要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

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第八章 導き

揺れる心

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「ヤナさ……流石に異世界だからって、卵ってどうなの?」
「しかも、のじゃロリよ? シェンラちゃんよ? 変態ね」
「また、何かの契約したの? ヤナ君、流石にチョロすぎない?」
「卵から生まれるのは、人? 竜? どっちなのかな! ワクワクだね!」

「早速、記録して王宮に報告しないと。ヤナ様は幼女の姿をした竜に、卵を産ませるっと……まさに、人種を超えた偉業に、涙が止まりません!」


 勇者達はこちらにへ歩いて来るなり、ルイと合流すると理不尽な事を言い出した。既にシェンラが、俺と共に戦った古代エインシェントドラゴンと言うことは、通話で伝えていた。

「ちょっと待て、落ち着こうか。そこ! 人をG黒い悪魔を見るような目で見ない!」

 俺は、スリッパで叩き潰しそうな勢いで見てくるアリスを止めてから、事の成り行きを説明した。


「ヤナさ、説明聞いても対して、印象変わってないよ?」
「いつもの事じゃないの。もう少し学習しなさいよ」
「ヤナ君がチョロメンって事が、確定しただけよね?」
お約束男テンプレマンって事で、全部説明出来るよね!」

「何故だ……」


 俺が勇者達に説明すればする程、俺に原因があるみたいな言い方をされた。全く持って理不尽である。

「お前の面倒ごとは、後にしてくれ。あぁ、でも卵が生まれたら教えてくれ。お祝い持っていくからな、ハッハッハ!」

 キョウシロウが、話を切り替えようとしてくれたと見せかけて、大爆笑していた。

「やかましいわ!」

「勿論なのじゃ! 妾がヤナの卵を産んだら、この世界の遍く全ての者に、知らしめるのじゃぁああ!」

「やめろぉおおお! 大体、そんな幼女の身体でそんな・・・事を言うんじゃない! デキる訳ないだろ!」

 俺が、シェンラに強い口調でビシッと叩きつけた。

「は!? 確かに、そんな問題があったのじゃ……」

「そうなんだ、それが悲しい現実だ」

 俺が現実を突きつけるとシェンラは、愕然として項垂れていた。


「あなた、言い過ぎじゃない?」
「主様、身体を理由にするのは、男としてどうかと思います」
「ヤナ様、未来がない言葉は相手を傷つけますよ」

「ヤナ、ひどい」

「マスターが、仲間に絶望を与えるなんて……堕ちましたね、ダークサイドへ」


今度は、仲間から背中を撃たれた。

「……シェンラさ、ほら大人になった時にまた考えれば良いと思うんだ俺は。うん、そうしような? ほら、元気出せよ」

「……妾が大人になったら、ヤナは妾に卵を産ませてくれるのかの?」

 シェンラは、目に涙をいっぱいに溜めながら上目遣いで、声を震わせていた。

「そうだなぁ、大人になった・・・らな。だから、今はとりあえず元気出せよ」

 俺は四つん這いになっているシェンラの頭を撫でてやった。シェンラは、死の淵から回復したばかりだ。俺は先ずは兎に角元気になって欲しく、今ののじゃロリシェンラが、元々は人化の術で人の姿になっている事を、完全に忘れてしまっていた。

「マスター、優しい笑顔で雰囲気イケメン気取ってないで、少し周りを見てみてください」

「ん? 周りがなんだって?」

 俺がシェンラから目を離し、周りを見ていると、何故か全員が俺を可哀想な子を見るような目をしていた。それでいて、呆れるような顔をしていた。

「……おかしい……今の俺の言動の何処に、落ち度があったと言うんだ? むしろ優しく場を収めて、周りがほっこりするところではないのか?」

「マスター……振り返ってシェンラ様の顔をよく見てみて下さい」

「顔?」

 俺は四つん這いになり、地面に顔を向けていたシェンラの顔を覗き込んだ。

「ひぃ!?」

 シェンラの顔は、口が裂けんばかりに三日月の形で嗤っていた。

「ふふふ……言質とったのじゃぁあああ!」

「な……何……をぉおおおお!?」

 俺がシェンラから後ずさると同時に、シェンラ身体が淡く光だし、気付くとシェンラが俺を見下ろしていた・・・・・・・

「ヤナよ、大人になればシテ貰えるのじゃったな?」

 シェンラは、大学生くらいの歳付きの長身の女性になっており、その身体つきは『ボンキュッボングラマラス』になっていた。『のじゃロリ』シェンラが身につけていた子供用鱗鎧スケイルアーマーは、妖艶な竜鱗のドレスへと変わっており、翠色の髪をかきあげながら、挑発的な目線を向けてきた。

「な……ななな……はぁあああ!?」

「お主、いつから妾が人化の術で人の姿になっておることを、忘れておったのかの? 術であるのであれば、大人の姿になる事も出来るに決まっておるだろうに。本当にお主は『チョロい』のぉ、クックック」

 俺がシェンラを見ながら絶句していると、その様子を見ながらキョウシロウが笑いながら、祈りを止めていたユーフュリアに話しかけていた。

「あれが、この街を救った『簡単チョロメン』のヤナらしいぞ? くくく」

「えぇ、まさに『簡単チョロメン』の名に相応しいですね。これより我が教団では、『簡単チョロメン』の名を浸透させようと思います。この街の英雄『簡単チョロメン』ヤナ様の活躍を、後世に必ずや伝えます」

「キョウシロウこのやろう! ユーフュリア! 祈るな! 顔が堪えきれずに、笑ってるじゃねぇか!」

 俺が、キョウシロウとユーフュリアに文句をいって騒いでいると、ゴーンベ室長が溜息を吐きながら、話をやっと進めようとしてくれた。

「『簡単チョロメン』殿、話が進みません。今回の事と、今後の事についての話しをしましょう」

「さらっと『簡単チョロメン』に殿をつけて進行するな! ひやぁ!? シェンラくっつくな! 当たる! 当たってるんですって! 舌舐めずりしないで下さい! お願いだから『のじゃ姐さん』から『のじゃロリ』に戻って下さい!」

 結局、シェンラがのじゃロリに戻ってもらう為に、再度先ほどの件を確約させられた。そして、シェンラがドヤ顔をしながら『のじゃロリ』に戻ってくれ、やっと落ち着いて話し合いが出来るようになった。

「疲れた……」

「マスターが、主に原因なんですけどね」

 俺はヤナビにトドメを刺されながら、今回の事についての話しをやっと再開するのであった。



「それで、何で今回ユーフュリアの障壁を瘴気纏い火竜が通りぬけたり、迷宮に大量の魔族が侵入していたんだ?」

「討伐された瘴気纏い火竜から立ち上っていた瘴気を調べた結果、これまでの瘴気と明らかに質が異なっていました」

 ユーフュリアが険しい顔をしながら、質の違いを説明してくれた。

「これまでと同じ瘴気を漂わせる魔族であれば、この街に侵入した時点で魔族を私が感知している筈でした。そして、瘴気纏火竜も最初は私の障壁に阻まれていました。しかし、ある程度の時間が経ったところで通り抜け始めました……障壁が破壊された訳ではなく、通り抜けたのです」

 ユーフュリアは、悔しそうな顔をしながらも、目は静かに強い意思を感じさせていた。

「おそらく、瘴気事態に『偽装』や『隠蔽』等の性質を付与していたのだと思われます。結果、これまで瘴気に対して感知や拒絶していた障壁が『騙された』という事でしょう。ただ、あまりにも瘴気を濃く保有している者は、隠しきれないのかも知れません」

「瘴気狂煉獄竜とキリュウは、障壁を突破してこなかったからな」

俺が、彼奴らの瘴気の濃さを思い出しているとユーフュリアも頷いていた。

「そのため、内部から『偽装』の瘴気を蔓延させ、何らかの邪法により私の祈りの障壁を喪失させたのでしょう……しかし、今回の瘴気を経験することで、祈りの障壁や感知も次の機会があれば対応する事ができます。次は、絶対に侵入させません」

 ユーフュリアは、凛とした表情で力強く宣言した。

「これまでの歴史で、瘴気がそういった『性質』を持つという事は記録させているのか?」

「教会では、そんな記録は見た事はありません」

「ギルドでも、そんな記録はない筈だ」

 教会とギルドの双方で、此れまでに起きていない事態が起きている事が判明した。

「って事は、誰かが新たに瘴気に『性質』を与えているという事だな。まぁ、そんなクソッタレな事をする奴は、悪神である簒奪神ゴドロブの野郎だろうけどな」

 俺が悪神の名を出すと、シェンラが大声を上げた。

「何じゃと! 簒奪神ゴドロブは女神クリエラ様と五人の巫女によって、別次元の神域へと封印した筈じゃぞ! この世界に干渉なぞできる筈が……まさか封印が、解けようとしていると言うのか?」

「それ以外に、あり得んだろ。それより、女神クリエラと人の巫女が封印したって言ったか?」

「そうじゃ、女神クリエラ様と五人の『要石の巫女』と妾のような古からこの世界を生きる古代種が、この世界を奪いにきた簒奪神ゴドロブと名乗る神と戦ったのじゃ」

「……お前って一体何歳……いや、何でもないです……幼女の顔で舌舐めずりしないで下さい、お願いします」

 そして、シェンラは語りだす。



 その世界に、突然現れた簒奪神ゴドロブと眷属の魔族達。

 瘴気を撒き散らせながら、世界を蹂躙し始めたとき、この世界を統治していた女神クリエラが要石の巫女を選び出した。そして古の戦士達と共に、世界を護る戦いを挑んだ。

 戦いは壮絶を極め、多くの古の戦士達の命と引き替えに、女神クリエラと要石の巫女達は、簒奪神ゴドロブの元へと辿り着く。

 そして女神クリエラは、簒奪神ゴドロブを退ける為、巫女達を結界の要石とした結界術で、この世界から別次元へと封印しようとした。

 女神クリエラの封印の陣は、巫女達を要石として作動した筈だった。

 簒奪神ゴドロブは、別次元の神域へと封印されたが、同時に女神クリエラもこの世界から消えていたという。

 要石の巫女達は、その戦いで命を落とし、シェンラも瀕死の重傷を負わされた。



「妾は、簒奪神ゴドロブから受けた傷を癒す為、戦いの直後に長い間眠りについておったのじゃ。そして、目を覚ました時に女神クリエラ様を探したが、見つける事が出来なかったのじゃ」

 シェンラは、目を瞑り天を仰いだ。

「ゴーンベ室長、今の話を記録しておけ。あとで、ジャイノス王国やスーネリア騎士国、ドワーフ王国の王達と会議をするぞ」

 キョウシロウがゴーンベ室長へと指示していた。

「巫女は『要石の巫女』と言うのか……シェンラ、五人と言ったな?」

「そうじゃ、要石の巫女は五人なのじゃ」

「あと一人か……」

 俺はシェンラ達を見ながら、あと一人の行く末を考えた。

「キョウシロウ、要石の巫女なんだが、俺が魔族から得た情報と合わせると『悪神の巫女』が『要石の巫女』で間違いないだろう。もしもだが、国やギルドが『悪神の巫女』は『要石の巫女』であり、名乗り出るように発表したとして、名乗り出てくると思うか?」

「無理だろうな。真実がそれであっても、この世界における『悪神の巫女』の存在は、国やギルドが本当の事を伝えたとしても、そんな程度で名乗り出るほど、これまでの彼女達に対するこの世界の仕打ちは甘くない」

「だろうな……結局、出会える事を祈るしかないのか……」

「無理だろうが、真実が分かったからには、先ずは世界に向けてその真実を伝える事を、考えなければならないだろうな」

「そうだな。それと、もし要石の巫女が保護出来たのであれば、俺に直ぐに連絡してくれ。俺は、悪神の聖痕を浄化する事が出来る」

「なんだと!?」

 キョウシロウは、その言葉に驚きの声を上げ、勇者達とアシェリ達以外は同じく驚きの声を出すか絶句していた。

「何故、出来るのかとか聞くなよ? 出来るもんは、出来るでいいだろ」

「お前なぁ……まぁ、いい。俺やユーフュリアは、コイス局長と今の情報を元に協議し、更に各国と今回の事を共有化する。お前はどうするんだ?」

「それが問題なんだが、俺は女神クリエラを探しているんだが……ユーフュリア、此処にはそんな情報はないのか?」

 俺は、女神クリエラを崇める教団の教主であるユーフュリアなら、何か知っていないかと期待したが、帰ってくる答えは『伝わっていない』という事だった。

「教団に、女神様がお隠れになられた場所の伝承はありません。ただ……」

「ただ?」

「ジャイノス王国の王族に勇者召喚の陣をお伝えになったあとに、この世界から姿をお隠しになったとは伝えられております」

 セアラに以前確認した時も、ユーフュリアと同じ事を言っていた。

「一先ず、足取りが分かっているジャイノス王国まで戻るか」

 俺が、次の行き先にジャイノス王国を考えていると、キョウシロウ達はこれからコイス局長を交え、協議するという事になった。その為、宿屋へと俺たちは戻る事になった。そして、陣頭指揮を取っていたコイス局長と大聖堂を出たところで出くわしたので、上半身を脱いで会話ポージングした。静かに勇者達が俺から距離を取ったのを感じ、泣きたくなった。



宿屋に着く頃には、夕暮れに差し掛かっていた為、夕食を宿屋の食堂で食べ、各自の部屋へと戻ろうとした。

「ヤナ! ちょっと待ちなさいよ!」

「何だよ? 食堂で大声出すな。迷惑だぞ」

 俺とアシェリ達と何故か付いてきているシェンラが、食事を終わらせ部屋へと戻ろうとすると、アリスがいきなり立ち上がり大声を張り上げた。

「それなら、ヤナ君の部屋で話をしましょうよ」

 シラユキが、怒りに満ちた目をしながら俺を睨みつけていた。

「ヤナ君、私たち何かヤナ君が言ってくれると思ってさっきまで黙ってたけど、何事もなかったように行こうとするから、怒っているんだよ」

 ルイが、珍しく強い口調をしていた。

「はぁ……コウヤ、食事が終わったら俺の部屋に、三人を連れて来い」

「ヤナ……わかったよ」

 俺は、シェンラ達にシェンラも連れて自分たちの部屋へ戻るように指示した。



 俺は自分の部屋に戻り、椅子に座り天井を仰ぎ見た。

「マスター、迂闊でしたね。あの場であの様な話を勇者様達の目の前ですれば、こうなると分かっていたでしょう」

「しょうがないだろ。正直、色々あり過ぎて、そこまで気が回らんかった……」

 シェンラが語った『要石の巫女』事を聞いた時に、衝撃が走った。

 封印結界の『要石』となる『巫女』が、彼女達だと言う。

「どれだけ救われないんだよ……」

「マスター……」

 言葉通りの意味だとすれば、『要石の巫女』とは何と救いがないのだろう。


『お前の決断が世界を滅ぼす事になる。その時、お前は絶望に倒れる事になるだろう』


 かつての悪神の言葉が俺に突き刺さる。

 俺が目を瞑りその言葉を思い出していると、扉をノックする音が聞こえ、コウヤの声がした。

「いいぞ、入ってくれ」

 俺は、同級生達を部屋へと招き入れた。


「さぁ、何が聞きたいんだ?」


 揺れる心を隠し、俺は同級生に向かって不敵に嗤いかけたのだった。
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