イセカン！？〜異世界の空き缶に転生した我だけれど、諦めずに魔王に成ってみせるカァアン！〜

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第19話　グシャっと

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「……ここは……」

　カンは意識を取り戻すと、自分の周りの景色を確認した。

　そしてすぐ目の前に、机に両肘をつき、顔の前で手を組んでいるイチカが目に入ってきた。

　そしてイチカもまた、カンが意識を取り戻し自分見ている事を察すると、大袈裟に溜め息を吐きながら、如何にも嘆かわしいと言うように首を左右に振りながら雰囲気を作ると、重々しく口を開いた。

「おぉ、カンよ。潰れてしまうとは情けない。それでもお主は、魔王を目指す空き缶か」

「溜めに溜めて、言う事はそれか！　あんなものメタルクラッシュ、潰れるに決まっておるだろうが！」

「まぁ、実際の所、偶々繰り出された技が〝メタルクラッシュ〟とか、カンて運悪いよねぇ。さらに実際のトドメは、"うっかり踏まれた"だから、救いようがないよ……」

「元々お主は、我を救うつもりがないであろうよ」

「まぁ、どんな技だったとしても、結果は変わらなかっただろうけどね。あっ、そうだ。また潰れて新しい空き缶に転生したんだし、自分の成分表示ステータス見てみなよ」

「結論をあっさり出し過ぎであろう……ん？　また何か変わっておるのか？　どれ……」

　結局、どんな技が放たれたとしても結果は変わらないという、至極当たり前の結論にカンは凹みながらも、イチカが成分表示ステータスに話を変えてきた為、言われた通りに確認する事にしたのだった。

「ん？　これは……」

　・・・・・・・
　名前:カン

　種族:空き缶(Lv.３)　Lv.１UP！

　体力:１２(最大１２)　最大値１UP！

　技能:
　　・言語理解
　　・常時発動M型(凹み耐性Lv.２)　Lv.１UP！

　状態:傷無し

　現在地:イチカの書斎
　・・・・・・・

「おぉお！　レベルやら最大値やら上がっておるではないか！　ん？　この常時発動M型のレベルも上がっておるが、上がると何か変わるのか？」

「凹むと悶えるようになるね」

「変態か！？」

「変態だね。それと、大事な効果があったのを覚えているかい？」

「あっさり変態を、肯定するでないわ。あまりに当たり前という顔をするから、ツッコミ方がわからぬ……」

　どんどん扱いが雑になってきている感を感じながらも、きっとイチカに抗議しても何も変わらないという確信を抱いた為、カンは取り敢えず"スキル効果"について話に戻す事にした。

「スキルの大事な効果と言われてもの……メタルクラッシュのショックで、実は記憶も潰れておるのだ」

　カンは、ゴムレスからの一撃を受けた際のショックで、技の直後に記憶が非常に曖昧なものとなっていた。

「そうか……あれは見ているこっちも、気持ち良い程の潰れっぷりだったからね。あはは」

「お主……いや、貴様という奴は、時間が経つごとに性格が酷くなっておるぞ」

「敢えて僕の事を、"貴様"と言い直したね？　まぁ、実践した方が早いよね」

「ん？　我を何処に持って行く気だ？」

　イチカはおもむろに机に上にいたカンを掴むと、書斎の真ん中に移動し床に置いた。そして、イチカは右足をそっとカンの上に乗せた。

「……何となく、この後の展開が読めるが、一体どうするつも……」

「メタルスタンプ！」

「ぺぎゃら！？」

　"イチカは、メタルスタンプを放った！"
　"メタルスタンプは、カンに効果抜群だ！"
　"カンは、痛恨の一撃を受けた！"
　"カンは、ダメージ１００を受け体力が０となった！"
　"カンは、常時発動M型(Lv.２)を発動させ体力が２残った！"

　先程召喚された世界の時と同様に、カンは世界の声を聞いた。しかし、やはりカンには正確に世界の声は届いていなかった。

　今回も不意打ちに近い形で突然の潰されたショックを、精神的にも肉体的にも負っていた為に、何か言っているという事は気がついていても、内容まで把握出来ないでいた。

「ほら、オーバーキルされても体力が２残っただろ？」

　イチカが潰れたカンを見下ろしながら、スキルの効果を説明していたが、恐らくカンには声が届いていないだろう。

　それほどまでに、肉体を潰されるというのは、精神に与えるダメージも大きかった。

　イチカは、〝死んでないし、大丈夫でしょ〟程度にしか考えていなかったが、彼は創造者マスターに至るまでに幾つもの死線を越えており、肉体的な損傷に対する精神的なダメージというのは、完全に克服済みだった。

　自らも経験してきた道である為に、自分の神核の欠片を持っているカンも出来て当たり前と考えてしまっているのだった。

　当然だが、カンにはまだまだそんな過酷な経験を数多くしているわけではない為に、身体が潰されれば混乱してしまうのだった。

「カ……カァ……ン」

「これが〝常時発動M型(Lv.２)〟の、真の力だ！」

　ドヤ顔で言い放つイチカの言葉は、虚しく書斎に響いた。

　本来、大きくリアクションをするはずだったカンが、まだメタルスタンプを受けた反動で反応出来ずにいた為であった。

　そして、その様子に何を思ったか、おもむろにイチカは右足を大きく振りかぶった。

「メタルぅ……スタンプぇぇえぇ……カ……カァン……」
　
「聞けよ！　メタルトゥキックつま先蹴り！」

「カァアァアアアアァァアン！？」

　イチカの容赦ないツッコミ蹴りがカンを見事に捉え、錐揉み回転で潰れた空き缶が、書斎の壁に向かって飛んでいくのだった。

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