要石の巫女と不屈と呼ばれた凡人

イチ力ハチ力

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第八章 導き

注釈

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「ヤナ君、いつまで笑ってるのよ。こっちは真剣なのよ?」

 シラユキが、少し怒ったような顔で俺を見てきていた。他の三人にも目を向けると、同じような顔で俺を見ていた。

「ふふ、悪かったって。まぁ、最後まで立っていられたらって約束したしな。これからは、お互いの命を預けあい、共に戦おうじゃないか」

 俺は、改めて四人に向かって笑顔で、そう告げた。

「「「「………」」」」

「何を、惚けてるんだよ?」

 勇者達が、一斉に同じような顔で惚けていた。


「不意打ちは……卑怯だ……」
「普段、そんな顔で笑わないくせに……」
「天然なのか……狙っているのか……それが問題だわ……」
「脳筋なのに……そんな時だけ、的確に攻めてくるよね……」

「あ? なんだよ?」

「「「「うるさい!」」」」

「凄く理不尽に怒られた!?」


 取り敢えず、勇者達は俺と共に戦うという事を確約した事で一応・・納得したらしく、俺が今日はもう部屋へ戻れと伝えると、渋々・・引き上げて行った。



「マスター、結局アシェリ達の事は話さなかったんですね」

 俺がベッドの上で寝転んだ所で、ヤナビが話しかけてきた。

「まぁな……」

「勇者様達は、まだ話し足りない様でしたが?」

 勇者たちは、アシェリ達の事、詰まりは『要石の巫女』であり『悪神の聖痕』の事についても聞きたそうにしていた。しかし、俺が共に戦う事を了承したところで早々に話を切り上げたのだ。勇者達も、一番の目的である『共に戦う』事を許されたので、そこまで食い下がって来なかった。

「俺が、先ず気持ちを整理出来ていないのに、そう簡単に話せねぇよ」

 シェンラが、過去にあった悪神と女神の戦いについて語り、初めて『要石の巫女』という言葉を聞く事になった。

『要石』と言う言葉をそのまま受け取れば、悪神を封じる手段として『巫女』達を結界に使った・・・という事だろう。彼女達の魂が、現世で生きている事を考えれば、当時必要だったのは『身体』だったのか、それとも『魂』も必要だったが、何らかの理由で魂は使われずに転生したかは分からないが。


 何故、悪神を『討つ』のではなく『封印』だったのか

 何故、人身御供の様な封印術を選択したのか

 何故、封印した筈である悪神の瘴気がこの世界を未だに侵食し続けているのか


「あぁ、訳分からん……情報が手に入ったのはありがたいんだが、中途半端に事情を知ったというだけで、寧ろ気持ち悪い」

 ベッドに寝転び、天井を見ながら俺は気持ちと情報を整理しようとしていたが、結局更にモヤモヤした何かが胸に溜まるようだった。

「マスター、明日からどうするんですか?」

「そうだな……どうしようか?」

「今夜のマスターは、やけに弱気というか、甘えん坊モードですか?」

「うるせぇよ。そんな夜もあるんだよ」

「まぁ、ここにはマスターと、マスター自身が生み出したスキルしかいませんから。実質一人芝居みたいなものですしね。泣いたって良いんですよ? さっきみたいに」

「……さっきのは、笑いすぎて涙が出ただけだ」

「そういう事にしておいてあげますよ」

「やかましいわ」

 ヤナビと軽口を叩きあっていると、次第に眠気が襲ってきて俺はゆっくりと目を閉じた。

「おやすみなさい、マスター」

「おやすみ、ヤナビ」



 薄れゆく意識の中

 闇の中に浮かぶ少女を見た

 その少女は酷く申し訳なさそうな顔をしていた

 泣きそうでもなく

 苦しそうでもなく

 只々申し訳なさそうだった


 手を伸ばしたが

 距離は縮まる事はない

 声を掛けようとしても声が出ない

 何をそんなに謝っているのかと


 少女は俺の声にならない声が届いたのか

 頭を下げた

 少女が再び顔を上げた時

 少女の口が動いたのを見た

『ごめんなさい』

 不思議と伝わってきた

『任せろ』

 何故か俺は応えた

 そして意識は完全に落ちていった



「おはよう! 今日も良い朝だ! 元気に行ってみよう!」

 俺は、恒例の朝のジョギングを始める為に、宿屋の前で十人・・の前で朝礼の挨拶をしていた。


「朝……?」
「真っ暗……よね……」
「朝からテンションが……高いわね」
「走るだけ……な訳ないよね?」


 勇者達は、眠そうに目を擦りながらも一応ちゃんと起きていた。勇者達も『強くなる』との決意を固め、その想いを最大限に俺は叶えてやると決めていた。その為、全員を通話チャットで起こして、外に出てこさせたのだ。

「妾は別に、走らずとも良いではないか……」

 アシェリ達に引きづられるように、外に出てきたシェンラに古代エンシェントドラゴンの威厳は全く見えない。せめて歩いてくるぐらいはしてほしい所だ。

「言っておくが、俺ともし本当に一緒にいると言うのであれば、毎日だからな。まぁ、付いてこないと言うのであれば、今から部屋で寝てこい。その間に、置いてこの街を出て行くだけだがな」

「のじゃ!? 種付けもまだじゃというのに、それは酷いのじゃ!」

「やかましいわ! 生々しい事を朝から大声で叫ぶな! 見ろ! 勇者達を俺を見る目が、完全にG黒い悪魔を見つけた時と同じなってるだろ!」


「完全に自業自得の上に、あなたが一番やかましいわね」
「主様は、結構態とやってるのかと疑わしいです」
「種付け……なんて素敵な響きでしょう」

「セアラお姉ちゃんの目が、変な目になってるけど大丈夫かな?」

「ライ様、アレは、見ては行けませんよ。それにマスターは、アレはアレできっとオイシイと思ってるんでしょう」


 全部スルー無視して、俺は腕輪と指輪を外した。俺のその様子を見て、勇者達とシェンラは、俺が腕輪と指輪を外した意味がわかっていない様子で訝しげな表情をしていた。アシェリ達は毎朝の事なので、すでに身体をほぐしていた。

「さぁ、 皆んなで『楽しい鍛錬』を始めようか」

「「「「ぐが!?」」」」

「のじゃ!? 身体が!」

 全員に神火の肉体改造器具養成ギプス神火の重石帯ウェイトバンドを装着し、再び腕輪と指輪を付け直した。

「因みに身体強化スキルは使っても良いが、その分ソレも強く重くするからな?」

「「「「……」」」」

「の……じゃ……」

 勇者達とシェンラが、産まれたての子鹿のようになってぷるぷると身体を震わせていた。

「因みに俺が良いというまで、ソレは外さないからな? 先に言っておくと飯もそのままだし、戦闘もそのままな。特に勇者達はルイがいるからな、大概死なんだろ。ルイが傷つくと困るから、ルイにだけ解除の仕方を教えておいてやるよ」

「「「「!?」」」」

「お前ら……さっきから顔芸で言いたい事は伝わって来るが、もうちょい頑張れよ……あと、因みにシェンラは、竜になってもソレ外れないからな?」

「のじゃ!?」

 シェンラは、身体をぷるぷる震わせながら絶句するという器用な事をしていた。

「さぁ、朝食前に軽く・・汗を流そうか。言い忘れたが、俺から離れれば離れるほど、有無を言わさずに、神火の肉体改造器具養成ギプス神火の重石帯ウェイトバンドキツくするからな?」

 勇者達とシェンラは、その事を最後に聞くと声にならない悲鳴を上げた気がするが、スルー無視して、俺は走り出した。



「やっと帰ってきたか。先に、朝飯食ってるぞ」

 俺とアシェリ達が宿屋の食堂で朝飯を食べていると、勇者達四人が汗だくになりながら食堂入ってきた。その為、俺は頼んでおいた勇者達の分の朝食を出してもらった。

「残すなよ? 強くなりたいんだろ?」

 当然、特盛である。

「「「「うっぷ……」」」」

「勇者様方、申し訳ございません。ヤナ様には逆らえません……」

 ミレアさんが、何故か申し訳なさそうな声を勇者達にかけていたが、勇者達は目の前に山のように積まれた食事に、放心していた。

「ミレアさん、俺はギルドに王都に戻る旨を伝えてくるから、ちゃんと残さず食うまで見張っといて。寧ろ、一回はおかわりさせといて」

「鬼ですね……」

「そんなに褒められると、もっと頑張りたくなるな。ミレアさんも一緒にする?」

 俺はニコニコ笑顔でミレアさんに提案したが、丁寧に断られた。何も、ガチで泣かなくてもいいと思うんだが。



「流石、古代エンシェントドラゴンと言った所だな。もうソレに慣れたか?」

「舐めるでないのじゃ。この程度妾にとって……ぐはっ!?……この程度で済ませといてほしいのじゃ……調子に乗って悪かったのじゃ……だから、どんどんキツくしないで欲しいのじゃ」

 シェンラが、案外余裕そうだったので、しっかりキツくしておいた。

「そう言えば、シェンラは結局どうするつもりなんだ?」

 俺はギルド向かって歩きながら、シェンラにこれからどうするつもりなのかを確認した。

「勿論、お主に付いていくのじゃ!」

「いいのか? 此処を離れても」

「ぐぬぬ、そこが問題なのじゃ。妾はかつて、この街と迷宮を護ると誓いを立てたのじゃ」

「なら、此処にいたらいいんじゃないのか?」

 俺は、シェンラが頭を抱えて迷っていたので、それに従えばいいと思ったのだが、それを聞いたシェンラは目に一杯の涙を溜め出した。

「冷たいのじゃ……一緒に考えてくれないと、卵をヤナが産ませてくれないと、大声で泣き叫ぶのじゃ……」

「完全に脅してやがるじゃねぇか……」

 俺が、シェンラの脅しに屈して考えようとした時に、シェンラが独り言を話し出した。

「なんじゃ? ん? じゃがしかし、デキスを守らねば……うむ? 成長?」

「どうした? 居候させてもらっていた相手か? ぐべへら!」

「居候じゃないのじゃ!」

「てめぇ……結構まだ余裕で動けるじゃねぇか……」

 シェンラ蹴り飛ばされ、起き上がるとシェンラに迷宮ダンジョン診断ダイアグノーシスをしてみてほしいと頼まれた。特にギルドに急いでいる訳ではなかったので、俺たちは迷宮へ向かった。

「『迷宮ダンジョン診断ダイアグノーシス』」

 俺は、シェンラに頼まれた通り迷宮ダンジョン診断ダイアグノーシスで迷宮を診断した。ついこの間診断したばかりで、何が変わるのかと思いながら診断結果カルテを確認した。



「……は? はぁああああ!?」



診断結果カルテ
……………………
迷宮名:最深最古迷宮デキスラニア

階層:六百階層

到達最深階層:五百階

迷宮核ダンジョンコア名:デキスラニア

種族ランク:迷宮妖精女王クイーン

状態:正常/居候外出中(子作り)注

注:『今生の盟約』を交わしたヤナの卵を産むため外出中

注:デキスラニアは、居候の子作りを応援している
……………………
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みんなの感想(1件)

鼠蓑 シズク

一度は世界を救い
栄光だって手にしていた
それを手放してもう一度
やり直す勇気・・・
この先が気になる!

2022.08.09 イチ力ハチ力

感想ありがとうございます!!!

ご期待ください!

解除

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