていた。そして、俺だけではなくシェンラも、力を取り戻すだけではなく、より力を増す必要があった。
「なんじゃ……"起死回生"じゃと……力が……これは……」
「さぁ、先ずはこのクソまずい腐った団子を、作った奴に返品するとしようか」
俺は自分自身にも起死回生を発動させながら、シェンラに笑いかける。
「ふふ……ふははは! 身体が傷つき死がそこまで来ておるというのに、逆にこれまでで一番力が漲るとは、面白いこともあるのじゃ! さすれば、生意気にも妾達を見下ろす者達に目にもの見せてくれのじゃ! 『天空の覇者』此処に在りじゃ!」
シェンラがやる気に満ちた咆哮を上げ、大きく息を吸い込んだ。
「魔力が異常に高まっているが……これが古代竜の力か」
『同調』による起死回生で、魔力も倍増しているとは言え、シェンラが体内で高め続ける魔力量は尋常ではなかった。これまで感じた事の無いほどの膨大な魔力が、徐々にシェンラの大きく開けた顎門へと収束していった。
「一体、何を……」
「これが『天竜王の息吹』と言うものじゃ!」
俺は、シェンラの顎門へと収束した魔力の塊の余りに純粋な竜の魔力に、畏怖の念さえ覚えた。そしてシェンラは、高濃度に収束させた魔力の塊を自分のブレスと融合させて、撃ち放った。
「中々しぶとく堪えておるな。流石は、ケンシーを葬った男と、傷付いていても古代竜『天空の覇者』か。だが、古代竜は竜殺しの武器で深傷を負っている。時間の問題だな」
キリュウは瘴気狂煉獄竜の上から、街の上で未だ二つ連なる『煉獄瘴気巨巌塊』を受け止めている二人を見下ろしていた。
「さて、そろそろ三発目のブレスの準備が出来そうだな。今回の手は流石に、二度とは使えまい。確実に迷宮諸共、この街を滅ぼしてしまわねばな」
ケンシー達に、悪神は『欺きの邪法』を与えていた。悪神は日に日に世界を侵食する瘴気から力を取り戻しており、封印されている神域からでも、魔族に力を与えられる様になっていた。
『欺きの邪法』を悪神より授かったキリュウは、自分の配下の魔族に『欺きの邪法』により瘴気の質を変質させ、元々魔族が持つ瘴気を完全に隠蔽した。姿も冒険者に見える様に偽装し、迷宮都市国家デキスへと侵入させたのだ。
迷宮内では、空間侵食スキルをもつ名持ち魔族が、迷宮内の空間を侵食し、最下層付近へと空間を繋げ、それを更に『欺きの邪法』により隠蔽していた。本来なら、見つかるはずがなかったが、アリスの特技により隠蔽していた空間の穴の存在が、迷宮核である迷宮妖精女王デキスラニアに知られてしまった。
現在もデキスラニアは魔族による空間侵食の痕跡を分析し、迷宮に元々備わっていた『空間侵食耐性』が『空間侵食無効』のスキルへと能力進化しようとしていた。
更に、ヤナ達の姿を目の当たりにし、再び心に火を灯した『破邪』ユーフュリアは、自分の障壁を無効にした瘴気の解析にかかっていた。未だ瘴気纏い火竜から問題の瘴気が立ち上っている為、そのいつもと違う瘴気を自身の持つ『破邪』の能力へと組み込んでいき、次に同じ方法で欺かれない様にしようとしていた。
「やっと、あの忌々しい『破邪』と、ヒトを"強く鍛える"迷宮を葬る事ができる」
キリュウは、醜悪な笑みを浮かべながら瘴気狂煉獄竜に三発目の『煉獄瘴気巨巌塊』を吐き出させようとした。
「そろそろ、トドメを……なんだ? この異常な魔力の収束は! まずい! 瘴気狂煉獄竜! 早く……」
キリュウが魔力の収束に気付いた瞬間、『煉獄瘴気巨巌塊』を完全に包み込ながら光の奔流が、キリュウと瘴気狂煉獄竜を包み込んだ。
「『天竜王の息吹』……凄まじいな……」
シェンラの放った『天竜王の息吹』は、『煉獄瘴気巨巌塊』を完全に包み込む程の巨大な光のブレスだった。シェンラが放った瞬間に、目の前の『煉獄瘴気巨巌塊』は、その光のブレスにより消滅していき、そのまま上空で高みの見物をしていたキリュウと瘴気狂煉獄竜まで包み込んだ。
「なに、お主との『同調』による起死回生のお蔭なのじゃ。妾もこれほどの『天竜王の息吹』は放ったことなど一度としてないのじゃ」
シェンラは恐らく幼女形態なら、絶壁な正面を存分に張っていただろうという程に、一際興奮している様子だった。
「まぁ、それだけシェンラの状態が危機的ってことなんだがな……お、彼方さんが此方に堕ちて来てきたぞ?」
「誠に、魔族はしぶといのぉ」
シェンラは、若干『天竜王の息吹』で仕留めきれなかったのを、悔しそうにしていた。
「そっちから、わざわざ来てくれるとはご苦労だったな。それに中々素敵な格好で、カッコ良くなったな」
俺は、『天竜王の息吹』で身体中をボロボロに傷付いているキリュウに対し、にこやかな嗤い顔を向けていた。
「ぐぅう……貴様ら何をした……」
「言うと思うのか? そっちこそ、騎竜の癖に竜はどうした? まぁ、大方肉壁に使ったんだろ? かわいそうに、無能な竜騎士が主人で浮かばれねぇな」
「我が無能だと?……キサマァぁああああ! 『瘴気狂』! グルァアアアア!」
俺が軽く煽るだけで、キリュウは激昂しケンシーと同じく『瘴気狂』と叫ぶなり、俺しか見えていないような狂化状態となろうとしていた。
「態と煽ったのかの?」
「あぁ、以前にこいつと同格の魔族とやりあってな。悪神の奴がこいつらレベルの肉体を使えば、短時間でも顕現出来るとわかっている。完全に此処で仕留めておきたいからな」
此処で一旦引かれると、悪神が顕現する事が出来る程の魔族を野放しにする事になる。そちらの方が厄介ごとになる事が目に見えている。
「じゃが、アレは相当ヤバそうじゃの」
キリュウはケンシー同様に『瘴気狂』により身体こそ変身はしていないが、瘴気が身体から溢れ出し、身体の周りに渦巻いていていた。
「あぁ、以前に同じようなやつとやった時は、全力で且つ『六倍掛け』をしないと圧倒出来なかった相手だ。しかも、戦いが長引けば街が尋常じゃない程に壊れるだろうな」
「ならどうするのじゃ? お主は傷ついていると言っても、妾程の傷を負っては居らぬのじゃろ。妾がその身を切り裂いてやるのか? 手加減出来る気はせんがの」
シェンラは、俺がアリスを助けた時に使用した『死中求活』の事を言っているのだろう。確かに、現在も重症ではあるが瀕死程傷付いてはいない俺は、死中求活を発動することは、今のままでは出来ない。
「心配するな。その為に、シェンラが死にかけになるまで待ったんだ」
「何気に、酷い事を言っている自覚はあるのかの?」
シェンラの避難の声をスルーして、俺は言葉を発する。
「『状態同調』……ぐぅう……来た来た来たぁああ!シェンラの傷が俺にも……来たぁあああ!」
『状態同調』は、単なる『同調』と異なり相手の身体の状態まで自身と、『同調』するスキルであり、これによりシェンラの受けている傷が俺にも刻まれていく。
「相手と同じ傷を自身にも『同調』させるスキルとは……妾は、刻まれる傷が増える度に、嬉しそうに嗤うお主にドン引きじゃがな」
シェンラの言葉を再度スルーし、精神を集中する。
「『死中求活』『制限覚醒』『無念無想』『神成り』『捲土重来』『双子』『三重』『天下無敵』」
そして、俺とシェンラが纏っていた神火の装備が『創世の火』に切り替わる。
「シェンラは差し詰め『神竜』と言った所か?」
俺と同じく『創世の火』を纏うシェンラは、荘厳な神の竜と言える程の存在感だった。
「ふふふ、妾が『神竜』なのであれば、お主は『神竜騎士』なのじゃな」
「なんの捻りもないが、悪くない」
そして、完全に瘴気に狂い正気を失っているキリュウが、俺たちに向かって咆哮を上げた。
「うるせぇよ、黙って逝け」
『竜が眠り女神が護る地』
迷宮都市国家デキスの在る地は嘗てそう呼ばれていた
この日を境にそれが変わる
『神竜が空を駆け、女神が護る地』
人々は空を見上げる
その目に
その心に
その姿を刻み込む
神竜とその背に乗る神竜騎士が空を駆けるその様を
この世界に降り注ぐ悪意と絶望に
咆哮を上げる様を
一筋の光の線が悪意を両断し
神竜の息吹が悪意を呑み込む
空には全てを包み込むような青が広がり
一瞬の静寂の後
街は歓声に包まれた
「のじゃぁあああ!」
「逆に気合が萎えるわ!」
「のじゃ!?」
俺とシェンラは、キリュウと瘴気狂煉獄竜が放った『煉獄瘴気巨巌塊』を、真っ向から受け止めていた。
「ぐぅうう……奴の瘴気と炎は、神火の装備で問題ないが……単純な質量がシンプルに辛いな……うぉおおお!」
全身に神火を形状変化させて全身鎧として纏っている為、俺とシェンラに瘴気と業火は然程効いていない。しかし、瘴気狂煉獄竜がブレスとして吐き出した学校校舎にも匹敵する大きさの岩塊が、ジリジリと俺たちを街へと押していた。
「……ぐぬぅうう……がはっ……くっ、傷が更に深く開き初めよったのじゃ……」
シェンラは、苦悶に満ちた声をあげていた。
「心配するな……俺もさっきから背中の傷が開きまくってる……」
「……心配しかないんじゃが?」
最初に単身でキリュウ達に向かって行った際、戦略的撤退時にシェンラとぶつかり一緒に落下した。シェンラを庇い街の頑強な建物を幾つも貫きながら落下した為、背中に傷を負ったのだった。そして先ほどの戦闘に加え、今の状況がダメ押しとなり、傷が派手に開いて流血していた。
「もう少し……もう少しシェンラが、死にかけたら……いいな」
「……お主は……妾が死にかけようとしているのに……何故そんなに楽しそうに嗤っておるのじゃ……」
俺は、今からの事を考えるとワクワクが止まらなかった。何事も初めての試みというのは、心が高揚するものである。
「初めてって……気分が上がるよな」
「……お主が言うと、色気が全く無い代わりに、狂気を感じるのは何故じゃろうな?」
そして、俺たちは更にその場で耐えていると、不意に上空に更にもう一つの気配を感じた。
「おいおいおい……ぐぅう……マジかよ」
「確かに一つだけとは……ぬぅう……言っていなかったのじゃ」
キリュウと瘴気狂煉獄竜が、もう一つ同じ『煉獄瘴気巨巌塊』を落としてきていた。
「落ちるこコースは……やっぱりそう来るよな! うぉおおおおお!」
「ぐぎぃいいい! 重いぃいいいのじゃぁああ!」
轟音と共に一気に俺たちは、街へと押されて落ちていきそうになった。串団子の様に一個目の『煉獄瘴気巨巌塊』の後ろに二個目の『煉獄瘴気巨巌塊』が連なり、俺たちを押していたのだ。
「ぐぅう! そろそろどうだ! シェンラ! 死にそうか!」
「嬉しそうに言うんじゃないのじゃ!……ぐぎぃいい!……もう……限界なのじゃ……」
「よぉおし! 待ってましたぁああ! 行くぞ! 『接続』『接続対象:シェンラ』! シェンラ『接続許可』だ! 死ぬ前に早よ!」
「古代竜の扱いが雑なのじゃぁああ!」
「いいから早く『接続許可』しろぉおお!」
「『接続許可』なのじゃ!」
シェンラに出した『接続申請』が『許可』された瞬間、アリスの時の様になるかと警戒したが、シェンラから膨大な情報は流れ込んでくる事はなかった。
「ぐっ……これは……」
「どうなのじゃ? 恐らく今のところは、妾の記憶などは流れて行っておらぬと思うのじゃが」
「あぁ……記憶なんかの情報は……大丈夫だ……」
「どうしたのじゃ? 何を泣いているのじゃ?」
「気に……するな……これからが本番だぞ!」
俺は頬を伝う涙をそのままに、次の段階へと移行する。
「さぁ、ヤナビ以外に使うのは初めてだが、上手くいってくれよ」
俺は、『接続』を使用中に限り、発動する事が出来るスキルの名を口にした。
「『同調』『対象:起死回生』」
『同調』は、俺のスキルを『接続』中の相手に使用させる事が出来るスキルだった。ただし、スキルを獲得した際にヤナビで試したが、俺の熟練度が低いのかレベルが低いのか『同調』によって、相手に使用させる事が出来たスキルは単体でのみだった。複数同時に同じスキルを使用する事は出来なかった為、これまでヤナビに最初の一回で効果を確認した時以外は、使用していなかった。
そもそもヤナビは『同調』を使用しなくても、俺のスキルを勝手に使用できた。その為、『形状変化』で身体の形状を変えられるのは厄介だが、それに目を瞑れば、まさにヤナビは俺の分身と言え、『同調』を使う必要がなかった。
その結果、これまで『対象』をヤナビ以外とする事がなかったため、『同調』は完全に"死にスキル"となっていた。
しかし、迷宮でシェンラが誰かと念話らしき行動を取っていたのを思い出し、念話を使いこなしている上に、古代竜なら、精密な『魔力制御』は出来るだろうと確認したら、案の定出来ると答えが帰ってきた。
瘴気狂煉獄竜を操るキリュウを討つ為には、シェンラと俺が、お互いの力を合わさないと無理だと感じていた。そして、俺だけではなくシェンラも、力を取り戻すだけではなく、より力を増す必要があった。
「なんじゃ……"起死回生"じゃと……力が……これは……」
「さぁ、先ずはこのクソまずい腐った団子を、作った奴に返品するとしようか」
俺は自分自身にも起死回生を発動させながら、シェンラに笑いかける。
「ふふ……ふははは! 身体が傷つき死がそこまで来ておるというのに、逆にこれまでで一番力が漲るとは、面白いこともあるのじゃ! さすれば、生意気にも妾達を見下ろす者達に目にもの見せてくれのじゃ! 『天空の覇者』此処に在りじゃ!」
シェンラがやる気に満ちた咆哮を上げ、大きく息を吸い込んだ。
「魔力が異常に高まっているが……これが古代竜の力か」
『同調』による起死回生で、魔力も倍増しているとは言え、シェンラが体内で高め続ける魔力量は尋常ではなかった。これまで感じた事の無いほどの膨大な魔力が、徐々にシェンラの大きく開けた顎門へと収束していった。
「一体、何を……」
「これが『天竜王の息吹』と言うものじゃ!」
俺は、シェンラの顎門へと収束した魔力の塊の余りに純粋な竜の魔力に、畏怖の念さえ覚えた。そしてシェンラは、高濃度に収束させた魔力の塊を自分のブレスと融合させて、撃ち放った。
「中々しぶとく堪えておるな。流石は、ケンシーを葬った男と、傷付いていても古代竜『天空の覇者』か。だが、古代竜は竜殺しの武器で深傷を負っている。時間の問題だな」
キリュウは瘴気狂煉獄竜の上から、街の上で未だ二つ連なる『煉獄瘴気巨巌塊』を受け止めている二人を見下ろしていた。
「さて、そろそろ三発目のブレスの準備が出来そうだな。今回の手は流石に、二度とは使えまい。確実に迷宮諸共、この街を滅ぼしてしまわねばな」
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『欺きの邪法』を悪神より授かったキリュウは、自分の配下の魔族に『欺きの邪法』により瘴気の質を変質させ、元々魔族が持つ瘴気を完全に隠蔽した。姿も冒険者に見える様に偽装し、迷宮都市国家デキスへと侵入させたのだ。
迷宮内では、空間侵食スキルをもつ名持ち魔族が、迷宮内の空間を侵食し、最下層付近へと空間を繋げ、それを更に『欺きの邪法』により隠蔽していた。本来なら、見つかるはずがなかったが、アリスの特技により隠蔽していた空間の穴の存在が、迷宮核である迷宮妖精女王デキスラニアに知られてしまった。
現在もデキスラニアは魔族による空間侵食の痕跡を分析し、迷宮に元々備わっていた『空間侵食耐性』が『空間侵食無効』のスキルへと能力進化しようとしていた。
更に、ヤナ達の姿を目の当たりにし、再び心に火を灯した『破邪』ユーフュリアは、自分の障壁を無効にした瘴気の解析にかかっていた。未だ瘴気纏い火竜から問題の瘴気が立ち上っている為、そのいつもと違う瘴気を自身の持つ『破邪』の能力へと組み込んでいき、次に同じ方法で欺かれない様にしようとしていた。
「やっと、あの忌々しい『破邪』と、ヒトを"強く鍛える"迷宮を葬る事ができる」
キリュウは、醜悪な笑みを浮かべながら瘴気狂煉獄竜に三発目の『煉獄瘴気巨巌塊』を吐き出させようとした。
「そろそろ、トドメを……なんだ? この異常な魔力の収束は! まずい! 瘴気狂煉獄竜! 早く……」
キリュウが魔力の収束に気付いた瞬間、『煉獄瘴気巨巌塊』を完全に包み込ながら光の奔流が、キリュウと瘴気狂煉獄竜を包み込んだ。
「『天竜王の息吹』……凄まじいな……」
シェンラの放った『天竜王の息吹』は、『煉獄瘴気巨巌塊』を完全に包み込む程の巨大な光のブレスだった。シェンラが放った瞬間に、目の前の『煉獄瘴気巨巌塊』は、その光のブレスにより消滅していき、そのまま上空で高みの見物をしていたキリュウと瘴気狂煉獄竜まで包み込んだ。
「なに、お主との『同調』による起死回生のお蔭なのじゃ。妾もこれほどの『天竜王の息吹』は放ったことなど一度としてないのじゃ」
シェンラは恐らく幼女形態なら、絶壁な正面を存分に張っていただろうという程に、一際興奮している様子だった。
「まぁ、それだけシェンラの状態が危機的ってことなんだがな……お、彼方さんが此方に堕ちて来てきたぞ?」
「誠に、魔族はしぶといのぉ」
シェンラは、若干『天竜王の息吹』で仕留めきれなかったのを、悔しそうにしていた。
「そっちから、わざわざ来てくれるとはご苦労だったな。それに中々素敵な格好で、カッコ良くなったな」
俺は、『天竜王の息吹』で身体中をボロボロに傷付いているキリュウに対し、にこやかな嗤い顔を向けていた。
「ぐぅう……貴様ら何をした……」
「言うと思うのか? そっちこそ、騎竜の癖に竜はどうした? まぁ、大方肉壁に使ったんだろ? かわいそうに、無能な竜騎士が主人で浮かばれねぇな」
「我が無能だと?……キサマァぁああああ! 『瘴気狂』! グルァアアアア!」
俺が軽く煽るだけで、キリュウは激昂しケンシーと同じく『瘴気狂』と叫ぶなり、俺しか見えていないような狂化状態となろうとしていた。
「態と煽ったのかの?」
「あぁ、以前にこいつと同格の魔族とやりあってな。悪神の奴がこいつらレベルの肉体を使えば、短時間でも顕現出来るとわかっている。完全に此処で仕留めておきたいからな」
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「あぁ、以前に同じようなやつとやった時は、全力で且つ『六倍掛け』をしないと圧倒出来なかった相手だ。しかも、戦いが長引けば街が尋常じゃない程に壊れるだろうな」
「ならどうするのじゃ? お主は傷ついていると言っても、妾程の傷を負っては居らぬのじゃろ。妾がその身を切り裂いてやるのか? 手加減出来る気はせんがの」
シェンラは、俺がアリスを助けた時に使用した『死中求活』の事を言っているのだろう。確かに、現在も重症ではあるが瀕死程傷付いてはいない俺は、死中求活を発動することは、今のままでは出来ない。
「心配するな。その為に、シェンラが死にかけになるまで待ったんだ」
「何気に、酷い事を言っている自覚はあるのかの?」
シェンラの避難の声をスルーして、俺は言葉を発する。
「『状態同調』……ぐぅう……来た来た来たぁああ!シェンラの傷が俺にも……来たぁあああ!」
『状態同調』は、単なる『同調』と異なり相手の身体の状態まで自身と、『同調』するスキルであり、これによりシェンラの受けている傷が俺にも刻まれていく。
「相手と同じ傷を自身にも『同調』させるスキルとは……妾は、刻まれる傷が増える度に、嬉しそうに嗤うお主にドン引きじゃがな」
シェンラの言葉を再度スルーし、精神を集中する。
「『死中求活』『制限覚醒』『無念無想』『神成り』『捲土重来』『双子』『三重』『天下無敵』」
そして、俺とシェンラが纏っていた神火の装備が『創世の火』に切り替わる。
「シェンラは差し詰め『神竜』と言った所か?」
俺と同じく『創世の火』を纏うシェンラは、荘厳な神の竜と言える程の存在感だった。
「ふふふ、妾が『神竜』なのであれば、お主は『神竜騎士』なのじゃな」
「なんの捻りもないが、悪くない」
そして、完全に瘴気に狂い正気を失っているキリュウが、俺たちに向かって咆哮を上げた。
「うるせぇよ、黙って逝け」
『竜が眠り女神が護る地』
迷宮都市国家デキスの在る地は嘗てそう呼ばれていた
この日を境にそれが変わる
『神竜が空を駆け、女神が護る地』
人々は空を見上げる
その目に
その心に
その姿を刻み込む
神竜とその背に乗る神竜騎士が空を駆けるその様を
この世界に降り注ぐ悪意と絶望に
咆哮を上げる様を
一筋の光の線が悪意を両断し
神竜の息吹が悪意を呑み込む
空には全てを包み込むような青が広がり
一瞬の静寂の後
街は歓声に包まれた
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