イセカン！？〜異世界の空き缶に転生した我だけれど、諦めずに魔王に成ってみせるカァアン！〜

第14話 空き缶転生

「のう、イチカよ」

「なんだい？」

　取り敢えず書斎に戻ったカンは、絶叫する事で気持ちを発散し、落ち着きを取り戻していた。

　そして、聞きたくなかったが、どうしても確認しなければならない事を、イチカに尋ねたのだった。

「我は、あの時実際どうなったのだ？」

「簡単にいうと、ごみ収集車の中でゴリゴリ潰されて体力HPが尽きてしまったので、この"書斎のデスクの上の転生魔方陣"の上に、予め用意していた空き缶に転生した。かな？」

「体力HPが尽きて？　空き缶に転生？……という事は……」

「まぁ、簡単言えば"一回死んできた"という事だね。その上……」

「カァアアアアアン！？」

　カンは、"予め用意していた空き缶に転生した"というイチカの言葉に対して疑問を持ちながらも、それよりも自分が"一回死んできた"という言葉にショックを受け、再び絶叫を上げていた。

　イチカはそんなカンの様子を予想通りの反応という感じで、椅子に深く腰掛けながらカンが叫び終えるのを待って、再び口を開いた。

「その上で、空き缶カンが"空き缶に転生"したってことさ」

「……？？」

「次は頑張ろうな！」

「待て待て待てぇえええい！？」

　イチカの"そんなこと当たり前"と言った口調での"空き缶に転生した"と言った言葉と、"次は・・"と言った台詞に、カンは軽くスルーさせるかという想いのこもった"待った"をかけたのだった。

「なんだい？」

「転生魔方陣？」

「うん」

「空き缶に？」

「そうだよ？」

「何故に？」

「今日午前中だけで、二本も缶コーヒー飲んでしまったから？」

「我のボディは、お主の飲んだ缶コーヒーの空き缶だったのかぁああ！？」

　カンは今の自分のボディと成っている空き缶が、イチカの飲んだコーヒーの空き缶という事にショックを受けている様だったが、本来なら驚くべき所はそこボディでは無いはずだった。


『空き缶に転生生き返った』


　この事実の方が、大きく衝撃的な事実であるのにも関わらず、カンは再転生に使われたのが"イチカの飲んだ空き缶"である事の方に大きく反応していた。

　一方でカンは、"死んだら直ぐに転生出来る"事を、自然なことの様に受け入れていた。そしてイチカもまた、カンの"再転生した"という事を受け入れる"不自然さ"を指摘していなかった。

　イチカは、カンに自分の"神核の欠片"を分け与えていることを知っており、尚且つその"神核の欠片"は持ちながらも元々のカンの魂と混ざり合ってなおも、自らの神核に共鳴し引き寄せられる事を本能から理解していた。

　そして、神核にはある"力"が備わっていた。


『神核は"不滅"である』


　"神滅"等といった神殺しに特化した力でない限り、神核は滅びる事はない。

　カンは自らの魂とイチカの神核の欠片が混ざり合っている事を知らされてはいなかったが、イチカが"本能的に理解している力"は、カンが自覚していなかったとしても、カンの魂がその事を理解していた。

　その為に、体力が尽きようとしている様な状況であるのにも関わらず、自らの身体をあそこまで投げ打つ事が出来たのだった。

「さて、見事新しい空き缶に転生したカンよ。自分のボディに、何か以前と変わったところはないかな？」

「お主、ちゃんとこのボディ空き缶の中身は、水洗いしたのだろうな……特に変わったところはないようだが、先程と同じ缶コーヒーの空き缶のようであるし」

「ふむ、気付かないなら、別に良いのだけどね」

　イチカは、新しく転生した空き缶ボディについてカンに尋ねたが、カンは自分の表面が前ボディと異なっている事に気が付かなかった。

　イチカは、変化した部分に視線を向けながら話をしていたが、カンはその視線の意味に気付かず、イチカの含みのある言い方に若干イラつきながらも、話の続きを催促した。

「もったいぶってないで、言えば良いではないか」

「その前に、今回の公園への転移についての反省をしようか」

「何だ、突然に。あれはイチカが、公園にいる者達に対して、缶蹴りをしたがるように仕向けたのであろう？」

「今回の敗因は、ズバリ！　自己アピールが足りなかった為だと思う！」

イチカは顔の前で人差し指を立て、ドヤ顔をしていた。

「……お主は、自然に我の言葉を無視して進行する癖を、早く治すがよい」

　毎度の如く、イチカはカンに話をフリながらも、カンのリアクションを一切無視しながら話を進めた。

「そこで一回目の・・・・転生によりボディの改造が可能になったから、缶コーヒーの表面の成分表示の所を"カン専用表示"に改善しておいたよ」

「ボディの改造？　我専用の成分表示だと……は？」


　・・・・・・・
　名前:カン

　種族:空き缶(Lv.２)　New！

　体力:１１(最大１１)　New！

　技能:
　・言語理解全異世界において言葉による意思疎通が可能
　・常時発動M型(凹み耐性Lv.１)　New！

　状態:傷無し

　現在地:イチカの書斎
　・・・・・・・

「ステータスが丸見えだとぉおお！？　ん？　種族レベルがLv.２！？」

「レベルアップおめでとう！」

「我の身に何が……というか、ステータスを先ほどは慌ててよく見ておらぬかったが、種族が"空き缶"と自然に表記されておるな……」

　先程の公園でステータスをイチカ見せられた時は、とにかく体力が１だった事に動揺していた為に、他の項目一切無視していたカンであったが、ここに来て初めてきちんと自分のステータスを確認したのだった。

「カンの種族は、常識的に考えて空き缶以外にはあり得ないからね。そして、種族レベルが上がったのは、体力を使い切ってボコボコに潰れて転生したからだよ」

「は？　まさか……」

　種族レベルが上がっていた"体力を使い切ってボコボコに潰れて転生したから"というイチカの説明に、カンが嫌な予感を感じていると、イチカは話を続けた。

「限界を超えてボコボコになって、初めてただの"空き缶"という枠を越えることが出来ると思わないかい？」

「限界を超えてボコボコ……そもそも限界を超えたから、廃棄された死んだのではないのか！？」

「強くなるには、犠牲転生が必要だよ」

「カァアアアアアアン！？　ってか、常時発動M型(凹み耐性Lv.１)とはなんぞぉおおお！？」

　そして、明らかに怪しい表記に、やっと気付いたカンであった。