要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

イチ力ハチ力

文字の大きさ
160 / 165
第七章 悠久

約束

しおりを挟む
「ヤナよ、聞きたいことがあるのじゃが」

「どうした?」

「お主は、何故泣いておったのじゃ」

「そんな事あったか?」

「妾と『同調シンクロ』した直後に、涙を流しておったのじゃ」

「……あぁ、確かにそんな事もあったなぁ」

俺は、真っ青な空を見上げていた。



『瘴気狂』キリュウに対して、俺とシェンラは『創世始まりの火』を纏い『神竜騎士』と『神竜』と成り、相対した。

死中求活死地覚醒』により能力を全開放している俺と、『同調シンクロ』により発動していた起死回生窮地:能力倍増が、捲土重来死地能力累乗増加切り替ってチェンジしているシェンラは、『瘴気狂』キリュウを文字通り圧倒した。

 神速とも呼べる速度で空を駆けるシェンラは、飛行機が雲を引くように創世始まりの火を煌めかせていた。

同調シンクロ』から伝わってくるシェンラの感情は、正に喜びに満ちていた。これまで体験した事ないような飛び方をしている為なのか、敵を全く寄せ付けず圧倒している為なのか、俺と共にいる為なのか。

 そして、俺とシェンラに追い詰められたキリュウが両手を合わせ、瘴気を凝縮するような動作をし始め、意識が街の方へ一瞬向かったのが分かった。

 何かをキリュウが起こす前に、俺は『天叢雲アメノムラクモ』と『塵地螺鈿チリジラデン』を振り抜き、キリュウごと空を水平に割った。

 腹から真っ二つになったキリュウだが、最後の足掻きとして凝縮した瘴気の塊を街へと投げ落とそうとした。それに対して、シェンラが凝縮した瘴気の塊ごとキリュウに対し、再び『天竜王の真なる息吹ドラゴンブレス』を放った。

 シェンラの光の息吹ブレスが消え去ると、そこにはもう何処までも広がるような青い空しかなかった。

 そして、静寂が訪れた後、割れんばかり歓声が街から上がったのだ。

 シェンラはその歓声を聞くと、誇らしげに咆哮した。

 俺は、その咆哮を聞いて笑ったのだ。

 俺が笑っている事に気付いたシェンラは、街には降りずに空へと上昇し始めた。

 死中求活死地覚醒の発動がそのうち切れる為、無理するなと伝えたが無言でシェンラは上昇し続けた。



「まだ『同調シンクロ』は切っておらぬのじゃろ?」

「あぁ、今『同調シンクロ』を切ると、シェンラに発動している捲土重来死地能力累乗増加も切れるからな。今のシェンラの状態だと、スキルが切れると上昇は出来んぞ」

 シェンラはぐんぐんと空に向かって上昇しているが、それは未だ捲土重来死地能力累乗増加が発動している為だった。元々のシェンラの状態は、既にボロボロで飛べる状態ではなかったのだ。回復魔法も回復薬も受付けない竜殺しの武器ドラゴンスレイヤーで受けた傷は、更に煉獄瘴気巨巌塊巨大な燃える岩塊を受け止めた事により一層深く開いていた。

 俺は何故、シェンラが上昇しているのかを聞かなかった。

 シェンラが意識しているのか、それとも傷で意識が朦朧としてきているのか、かつてのシェンラの記憶が想いと共に俺へと『同調シンクロ』を介して流れ込んできていた。

 流れ混んでくる記憶は、かつての友と大空を駆けた記憶のみだった。その為、俺の頭でも十分対応する事ができる量の情報量だった。

「そろそろかの……ここが、最もこの世界で高い場所なのじゃ」

「凄いな……」

 俺はシェンラの背から見たこの世界に、圧倒された。

 川や森、山が雄大に大地を彩る様を見ながら、俺たちの周りには風の音しか存在しない。

 そして、俺がこの景色に感動していると、再び俺の目から涙が溢れ出す。

「先ほども聞いたが、今も何故お主は涙を流しておるのじゃ」

「なんでだろうな……そんな日もあるって言うのじゃダメか?」

 俺は、広がる空を見上げ、流れる涙を止めようともせず、拭う事もせずに、好きなだけ泣かせてやった。

「お主は、優しいのじゃな」

「そうでもないさ、好きにやってるだけだよ」

 俺は、涙を頬に伝えながらこちらに顔を向けたシェンラに、笑いながら答えた。

「妾のかつての記憶が、お主に流れ込んだのじゃろ?」

「ワザとだったのか?」

「そうではないのじゃ、お主を背に乗せこの景色を見ようと決めた瞬間から、妾の中のその記憶が……勝手に溢れ出てしまうのじゃ」

 シェンラは、少し声を震わせながらも真っ直ぐ前を見ながら、大きく翼を広げゆっくりと空を飛んでいた。

「そうか、そうだよな。初代召喚者か……だからシェンラは、俺の・・世界の言葉を知っていたんだな」

「そうなのじゃ……一緒に色々旅をしている中で、あの人は楽しそうに元の世界の事を話してくれたのじゃ」

 シェンラは、少し上を見上げながらも、寂しげに初代召喚者との話を俺に聞かせた。



 出会いを

 旅を

 戦いを

 別れを


 かつての約束を



 シェンラと同調シンクロした際に、シェンラの感情が流れ込んできた。恐らく、膨大な情報を俺に流さないようにする方に意識を集中していた為、感情のコントロールまで上手くいかなかったのだろう。



 悠久の刻を待ち続け

 愛おしいと思った相手の、大事なものを守り続けた竜


 果てしなく続く、終わりのない刻を刻み

 すぐに会えるかも知れないという希望は消えていき

 いつか会えるかも知れないという希望も薄れていき

 もう二度と会えないかも知れないと絶望が忍び寄る


 限りのない者は

 限りある刻を持つ者を待つ



 シェンラの感情は、俺の心を激しく揺さぶった。

 まるで、自分の奥底の魂から込み上げるように、目からは涙が溢れ出た。

 そして、こうしてシェンラの記憶を見ながら、この場所でシェンラを話をすると自分でも、もう訳がわからない程に涙が止まらなくなった。

 だから俺は、好きに泣かせて・・・・やった。

「そんな時もあるよな」

 俺は、誰に言うわけはではなく呟いた。




 ヤナが泣いていた

 誰が為に泣いているのだろうか

 妾の記憶を見て、妾を憐れんでいるんだろうか

 それとも、何かを思い出したのだろうか


 しばらくすると、ヤナの涙は止まり、妾にそろそろ死中求活死地覚醒が切れる事を伝えてきた。

 随分高い所まで来てしまったが、捲土重来死地能力累乗増加の発動が止まり、妾が気を失ってもヤナなら何とかしてくれると考えていた。

 そして、徐々に妾身体から力が抜けていきはじめた。

 妾は、捲土重来死地能力累乗増加が完全に解ける前に、姿を人の姿へと変えた。そうしないと、竜の姿では流石にヤナに抱えて貰うには些か大きい。

 落下し始めた妾をヤナは優しく抱きかかえてくれた。

 その瞬間に、完全に捲土重来死地能力累乗増加の発動が切れ、妾は気を失った。



 妾は夢を見た

 妾は夢の中で笑っている

 背中には誰かを乗せて空を駆けていた

 誰かは何故だか分からない

 貴方のようでもあり貴方ではない人のような

 そんな不思議な誰かだった


 次の瞬間

 妾は人の姿でその誰かに抱えられ空を駆けていた

 見上げるその顔は貴方ではなかったけれど

 貴方のようでもあった

 優しい微笑み妾に向けていた

 妾はとても照れくさかった

 竜が人に抱きかかえられ空を駆けるなど


 不思議と誰かの声は全く聞こえなかった

 何かを話しているような口の動きだったが

 何故か何を言っているかわからなかった

 それでも妾は楽しかった


 ふと妾は怖くなった

 きっと終わってしまう

 また待つだけの日々に戻ってしまう

 妾は泣いた

 竜であるにも関わらず泣いた


 泣いてる妾の頭を誰かはそっと撫でた

 優しく撫でてくれた

 妾は行かないでと泣き叫んだ

 答えなど分かっていたのに

 それでも妾は言わずにはいられなかった

 もう待つだけは嫌だと叫んだ

 そして誰かの胸に顔を埋めた


 誰かの顔を見るのが怖かった

 きっと困った顔をしているのだろう

 しょうがない事なんだと妾を慰めるのだろう

 だから妾は誰かの顔を見たくなかった


 いつまでも誰かは妾の頭を撫でるだけで何も言わなかった

 仕方ないとも

 これが世界の摂理だとも

 妾の宿命なのだとも

 何も言わずに

 抱きしめてくれていた


 妾は勇気を出して誰かの顔を見上げた

 すると誰かの顔は笑っていた

 何故笑っているのか聞いてみた

 どうせまた声が聞こえないと思いながらも

 すると今度は声が聞こえた


 力強く

 不敵に

 絶望などありはしないと

 見る者全てにそう思わせる彼の笑顔だった



『今度の俺は諦めない』



 この瞬間の為に妾の刻は、永く与えられていたのだろう

 夢の中で彼の目を見つめる



『逢いたかった』

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

喪女だった私が異世界転生した途端に地味枠を脱却して逆転恋愛

タマ マコト
ファンタジー
喪女として誰にも選ばれない人生を終えた佐倉真凛は、異世界の伯爵家三女リーナとして転生する。 しかしそこでも彼女は、美しい姉妹に埋もれた「地味枠」の令嬢だった。 前世の経験から派手さを捨て、魔法地雷や罠といったトラップ魔法を選んだリーナは、目立たず確実に力を磨いていく。 魔法学園で騎士カイにその才能を見抜かれたことで、彼女の止まっていた人生は静かに動き出す。

異世界の花嫁?お断りします。

momo6
恋愛
三十路を過ぎたOL 椿(つばき)は帰宅後、地震に見舞われる。気付いたら異世界にいた。 そこで出逢った王子に求婚を申し込まれましたけど、 知らない人と結婚なんてお断りです。 貞操の危機を感じ、逃げ出した先に居たのは妖精王ですって? 甘ったるい愛を囁いてもダメです。 異世界に来たなら、この世界を楽しむのが先です!! 恋愛よりも衣食住。これが大事です! お金が無くては生活出来ません!働いて稼いで、美味しい物を食べるんです(๑>◡<๑) ・・・えっ?全部ある? 働かなくてもいい? ーーー惑わされません!甘い誘惑には罠が付き物です! ***** 目に止めていただき、ありがとうございます(〃ω〃) 未熟な所もありますが 楽しんで頂けたから幸いです。

魔法属性が遺伝する異世界で、人間なのに、何故か魔族のみ保有する闇属性だったので魔王サイドに付きたいと思います

町島航太
ファンタジー
 異常なお人好しである高校生雨宮良太は、見ず知らずの少女を通り魔から守り、死んでしまう。  善行と幸運がまるで釣り合っていない事を哀れんだ転生の女神ダネスは、彼を丁度平和な魔法の世界へと転生させる。  しかし、転生したと同時に魔王軍が復活。更に、良太自身も転生した家系的にも、人間的にもあり得ない闇の魔法属性を持って生まれてしまうのだった。  存在を疎んだ父に地下牢に入れられ、虐げられる毎日。そんな日常を壊してくれたのは、まさかの新魔王の幹部だった。

薬師だからってポイ捨てされました!2 ~俺って実は付与も出来るんだよね~

黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト=グリモワール=シルベスタは偉大な師匠(神様)とその脇侍の教えを胸に自領を治める為の経済学を学ぶ為に隣国に留学。逸れを終えて国(自領)に戻ろうとした所、異世界の『勇者召喚』に巻き込まれ、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。 『異世界勇者巻き込まれ召喚』から数年、帰る事違わず、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。 勇者?そんな物ロベルトには関係無い。 魔王が居るようだが、倒されているのかいないのか、解らずとも世界はあいも変わらず巡っている。 とんでもなく普通じゃないお師匠様とその脇侍に薬師の業と、魔術とその他諸々とを仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。 はてさて一体どうなるの? と、言う話のパート2、ここに開幕! 【ご注意】 ・このお話はロベルトの一人称で進行していきますので、セリフよりト書きと言う名のロベルトの呟きと、突っ込みだけで進行します。文字がびっしりなので、スカスカな文字列を期待している方は、回れ右を推奨します。 なるべく読みやすいようには致しますが。 ・この物語には短編の1が存在します。出来れば其方を読んで頂き、作風が大丈夫でしたら此方へ来ていただければ幸いです。 勿論、此方だけでも読むに当たっての不都合は御座いません。 ・所々挿し絵画像が入ります。 大丈夫でしたらそのままお進みください。

処理中です...